軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.国王誕生日

「二週間後に国王の誕生日会があります」

「了解! 任せといて!」

ダンスの先生がにんまり笑います。

僕たちが結婚してから三か月がたちました。もうすっかり息の合ったダンスパートナーです。

誕生日会に備えて、僕は燕尾服っぽい練習着。セレアのスカートも裾がふんわりと広がったやつです。

今日からダンスレッスンにピアニストさんが来て演奏してくれます。

先生の手拍子から、オルゴールで練習するようになっていたんですけど、国王の誕生日パーティーとなれば一曲長々と、楽団の生演奏でダンス曲をやるわけで、それはピアニストさんに弾いてもらわないと再現できません。

ピアニストさんなら途中で止めたり、途中から始めたり自由自在ですから。

ピアニストさんに一曲通して弾いてもらって、まず曲を覚えます。

先生がそれに合わせて、説明を入れながらシャドーダンシングしてみせてくれます。

「いい? あなたたちはまだ十歳の子供。大人顔負けのダンスを踊る必要は無いわ。子供らしく、元気よくはつらつと、笑顔で楽しそうに場を和ませるために踊るの。大人が期待する理想の子供像を演じるのよ」

「はい」

「早い時間に子供たちのダンスタイムがあって、あんたたち子供が退場し、おねんねしてからが本番の大人たちの丁々発止の腹の探り合い、キツネとタヌキの化かし合い、恋のさや当てがはじまる。それが社交界。あんたたちは余興なのよ。それをよく理解して。あとで踊る大人たちが恥ずかしいような思いをするほど凄いダンスはしなくていいの。いいわね」

「りょうかいです」

「将来は王位継承して国王、王妃になるんだからバカそうに見えてもダメ。利発だけど分別を心得てるふうにちゃんと見えるようにしましょうね」

さすがは先生です……。なんでもよくわかってます。

二流ぐらいの先生なら王室御用達のダンス教師として名を売るために、僕らに難しいダンスをやらせて、会場の度肝を抜こうなんて言いそうなもんですが、さすがです。

「これは昔、シャム国の王様が、外国人の家庭教師相手に踊ったダンスなのよ」

向かい合って両手をつなぎ、いちにっさん! いちにっさん!

あはははは! パワフルですね!

三拍の間にちょっとタメて四拍子です。サイドスキップしてぐるぐるぐる。

「元気よく! 飛ぶように! セレアちゃんのスカートが浮いてステップが見えるぐらい!」

「下着みえちゃったらどうすんの!」

「子供がそんなこと気にしない! さ、ぐるぐるぐるぐる、会場いっぱいに使って! 回って、回って、回りまくるの!」

向かい合ってつないだ手を引っ張り合うように、セレアをグルグル振り回すみたいに!

「きゃあ! ああん! あはははは!」

「そう! セレアちゃん、その笑顔よ!」

二人で一緒に踊ることが、楽しくて楽しくてしょうがない。僕たちは演技じゃなくて、本当にそう思って踊ってるんですよね、今!

「シンちゃん、セレアちゃん。つつましいレディが、元気良すぎる王子様に振り回されて、びっくりして、でも楽しくて、嬉しくてしょうがない。こんなダンス踊ったの初めて。そんなダンスにしてね」

「はい!」

「会場のタヌキ親父や女ギツネが、この子たちが今、ダンスを踊って、初めて恋に落ちた。そんな胸キュンな場面に立ち会えてホンワカした気持ちになれるように、ね!」

「僕たちもう婚約してるんですが……」

「恋愛と結婚は別。寂しいけど、それが貴族。国中のタヌキ親父と女ギツネが、あなたたちが利用できる駒になるか、つけいるスキはあるかを見ているわ。大切なのはあなたたちが名ばかりの婚約者という立場を超えて、本当に愛し合っていて、恋をしているって見せること。誰もあなたたちの心を奪えないってわからせること。あなたたち、それが目的なんでしょ?」

……先生は本当にすごいですね。全部お見通しなんですね。

びっくりした顔をする僕らを見て先生が笑います。

「あたしが何年ダンスの先生をやってると思うのよ。それぐらいわかるわよ。あんたたち必死過ぎるのよ。子供なんてみんなダンス大っ嫌いなのが普通なんだから、こんな真剣にダンスに取り組む子供なんて見たこと無いわ」

