軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一緒に夕食を

夕方からは厨房で侯爵夫人の夕食作りを手伝った。

前菜は雉肉パイ、ニンジンのポタージュに、マッシュルームの詰め物、メインの魚料理はマスのバターソース添え、肉料理は若鶏と野菜の蒸し焼き。食後の甘味は梨のスイートワイン煮、クレーム・カラメル――と、晩餐会でも開くのか、と聞きたくなるほどの豪勢な食事が用意された。

朝食と昼食を軽く食べる分、夕食はたっぷり食べるのだろう。

料理人のトニーは美食の国フランデーヌ王国の出身らしい。

華やかな盛り付けは、芸術のようだった。

「いやはや、今日はドーサ夫人が手伝ってくれたおかげで、かなり余裕があったよ」

「お役に立てて何よりです」

なんでも侯爵夫人の命令で、夕食は皆同じメニューを食べるらしい。

私やフロレンシの分もあるようで、ありがたいの一言であった。

料理をお皿に盛り付けていたら、元気いっぱいな少女が駆け込んでくる。

「ドーサ夫人はいますかー?」

「はい?」

ニンジン色の髪をおさげに結った少女は、お喋りメイドのローザである。

「どうかしたの?」

「侯爵夫人からのお知らせでーす。夕食をドーサ夫人とご一緒したいようで、三人分用意して、食堂に運んでくるように、とのことでしたー!」

三人分、というのは侯爵夫人と私、それからフロレンシだと言う。

「わたくしと息子が、侯爵夫人の夕食に同席する、ということですの?」

「そうみたいですー。いやはや、人嫌いな侯爵夫人が食事を一緒にしようって言い出すのなんて、亡くなったイルマお嬢様以来ですよー」

言い終えてから、ローザは口を両手で覆った。

「あ、あのー、今の発言は聞かなかったことにしておいてくださーい」

「ええ、そうしておきます」

お茶飲みであるリオンですら、夕食に誘ったことは一度もなかったらしい。

「ドーサ夫人、鉄壁の要塞みたいな侯爵夫人をどうやって陥落させたのですかー?」

「侯爵夫人がお気に召したのはわたくしではなく、息子のようです」

一生懸命勉強する様子が、侯爵夫人の心を打ったらしい。

フロレンシは結局、朝から夕方まで侯爵夫人のもとで過ごした。

迷惑なのでは? と伺いにいったものの、問題ないと言って首を横に振るばかりだったのだ。

「いやはや、いい傾向ですよー。侯爵夫人、イルマお嬢様が亡くなってからというもの、目も当てられないくらい寂しそうで――あ!」

再び、ローザは口を手で塞ぐ。

「うう、ごめんなさい。イルマお嬢様のことは禁句だって、ロイドさんに厳命されているのですが、うっかりしていたんですー」

「心配されなくても、口外しませんので」

「ドーサ夫人、ありがとうございますー」

これまでよく、侯爵夫人の前でうっかり失言をしなかったものだ、としみじみ思ってしまった。

「あ、息子さんはすでに食堂で待っているそうです。盛り付けとか配膳は私達でやっておきますので」

「ありがとうございます」

お言葉に甘えて、食堂へ向かう。

廊下を歩いていると、楽しげな声が聞こえた。

「それで、大きなお船でここまでやってきたんです」

「まあ、そうなの。大冒険だったのね」

「はい!」

お喋りしていたのは、フロレンシと侯爵夫人だった。

驚いたことに、侯爵夫人は朗らかに微笑んでいる。

人嫌いで誰も寄せ付けないなんて言われていた侯爵夫人の態度をここまで軟化させるなんて。

フロレンシ、我が弟ながら恐ろしい子……! と思ってしまった。

「あ、お母さん!」

フロレンシは天使のような笑みを浮かべながら、私のもとへ駆けてくる。

「侯爵夫人が、僕とお母さんを夕食に誘ってくださったんです」

「ええ」

改めて侯爵夫人に感謝の気持ちを伝えると、別に礼を言うほどのことではないと言われてしまった。

前髪を撫で上げた長身の男性――従僕のロイドがやってきて、椅子を引いてくれる。

まるで客人のような扱いに困惑しつつ腰かけた。

同じ使用人なのに、扱いが違うと腹を立てているのではないか。そう思ってちらりとロイドの様子を見たが、平然としていた。

表情から考えていることを推測できないタイプなのだろう。

なんて考えている間に、料理が運ばれてくる。

食事が載った手押し式のワゴンを押してきたのは、物静かなメイドのアニーだった。

調理を手伝った料理が 配膳(はいぜん) される。

「ララ、トニーの料理はとってもおいしいの。遠慮なく召し上がってちょうだい」

「はい、いただきます」

食材に感謝し、料理をいただく。

フランデーヌ王国の料理を口にするのは初めてだったが、どれも品のある味つけで、とてもおいしかった。

侯爵夫人はフロレンシが食べる様子を見ながら、淡く微笑んでいた。

「レン、あなたは上手にカトラリーを扱えるのね」

「はい! お母さんに教えてもらったんです」

「そう、いい子だわ」

フロレンシはどこに出しても恥ずかしくないよう、貴族社会における最低限の振る舞いを身に着けさせていた。

少々厳しく指導したこともあったものの、こうして褒められて嬉しそうにしているフロレンシを前にしたら、あのときの判断は間違っていなかったのだな、と思ってしまう。

フロレンシのおかげで、食堂内は和やかな雰囲気で満たされたのだった。