軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44.フットボールとクール担当

「わあ、サッカーボールですよね、これ!」

セレアがフットボールを見て喜びますね。

「フットボールだよ。さっかーってなに?」

「どっちも同じだったような……うーん、どうだったっけ。要するに足だけしか使っちゃいけないスポーツですよね」

「まあそうだね。手を使っていいのはゴールキーパーだけだよ」

学園の大掛かりな行事としてはこれが最初、体育祭です。

クラス対抗でこれを行います。代表選手は八人です。

生徒会の手抜きのせいで競技はこれだけ。主催するのは体育委員会ですから生徒会は例によって特に何もやっておりません。一年生から三年生まで分けて、学年で勝ったチームが上級生の勝利チームと対抗する勝ち抜き戦です。

一年VS二年で勝ったほうが三年生と戦うので、下級生のほうが試合数が多くなるシステムですから不利ですねえ。まあしょうがないか。総当たりとかやるほど時間もスタミナもありませんし。来年からはくじ引きトーナメントに変更させようっと。

不参加の男子と女子は全員、クラスの応援で観戦するだけです。つまり体育祭に参加するのはクラスの三分の一だけ。来年からはもうちょっと多くの人が参加できる行事にしたいです。

スポーツってのは男がやるものなんだからこれが当たり前なんですけど、考えてみれば女生徒も参加できるようなスポーツもなにか考えないといけないかも。

授業だと男子が体育の授業でフットボールしている間、女子はバレエですもんねえ……。

「十一人じゃないんですか?」

「そんなにいっぱい必要ないでしょ……。二十二人もグラウンドにいたら誰が何やってるかわかんないよ」

「私この世界でサッカー見るの初めてです。私の知ってるサッカーよりグラウンド狭いですし」

「サッカーじゃなくてフットボール! セレアどんだけ箱入り娘だったの?」

「私の領ではこんなことやってる人いませんでしたので」

ぽんぽんぽんってボールを手で弾ませて喜んでますセレア。

「これなんで作ってあるんでしょうね……。革を張ってありますけど、ゴムとかありましたっけ」

「ゴムは南方の輸入品であるけど、ボールは牛の膀胱を使うはずだよ。中で膨らませてあるんだよ」

「牛の……」

僕のクラスは当然運動得意な男子で固めて勝ちに行くぞって怪気炎上げてます。

僕はゴールキーパー。やりたがる人がいませんでしたので立候補しました。

いいんです僕は。もうお嫁さんもいるし、女の子にキャーキャー言われる必要も無いですから。

「いや、それはナシだろ」

「いや、むしろ逆にアリじゃね?」

「アリかもな……」

キーパーに立候補したときはクラスが微妙な雰囲気になりましたが。

ええ? なんで?

試合が始まってみると、うちのクラス強いですね!

全然ゴールにボールが飛んできませんよ!

ジャックが決めてくれて一点入りました! やったね!

応援してるシルファさんが大喜びしています。

試合時間は二十五分。まず初戦を撃破して、一休み。セレアが後ろからタオルをかぶせて、水筒の水を渡してくれます。

「僕、全然出番無かったな――」

「当然ですよ……気が付きませんでした?」

「なにが?」

「王国の第一王子がゴールキーパーやってたら、誰もゴールにボール蹴り込めないじゃないですか。当たったらどうします?」

「そうだった―――――――――!」

それでか――――!!

言われてみないと気が付かないことってあるもんです。まだまだだね僕。

「ちょっちょっちょっ、みんな、選手交代していい?」

「いや、いまさらそれは……」

「シン君ゴールキーパーで練習してきたし、いまさら……」

「シン、今になってめんどくさいこと言うなよ! キーパーなんてすぐに代わりが利かねえだろ」

ジャックにも怒られます。

しょうがない、続けますか……。

二回戦、相手がよく守ったので両者無得点、PK戦になりました。ゴールキーパーの僕の責任重大です。この場面で出番が来ちゃうとは……。

「シン・ミッドランド!」

なんかえらくカッコいい奴が前に出ていきなり僕をフルネーム呼びですね。それはちょっと恥ずかしいのでやめてほしいです。

「……俺はお前を認めない!」

うーん、何を認めないのかお話聞かせてほしいです。

ピーッ!

