軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.誓い

「セレア」

「……」

「結婚しよう」

「!」

「君に永遠の愛を誓う。真実の愛を」

「シン様は、そう言って、あの子の元に行ってしまうんです。『僕は真実の愛を見つけた』って言って、私を捨ててしまうんです」

「あ――――! もう、そうじゃなくて!」

ゲームの中の僕ひどいなおい!

いや、僕は今ここで、ゲームの僕に勝たなくてはいけません。

もう決めました。後悔なんてしません。

「着替えて」

「え」

「外出するよ。平民の服でいい。教会に行こう」

「教会って……、こんな時間に……」

「いいから!」

ネグリジェのセレアを脱がせて、下着だけになったセレアに、クローゼットから平民に見える服を何枚か合わせて、「着て」って頼みます。

とまどいながら準備するセレア。靴も履かせて、月明かりのベランダに立ちます。

「僕が先に降りる。ついてきて」

ロープを握って、手袋をして滑り降ります。

それから、手袋をベランダに投げ上げて、セレアにもはめてもらいます。

ゆっくりセレアが降りてきました。

途中で手が滑って落ちるセレアを受け止めます。

二人一緒に転んじゃった。かっこわる、僕。

「いたたたた……」

「ごめんなさい、大丈夫ですか?!」

「あ、忘れてた! 指輪持ってる?」

「大丈夫です。いつも身に着けてます」

そう言ってセレアが胸元からネックレスにした指輪を引っ張り出します。

「よかった。じゃ、行くよ」

セレアの手を引いて、暗い月夜の庭を駆け、生垣の隙間をくぐります。

用心して、こっそり街を走り抜け、教会まできました。

「こんな夜遅くきてもしまってるんじゃ」

「『教会の門はいつでも開かれています』って神父様がいってたし」

とにかく、教会の柵を登って、上から手を伸ばします。

せのびしてつかまったセレアを引っ張り上げて、柵から飛び降ります。

よかった。教会の扉、ほんとにカギがかかっていませんでした。

そもそもカギがないんですよね。そういう教えですから。そのかわり教会の周りの柵はしっかり閉まっていましたけど。

きいいぃ……。ぱたん。

扉を開けて入ると、聖堂です。正面に祭壇が見えます。

暗い中、ステンドグラスを通った月明かりに照らされて、ほのかに明るくなっています。祭壇には一本だけ、ロウソクが灯されています。

「セレア」

左ひじを突き出します。セレアがそれに手をからませて、寄りそってくれます。

誰もいない、暗いヴァージンロードを、二人で歩いてゆきます。

祭壇には女神ラナテス様の像。

祭壇の前に二人、両ひざをついて座り、頭を下げます。

「女神ラナテス様、真夜中の推参、眠りを妨げた非礼、お許しください。今夜、僕たち幼き夫婦の婚姻の誓い、どうぞお聞きとどけいただければさいわいに存じます。どうぞあわれと思って、愛しあう僕たちをお守りください」

セレアの体に手を添えて、こっちを向かせます。

ハンカチーフを取り出して、セレアの頭にかぶせます。

「僕の言うことをくりかえして」

「はい」

「汝、シン・ミッドランドは、この者、セレア・コレットを妻とし」

「なんじ、シン・ミッドランドは、このもの、セレア・コレットをつまとし」

「病めるときも、健やかなるときも、貧しきときも、富めるときも」

「やめるときも、すこやかなるときも、まずしきときも、とめるときも」

「この者を愛し、慈しみ、死が二人を分かつまで」

「このものを愛し、いつくしみ、死が二人を分かつまで」

「変わらぬ愛を、女神ラナテス様に、誓うか」

「変わらぬ愛を、女神ラナテス様に、誓うか」

そっと人差し指を、セレアの口に当てて。

「はい、誓います」

そして彼女の手を取って、僕の額に当て、頭を下げます。

「汝、セレア・コレットは、この者、シン・ミッドランドを夫とし」

「……」

「病めるときも、健やかなる時も、貧しき時も、富めるときも、この者を愛し、いつくしみ、死が二人を分かつまで」

セレアの瞳からぽろっと涙がこぼれます。

「変わらぬ愛を、女神ラナテス様に、誓うか」

「はい、誓います」

「指輪」

セレアが僕にネックレスにした指輪を渡してくれます。

僕も、自分の首にかけてたネックレスの指輪を渡します。

そのまま、その指輪をセレアの指に通します。まだぶかぶかですけど。

セレアに左手を出して、僕の指輪もはめてもらいました。こっちもぶかぶかです。無くしちゃうといけないので、また二人で首にかけました。なんかしまらないや。しょうがないけど。

セレアの頭にかぶせたハンカチーフを持ち上げます。

「キスさせて」

セレアが目をつぶって、顔を前に出します。

そっと、顔を近づけて、ぷちゅって、キスします。

初めてセレアとキスしました。

ずっと、僕はこうして、セレアとキスしたかったのかもしれません。

やっとできた。すごくうれしいです。

手を取って立たせます。

「あのさ」

「はい」

「その、もう一回、キスしていい?」

セレアが僕の首に手を回して、抱き着いてきました。

セレアを抱き上げて、キスします。

一回だけじゃなくて、何回も。

ずーっとくっつけたままにして。

ちょっとしょっぱい、セレアの涙の味がします。

なんか嬉しくて、抱き上げたまま、くるくる回しちゃいます。

「これでもう大丈夫だよ!」

「大丈夫?」

「うん。ほら、婚約ってのは、約束でしょ?」

「はい」

「婚約はね、破ることができる。家と家、僕とセレアの約束だから。でもね、結婚ってのは誓いなんだ。女神様に誓ったんだから、もうこれは真実なんだ! 強制力なんてやつから、きっと僕らを守ってくれる!」

