軽量なろうリーダー

酒に弱いと聞く旦那様を酔わせて筋肉を堪能するつもりでした。

作者: コロン

本文

そんなこんなで盛大な結婚式は無事終わり…

旦那様と二人きり、これから初めての夜を迎える。

部屋に入っていきなり…なんつーことはなく、まずはお話しでもしましょうかとお互い向き合ってソファーに座った。

旦那様のアルフォート・ル・マンド様。

世界に名を轟かせる大国、マンド帝国の皇帝である。

その隣の小国ロアンヌから嫁いできた私、シルベーヌ。

両国の関係で言えば、私はあからさまな「人質」である。

「ハーブティーをご用意しますね」

旦那様はめっぽう酒に弱いと聞いている。

なのでハーブティーにこっそり少量のお酒を入れる。

「どうぞ…」

緊張で震える指を悟られないようにカップを差し出すと、彼の目線はワゴンにあるクッキーを見ていた。

「そういえばワゴンにクッキーがありました。持ってまいります」

戦場を駆け抜ける様子から「悪魔の獅子」と言う異名を持つアルフォート様。

そんな悪魔が酒に弱いとは…

かくいう私も、あまり強いとは言えないのだが…

何の疑いもなくカップに口をつけるアルフォート様を見ながら、私もカップを持ち上げた。お互いのカップが空になる頃、旦那様はうとうとし始め、そのままソファーに横たわり眠りについた。

すやすやと眠る旦那様にそっと近づく。

「あの…旦那様?」

小さく声をかけてから、本当に起きないかと、恐る恐るほっぺを人差し指でぷにっと突く。

ぷに。

ぷにぷに…

『!!きゃーーー!!!何これ!可愛いわ!可愛すぎますわーー!!』

無防備に眠る悪魔の獅子のほっぺをぷにぷにしている私。

恐ろしいほどの背徳感にゾクゾクする。

『バレたら殺されちゃうかもしれないなー♡だったらもっと触っておかないともったいないなー♡』

どうせ殺されるなら触れるだけ触っておこう。

心ゆくまでほっぺぷにぷにを堪能し、そのまま旦那様の上腕二頭筋を触った。

『っっ!!!きゃーー!!この丸み!!さいっこー!やっぱり!やっぱりいいっ!あうー♡生きてて良かった!生き返って良かった!』

服の上からでもわかる上腕二頭筋の丸み。

『っふっはぁぁあ…素敵!素敵!』

声にならない大声で叫ぶ。

待て私!落ち着けと、一度旦那様から離れ、バレリーナのようにクルクルと回ってこの喜びを発散した。

『ああああっ!!神よっ!ありがとうございます!控えめに言って、控えめ言っても私の旦那様最の高でございますっっ!!』心で叫ぶと跪き、両手を天に仰いで神に感謝する。

前世の日本人では喪女のまま終わった私。

生まれ変わってまさかこんな筋肉の持ち主が旦那様になるなんて!

なんたる行幸!!

