軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.御前会議

いよいよ御前会議です。

僕、最後ですね。会議室前のソファで、セレアが隣で僕の手を握って、はげましてくれます。

「殿下、お時間です」

官吏から声がかかって、いよいよ僕の番。スケッチブックを持って立ち上がります。

「シン様、がんばって!」

「まかせて!」

そうは言っても本当はいっぱい緊張しています。

大きな扉が開いて、御前会議室に入ります。大きな机の正面に父上、国王陛下がいます。並んで左右の椅子に座っているのは各大臣。公爵家などの上級貴族の重鎮も。

みんな、驚いていますね。父上は真顔で、厳しく僕をにらんでいますが。

「本日はお話を聞いていただく機会をいただきましてありがとうございます。サラン姫殿下の後を継いで、病院、孤児院の監督をさせていただいているシンと申します。どうかよろしくお願いします」

頭を下げて礼を取ります。

「顔を上げよ」

陛下の許しをもらって頭を上げます。

「今日はどのような用向きか」

「病院の衛生管理について、有益な手法の確立と、それに必要な物資の生産をご提案いたしたく」

「許す。はじめよ」

「はい。えー、みなさんは、戦場でケガをしたら、強いお酒を傷口にかければ治りがよくなる、という話を聞いたことがありますか?」

消毒による効果、それはお酒のアルコール分によるものであると。

病院で実験をしたところ、効果があり、半分以上のケガなどの術後の経過を見るに、症状の悪化等が防ぐことができたこと。病院だけでなく、孤児院でも調理を行う現場でこれらの消毒作業を行うことで食中毒の発生など防ぐことができること。お酒でやるのは効率が悪く、高価でもあり、安く作れる高純度のアルコールが必要なこと。

高純度のアルコールは蒸留のお酒を造るのと同じ工程で作れること。飲むことを目的としていないので、安い作物、商品にならないクズ野菜や果物、砂糖大根の搾りかすなどからも作れ、資源の再利用にもなること。

既存の酒造設備で製造が可能なこと。これを事業化し、大量に生産して国民の衛生状態を向上させることができること。医療薬剤として確立されれば、将来はわが国の輸出産業に成長させることも可能なことなどを大きなスケッチブックをめくりながら説明します。

セレアや僕がクレヨンで描いた、ちょっとヘタだったり上手だったりする絵や、少し怪しいグラフだったりして途中で笑われたりもしましたけど、

「医療にアルコールか……。いやはや、たいしたものですな」

「独力でよくそこまでまとめられました。お見事です」

「とても十一歳の見識とは思えぬ……。いや失礼、それは本当なのですかな?」

「高純度のアルコールで効果があるかはさらなる研究が必要になると思います。今すぐにやるんだというわけではないんです。ただ、王室で動かせる以上の資金が必要になりますので、あるていど先行投資を認めていただけないか。さらなる効果が認められれば、この先の投資にめどがつくと思いまして」

「それらは厚生大臣である私の管轄だが、作物の調達は農政大臣、酒造については産業大臣の管轄となるが」

「しょうちしています。なので、ぜひお三方のご協力が得られればと思います。国民の命を救い、ケガの治療をより良きものにし、病気の予防にも必ずや役に立ちます」

「シン」

「はい」

陛下が厳しく僕を見ます。

「うまく行けば大臣の手柄、失敗すれば王子の失政、それでも良いと申すのだな?」

「はい。そこは大事ではないのです。大切なのは国民の健康と命ですから」

「……陛下、どれだけ我々のことをタヌキと思っておいでですかな? いくらなんでも十一歳の子供の手柄を横取りしたりはいたしませぬよ」

厚生大臣がそう言うとみんな大笑いしますね。場がなごやかになりました。

「純度の高いアルコールが出回ると、それを酒に混ぜて売る不届き者が必ず現れます。法整備もあらかじめやっておかねばなりませんな」

法務大臣もうんうんとうなずきます。

「医療用のアルコールであって、酒ではない。酒税も見直すことになりますな。これを課税するわけにはいかんでしょう。対象外とできるかね、財務よ」

「そりゃあやりますが、投資でカネは出ていくのに税収にはならないんですからねえ。まいっちゃいますねえ」

文句言いながらも顔は笑顔です、財務大臣。

「ケチ臭いことを言うな。ケガが早く治り病気も防げれば医療費が削減でき、国民の寿命も、人口も増えるというもの。十分元は取れるであろう?」

「わかってますって、早く事業化して、諸外国に輸出できるようにしてくださいよ? 頼みますよ?」

いやあ結局ほとんど全部の大臣さんが関わることになっちゃうんですね。僕、そこまで考えていませんでした。やっぱりみんなすごいです。父上が僕をこの場に呼んだ意味がわかったような気がします。

