軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.王都の休日

僕の日課は、午前中はお勉強。午後は乗馬、運動などで過ごします。

三時にはお茶の時間が取れ、毎日のように王宮に通ってるセレアと一休みです。

「お妃教育は大変?」

「いいえ。私は幼いころから入院ばかりで、学校にぜんぜん通えていませんでしたので、嬉しいぐらいです」

「難しいんじゃないかと」

「そんなこと無いですよ。やってることは要するに礼儀作法にエチケット。人間として当たり前のことですし、科学や数学も、前の世界から比べたらずっと簡単です」

「うわあ、それもショックだなあ……」

セレアが十歳までいた異世界って、僕らがいるこの世界よりずっと発達して、科学技術や学問がすごくて、僕の想像を超えてます。全然学校にいけてなかったはずのセレアでも、僕より計算早いですもん。話を聞けば聞くほど、セレアのいた世界は本当にあったんだと思います。だってこの世界で学者さんでも議論しているようなことを、セレアはとっくに知っていたりします。

地球は太陽の周りをまわっているとか、月は地球の周りをまわっているとかね。

「でも歴史とか面倒じゃない?」

「ゲームの裏設定見ているようで、楽しいですよ。こんな設定あったんだって!」

「あははは……そうですか」

「神話、聖書の勉強はちょっと苦手。私たちの世界って、神様ってそんなに厳格なものじゃなかったから」

「あれは僕も苦手だね」

これは僕もセレアも、二人で「うーん」ってうなっちゃいます。

「習わなきゃいけないことって、いっぱいあるんですね……」

「だから王家の婚約者って、そう簡単になれるもんじゃないんだよ。長い時間かけて教育しなきゃいけない。そこは王子と同じ。昨日今日、恋人になった相手なんて婚約者にできないもんなんだよ」

セレアは僕が学園でお知り合いになった平民のお嬢さんを、何年かお付き合いしただけで好きになって、セレアを捨ててそっちのほうを婚約者にしたがるようになるって思ってます。

でもこうやって一緒に勉強していれば、そんなことあるわけないって、思ってくれるようになるんじゃないかって思います。

「僕ねえ、思うんだ。この世界はセレアの言うゲームの中の世界じゃなくってね、僕のいる世界が、セレアの世界ではゲームになってるんだって。ほら、外国の実話が本になって僕らが読めるみたいにね。神様が魔法かなんかの力で、この世界にそっくりなゲームを、セレアの世界で作らせたんじゃないかって」

「そうかもしれませんね……」

「ね! そう思うよね!」

「……」

やっぱり無理かなあ。僕自分で言ってても、納得できる話じゃないですもんね。セレアにしてみれば、そんなんで安心できるかって思いますよね。

ゲームとは違うできごとがいっぱい起きれば、セレアも、この世界はゲームとは違うんだってわかってくれるのかもしれません。でも、それは学園に入学して、ゲームがはじまる十五歳にならないと起きないことです。

「お菓子ですよー!」

メイドさんが、お皿に乗せてお菓子を持ってきてくれました。

「えっなにこれ?」

薄いパリパリした焼き菓子です。食べるとしょっぱい。でもとってもおいしい。

「ジャガイモを薄切りにして油で揚げて、塩を振ったんです。最近街で流行っているんです。なかなかパリパリにならなくて、シェフが苦労してやっと納得できる物ができたって言ってました」

「うわー!」

セレアが喜んで食べてます。

「ポテトチップですよねこれ。私大好きでした」

こんな料理方法があるんですね。

「よく知ってましたねセレア様。食べたことあるんですか?」

メイドさんがびっくりしてます。

「油で揚げるなんて、油をいっぱい使うんじゃない?」

「そうですね。贅沢な料理ですよ」

メイドさんがそう言うとセレアがびっくりしてます。

メイドさんが下がると、こっそりと、「私の世界ではこれ、子供のおやつでした。大人もみんなこれ大好きで」って教えてくれます。

異世界にもあったんだ……。

「油って、ちょっとしか取れないからね。貴重品だよ。馬車いっぱいのなたね、ごまやオリーブを絞って、瓶に何本かってぐらいだから」

「……ごめんなさい。知りませんでした」

セレアのいた世界って、やっぱりとんでもなく発達していて、豊かで、物が豊富にあったんだって思います。僕らと感覚違いますね……。

「今は僕とセレアは、別々に勉強しているけど、来週から一緒にできる勉強をひとつ、増やそうと思うんだ。今先生に頼んでる」

「?」

「ダンス」

「……」

セレア、赤くなっちゃいます。

僕もちょっとてれちゃいます。

「作戦なんだ。あのね、ヒロインが僕らの仲をこわそうと狙ってるのを用心するだけじゃなくて、僕たちが仲がいい、かけがえのないパートナーだって、アピールもしなくっちゃ」

うんって彼女がうなずきます。

「一番いいのはダンス。僕たちが二人で、誰にもまねできないぐらい素敵なダンスを踊れるようになれば、きっとみんな僕らのこと、認めてくれる。僕とセレアが、いちばんおにあいのカップルなんだって、みんな思う」

