軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46.もうすぐ夏休み

学期末試験も終わりまして、なんとか学年一位で終えることができました。

王子の面目躍如です。

「……シン、お前さあ、テストの問題前もって教えてもらったりしてないよな?」

張り出されたテスト順位の前で、なんとか補習を免れたジャックにそんなイヤミを言われます。

「僕はさあ、この学園に入る前に、ここでやるような勉強はもう一通り済ませてるからね」

「なんかそれズルくね?」

「……二倍勉強してることになるとは思わないの?」

「それじゃあ僕が敵うわけ無いですね!」

一緒にテスト順位を見たハーティス君がそう言って笑います。

それでも二位ですよハーティス君。やっぱり優秀なんだなあと思います。普通の学生よりいい王宮教師に指導を受けて、倍も勉強している僕と同レベルなわけですから。

セレアも頑張ってます。十二位ですよ。

ヒロインさんは一年生百二十人中、五十位ぐらいとまあ中間レベル。貴族教育など何も受けてない平民出身としては驚異的と言えるかもしれません。セレアの言うゲーム内では誰を攻略するかでも違いますが、僕を抜くこともあり得るとか。油断なりません。

学園も一段落しましたのでね、みんなで図書室に向かいます。

図書委員、文芸部員のみんなともすっかり仲良くなりましたので、なんとなしに放課後は図書室で過ごすことも増えました。

「皆さんは夏休みはどう過ごされるのですか?」

ハーティス君が人懐っこく聞いてきます。ほんと癒されます。僕らこの学園内では常に緊張を強いられていますからねえ。こういう友達はありがたいです。

「学園生活に時間を取られる分、公務がおろそかになってるから、夏休みの間にそれを取り戻さないといけなくて……。実はほとんど休みは無いんだ」

王子生活も厳しいです。

「ってことは今年は俺んち来れないわけ?」

避暑に毎年ジャックのワイルズ家にセレアと二人でお邪魔してました。もう恒例になってます。

「行けないね。残念だけど。来年はぜひ時間を作りたいよ」

「そっか……。俺けっこう師匠のブートキャンプ楽しみにしてたんだぞ?」

「やるとしたら今年からはシュバルツが担当になるかな」

「それはそれで楽しみだ。惜しいなあ……」

「ブートキャンプって、なんなんです?」

ハーティス君が聞いてきます。

「ひ・み・つ・だ。参加してのお楽しみだな。来年お前も来いよ」

あの体育会系の特訓を毎日やるわけですがね。泳法、馬術、弓に剣術、ハーティス君は泣いちゃうかもしれませんね。

ジャックもすっかりハーティス君のこと仲間として受け入れてくれているんだからわからないものです。ひねくれもののジャックと秀才タイプのハーティス君、水と油のような気がしますが、今のジャックは全然ひねくれものじゃ無くなっていますんで。

ジャックの婚約者のシルファさんは……、補習ですね。学園の寮に残って、勉強をしなければなりません。青い顔をして掲示板の順位を眺めていました。

「あ……。シルファ、気を落とすな。今年は俺も帰らないで寮に残るよ……」

ジャックがそんな気を使えるようになるとはねえ。成長したものです。

「いえ、いいんです。みなさん、ジャック様と一緒に避暑に行ってください……」

「いやあ、せっかく学園に入学して初めての王都だぞ? あんな辛気臭い田舎に帰るより、王都で夏休み過ごしたほうがずっといいって。こっちにいればシンもセレアさんもハーティスもいるんだしさ」

うん、ジャック、それでいいよ。それでこそ婚約者。いつも彼女を支えてあげてほしいです。

ジャック、シルファさんにツンツンすることが今はもう全くないんですよね。本当にもう、「可愛い彼女」って感じで、微笑ましくて安心して見ていられるカップルです。

「……いいなあ、二人とも素敵な婚約者がいて」

「ハーティス君はいないの?」

「いませんよ。僕なんて三男坊ですし、家じゃなんでも後回しです」

そりゃ危険だな。ヒロインさんのいいカモです。

「でも僕も皆さんみたいに、婚約していて、実際に仲も良いカップルってあんまり見たこと無いですね。ここは貴族学園だから既に婚約者がいる学生なんてゴロゴロしているわけですが、逆に『学生時代の今のうちに恋しなきゃ』って感じで、自分の婚約者無視で遊んでる貴族多いです」

……それは否定できませんね。あのヒロインさんが付け込む隙があるわけですから。ほらあ図書室にもうあのピンク頭いますよ!

