軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その褒め言葉は素直に喜んでよいものか……

カードを捲ろうとする白く細い指をそっと押さえた。

訝し気に 此方(こちら) を見る紫に赤が混じった色合いの瞳に、黄金の瞳が映り込む。

最後の一枚は、捲られないまま。

「時間です」

そう告げた瞬間、砂時計の砂が落ちきった。

ジュリア嬢の手を放すのと「次の方どうぞー!」と小部屋から呼び出しの声がかかるのは同時だった。消化不良気味の外野を残し、ジュリア嬢に礼をいって立ち上がる。

正直、占いの最後の結果が気にならないわけじゃない。

だがこれ以上妙な核心をつかれて外野に騒がれるのも面倒だ。

手渡された衣装を持って、カーテンで仕切られた空間へと足を進めた。

落ちきった砂を眺め、去りゆく背中を追う。

最後の一枚、捲られなかったカードを捲りその図柄を眺めた。

「……」

ジュリアはカードを口元へ当て、無言でなにかを考え込んだあとカードの山を集めはじめた。混ぜ合わせ、まとめ、束をつくる。

引き抜いた一枚を除いて……。

「次の方どうぞ」

そして次の客を迎え砂時計をひっくり返した。

「よ、よろしくお願いしますっ!!」

緊張しきった顔で頭を下げるのはマリア嬢。頭には猫耳、そして縞柄の長い尻尾。横でマリア嬢に声援を飛ばすダイアナ嬢は狐耳にふさふさの尻尾をしていた。

「こちらこそよろしく。二人とも良くお似合いですね」

ぽっと赤くなる彼女たちは可愛いけれど、そんなに緊張しまくって大丈夫なのかと思わないでもない。

着替えが終わり、次はメイクとヘアセット。

メイクやヘアセットは技術もいるからか手先の器用な生徒たちが専門で担当しているらしい。俺の担当はいつも女子力の高い髪型をしてるマリア嬢だ。

ただ、今は緊張の為か手がぷるぷるしてるけど……。

「出来ました!!」

額の汗を拭うマリア嬢の表情は達成感に満ちていた。もはや偉業を成し遂げた感すらある。

「あとはこれを……」

ダイアナ嬢に手渡された深紅の薔薇を胸に着け、感嘆の声を上げられた俺は、彼女たちに促されカーテンの向こうへ足を踏み出した。

「きゃぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」

『きゃあぁーーーーーーーーー!!!!』

入学式の悪夢再び……。

やっべぇ、久々に鼓膜と頭にキーンってきたわ。

「すっっごい、恰好いいっ!!」

「神!?違った、髪下ろしてるしっ!!色気が、色気が……!」

「むしろ襲われたいっ!!」

うむ、大絶賛のようである。

「お兄様っ!!すっごく恰好いいです!!本物みたいっ!!」

「お似合いです」

頬を染めて褒めてくれるのは有り難いけど、本物みたいってどう受け取ればいいかな?

俺の仮装、ズバリテーマはヴァンパイア・ロードである。

ヴァンパイアの上位種、美形で高貴で退廃的なイメージのあるヴァンパイアの中でも、選ばれし存在ヴァンパイアの王・ヴァンパイアロード。

そう衣装選んでくれた子が熱弁してた。

服装は……ぶっちゃけいつもとさほど大差はない……。

白のフリルシャツにグレーのベスト、漆黒の上下。首元には臙脂色のリボンに胸元には深紅の薔薇。襟の大きな漆黒のマント……と、全体の系統としては仮装感も少ないので、抵抗感も薄くて助かる。そしてもはや安定の黒仕様。

