軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5.作戦をたてなきゃいけませんね

夜、姉上も部屋に来てくれて、「おめでとう!」って喜んでくれました。

「シンにも婚約者かあ……。私の義妹になるんだね。かわいい子だった?」

「うん、黒髪がきれいで、ちょっと不安がっていたけど、礼儀正しくて正直で、僕は気にいったな」

「そうかあ。よかったわ。これで私も安心して嫁いで行ける」

本当にうれしそうです。

「ねえ姉上、こういうお話って知ってる?」

彼女が自分の妄想ではなく、実はなにかの小説や物語から影響を受けたのだとしたら、似たような話がこの世界にもあるはずですよね。

貴族ばかりの学園に平民の子が入学してきて、学園で貴族と恋人になって、元からいる婚約者が邪魔になって婚約破棄して、貴族がその平民の子と結婚するって話。

「王子様」って言うと僕のことになっちゃうので、そこは「貴族」ってことにしときます。

「まるで灰かぶり姫だねえ。でもそんな小説も舞台も観たこと無いな。だいたいそんな平民が色恋沙汰だけで貴族や王族と結婚するような小説あったら発禁になって焚書にされちゃうかも。そんな貴族いるわけないし、貴族の地位が揺らぐわ。灰かぶり姫の童話はあるけど、王子様だって婚約者がいたら、灰かぶり姫を捜したりしないでしょ」

「ですよねえ……」

「その子、そんな本読んで、自分も婚約破棄されちゃうかもって思ってるの?」

「えーと、まあ、大体そんな感じ」

実際には彼女は、かなり確信があるようでしたが。

「でも学園の中じゃ、あり得ない話じゃないかもね。私もフローラ学園にいた時、お父様の『この門をくぐる者はすべての身分を捨てよ』っていう教育理念を守って、平民とも分け隔てなく付き合っていたもの。そんなのは建前だって言う貴族のボンクラどもの抵抗が凄かったけど、私が率先してどんな爵位の人とも、平民の生徒とも交流しているうちに雰囲気かわったね」

さすが姉上です。僕は姉上のそういうところ大好きです。

「でも私も一年ちょっと学園にいただけで、すぐにハルファに留学しちゃったから、結局もとに戻っちゃったかもね。残念だけど」

そうかー……。

「シンも私の後を継いで、学園のそういう雰囲気、ぶっ壊してね。貴族の鼻持ちならない選民意識とか、特権階級の横暴とか許しちゃダメ。民の信頼と尊敬だけが、貴族の財産なんだから、ただ威張り散らすだけの貴族なんてこの国には必要ない。社会に出たら否が応でも身分社会に放り込まれて貴族は腐るわ。そうならないように、常に王は民と共にあるってことを忘れちゃダメなの。がんばってねシン!」

「はい」

責任重大です。僕に、父上と、姉上の目指していた学園の本来の姿、実現できるでしょうか。

「十歳でお嫁に行く先が決まっちゃうんじゃあ、不安になって当たり前なのよ。子供だしね。マリッジブルーってやつよ。よくあるわよ」

姉上はそんな気配、カケラも無いですが。姉上ぐらい自信家だったら、ヒロインだろうと悪役令嬢だろうと全て蹴散らして己の道を進むでしょう。

「だからね、シンはその子のこと、そんな不安にさせないぐらい、めちゃめちゃに愛して、かわいがって、溺愛しちゃえばいいの。そうすればその子も、笑ってお嫁に来てくれるわ。どんな時も味方になって、決して彼女を裏切らない。『彼女のナイト』になってあげるの。できる? シン」

今、ものすごくイヤなセリフが姉上の口から飛び出しました。僕がそのマリッジブルーってやつになりそうです。

七歳の僕のナイト願望、もしかしたら姉上の影響だったのかもしれません。

いや、そうに違いありませんね。「アンタのせいか――――!」って、心の中のもう一人の僕が叫んでいます。

もう一つ疑問なことがあります。

逆に、セレアの「ニホンという国で病院に入院していて、そこで死んだ」というほうがもうそうだったとしたら?