ちらっちらっと僕らのことうかがってます。

「ハーティスは夏休みどうすんの?」

「天文台に大望遠鏡が完成しましたので、夏休みの間はずっと父の手伝いです」

ああ、そういえば、物理学者のニートン教授が開発した天体望遠鏡!

反射式ってやつで、レンズ式と違って色のにじみが小さいそうです。レンズより大口径化しやすいので、高性能な物が作れるそうですよ。それを大型化したものを学院で作りまして、今年の夏から運用開始です。結果が楽しみですね!

「……ハーティス君は、『ガリヴァー旅行記』って、知ってます?」

セレアの前世知識キ……、いや、これは違うかな?

セレアが図書室の本棚から、ガリヴァー旅行記の本を持ってきます。

「ああ、小人の国に行ったり、天空の国に行ったり、子供向けのおとぎ話で……」

「これに、天空の城ラピュタの科学者によると、火星の衛星、つまり地球で言う月が二個あるって書いてあります。フォボスとダイモスって言うんです」

「それ、本当にあったら凄いですけど」

「ガリヴァー旅行記は創作ですけど、所々に本当のことが書かれていたりするらしいです。ぜひ調べてほしいと思うんです」

「ホントだったら凄い発見です! 真っ先に調べます!」

ハーティス君、大興奮です。

「セレア様は、なんでそんなこと知ってるんですか?」

ぎゃあああああああ。ちゃっかりピンク頭がいつのまにか同じテーブルに座って、両肘ついて頬杖してちょっと頭を傾けて無邪気に笑って聞いてきます。

ヒロインさんいつからいたの!

「あ……。こんにちは。前に図書室でこの本を借りて、覚えていたんですよ」

「ふうん、凄いなあセレア様は」

明らかにカマかけてきています。これは注意しないと。

「あの、学園では『様』はご遠慮いただければと……同じ学生ですから」

「私、セレア様って、大人っぽいなあって、あこがれちゃいますね。ほんとはもっと年上なんじゃないかって思っちゃうことあるぐらいです。中身とか」

中身ってなんだよ。

いやそれはないね。それは同じ十歳から育ってきた僕が断言しますね。

セレアはいつだって僕と同い年の子供でした。そこに不自然は一切ありませんでしたよ。僕も年の割におっさん臭いって言われてもしょうがないけど、それは実際に大人と仕事してきたんだからしょうがないしね。

「……僕は逆に君が子供っぽいと思うよ。リンナさん」

そう、まるで作ったみたいに。いい大人が学生を演じているみたいにね。まだまだガキな攻略対象を手玉に取る悪女みたいです。

「リンスです! リ・ン・ス! もう完全にわざとですよね王子様!」

「どうしても覚えられないんだよなあ。難しすぎるよその名前」

「どこがですか!」

「失礼ですよリンスさん。シン君が気にしないからって、調子に乗ってたらいつか失敗します。最低限の敬意はちゃんと払いましょう」

ハーティス君が注意すると、「もう失敗しちゃいました! この前街中で。あのときはごめんなさい」と、てへっと笑って頭を自分でこつんとやってぺろって舌を出します。てへぺろかい。やめてよそれ、メチャメチャイラッとするから。

「みなさん夏休みはどうされるんですか?」

君ねえ、そういうプライベートなことをなんで聞いてくるの?