元々色白で唇が紅いから 殆(ほとん) どなにも要らないですね、と化粧は薄っすらと白粉をはたき紅をされた程度だ。

長い髪は解いて背におろし、口元には長い牙も着用。……うっかり唇を噛まないよう気をつけよう。

「とてもお似合いです」

同じく仮装させられたリフから声を掛けられた。

彼が仮装させられた原因は俺だが…………。

そんなリフもヴァンパイアだ。

だけど同じヴァンパイアでもちょっと地味な感じです。

リフは俺の眷属らしく、シンプルな白のシャツに黒の上下。いくつかボタンの外された首元のタトゥーのようなものが眷属の証だそうだ。……設定意外と細かいな。

メイクも施され、顔色はいつもより白く、そして 隈(クマ) も少し。

顔を眺める俺の視線に気づいたのか、リフが苦笑いを浮かべた。

「ベアトリクス様に「ヴァンパイアっぽくない」と言われてしまいまして……」

「だってリフは似合ってるけど、ヴァンパイア感があまり出ないんですもの。それで雰囲気を出す為に顔色を悪くして 隈(クマ) を付け加えてみましたの。お兄様は雰囲気ぴったりですけど!!」

うん、リフは優しくて穏やかな顔してるもんね。

妹のメイドにガチで魔族と勘違いされてるお兄ちゃんと違って、魔族っぽさ皆無だもんね。

全力で褒めてくれているのはわかるけど、妹よ……お兄ちゃんはどんな反応したらいいかわからないよ?

若干(じゃっかん) のモヤモヤを残し、交代で休憩となったベアトリクスとカトリーナ嬢と共に、マリア嬢たちに見送られつつ教室を出た。

可愛い兎さんと小栗鼠さんに視線が集まる集まる。

俺らにも集まってるのは知ってるが、それは別にどうでもいい。男子生徒を密かに牽制しつつ歩いていると……。

「あっーーーー!!!」

ワンコ、もといメラルドが元気に走り寄ってきた。

今日は高等部の生徒以外にも学園は解放されてるし、メラルドが居るのは別にいい。普段でもしょっちゅう入り込んでるけど……。

それはそれとして、突進してきたメラルドをまじまじと見下ろす。特に頭とお尻を。

「魔王様だっ!!本物みたいですねー!!」

『魔王様、魔王様だー』

って、オイっっ!!!

心の声とセットで無邪気に間違えてるんじゃねーわ!誰が魔王だ!!

「メラルド様、それは王は王でもヴァンパイア・ロードですのよ」

「えー、魔王様じゃないんですか?あ、牙がある。でも魔王にも牙ある??んー、どっちでもいいや。とにかく王様なんですよね。わぁ!ベアトリクス様たちも可愛いですねっ!オレもさっきベアトリクス様たちのクラス行ったんですよ」

発言が自由なメラルド少年。

そんな彼の恰好は……私服っぽさのあるラフな服に、クリーム色に近い大きな耳ともふもふの尻尾。そして赤い首輪。

「ワンコです!!似合いますか?」

全員頷いた。

似合う、めっちゃ似合う。

むしろ似合うっていうか、逆に違和感が仕事してない。キミ普段も時々犬耳と尻尾見えるしね。

「あ、コレあげます」

手にした大荷物の中から焼き菓子をくれるメラルドに「随分買われましたのね」とベアトリクスが驚けば、きょとんとしつつ「一つも買ってないですよ?全部貰いました、高等部の人たちって優しいですよね」とにこにこと告げる仔犬強い。色んな意味で。

「そういえば、カイザー様は午後からの模擬戦出ますか?」

「出ないよ、メラルドは出るんだろう?」

この反応から絶対出るんだろうなと問いかければ、大きく頷いてから「出ましょうよー」と袖を引っ張られる。駄々っ子か。

「アレクサンドラ様と闘う予定です。魔術とか初めてですごく楽しみです」

「あら?でも模擬戦は出場者が決まっているわけじゃないですわよね?」

首を傾げるカトリーナ嬢に、にぱぁ!とした笑顔でメラルドが答える。

「リリー様が頼んでくれるんです!リリー様からアレクサンドラ様がすごく強かったって聞いて、いいなー!って言ってたら、模擬戦に出てくれるよう頼んでくれるって!!」

ご機嫌で答えるメラルドに成程、と思う。

ジストの登場条件だと思われる魔術の気配。

設定を知ってるリリー嬢は、メラルドとアレクサンドラを模擬戦で対戦させることでアレクサンドラの出場を確実にしたのか。女性に頼まれればアレクサンドラは断らないだろう。

「見に来て下さいねー!」

ぶんぶんと手を振りながら友達の元へと去って行くワンコを見送った。