笛が鳴ってPK、一人目!

うおっ! 僕の顔面狙って矢のような強力シュート来ました!

真正面でしたから、一歩も動かずキャッチしました。

人間ってのは不思議なもんで、にらみつけてるところに蹴り込んじゃうんですよ。これ、目線と違う所に蹴るってのは、それなりに練習が必要だと思いますよ?

ハイ次。

彼、ちょっと悔しそうに退場します。

「なんでいきなりど真ん中に蹴るんだよ!」と仲間に突っ込まれておりますが無言で歩き去ります。PK戦なんてキッカーが圧倒的に有利なんだから、右か左か上か、とにかく正面以外を狙えばたいていはゴール入っちゃうのにさ……。

そんなわけで僕が最初に止めた一本が決定ゴールになり、僕らの勝ち。

次は二年生チームが相手です。その前にお昼休み。

セレアと二人でグラウンドを囲む土手の草原に座り、お弁当です。セレアの手作りサンドイッチ。おいしいですよ。次も試合が控えているのでお腹いっぱいは食べられませんが。

「見てください。イベント、始まっちゃいました」

セレアに言われて見ると、さっき僕の顔面狙ってシュートした彼に、ピンク頭のヒロインさんが歩み寄ってます。座り込んで不貞腐れている彼に、後ろに手を組んで彼の顔を覗き込むようにして話しかけてます。

「えっ彼、攻略対象?」

「フリード・ブラックさんですね……」

あーいたいたそんな奴。侯爵の息子だったっけ。黒髪、黒目で無口、不愛想、人嫌い、誰にでもタメ口なクール系担当。もちろん切れ長系の鋭い目つきのめっちゃイケメンです。孤高のヒーローで女性を寄せ付けないオーラがあります。要するに斜に構えたカッコウつけです。

「……あんなやついったいどうやって攻略すんの?」

「えーとたしか『すごいねフリード君、あの王子の顔面にシュート蹴り込むなんて!』、って言うんです。フリードさんは『すごくない。止められた』って不機嫌なんですけど」

セレアが二人を遠くに眺めながら、セリフを再現してくれます。

「『だってみんな王子様だからって蹴り込めなかったのに、フリード君は本当に顔めがけてボール蹴っちゃうんだもん、凄い勇気!』とか言うと、『王子も殿下も関係ない。俺はそれをアイツに教えてやっただけだ』って大威張りで」

「いやいやいや、僕いつもそれ自分で言ってるよね。入学式からずっとみんなにそうしてくれってお願いしてるでしょ。なにをいまさらだよ」

「『うん、私にはそれがわかったよ。フリード君が意地を見せたんだって!』とか言ってるはずです」

「いやあアレはどう考えてもミスキックでしょうに……。僕をダシにして男を口説くのはやめてほしいですね……」

「ほら、フリードさんきゅんきゅんしちゃってます」

タオルで自分の頭と顔をごしごし拭いてます。照れ隠しですかね。

「『お前になにがわかる』、『わかるよ。王子だろうがなんだろうが、コートの上では対等だ、卑怯な作戦を使わず正々堂々勝負しろって、言ってやりたかったんだよね』」

セレアのセリフの再現率凄いです。

ほら、フリード君びっくりして顔を上げてヒロインさんを見ますもん。

うああああ、やっぱり王子がゴールキーパーって卑怯だったんだ!

ごめんなさい僕もう来年からはやりませんから許してください。

「ほらもうフリードさん、ヒロインさんからお弁当分けてもらって食べちゃってますよ。ヒロインにだけは、心開いて話してくれるようになるんです。そこにきゅんきゅん来ちゃうわけです」

「餌付けかい! かわいいなフリード君! そこはもうちょっと粘ろうよ、クールキャラがそんなにチョロかったらダメでしょう!」

なるほどそりゃひとたまりもなく陥落しちゃうかもしれません。こうしてヒロインが対象者を攻略している場面を目の当たりにするとそれがよくわかります。

恐るべしヒロイン……。

食べているのはフライドチキンですけど。

「なんか手を打っておくべきだったかなあ……」

「無理だと思いますね。今日のヒロインさんが誰を応援するかなんて、予想が付きませんし」

「それもそうか」

「それにそもそも人の恋路を邪魔するってのが、あんまりいい発想じゃないと思いますよ……」

ぐはあ。いや、セレア、それ言っちゃあ……。

「セレア、僕、すごーくよくわかったよ。納得した」

「?」

「ヒロインさんはね、この女、もしかして自分の事、好きなんじゃないか? って相手に思わせるのが物凄く上手なの。男ってのはバカだから誰でも可愛い女の子にちょっとチヤホヤされるだけでその気になっちゃうの。意識しだすと止まらなくなっちゃうの」