「僕は勉強と公務です。遊んでるヒマなんか無いですね」

「私もシン様と一緒ですね」

「俺は寮に残ってシルファに付き合うよ」

「……私は補習で。恥ずかしながら」

「僕は父の手伝いで休みなしです」

はい、ヒロインさんの夏休み終了のお知らせです。他のキャラを攻略しててください。

「……みなさん仲良しなんですねえ……」

そして、「お邪魔しました!」って敬礼して、ニコっと笑って、図書室を出ていきます。

「……あの子どう思う?」

みんなに聞いてみます。

「かわいいですね。魅力的だとは思います。男子に人気です。でもなんだか僕は苦手です。勉強を聞きに来るだけならまだいいんですが、何度も一緒にどこか行こうとか誘われるので困ってます。どうしてかわかりませんけど」

ハーティス君はまだ大丈夫みたいです。ヒロインだからってどんな攻略対象も好きになってくれるわけじゃないんですよね。天然な発言してるだけでモテモテってわけにはいかない対象者もいるってことです。

「実は俺も……」

やっぱりジャックにも接近してたか――――!

「『王子様とどうやって仲良くなったの?』とか、『今度一緒にフライドチキン食べに行きませんか?』とか、付きまとわれたことがある。まあ、王子のシンと仲良くしてりゃあそういう奴も寄って来るわなと思ってシカトしてたけど。シン目当ての女、あの子以外にもけっこう俺のとこ来るし」

ジャックにも僕の知らないところで苦労かけてたんだなと思うと悪い気がします。

「『俺にはシルファっていう可愛い可愛い婚約者がいるんだよ! そんなヒマあったらシルファと出かけるわ!』って言っちゃったよ。それ以来寄ってこなくなったけど」

シルファさんが赤くなっちゃいました。ヒューヒュー。

「……シルファはさあ、胸でっかいだろ?」

ちょちょちょちょ、ジャック、いきなりなに言い出すの!

「俺の領はさあ、乳牛いっぱい飼ってて畜産が盛んだろ? だからさ、乳のデカい女を嫁にもらうってのが男のステータスなんだよ。縁起がいいってね」

そんな風習あるんですか。

「だから貧乳の女しか嫁にできない男はバカにされる。シルファはさ、小さいころから牛乳、苦手なのにいっぱい飲んでさ、俺のために。で、こんなに育ってくれて、感謝してるよ……。領主の跡継ぎとして、俺の顔を立ててくれた。俺みたいなひねくれものに、一生懸命好かれるように、ずっと俺の事嫌いにならないで、意地悪なこと言っちゃっても、我慢して側にいてくれたよ。俺はシルファがいい。他の女なんてどうでもいいね」

そう言って頭の後ろに手を組んで、反り返ります。ジャックのあの胸へのこだわりは、そんな理由があったんだね。

しかし素で告白もプロポーズも平然としちゃうんだなあ。凄いなジャック。よかったねシルファさん、胸おっきくなって。ほら、真っ赤になって涙ぐんでるよシルファさん。

「ジャック」

「ん?」

「君、ほんとデリカシーってやつが全くないねえ」

「やかましいわ。俺にそんなの期待すんな」

ふんってされちゃいました。おいおいかわいいなジャック!

「……あの子、貴族と結婚する願望でもあるんですかね?」

ハーティス君がひそひそ話します。

「……たぶん」

ジャックも顔を寄せてきてこっそりと。

「俺、『貴族だからって婚約者に縛られる必要なんかないんです、ジャック様だって好きに恋することができるんですから』とか言われたよ。『もう婚約者が決まってるなんてかわいそう。本当に好きな人と結ばれて結婚するほうが幸せですよね』なんてさ。大きなお世話だっちゅうの。婚約者のこと本当に好きになって何が悪い。だよなシン」

「……それ、おんなじこと僕も言われた」

セレアがびっくりします。ニアミスしちゃったときの話でね、数年前になりますか。セレアには話したこと無かったか。

「『僕もそう思うよ』って言ったら嬉しそうにしてたねえ」

「……怖いなそれ。横取りする気満々じゃん」

「ま、僕はセレアと結婚するけどね」

もうしちゃってますけど。

「そういやシン、『そのほうが片思いに悩んだり、振られて落ち込んだりしなくていいからお得』って言ってたな」

「君、ほんっとうにデリカシー無いな!」

セレアに睨まれちゃいました。

どうしてくれんの。