軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四次元ポケット疑惑……

職員会議なう。

学年主任の説明を聞くふりをしつつ、頭の中では過去へと記憶を馳せる。

否、過去といえば過去だが、ある意味未来か。

ホワイトボードにはでかでかと“校外学習”・“合宿”の文字が書かれていた。

新入生が入学して早一か月半。

高等部にも慣れはじめたところで行われる、同級生、上級生との絆を深めるために行われる各学年混合でグループをつくった合宿である。ちなみに二泊三日。

サフィア以外の攻略対象者がヒロインとは学年が違うということもあって、こういった行事は乙女ゲームのイベントには欠かせない。尚、合宿が一息つけばその後すぐに新入生歓迎の意味も込めたダンスパーティーも迫っている。

「森では野生の獣や魔獣と遭遇する可能性もあることから……」

学年主任の声を聞きながらゲームのシナリオを思い出す。

そう、合宿の最中に魔獣の群れと遭遇するのだ。

よりにもよって高貴な身分の生徒たちをそんな危険なところに連れて行くなよと思いもするが、この世界では魔獣の脅威はそれなりに身近であるので仕方ないのかもしれない。騎士だの異能だの戦闘能力もあるしな。

あと恋愛イベントを進めるために、ピンチはつきものといったら身も蓋もないが……。

当然、それなりの安全対策は取られている。護衛も居れば、森に出現する獣や魔獣とて大した脅威のものは存在しない。

但し、 例(・) 年(・) で(・) あ(・) れ(・) ば(・) 、だ。

毎年合宿の行われてる森、普段なら生徒や護衛で危険なく対処出来る程度のそれらしか居ない森で今年はなぜか魔獣の大量発生が起こるのだ。

さらにはヒロインを狙った犯罪集団まで現れる。

各自に配布された森の地図へと丸を書き込みながら、ゲーム設定を思い出しつつ溜息を噛み殺した。

「 折角(せっかく) ならダイア様とご一緒の班になりたかったですわ」

残念そうな声音で漏らすベアトリクスの手首には、チャームの着いたブレスレットが控えめに光る。

「仕方ないだろう、学年別の班分けは運なんだから」

ナイフとフォークを扱いながらそう諭すのはガーネストで、だけどそういう彼も心なしか不満そうな色が滲んでいた。手首にはベアトリクスとよく似たブレスレット。

「二人とも先輩や後輩とは仲良くやれそうかい?」

苦笑いをしながら問いかければ、「はい」といい子のお返事があった。

どうやら意中の相手と共に過ごせないのは不満だが、班のメンバーそれ自体には不満はないようでなによりだ。

「リリー様とナディア様はアレク様とシリウス様と同じ班になりましたのよ。お二人が居れば安心ですわね」

「シリウスはともかく、アレクは逆に心配な面もあるがな」

予想通りだ。

班分けは同学年で好きな相手のペアを組んで、他学年のペアと同じブレスレットを選んだ者同士の計6人。

ブレスレットはそれぞれチャームが異なり、また発信機的な役割も果たす。さすが上流階級、学園支給の品も無駄に高価かつ高性能だ。

確かゲームでは、同学年のペアでサフィアを選べば二年の攻略対象者たちとは別の班で……女の子とペアを組めば、選んだブレスレットのチャームによって二年の攻略対象者を選べた。

リリー嬢はゲームの知識を持っているし、ベアトリクス絡みで時々ランチを一緒にしたり交流のあるガーネストたちよりも、現状一番交流のないアレクサンドラを選ぶだろうと思っていた。

最低限の好感度を上げておかないとバッドエンドの危険があるし。

もっとも、二人とも肝心の恋愛イベントは全然進展してないみたいだけど……。

危険を回避する選択肢を知ってるリリー嬢がナディア嬢とペアを組んでくれたのは 僥倖(ぎょうこう) だ。本人もそれを見越してナディア嬢を誘ったんだろうけど。

「さぁ、二人とも。夕食が終わったら明日の準備をして今日は早くお休み」

就寝の挨拶を交わして部屋へ戻った後、俺の部屋には黒い影たちが集まっていた。

本日は晴天なり。

そして訪れた合宿初日。

薬草採取に生体調査、そんな幾つかの課題を与えられた生徒たちはそれぞれの班に分かれ森を散策してる。

「……日差しが強いな」

差し込む日差しの強さに腕を掲げて空を見上げれば、晴れ渡る青空が広がっていた。

「日傘をご用意しましょうか?」

「いや、いい」

心配そうに零された声音には、間髪入れず否定を返した。

持ってんの?日傘、お持ちなんですか?

そしてどこに隠し持ってらっしゃるんですか?