よく考えてみたらそっちのほうがずっと可能性高いですよね。

病に伏せってた彼女が、そんな夢を見たって話もしてみました。

「それは無いと思うなあ。そんな作り話はこの国にはないよ。だってこの国で『病院』ってのができたのは私が留学から帰って来てからのことだからね。それまではお医者様が直接病人のいる家を診察に回ってたから」

だから病気になってもお医者様にかかれる人はお金持ちか貴族にかぎられちゃうんですよね。先進国のハルファにならって、姉上がこの国に病院を設立し、お医者様を集めて、平民でも誰でも安い費用で病気を診てもらえるようになったのって、ここ数年のことなんですから。

そう考えると、留学から帰ってきてから、父上や大臣を説得して回って、病院や孤児院を作った姉上って、ホントすごいですね。尊敬しちゃいます。

「なんでシンはそんな小説、知ってるの?」

「いや、なんかそういう小説、すでにあるのかなーって思って」

「メイドさんたちにも聞いてみたら? 恋愛小説とか好きな子いるよ?」

姉上に聞いた恋愛小説大好きなメイドさんにも、そういう小説無いかって聞いてみましたけど、そんなの初耳だって。

逆に読んでみたいからおしえてくださいって言われちゃいました。

全部彼女のもうそうだったとしたら、そっちが凄いわってことです。

……それに僕の子供のころのはずかしい記憶も当てられちゃいました。確定じゃないですけど、もうそうだって決めつけられないところがいっぱいあったんです。今後のことは、彼女とよく話し合う必要がこれからもあるでしょう。

さて、僕はお嬢様がお元気になったと聞かされて、さっそく準備します。

大量の紙と筆記具を用意して、かばんにつめて、バラの花を一輪摘んで、シュリーガンと一緒に朝からお出かけです。

「今日は長くなると思う。シュリーガン帰っていいよ。夕刻迎えに来てくれれば」

「イイっすよ。俺ベルさんと話してますから」

「ベルさんに迷惑だよ」

「ベルさんの仕事手伝いますよ」

「僕を手伝う気はないんかい……」

正面ホールでもうメイドさんたちが並んで、公爵とセレアがお迎えしてくれます。今日はちゃんとしたドレスです。白を基調にした、かわいらしいドレスですね。

みんなの前に進んで、まず公爵様にご挨拶。

「本日は急な訪問、誠に申し訳ありません。国王陛下にも許可をいただきまして、はやる気持ち抑えきれず、セレア様に婚約の申し込みをいたしたく、はせ参じました」

「シン王子殿下には度重なるご足労、感謝の極みでございます。早々の申し出、喜びを持ってお受けしたいと思います。どうぞ娘をよろしくお願い申し上げます」

「セレア」

お嬢様に向き合います。

「僕の妻になる人はあなたをおいて他にありません。シン・ミッドランドの名にかけて、生涯の愛をあなたに誓います。どうぞ僕の結婚の申し込みをお受け下さい」

そう言って、片膝ついて、一輪のバラの花を差し出します。

「豪華な花束などあなたに差し出すのはかえって不遜。王宮の庭園でたくさんの花たちの中から、僕が一番美しく、一番かれんな一輪をえらびぬいて、摘んでまいりました。どうぞこの花を、僕の気持と共に、お受け取り下さい」

