軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.避暑地の出来事

今年の夏は暑くて、みんなぐてーっとしています。

国王陛下である父上と母上も避暑の準備を始めました。そんな時、ジャックから手紙が来ました。王都から四つ離れた北方の、ジョージ・ワイルズ子爵領。そこに住んでるあのジャックシュリート・ワイルズからです。

僕と同い年の、あの俺様キャラから。

友達ってことになってますからねえ。「今年の夏は暑いそうだな! 俺の屋敷に避暑に来いよ。歓迎するぞ!」という内容をもったいぶった貴族ぽい言い回しで書いてあります。

ジャックとは、あれから何度かパーティーで顔を合わせ、だいぶくだけた関係になりました。もちろんシルファさんもいっしょです。

同じ便せんに、「セレア様もぜひごいっしょに、シルファ」と追記されていました。どうやら仲良くやっているようです。

父上と母上に許可をもらい、セレアと一緒にお出かけすることになりました。

よく許可が出たなあと思いますが、まあそこはシュリーガンとベルさんも一緒ですから。

王宮からは避暑に向かう国王陛下夫妻の護衛が割かれますので、僕らは例によって平民のふりをして駅馬車隊に混ぜてもらって行くことになりました。

四人乗り馬車で、御者はシュリーガン、客車には僕とセレアとベルさん。二泊三日で到着予定です。

王都からほとんど出ることが無い僕らには窓から見える風景や道程が楽しいですね。商人たちや旅人と、それを護衛する冒険者ハンターと呼ばれる人たちも興味深いです。僕はもちろん出発に当たって、「見聞を広めよ」という国王陛下の厳しい言いつけがされていますが、まあ夏休みってことで。

夜は宿に泊まらず、キャンプなんですよね。テントでいっしょ。

僕とセレアも、一つのテントでふたつの寝袋で眠ります。

一緒に寝るのって、ひさしぶりだなあ。雷の夜以来かな。いや、病院の資料作りで床の上に寝ちゃったことも何度かあったか。

寝袋にくるまってすうすう眠るセレアの寝顔、かわいいです。

「いやあよく来たなあ! ひさしぶり!」

出迎えてくれたジャックとシルファさんとぱーんって手を打ち鳴らしてハイタッチします。

「めちゃめちゃ疲れた――。長かったよ!」

「悪い悪い。なんにもない所だけど、まあ王都よりは涼しいし食い物もうまいから、そこは期待してくれ」

「頼むよ!」

シルファさんとセレアも抱き合って久々の再会を喜んでいます。

出迎えに並んでいたメイドさんたちも執事の方もびっくりしていますね。王国の第一王子が、こんな田舎領の子爵子息とこんなに気楽な友達付き合いしてるなんて思ってもいなかったようで、あわてています。

「このような田舎領にわざわざ出向いていただいて、誠にありがとうございます」

そんなことを言って、領主のジョージ・ワイルズ子爵御夫妻がきっちり頭を下げてくれます。

「厄介になって申し訳ありません。御迷惑をおかけいたしますがお許しください」

そう言ってセレアと一緒に、作法通り挨拶します。

その後、お付きのシュリーガンとベルさんには個室が与えられ、僕らの部屋に案内されました。

僕らの?

別室じゃないの?

……どーんとでかいベッドが二つ並んでる客室に案内されちゃいました。

うわあ、気まずいです。

「こりゃいいお部屋ですな」

トランクを幾つもかかえたシュリーガンとベルさんがどすどすと遠慮なく部屋に荷物を置いてます。

「お嬢様、お着替えします。殿方はご退出ください」

ベルさんに追い出されちゃいました。

廊下に立ってた僕とシュリーガンにジャックが声をかけてきます。

「シン、カードやろうぜ!」

「……あのさあ、なんで僕ら一緒の部屋なの?」

「何も問題ないだろ、婚約者だし。うちはお客はその部屋って決まってんの」

「あのねえ……。まあそれは後で。それより着いたばっかりなんだから、なんか飲ませてよ」

「そりゃそうだな。悪い悪い。サロンに行こうぜ」

「あの、この部屋で頼めない?」

「そうだな、それもいいな。シルファ呼んでくるわ」

ベッドのある部屋にセレアと二人って、間が持たないような気が……。

部屋のドアが開いて、ベルさんが顔を出します。

「よろしいですよ」

入ると、セレアが涼し気なノースリーブのワンピースに着替えていました。

窓とカーテンも開けられ、風がそよそよと吹き込んできます。やっぱりこっちは北方だけあって涼しいですね。

メイドさんが飲み物を運んできてくれます。ジュースに氷が入ってます!