「はい!」

「誰かいるのですか?」

びっくりして祭壇の横を見ます。

ゆらり、燭台のロウソクの火を灯して、神父様が立っていらっしゃいました。

「……夜分失礼いたします」

「子供……? こんな夜中に、いったい……」

神父様が近づいてきて、僕らの顔を照らします。

「王子様ではないですか……。いや、驚きました。こんな夜中に何用です?」

「結婚式を挙げてました」

「結婚式とな」

神父様もびっくりですね。

「いやいやいや……いくらなんでも。王子様はたしか十歳かそこらではありませんでしたか?」

「十歳です」

「そちらのお嬢さんは……確か、昼間の?」

「僕の婚約者……、妻のセレア・ミッドランドです」

「コレット公爵様のご息女でしたな。婚約したという話はうかがっておりましたが、なにもこのような場で、このような時間に婚姻を結ばなくとも」

「もう女神様に、婚姻の誓いを立ててしまいました。僕たちは結婚したんです」

ふう――。神父様があきれて首を横に振りますね。

「婚姻は成人になってから。十六歳になるまで受け付けておりませぬ」

「それは単なる教会の慣例です。この国には、結婚は何歳からという法は無く、聖書にも記載されていません」

それは調べました。間違いないです。

「お父様……国王陛下の許可も無しではありませんか?」

「婚約は結婚してもいいという両家の許可です。いつ結婚するかは僕らが決めていいんです。婚姻帳に記帳させてください」

「いけません。そもそも結婚には証人が必要です。それがなければ認めることはできません」

「女神様に誓ってもですか」

「誓いは誰にでもできます。公式な記録になり得ないということです」

「だったらその証人、俺がなってやるよ」

腰が抜けそうなぐらいびっくりしました!

どかどかと祭壇前に歩いてくる男、ロウソクの光に照らされてその物凄く怖い顔が近い近い近い! 悪魔か魔物か幽霊かってその顔に神父さんが悲鳴を上げます!

「ひいいいいい!」

「ラステール王国近衛騎士、シュリーガン・ダクソンと申します。殿下、この度のご結婚、心よりお祝い申し上げます。 不躾(ぶしつけ) ながら、近衛騎士たる 拙者(せっしゃ) でよろしければ、このご結婚の証人として記帳させていただきましょう」

「シュリーガン、いつからいたの!?」

「殿下が城を出たあたりから」

うあああああああああああ。

「なんでわかったの!」

「そりゃ内緒ですって。種明かししたら殿下、俺を次から全力で回避しようとするでしょ。俺の護衛から逃れられると思わないほうがいいっすよ」

「護衛じゃないよね! それもう監視だよね!」

「どっちだってやってるこたぁ同じです」

あーあーあーあー。全部バレちゃったよ……。

「証人は二人必要なんですが」

神父様空気読んで。

「もう一人は、私が記帳いたします」

……もう許して。

メイド服姿のベルさんがとんとんとんと、こっちに向かって歩いてきます。

「コレット家、セレア様付きメイド、ベルと申します」

そう言って優雅にお辞儀をします。

「……ベルさん、こんな夜中に外出して、大丈夫なんですか?」

「そりゃあお嬢様が外出なさるのですから、随行いたしますわ」

「ベルさんいつ寝てるの」

「私は寝ません」

それ絶対ウソですよね。完全に脅しにかかってますよね。お嬢様を締め上げるネタにしようとしてますよね。

「近衛騎士の俺がずっとここまで護衛して来たんすから、別に問題ないでしょ」

お前ほんとベルさん好きだな! 僕より優先してるでしょあきらかに!

「さ、神父さん、婚姻帳出してもらいましょうか」

「う、ううう。はい、どうぞ」

シュリーガンの怖い顔でにらまれて、神父さんがぶあつい婚姻の記帳書を出してくれます。

多くの市民のみなさんの婚姻届けのリストの下に、まず僕から。

次にセレアに名前を書いてもらいます。

同じ欄に証人のシュリーガンとベルさんが名前を書いてくれます。

「王家の婚姻が、こんな教会の婚姻記帳書に市民と並んで一行だけって……」

「記帳は記帳でしょう神父さん。こんなんでも後からもめごとになりゃあ、この坊ちゃん嬢ちゃんがすでに結婚してるって証拠に十分なるんでしょ?」

神父様があきらめたようにうなずきますね。

「女神様への誓いですからな、何者もこれを否定することはもうできませんな」

「だってさ。殿下、おめでとうございます」

「おめでとうございます」

シュリーガンとベルさんが僕らに頭を下げます。

なんかあっさりしすぎです。この二人、案外お似合いなのかもしれません。

「じゃ、帰りましょっか」

「はい」

いや、二人ともほんっと動じないな。この事態に。

まるで用事はすんだと言わんばかりです。

「お待ちなさい!」

「?」

神父さんの声に、みんなで足を止めます。

「登録料、金貨二枚!」

……ようしゃないですね。神父様。