「…………はい」

みんなの歓声、拍手の中、セレアがバラを受け取ってくれました。

公爵邸で、サロンに案内されそうになりましたが、そこはお嬢様のお部屋で面会するようにお願いします。もう一度入っちゃってますし。

今日は誰にも聞かれたくない話をいっぱいします。お部屋のほうがいいでしょう。

「シン様って、ホントに十歳なんですか?」

「失礼だなあ。ホントに決まってるって」

彼女の部屋に案内されて、二人っきりです。お茶もお菓子もおいしいですよ。

「よくあんなセリフがすらすら言えるなあって」

「王子だからね。それぐらい姉上や妹を淑女に見たてて先生に練習させられるよ。社交は貴族のたしなみだから」

「はあ……。大人っぽいなーって思ってましたけど」

「姉上は厳しいよ。毎回違うセリフで言わないと殴られちゃうからね。オリジナリティが無いって。そんなセリフじゃ乙女はキュンキュンしないって」

「シン様が将来モテモテになる理由、わかるような気がします……」

こうやって打ち解けて話してみると、素は面白い子ですね。

テーブルの上には一輪挿しのバラ。

「でも、このお花ほんとうに綺麗。嬉しかったです」

「ありがとう。花びらが全部落ちたらどうのこうのとか言わないでよ?」

「あとでドライフラワーにします。一生大事にしますからね」

「はいはい」

そう言って、一輪挿しを戸棚の上に背伸びしておいてます。

「決まっちゃいましたね……」

「決まったね」

しみじみ言う彼女にあいづちを打ちます。

「僕は王族、君も貴族。君がことわるわけにいかないし、僕がことわっても何も変わらないし。だったら、イヤイヤ婚約するより、よろこんで婚約するほうがずっといいと思うんだ。僕は君と婚約できてうれしい。たぶん、どんなお嬢さんと婚約するよりも」

「ありがとうございます……」

彼女、あきらめ顔です。彼女にしたら、これで没落追放、決定ですからね。これからは彼女から、将来の不安を取り除いてあげることが僕の仕事になります。ゲームとか異世界とか、そんなの本当にあるとかないとか今はどうでもいいです。大事なのはそこじゃないんです。まずそこから始めましょう。

「将来、君は、僕に婚約破棄をされて不幸になるんだよね」

「はい」

「だから、僕らはそうならないように全力で作戦立てて、その運命を変えていこう」

そう言ってカバンから紙の束を取り出して、万年筆とインク、吸い取り紙を用意します。テーブルをはさんで向かい合って、事情聴取です。

「まずその君が婚約破棄されるお話、最初から順番に思い出せるだけ、全部話して」

いやあ、凄かったです。膨大な量ですね。

小説一本分の話になりますよもう。七歳で僕と出会ったその主人公は、その時助けてくれた男の子が、王子様だとはまだ知りません。エンディング前に、王子様に愛を告白されて、その時はじめてその時の男の子が王子様だったって思い出すんです。『どんかん主人公』っていうらしいんですが。

王子のほうは最初から主人公のことを覚えていて、それで気になって、ずっと見守ってたって言うんですよね。なにそれずるいって感じです。

「僕すっかり忘れてましたが」

「黒歴史ですもんねえ」

「内角からわきばらをえぐるようなフックやめて……。でもその子がゲームやり込んでいたなら、僕のこと王子ってとっくにバレてるよね」

「だと思います。七歳の時に『王子キタ――――!』とか思ってたはずですよ」

「いやあその子だって七歳でそんなゲームやってるかなあ。君と同じで、まだゲームの記憶思い出していないかもしれないし」

「私はシン様と出会った時に記憶が戻りました。それがフラグになっているのかもしれません」

「ふらぐってなに……。きっかけってことだよね。だったらその子、僕に会ったとたんに悲鳴上げて倒れてたと思うけど?」

「……あのときは大変失礼をし、申し訳ございませんでした」

こうやって事実関係をはっきりさせていく、物語の設定やむじゅんを明らかにしていくのって、けっこう楽しいです。二人で物語を作っていくみたいで。

彼女にツッコみ、ツッコまれ、僕はさっきからおかしくてしょうがありませんよ。最初はうんざりするような作業かと思ってましたが、これ、楽しいですね!

「いや、イヤミを言ってるんじゃないよ。現時点でその主人公……『ヒロイン』が、君の言う『ゲームの記憶持ち』かどうかは確定できないってこと。どのタイミングで思い出すかはわからないし、最後まで知らないままってこともありうる」

「そうなりますね……」

「ヒロインの名前や姿も今のところはわからないと」

「最初の設定で入力できますし」

都合いいなあ……。

「シン様もその子に会ったら、七歳の時のヒロインのことを、いきなり思い出すんじゃないですかね。私みたいに」

僕も悲鳴上げてぶっ倒れちゃうの?

だったら絶対思い出したくない記憶ですね。避けたいです……。