「氷! こんな真夏によく用意できたね!」

「湖に張る氷を冬のうちに切り出して、地下の 室(むろ) に保存しておくんだ」

「贅沢だなあ……」

「来てよかったろ?」

飲んでみると冷たくておいしいです。さすがは北方の領地ですね。王都のうだるような暑さとは違います。来てよかった。

夕食まで、時間がありますので、シルファさんも交えて四人でカードやりました。絨毯の上に四人で座って、クッションの上にカードを置いて、大富豪です。

「おもしれえなコレ!」

ジャックが大喜びですね。ルールが行き渡ったところで、本格的に始めますよ。

遠慮なく勝ちに行きます。

「つ、強えぇなシン……」

「ジャックはね、大きい手ばかり狙うから後が続かないんだよ。こういうのは地道に出せるカードを確実に出すほうがいいんだよ」

「つまらねえ張り方するねえお前は」

シルファさんがジャックをにらみますね。

「未来の国王がジャック様みたいな運任せの逆転ばっかり狙ってたら、国民が不安になりますって。堅実さも王たる者の資質です。ジャック様も貧民の切なさを少しは味わえばいいんです!」

「出ました、シルファの優等生発言」

ジャックがシルファさんをからかいます。うん、なんか仲いい二人見ると安心ですね。これならヒロインさんが現れても、大丈夫でしょう。

「革命!」

「ぎゃああああああ!」

……セレア、それは無いんじゃない? 君が僕をド貧民に突き落としてどうすんの。

その夜は夕食会を開いてもらいました。毎晩ってわけじゃなくて、歓迎の今日だけです。「あとは自分の家だと思って、ゆるりと過ごしていただきたいですな」とあたたかいお言葉をいただき、お礼を言いました。

浴場でお風呂をいただいてから、ぱったりと眠ります。

さすがに疲れちゃいました。

翌日、湖に連れてこられました。

「我が領自慢の湖でね、水のきれいさは国一番だと思うよ!」

確かに水がきれいで、嫌な臭いもせず、そのまま飲めそうな水ですよ。これは嬉しいな!

トランクスの水着の僕らの元に、着替えたシルファさんとセレアが来ました。

シルファさんはふわふわのフリルのついたツーピース。セレアは黒のワンピースです。

「…………」

しばらく無言の後、ジャックが親指を立ててニヤリ。

「俺の勝ちだ」

この野郎……。セレアだってこれからまだまだ大きくなるからね?

シルファさん、十三歳だとは思えないぐらい、もう立派ですけど。

僕は母上と姉上がおっきかったから、おっきいのってそんなにいいかなあって思っちゃいますよ。今のセレアのほうが断然素敵でしょうが。

「さあ! シュリーガンブートキャンプへようこそガキども! 今日から徹底的に鍛えるから覚悟しろよ!」

ぴっちぴちのパンツをもっこりさせてシュリーガン登場!

いやいやいやいや、何を始める気さシュリーガン!

「王都周辺では泳げるような場所が無いっすからね、殿下も坊ちゃんも、泳ぎを叩き込むっす」

「えーえーえーえー……」

「殿下、泳げるんすか?」

「泳いだことは無いけどさ……」

「坊ちゃんは?」

「俺は、まあまあ」

ジャックの返事にうんうんとシュリーガンが頷きます。

「人間は動物と違って、本能的に泳げないっす。人間は泳ぎを習わないと泳げるようにならないんすよ。二人とも貴族たるもの、泳げるようになってもらいますよ」

「必要あるの!?」

「ありますって。戦争で背後は川、前には大軍が攻めてきたとして、どうするっす?」

「そりゃあ、踏みとどまって闘うよ」

「愚策!」

「船を出してもらえばいいじゃん」

「遅い!」

ちっちっちってシュリーガンが指を振ります。

「戦場では生き残ることが第一っす。そこは川を泳いで渡るが正解っす。そんなふうに追い詰められているのはもう負け戦っすよ? いいっすか? 戦争ってのは勝てるアテがないならやらないことです。追い詰められるような状況に陥るなんてそれは作戦が悪いからっす。そんなバカ作戦立てた上官に命を捧げる必要はありません。生き残れば次の機会があります。勝てる作戦を立て直してもう一度挑むのが正解っす。負け戦で死ぬのはまったく意味がないんすよ。覚えといてください」