「……そんなふうにみえていましたか僕ら」

「ダンスは口ほどにモノを言う。アタシの目はごまかせないわよ。そんなおませさんなあんたたちに必要なのは、もう一度、ダンスを心から楽しんでもらうこと」

そういってウインクします。ちょっと不気味です。

「会場いっぱい使って踊るから、他の人にぶつからないようにね。フロアクラフトよ。縦横無尽に人の間をすり抜けながら跳んでみせて。さ、ちょっと難しくなるわよ?」

ダンスホールに椅子とかテーブルとかバラバラに並べて、その間を抜けるように、今のダンス、練習しました。

国王陛下と、王妃が入場され、大臣始め多くの方がお祝い申し上げてから、晩餐会です。食後、ダンスホールに移動して、改めて子息子女も交えてお酒も出て立食会。僕らも燕尾服にドレスで、セレアをエスコートして目立たぬように入場します。それなのにたちまちいろんな方から挨拶され、挨拶を返し、一瞬も気を抜けません。

「ご婚約、おめでとうございます殿下。セレア様も」

「ありがとうございます」

緊張して硬くなってる感じになっちゃうかな。堅苦しい形ばかりのあいさつですのであんまりお気楽にできません。セレアも笑顔が硬いです。

子供は子供同士、親につれられてきた、たくさんの子供たちとも挨拶をかわします。

「おなかすいちゃったよ」

「どの料理もおいしそうですもんね。でもあんまり食べちゃダメですよ?」

「わかってるって、あとで部屋に運んでもらおう。はい炭酸水」

「げっぷがでちゃいますって」

僕はずーっとセレアの隣にいます。移動する時はちゃんとセレアの手を取って。

女性はエスコート無しではなんにもできない赤ちゃんみたいなもの。そう思ってやること。レディファーストとかも全部、「女性は子供と同じく男が保護すべきもの」という考えです。古臭い考えのように見えてもこれができることが 公(おおやけ) の場での紳士の条件となります。紳士道、キビシーですね。

会場の曲が変わって、ダンスタイムです。

ずっと隣にいたくせに、わざわざ距離を取ってからあらためて、胸に手を当て頭を下げ、セレアにダンスを申し込みます。

その僕の手を取ってセレアが微笑みます。

僕もにっこり、笑い返してから、他の子供たちに混ざって、ホールの中央へ。

楽しそうな音楽がリズムよく始まり、僕はセレアの両手を取って、右に、左にステップします。

いちにっさん、いちにっさん、いちにっさん、さあ、いくよ!

スキップスキップスキップ! 二人でぐるぐる回ります!

「きゃあ! あはは!」

メリーゴーランドみたいです!

お上品に踊ってる年上の子供たちの間をぐるんぐるんと飛びぬけます!

「おお」

「いや、元気ですな、王子様」

見守る大人たちが笑顔になります。

「いいですな、楽しそうで」

「ほんとですわね」

当然です。僕ら、楽しいんですから!

「あらあらあら……」

母上が扇で口を覆います。

「はっはっは、良いではないか! やるものだわ」

父上はご満悦ですね。

曲が転調して、あらためて左手でセレアの右手を取ります。手は上に。

そっと歩み寄るセレアの背中に手を当てて、子供ダンスから大人ダンスに切り替えます。たっぷり練習した基本のステップ。

「ふふっ」

「あははは!」

二人で笑っちゃいますね。特別変わったことはしないで普通に踊ります。

ターンしてえー、ゆっくり泳ぐ魚のようにいー、ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー。

で、ここでえー!

つぃーつぃーつぃーつぃーっ!

ムーンウォーク!

会場の何人かは気が付いたかもしれません。

ちょっとびっくりしています。

知らん顔して踊り続けます。

見間違えたか? たまたまそう見えただけか?

そんな感じですね。

くるくるくるくるって、セレアを回して、曲が終わりました。

手を広げて頭を下げ、セレアもスカートをつまんで会場の紳士淑女に挨拶します。

国王陛下にお休みの挨拶をいただいて、子供たちはこれで退場です。

僕らも王族の控室に戻ります。

「うまくいったかなあ」

「良かったと思いますよ」

セレアもほっとしてます。メイドさんに頼んで、ちょっとした夜食程度に。料理をこっちにも運んでもらいます。

「ムーンウォーク、誰か気が付いたかな?」

「あはは! そりゃ無理だと思います!」

だよねー。

僕はともかく、セレアのそのスカートだと、足、見えないもんね。

メイドさんに会場の様子を聞いたら、パーティーの評判は上々で、仲のよさそうな僕たちを見て上流社会の皆さんは、「あの二人なら何も心配ないだろう」ということになったようです。

「とってもなかよしで、お似合いの二人だとみなさんお褒めになっていらっしゃいましたわ」

メイドさんも、ニコニコして仕事に戻っていきます。

ああよかった。急にお腹すいちゃった。

お皿の料理、もりもり食べます。

「シン様、お口が……」

セレアがナプキンで口を拭いてくれます。

「セレア」

「はい」

「キスしていい?」

そっと抱き寄せて、しちゃいました。