「では反対はいないのだな?」

「できるわけないでしょう陛下……ズルいですよ。王子を使うなんて」

「違うな。使われているのは余だ。文句があるならシンに言え」

みんな大爆笑します。

あー、よかった! うまくいきそうです。

「シン、大儀であった。下がってよい。あとは大人に任せよ。お前はもう少し子供らしくしておれ。まったく……」

「はい、ありがとうございました」

陛下、自分でやれと言っておいて、僕が無理やりねじ込んだみたいに言うんですよね。政治的なポーズというやつでしょうか。ありがたくそういうことにしておきます。

「そのスケッチブックは置いていけ」

「はい。では失礼します」

御前会議室の扉を開けてもらって部屋を出ると、セレアがいました。

「セレアー! やったよ! 君のおかげだ、ありがとね!」

セレアを抱き上げて、グルグル回しちゃいます。

「し、シン様!」

後ろから笑い声が聞こえてきました。

……あ。

会議室の扉、開いたままでした。

後日、午後のお茶をしていると、ベルさんが来て、報告をしてくれます。

「ハンス商会は……今や事業を統合してレストランから商会になっておりますが、ブローバー男爵の全面的なバックアップもあって、市内に支店を三店に増やし、順調に事業の拡大をしていますね」

「やるなあ……」

フライドチキンのお店ですね。ヒロインさんも着実に成果を上げているようです。チキンをパンにはさんだ「チキンバーガー」っていう新商品も増えました。人気です。

「来週から新店舗がオープンします。チキンのお店じゃないんですが」

「今度はなんのお店?」

「詳細は分かりませんが、これが驚きなのですが、早朝七時から深夜十一時まで営業の店になるそうです」

「深夜まで! そんな時間まで営業するの?」

「はい」

……そんなお店需要があるんでしょうか?

市民の生活スタイルを変えかねません。凄い発想ですね!

「実験的な営業になるとは思います。市民にすぐに受け入れられるようになるとは思いませんが」

「……いえ、それ絶対に流行ります、きっと」

セレアも驚きながらも、同意していますね。

ベルさんが席を外してから教えてくれます。

「それ、コンビニっていうんです」

「コンビニってなに?」

「コンビニエンスストアっていいまして、『便利なお店』って意味になりますか」

「早朝から深夜まで開いてりゃそりゃ便利だろうけど、どういう商品を扱うの?」

「なんでも置いてあります。大量にではなく、少量ずつなんですけど、日用雑貨から食料品まで」

「そんなのそれぞれ、すでにお店があるでしょ」

「いろんなお店を回らなくても、その一店だけ行けばいいのでお客さんは楽になりますよ。せっけん、歯ブラシ、タオル、筆記具や紙のような文房具、お菓子、飲み物、調味料、お酒、お弁当……。なんでもあります」

「そんなたくさんの商品、一つの店に少しだけしか置けないでしょう」

「だからどの商品も専門店みたいに、選べるほど大量にいろんな種類を置いてあるんじゃなくて、どれも数種類の商品を売れ筋だけ選んで置いてあります。それにちょっとだけ高めです」

「そんなの売れるかなあ?」

便利だからって、高くても買うってお客さんがいますかね?

「私の世界では、大流行りしまして、街じゅうコンビニだらけになりました。周りの小売店や商店街を次々廃業に追い込むほど」

「それは……怖いね」

そんなお店、いろいろ問題があるような気がします。

それまでの小売り業が廃業に追い込まれる? 同等のサービスを提供できるでしょうか? 猛烈な競争を呼ぶことになりませんかそれ。しかも売れ筋しか置かない。儲けられる人がとても絞られてしまうことになります。既存の小売業、商店からしたら悪魔のようなお店ですね。

「それも、ハンス商会の娘、リンスのアイデアってことになるのかな……」

「間違いないです。もし『コンビニ』って呼ぶようになったら、それ私のいた国の言葉です」

ヒロイン、「前世知識」ってやつを使って着実に実績を重ねていることになります。無視できない勢力になりかねません。いや、そうなるつもり満々なんでしょうが。

ハンス商会、これからも監視を怠らないようにしなければなりませんね。

「来週、デートがてら、またようす見にいこうか」

「……私ちょっと、怖いかな」

前回ヒロインさんを実際にこの目で見て、僕ら倒れそうになりましたもんね。トラウマにもなりますか……。

僕としては、セレアと結婚しちゃったんだから、もうヒロイン見たって大丈夫だってのを確認する目的もあるんですが、ちょっと冒険になるかな。

「それに来週は、また孤児院で紙芝居やる約束、子供たちとしてますし」

「今度はどんなのやるの?」

一応聞いておかないとね。セレアの考えるお話は、僕らの世界だとちょっと異端になりかねませんから。

「『はやぶさくんのおつかい』が好評だったので、次は『月世界旅行』なんてどうかなーて思って」

「それなら面白そうだね。夢いっぱいって感じするし。どんなお話?」

「アメリカのケープケネディから、乗員三名を乗せてサターン5型ロケットで打ち上げられたアポロ11号は、まず地球周回軌道に乗ってから着陸船イーグルとドッキングして月を目指し……」

ごめん、何言ってんのか一言もわからない。