「それですね!」

セレアが我が意を得たりという感じで手を打ちます。

「僕も上手にセレアに攻略されちゃったのかなあ」

「知りません! 悪役令嬢が王子を攻略する方法なんてないですし!」

「あっはっはっはっはっは!」

僕が好きになったのは本物のセレアです。ニセモノなんかじゃありません。

ちょっと怒ってるセレアを抱き寄せて、ほっぺにキスしちゃいました。

その後、二年の優勝チームとも対戦してなんとかギリギリで撃破できましたが、三年のチームには負けました。

生徒会長の絶対女王。公爵令嬢、エレーナ・ストラーディス様が自らのクラスの三年チームに「死んでも勝て、王子と思うな」とハッパをかけましたもので、全員僕ら一年チームを殺す気でかかってきまして。

審判もいろいろやらかしてくれたもんで勝てるわけ無いです。

「僕もう、来年からゴールキーパーやらないから」

試合後、メンバーに引退宣言します。

「えーえーえーえー……。せっかくシン君がいるのに、利用しない手は無いだろ」

チームの男子から抗議されます。

「君たちねえ、来年もあの視線に耐えられる?」

僕が指さすと、観戦しているクラスの女子たちの目の冷たいこと冷たいこと。

王子をゴールキーパーにして敵が蹴り込めないようにする作戦、めっちゃ不評ってことです。ほらセレアまで半目ですもん。

「……わかった。わかったって」

後で、同じ一年チームの他のクラスに、「あれは卑怯だ」、「ないわー」ってさんざん抗議されました。

ですよね――。

ごめんなさいみんな。僕もうゴールキーパーやりませんから、許してください。

帰り道、二人で歩道を歩きます。

「セレアもしかして僕がゴールキーパーやる展開知ってた?」

「はい、覚えてました」

「だったら止めてくれてもよかったのに……」

「シン様、ゴールキーパーが大好きなんだと思って……」

それでか。

「ゴールキーパーなんて地味な役みんなやりたがらないから、しょうがなく立候補したんだよ」

「私のいた世界じゃゴールキーパー、『守護神』なんて言われてて、一番かっこいいポジションですよ! 地味だなんて思ってる人いませんからね!」

世界が変わると価値観も違うんだねえ……。

「ねえセレア、女性にもできるスポーツって何かないかな」

「うーん……。女子は男子が体育やってる時間はバレエですから」

「そうかあ……」

「私の前世では、男女でもやるスポーツは全く同じですね。差は無いです。たいていは男女別に競いますけど」

「凄いなあそれ。僕は女性が男とおんなじスポーツやるなんてまったく想像つかないや。どんな競技があるの?」

「こっちで女性でもできるスポーツ……。私の国だと弓道とか女性に人気です」

「弓か。弓……。確かに弓なら体力どうこうより、うまい下手だから女性でも競えるかも。でもこの国では女性に戦わせるのは男の恥だから、女性に武術はやらせないよ。反対されちゃってダメだなあ」

「やっぱりダンス?」

「ダンスは競うものじゃないし……」

「男女同権って、まだまだ難しいですね!」

セレアがぷんすかします。

セレアの世界じゃ男女同権が進んでいたんでしょうか?

こっちじゃあ、貴族の女性は結婚相手も自分では決められません。

そう考えると、僕、ずいぶん非情な人生をセレアに強いています。それ考えると辛いな……。

「セレア?」

「はい」

「その……。セレアは、こっちの世界と、前世と、どっちがよかった?」

「……」

セレア、ちょっと困った顔して、でも、笑ってくれましたね。

「十歳までしか生きられなかった世界より、こっちのほうがずっといいです。大人になりたいなんて、そんな当たり前の夢さえ、私はかなえることができなかったんですから……」

それもそうか。

本当に、そうだといいな。