「……なんか、はずかしい……」

セレアが顔を手のひらで覆ってしまいます。ほほが赤いですね。

「う、うん。実は僕もなんだけど……」

でもダンスは社交界の必須科目です。ダンスの一つもできないで誰が貴族と認めてくれますかっての。恥ずかしがってちゃダメですね。

「もうヒロインが、僕らのダンスを見ただけで、あーこりゃダメだ。あの二人を別れさせるのは無理だってあきらめちゃうぐらい、踊れるようになりたい」

「はい」

「協力して。いや、そうじゃなくて、いっしょにがんばろう」

「ありがとうございます」

その前に、いちばんの課題は、まず、僕たちが本当になかよくならなきゃってことです。

「今度の休みにデートしようよ」

「で、デート? デートって、貴族のデートってなにするんです?」

「要するにいっしょにおでかけ」

恋人同士はデートする。それぐらい僕だって知ってます。

ただ、問題は僕が王子で、セレアが公爵令嬢ってことです。外出するにもいろいろめんどうがあります。

てなわけで、国王陛下に許可をもらってですね、コレット公爵家にも許可をもらいと、あちこちに手紙出したり許可の返事を待ったりと、大変なんです。

現在セレアが住むコレット公爵別邸は市内にあります。

いつもは領地に住んでいらっしゃるコレット公爵ですが、僕らの婚約、姉上の輿入れなどでこの別邸に滞在していらっしゃいました。

その公爵様も領地に戻られ、今はこの別邸は公爵家の長男、つまりセレアのお兄さんが屋敷の当主をしています。

その別邸を訪ねて、セレアを迎えに行きます。

この屋敷からセレアは毎日のように登城し、お妃教育を受けているわけですが、今日は週に一度のお休みです。そこで、僕ら二人で、外出することになりました。

「今日はよろしくお願いします! ベルさん!」

「よろしくお願いいたしますわシュリーガン様」

……もちろん、護衛として、あの怖い顔のシュリーガンも同行するわけでして。

セレアの従者として、セレア付きメイドのベルさんも、一緒について来るわけでして……。

「で、どうするんですかい弟」

「もうちょっとマシな呼び方ない?」

「王子さんや殿下じゃちょっとね。シン様ってのもアレだし、弟ってことで」

「……もうそれでいいよ」

四人とも、平民風の服に着替えています。セレアは長い髪もまとめてアップにして帽子もかぶっています。平民の子供は、セレアみたいに髪を長くしたりなんてしないんです。きれいに手入れなんてしていられませんから。

僕も帽子をかぶっています。護衛とお付きの二人もですね。

帽子をかぶるのは平民の普通の風習です。

「私はどのようにお呼びしましょう」

ベルさんもセレアに聞いています。

「……考えてなかった。ベル、お姉さんって呼んでいい?」

「お嬢様……、嬉しゅうございます。ぜひそれで」

「ベルは私の事なんて呼びたい?」

「せれあちゃん」

「……それでいい」

かわいいですね。

「じゃあベルさんは僕の事、何て呼びます?」

「しんちゃんって呼びたいですわ」

「もう好きにして」

四人で屋敷から歩いて市内に入ります。

「私、王都の街、歩くの初めてです!」

「えっそうなの?」

「はい、婚約するまで、父の領地にいましたし、王都に来るときは馬車から街を見るぐらいで、別邸にいる間は外出できませんでしたし」

そうだよね。

僕だって姉上が学園に通うようになってから、街を引っ張りまわされるようになりまして、それまで一人でお出かけとか経験ありませんでした。

「じゃ、まず教会に行くよ、兄ちゃん」

「へいへい」

外出するにも口実が必要です。今回は、日曜日の教会のミサに出席するってのが名分になります。午前中にやってますので、さっさと済ませちゃいましょう。

街中に屋台が並び、いろんな食べ物が売られています。

「すごーい、お祭りみたい」

セレアが大喜びですね。目をキラキラさせてかわいいです。

「なにか食べていく?」

「うーん、立って食べるのはお行儀が悪いって怒られるし……」

「今日は僕らは平民なんだ。気にすることないよ」

いろいろ見て、串焼き肉にしました。

たれが付いてておいしそうです。

「はい」

ベルさんが四本買ってきてくれて、一本をセレアに渡します。

「おいしい!」

一口かじって、喜んでますね!

「ベルさん、こっちに」

シュリーガンがベルさんから串焼きを一本受け取って、かじりつきます。

「うーん、うまい、さ、どうぞ弟」

「半分食っちゃってるじゃないか――――!」

「しょうがないでしょ。王子の口にするもの、毒見を忘れるべからずっす」

「……」

「し、シン様……」

「ん?」

「……私の食べて」

セレアが一口かじった串焼き肉を、僕にくれます。

「セレア……」

「シン様の毒見は私がします。それでいいでしょ?」

きっとした顔をしてセレアがシュリーガンをにらみます。

「ありがとうセレア」

「ひゅーひゅー、憎いっすね弟。肉だけに」

僕なんだかシュリーガンぶん殴りたくなってきたよ。

セレアから串焼き肉を受け取って、食べました。おいしいです。

シュリーガンの食いかけ肉はシュリーガンに返し、セレアはもう一本をベルさんから受け取って食べてます。

残りの一本はもちろんベルさんが食べました。