「すごいなお前。ほんとよくそれで近衛兵が務まるなあ!」

「……殿下、坊ちゃんみたいな王侯貴族は、まず他国と戦争にならないように、平和的に解決できるような外交に力を尽くしてください。それでもやむを得ず戦争になるのなら、死ぬのは俺らの仕事なんす。殿下は生き残ること以外何も考えなくていいんスよ。わかりましたね?」

……頭が下がる思いがします。シュリーガン、そこまで覚悟があるんですね。

僕とジャックで、あらためて、起立し、「イエス・サー!」と返事します。

「じゃ、足の着くところから、立ち泳ぎ。これしっかりできるようになってもらうっす」

「うへえ……」

「俺ら、コレ軽鎧着たままやるんすよ?」

「わかった、わかったよ……」

「あの、私たちはどうしましょう……」

セレアとシルファさんが恐る恐る聞いてきます。

「嬢ちゃんたちは好きに遊んでてください。ベルさんに任せますから」

ベルさんが来ました。

黒いツーピースでしなやかな体をわずかに隠し、腰にひらりとパレオを巻き、素晴らしく美しい脚、くびれたウエスト、ふっくらと尖った形のいい胸の間にできた谷間にしっとりした色気がただよって……。

その圧倒的なオトナ感……。僕たち、なんてガキなんだと、これが「女」なんだと、なんだか見てしまったことを土下座して謝りたくなるほどの色気です。

「……負けた」

あのねえジャック、セレアもシルファさんも、なにより僕らも十三歳なんだからさ。大人の女性と比べちゃだめだよ。僕らには比べる資格も無いよ。身の程をわきまえようよ……。

それにしても僕は、ベルさんの腰のガーターから吊り下げられた柔らかそうなふとももに巻いたベルトに投げナイフが付いているのが気になっちゃうんですけど……。

「……ベルさん、もしかしてその投げナイフ、いつも身に着けてるの?」

「当然です」

「……ベルさんって何者なの?」

「コレット家セレア様付きメイドです」

これ以上聞いたらダメみたいです。

一瞬、ぽかーんとなったシュリーガン。

おまっ、そのぴちぴちパンツの股間、なんとかしろ!

「さ、こんな脳筋バカどもはほっといて、私たちは優雅に水遊びいたしましょ」

キャッキャウフフして水と戯れる女子たちの横で、僕らは男三人、ずーっと立ち泳ぎと、横泳ぎの実戦泳法、やらされました……。

僕らここにこんなことやりに来たの?

ジャックと水に浸かりながら、二人で愚痴ります。

「お前いつもこんなことやってんの?」

「……十歳からずっとだよ」

「王子って、大変なんだな……」

もらった部屋で、二人で夕食にします。

「でも二人、仲よさそうで安心したね」

「はい!」

「セレアがシルファさんの相談に乗ってあげたおかげかな。どんなアドバイスしたの?」

「……内緒ですよ?」

「うん」

セレアがちょっと赤くなって、はずかしそうに言います。

「身分のことなんか、忘れたほうがいいですよって」

「あー、子爵と男爵だもんね」

ジャックが子爵家子息、シルファさんは男爵家令嬢です。ジャックのほうが格上だもんね。

確かゲームの攻略だと、プライド高いオレ様系ジャック。逆に、身分を気にしないでかまってくるヒロインさんにコロッとまいっちゃいます。そうなると、身分差を気にして遠慮してくるシルファさんがつまらなくなり、どんどん関係が悪くなっちゃうんですよね。

「ジャックさんは、普通の女の子として飾らないシルファさんをちゃんと受け入れてくれますよって」

「そうだよね。初めて会った時も、僕らの事、平民だと思ってても友達になってくれたもんね」

二人で笑います。

「シン様はどんなことをジャックさんに言ったんですか?」

えーと、なんて言ったっけ。

「政略結婚か、恋愛結婚かなんて大した問題じゃないって。大事なのは出会ってからってこと。彼女のこと、大事にして、好きになろうよって」

セレア、真っ赤になって、顔に手のひらをくっつけます。

「……嬉しいです」

僕も赤くなっちゃいます。まんま僕らのことですもんね。

寝る前に、セレアのベッドに跪きます。

「おやすみのキスしていい?」

ちょっと身を乗り出して、しちゃいました。