。。。

小国ロアンヌ王家の長女に生まれた私。

見た目が良かった私はどこかに嫁がせる道具とみなされた。

そのため幼い頃から遊ぶことは許されず、たくさんの習い事をこなす日々を送った。

3歳年下の妹キャデリーヌの口癖は「お姉さまずるい」

何がずるいものか。ドレスも宝石も、なんだって欲しいと言えば買ってもらえるくせに。

気に入らないとすぐに癇癪を起こすキャデリーヌを溺愛する父ロアンヌと母のシャルロッテ。

ある日。

何かが気に入らなかったキャデリーヌに「お姉さまずるいっ!」と、私は池に突き落とされた。

いつも突き落とされる噴水とは違い、足がつく深さではない。

水を含んだドレスは重りと化し、あっという間に私はぶくぶくと沈んでいく。

大量の水が口に入り込み全てを諦めた時、前世の記憶が走馬灯のように脳内再生された。

私の前世。完全完璧のオタクであった。

周りを気にせず二次元男子に夢中になり、気づけば婚期を逃していた事でさらに没頭。推しグッズを買いに向かう途中でトラックに撥ねられたんだった。

過去の記憶と今の記憶が合致した時。

それまで普通と思っていた自分の状況の異常さに気がついた。

覚醒。

「また喪女のまま死んでたまるか!」

もがきながらドレスを脱ぎ、浮き上がってからはバタフライで猛攻。

助けられる前に岸に上がるとバッタリ倒れ、丸一日眠りにつく。

その後は、ブラックで鍛えられた今世と前世のおかげで、習い事は楽勝。

ロアンヌの才女と呼ばれ「あれ?私何かやっちゃいました?」の世界である。

結果。

皇帝の妻に差し出される事に。

本当にやっちまったと頭を抱えた。

しかし渡された絵姿の皇帝は、筋肉隆々、顔もちっちゃくて。

『もしかして二次元男子が三次元四次元男子?』

『前世も含めて初めての旦那様がこんな素敵な筋肉なんて、オタクの極みじゃない?』

と、急に元気とやる気が出た。

しかし、私が大国へ嫁ぐと聞いたキャデリーヌが突。

「お姉さまずるいですわ!大国に嫁ぐなんて、宝石やドレスをたくさん買ってもらえるんでしょう!?」

泣きながらずるいずるいと騒ぐキャデリーヌに、アルフォート様が悪魔の獅子と呼ばれる所以をこんこんと説明する。

すると事を理解したキャデリーヌは、私が不幸になると思ったのか「お姉さまお可哀想!きっとすぐに殺されてしまうわね!そうしたら残ったドレスを私がもらってあげますわ!あはははは」と満足そうに去っていった。

その後ろ姿。嫁いでしまえば二度と顔を合わせることはないと思うと清々する。

大国に嫁げば上下関係が逆転する。向こうが何と言おうと、私が会いたくないと言えば会わなくてすむのだ。

今まで我慢して良かった…

ありがとうございます。もう死んでも良いです。

…あ、せっかくあの家から抜け出すことが出来たのに死んだらもったいないか…。あはは!ざまあみろ!ロアンヌめ!

うっ……生きて…旦那様を支えられたらいいな…無理かもしれないけど。今は…この目の前の筋肉を堪能しよう。

幼い頃の私が報われる日が来て良かった。両親の愛を求めて苦しかった。頑張っている私を褒めてくれなくとも、頑張りを認めて欲しかった。

ゴシゴシと涙を拭いてから、寝ている旦那様のそばに行く。

「愛してくれなくてもいいので、おそばにいさせてくださいね…」

そう静かに声を掛け、獅子の頭をそっと撫でる。

きっとこの人も色々大変だっただろうな…なんて考えながら頭を撫で続ける。

だって何だかいい匂いがするから。

何をしても起きる気配なく、すやすやと眠る旦那様………の腹筋に目がいく。

『…ふわああっ!きっと素晴らしい腹筋なはず!…腹筋も大臀筋も見たいし触りたいっ!でも寝ている旦那様に断りもなく…それはさすがに卑劣よね。ダメダメ…』

そう自分に言い聞かせつつ…でもシャツを脱がせるくらいならワンチャン「暑そうでしたので」とか言い訳が通りそうな気がしてきた。

シャツのボタンを外そうと、そっと手を伸ばしたところで旦那様と目が合った。

「っっつあっっ!!!だだ旦那様!!何故…っ」

それ以上はパクパクと口を動かすだけで、言葉が出て来なかった。

「お前の淹れたハーブティーが怪しかったのですり替えておいた。ついでに言えば俺は酒に酔う事はない」

はっ!?「…ワゴンにクッキーがありました。持ってまいります」あの時かっ!!

謎は全て解けた!!!!

酔っ払いは私っっ!!!どうりでおかしなテンションだった!

「どう言うことか説明してもらおうか」

さすが獅子。凄む顔も恐ろしく素敵。

「わかりました…」

死を前にしても全く怖くなかった。もう言いたいこと全部言ってから死のう。そう覚悟した。

「失礼します」うっとりしながら旦那様の筋肉を指差し確認。

筋肉の名前を並べてその素晴らしさを語る。

そうしてついでに前世の知識を披露して、この国に足りないものはこうすればいいよー、ここは改善した方がいいよーなんて話したあと。

「…これで全てです。…あーキャデリーヌが言ったようにやっぱり殺されちゃうんだなー、それならズボンも脱がせておけば良かったなー、旦那様の大臀筋見たかったなー、胸筋も前鋸筋も触っておけば良かったなー…」

お願いだから最期に触らせて〜…なんて言って旦那様に擦り寄ったと思う。

なんで「思う」のかって?

そりゃその後の記憶がないから。

。。。

それから私は死ぬ事もなく、マンド帝国は私のオタク知識によってさらに繁栄。

無事、大臀筋も拝むことが出来たし、双子を含めて5人の子どもに恵まれた。

「筋肉は裏切らないってこういうことよね」

大満足である。