だって手ぶらじゃん……。

仮にも授業中に従者に日傘差される教師ってどうなの、どこのご令嬢だよ?!断固拒否する!!

だからリフさん、「カイザー様の白い肌が……」とか憂い気な顔しないで。

見回りも兼ね、時々生徒に声を掛けながら森を歩く。

本来なら引率の教師に俺は入ってなかったんですけどね。担任受け持ちないし、養護教諭とかでもなく音楽の非常勤だし。

危険があると知っていて参加しない選択肢はなかったので参加したのだが、公爵家に雑用をさせるのは他の教師の皆さんも気が引けるのか特に仕事も割り振られてないので手持無沙汰だ。

この上、日傘差されて優雅に佇んでたら、完璧「あの人なにしに来たの?」だから。

ふと見覚えのある金髪を見つけ、自然と足がそちらへ向かう。

金髪とかこの世界に溢れてるって?

俺が可愛い可愛いマイエンジェルたちを見間違う訳ないじゃないか!

背格好は勿論、 旋毛(つむじ) の形や髪の艶だけでも判断出来るに決まってる。

「どうしたんだい?」

「カイザー兄上」

大きな樹の根元、愛しい弟へと近づけば彼らが取り囲むようにして一人の少女が蹲っていた。

「どうやら足を痛めてしまったようです」

そう告げるダイアの言葉通り、靴を脱がされた少女のかかと部分には赤い血が滲んでいた。

「靴擦れ、だね」

傍らにはほんの少しヒールの高い靴があった。

「ごめんなさいっ……ごめんなさい……」

怪我をした少女は哀れな程に縮こまって泣きそうになっている。

きっと怪我の痛みより自分の所為で足を引っ張ってしまったことを気に病んでいるのだろう。相手が憧れの王子や生徒会長たちとなれば尚更か。

山歩きには適さない可愛らしい靴。

憧れの上級生たちと同じ班になれてお洒落を捨てきれなかった結果、慣れない山歩きで靴擦れを起こしてしまった、というところだろうか。

「 黴菌(バイキン) が入っては大変だから、取りあえず消毒をしようか」

怖がらせないように膝をついて目線の高さを合わせ、出来るだけ優しい声で告げれば、逆効果だったようで「ふぇっ!?」と真っ赤な顔で涙目になられてしまった。

「失礼ながら靴下を脱がして頂いても?」

リフが問いかければ声も出ないままコクコクと頷く。

治療にあたる彼を除く男性陣は少女から視線を逸らすように他の方向を向いて待つこと 暫(しば) し。

「終わりました」

リフの声に身体を戻す。

消毒液らしきものと、綺麗に包帯を巻かれた少女の足がそこにあった。

本当になんでも持ってますね、リフさん。

思わず懐にハンカチを仕舞うリフの手元を凝視した。

「さて、どうしようか?」

俺はガーネストとダイア、同じ班だろう上級生二人に、怪我をした下級生の少女とその友人を見渡す。

「選択肢は二つ、一つ目はそちらのお嬢さんを一度コテージまで運んで付き添いを付けたうえで他のメンバーが課題を続ける」

指を一本立てながら提案すれば、

「私、一人でコテージに居ます。なので皆様はどうかこのままっ」

「いえっ、私が彼女に付き添います!先輩たちは課題を続けて下さい」

怪我をした少女が被せるように身を乗り出せば、友人の少女も声を上げる。

課題を諦め全員でコテージに向かうという選択肢をあげさせたくないのだろう。これ以上迷惑を掛けまいと必死な彼女たちが微笑ましくて口元に笑みが浮かんだ。

「まだ提案の途中です」

ちらりと少女達を見遣ればぴたりと言葉が止まった。

途端に泣きそうに顔を歪める彼女たちに、別にイジメているわけじゃないのになと苦笑いする。

「お嬢さん、怪我以外の具合はどうですか?まだ頑張れますか?」

「えっ……?」

「兄上、彼女をこのまま参加させるのですか?」

「まさか。怪我した女性をこのまま参加させるつもりなんてないよ」

吃驚(びっくり) 顔の弟に肩を竦める。

「さっきすぐ側でベアトリクス達の班を見かけた。彼女の班にはカトリーナ嬢も居るだろう?」

カトリーナ嬢の『異能』は『治癒』だ。

「と、いうわけで二つ目。ベアトリクス達の班と合流して、カトリーナ嬢に治療を頼んでこのまま六人で課題を続ける。その場合はこの靴のヒールを切り落とすなりしないと同じ事の繰り返しだけどね」

二本目の指を立てて提案すれば、答えは当然後者だった。