軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王妃からの手紙

探偵は積極的に王妃の調査をしているようだが、盗難騒ぎの影響で周囲のガードが強く、なかなか情報を手にすることができないらしい。

そんな状況の中、想定外の手紙が届いた。

「こ、これは……」

差出人にはザビーネ・ド・フランディーヌ――王妃の署名が書かれてあった。

ひとりで読む勇気がなかったので、侯爵夫人のもとで開封しよう。

王妃が私になんの用事で手紙を送ってきたのか。

恐れ謹みつつ、ペーパーナイフを握る。

ガタガタと震えて思うように手が動かなかったので、ガッちゃんに開封してもらった。

剣のように鋭くさせた糸で、器用に開けてくれる。

「ララ、手紙を読んで差し上げましょうか?」

「お願いしてもよろしいでしょうか?」

「任せてちょうだい」

侯爵夫人は便箋を手に取り、眼鏡をかけて読み始めた。

いったい何が書かれてあるのか。

まさか、私達が王妃の周辺を嗅ぎ回っていることがバレてしまったのか。

だとしたら、私の身は危うくなるだろう。

ただお茶会に誘うとか、趣味の品評会に招待したいとか、そういう内容でありますように。そう願いつつ、侯爵夫人が読み終わるのを待つ。

「ララ、王妃殿下はあなたを侍女として迎えたいそうよ」

「侍女にですか! よかっ――」

いいや、まったくよくない。

侍女に指名されるなんて、いったい何事か。

「あの、どうしてわたくしが王妃殿下の侍女に選ばれたのでしょうか?」

「盗難事件を受けて、身辺にいた侍女を全員解雇したようなの。それで、社交界で信用がおける女性に声をかけているそうよ」

「さ、さようでございましたか」

二回しか会っていないのに、王妃から信用を勝ち取っていたなんて、誰が想像できたのか。

「ちょうどよかったじゃない」

「ちょうどよい、ですか?」

「ええ。王妃について調査するのに、侍女として傍にいるのは好都合だわ」

「あ――!」

王妃派でないのに侍女を務めるなんて……とばかり思っていたが、侯爵夫人の言うとおり、調査にうってつけな立場だろう。

探偵が立ち入れない私的なエリアに入っても、怪しまれないはずだ。

「わたくし、王妃殿下の侍女となって、身辺を調査してまいりますわ」

「その前に、リオンに話しておいたほうがいいわね」

「ええ、そうですね」

もしかしたらマントイフェル卿の計画の妨害になってしまう可能性もある。

念のため、話を通しておいたほうがいいだろう。

忙しいだろうからと連絡を控えていたが、久しぶりに手紙を書いたのだった。

◇◇◇

手紙を送った翌日に、マントイフェル卿はやってくる。

今日は話が外に漏れないよう、侯爵家の客間を借りた。

ガッちゃんと共に、マントイフェル卿を迎える。

彼はやってくるなりツカツカと私のもとに近づき、余裕のない表情で問いかけてきた。

「ララ、王妃殿下の侍女になるって本当なの!?」

「え、ええ。今、検討しているところでして」

「魔物の巣に飛び込むような行為だってこと、わかってる?」

マントイフェル卿は私の肩を掴み、真剣な眼差しで訴えてくる。

「危険は承知の上です。こうでもしないと、必要な情報は手に入りませんので」

遺品整理のさいに明らかになったことをマントイフェル卿に伝える。

記者がマントイフェル卿の醜聞を握っている、という話は初めて聞いたようだ。

「醜聞なんてあるわけがないよ。僕の正体がマリオン王女で実は男で第一王子だった、なんて知れ渡ったら、王妃側の立場が悪くなるはずだから」

「そう、ですよね」

かと言って記者の正体が公妾派であったのならば、王妃の醜聞はすでに知れ渡っていただろう。

「イルマを呼び出すためのでまかせだったんだよ。記者と会う前に相談してくれたら――いや、言えなかったのか」

マントイフェル卿はしばし考え込むような仕草を見せる。

「いかがなさったのですか?」

「いや、イルマと最後に会ったとき、なんだかソワソワして様子がおかしかったんだ。告白したかったからだと思っていたんだけれど」

もしかしたら記者から醜聞があると聞かされ、マントイフェル卿に相談しようか迷っていたのかもしれない。そう、当時の様子を振り返る。

それについて言わずに愛の告白をしたのは、マントイフェル卿がどのような人物でも愛する、というイルマの決意表明だったのかもしれない。

「彼女の想いを突き放していなかったら、もしかしたら相談してくれたかもしれない」

「リオン様、過ぎたことについてあれこれ考えても、今となってはどうにもならないですよ」

「うん、そうだったね」

さまざまな運命の歯車が狂った結果、イルマは命を落としてしまったのだ。

そういうふうに考えることしかできない。

「今は、彼女が目撃したと言う、王妃殿下と関係があった男性について調査しております」

「それで、王妃殿下のガードが強いから、侍女の誘いを受けて調査しようって話だったんだ」

「はい」

「うーん、オススメしないなあ」

王妃は相手が誰であろうと、敵対する者は徹底的に排除する冷酷な一面があるらしい。

今回、長年仕えていた侍女を全員解雇した件だけでも、王妃が甘くない考えを持っていることが一目瞭然である。

「ビネンメーアに嫁いでくるときだって、当初嫁入りする予定だったお姉さんを蹴落としてまでやってきた、なんて噂話もあったんだ」

女性が持てる最大の権力者――王妃となり、ゆくゆくは自分の子を国王にする。それが、王妃が長年育ててきた野心だと言う。

「僕だって、エンゲルベルト殿下の地位を脅かす存在だから、邪魔に思っているはずだよ。正直に言うと、命を狙っているのは彼女だと思っているし」

そんな王妃の最大の誤算は、夫である国王を愛してしまったことか。

「これで国王陛下を愛していなかったら、さっさと殺して自らが摂政となって天下を取れていたはずなのに。なんていうか、次々と公妾を迎えるのを横目で睨むことしかできないから、不幸な女性だな、と思っているよ」

王妃殿下の 強(したた) かさはこれでもかと理解しているつもりだ。

「リオン様の心配も理解できますが、わたくしはここで立ち止まるつもりはありません」

それに潜入はひとりではない。心強い味方であるガッちゃんがいる。

もちろん、なんの考えもなしに侍女になるわけではない。極秘の作戦をマントイフェル卿に耳打ちする。

「まあ、それだったら危険は少ないけれど」

「きっと上手くやってみせますわ!」

ガッちゃんも気合いを見せるために、小さな手を掲げていた。

「リオン様、わたくしとガッちゃんを信じてくださいませ」

マントイフェル卿は私を抱きしめ、「わかったよ」と耳元で囁いたのだった。