軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士の秘密について

マントイフェル卿は妙にスッキリした表情で、少し話したいことがあると言う。

「ここじゃなんだから、あっちにある東屋に行こうか」

「はい」

手が差し伸べられるが、 躊躇(ちゅうちょ) してしまう。

どうしてか、この彼の手を取ったら、二度と逃げられないような気がしてならないのだ。

「ララ、どうかしたの?」

「マントイフェル卿――」

「ねえ、前にリオンって呼んでって言ったじゃん。ララったらもう忘れてる!」

「いえ、そういうつもりはなかったのですが」

あの時は弱り切っていたので、聞いてあげただけだ。

もしかしたら忘れているかもしれない、なんて期待していたが、しっかり覚えていたわけである。

気まずくなって、明後日の方向を向いてしまった。

「どうせ、意識が 曖昧(あいまい) そうだったから忘れているかも! なんて思っていたでしょう?」

否定できず、黙り込む。もはや、認めているようなものなのだろう。

「マントイフェル卿」

「リオン!」

「その、リオン様」

それでいいとばかりに、マントイフェル卿は頷いていた。

リオンと呼び捨てを強要するようなら、強く拒否しようと思っていたのに、今日に限って様付けで満足したようだ。

なんというか、がっくりと脱力してしまう。

「それでララ、なんだっけ?」

「いえ、私の考えていることを、よくおわかりだなと思って」

「他人が何を考えているか察しないと、生き残れない人生だったからね。それについて、今から話すから」

もしかしたら話が長くなるかもしれない。それならば、東屋よりもコテージのほうが落ち着いて話せるだろう。

「リオン様、話はコテージで聞かせていただきますわ」

「え!? ララったら大胆! 真っ昼間に、僕みたいな男を連れ込むなんて」

提案した途端に、マントイフェル卿の瞳がキラリと輝いた。

「家には上げませんので、期待はなさらないでくださいませ」

元気になったと思ったらすぐこれだ。呆れつつ、歩き始める。

コテージに到着すると、ガーデンテーブルの椅子を勧めた。

これは数日前、庭師に古くなった物を譲ってもらったのだ。

十年もののようだが、ペンキを塗り直してくれたので、新品も同様である。

「紅茶を淹れてきますので、そこでゆっくりしていてください」

「手伝おうか?」

「結構ですわ」

どさくさに紛れて家に上がるつもりだったのか。お手伝いは丁重にお断りさせていただいた。

紅茶を淹れ、ラードとアーモンドパウダーで作るホロホロクッキーをお茶受けとして出してみよう。

マントイフェル卿は庭を眺めながらぼんやりしていたようで、私がやってきた途端に立ち上がってお盆を持ってくれる。

「ララ、ここに座って風を感じるの、気持ちがいいね」

「ええ、そうなんです。わたくしやレン、ガッちゃんもお気に入りで、よくみんなでお茶会を開いているのですよ」

「いいなー。幸せ家族だ」

まさか、私達が羨ましがられる立場になるとは、夢にも思っていなかった。

この暮らしをもたらしてくれる、侯爵夫人のおかげだろう。

「このクッキーもララの手作り?」

「ええ」

粉砂糖を雪のようにたっぷりかけるこのクッキーは、フロレンシの大好物なのだ。

以前、フロレンシが「マントイフェル卿にも食べてもらいたいです!」と言っていたので、特別に分けてあげたのだ。

マントイフェル卿はホロホロクッキーを一枚摘まんで裏表と確認したあと、ためらいもせずに頬張る。

「あー、おいしい! なんか柑橘のいい匂いもするな」

「乾燥させたオレンジの皮を刻んで入れているんです」

「そうなんだ。最高だね」

お口に合ったようで、何よりであった。

「今日、なんにも食べてないから、嬉しいな」

「そ、それはそれは、お身体によろしくないような……」

騎士は体が資本なのに、体力が保たないだろう。

ただ、彼は食事に毒を仕込まれることが多いらしく、強くは言えない。

にこにこしていたマントイフェル卿だったが、強い風がヒュウと吹いた瞬間に真顔になる。

「ねえララ。どうして僕がこんなに殺されそうになっているのか、知りたい?」

聞かれた瞬間、ドクンと胸が高鳴る。

それは彼が長年、ひとりで抱えていた問題なのだろう。

「わたくしが、聞いてもよいのですか?」

「うん、君に聞いてほしいんだ」

正直、彼が抱える闇を受け止めきれる自信なんてなかった。

けれども私がここで断ったら、マントイフェル卿は一生ひとりで抱えていくような気がしてならない。

もう充分なくらい、私はマントイフェル卿の問題に首を突っ込んでいた。

今さら引くことなんて許されないだろう。

「リオン様がお話しして後悔しないのならば、お聞かせいただけますか?」

「後悔はしないよ、絶対に。そもそも、これについては誰にも話さないつもりだったんだ。墓まで持っていく覚悟は決めていたのにね」

いったいどういった秘密を抱えていたというのか。

まったく想像できない。

「ララ、僕はね、この国の王子なんだ」

信じがたい言葉が聞こえ、思わず「今、なんとおっしゃいましたか?」と聞き返してしまう。

「リオン・フォン・マントイフェルというのは偽名なんだよ」

それについては、公妾から話を聞いていた。

まさか本当に偽名だったなんて……。言葉を失ってしまう。

「僕の本当の名前はね、マリオン・フォン・キリル・ライニンゲン」

マリオンと聞いてハッと気付く。

「リオン様、マリオンという名は、王女殿下の――?」

「そうだよ。僕は母が亡くなるまで、王女として育てられたんだ」