軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢フラグ勃発っ?!

挨拶を終え、壇上から降りる。

一歩動くごとについてくる視線。

きゃあきゃあと 燥(はしゃ) ぐ少女たちに、女の子たちの視線を掻っ攫う俺へと面白くなさそうな表情を向ける少年たち。そして一部頬を染める少年……。

入学式が終わり、解散となった途端に俺は人だかりに囲まれた。主に女子。

「初めましてっ、私三年の……」

「ちょっと、抜け駆けしないでよっ!!あの、私……」

「私っ、絶対に音楽の授業取りますっ!!」

『きゃー!!すっごい美形!!むしろ人外?!』

『異能を持たない『無能』って聞いてたけど、全然有り!!むしろモロ好みっ!!』

『すごい……。気品があるのに色気ただ漏れとか、なんという矛盾!』

「あの、ちょっと離れて……」

押しかけてくる少女たちに悪意はなく、相手が女性ということもあって乱暴に引き剥がすわけにもいかない。

「そこの生徒たちっ!!離れろっ!!じきにホームルームが始まる、直ちに自分たちの教室に戻るように!!」

そしてそんな俺を助けてくれた凛とした声。

モーセのように割れた人混みの中を颯爽と進み、俺を背に庇い毅然と言い放ったのは、エーデルシュタイン高等部の生徒会長でもある我が弟!!

ウチのガーネストが格好いいっっ!!

赦(ゆる) されるのなら、さっきの少女たちみたいに「きゃー!!」って叫びたい。

「カイザー兄上、大丈夫でしたか?」

「ああ、有難う。ガーネストは凄いな、立派な生徒会長ぶりだね」

そしてお兄ちゃんの褒め言葉に照れるウチの子、可愛いな。

カッコカワイイとか最強か。

さすがはゲームの攻略対象者だけあるぜ。

「予想はしてましたが、大人気ですね。カイザー殿」

「……ダイア。面白そうな顔をしないでくれないか、ティハルトに似てきたぞ」

「それは光栄です。ティハルト兄上は僕の目標なので」

クスクス笑うダイアは、本当にゲームよりイイ性格になった気がする。

「お兄様がおモテになるのは当然のことですわ。だって私のお兄様ですものっ!」

いつの間にか近寄って来たベアトリクスがえっへんと自慢げに胸を張る。

なにその理屈になってない理屈。

可愛すぎるんですけどっ!

「今日は朝から随分とご機嫌だね、ベアトリクス」

可愛さに耐えきれずに頭を撫でれば、そのまま嬉しそうにすり寄られた。

「だって、今日を本当に楽しみにしていたんですものっ。カイザーお兄様が私たちの学園の教師になられるなんて嬉しすぎます!それに私も高等部に進級出来て、またダイア様たちと一緒に過ごせますし」

最後の言葉だけ頬を染めて小さな声で告げたベアトリクスの破壊力の高さっ!

「僕も嬉しいよ。やっと、また君と過ごせる」

ベアトリクスの手をとってシトリンの瞳を覗きこむダイアの声の甘いこと甘いこと。

近い!

近すぎるぞダイアっ!!

「そんなことより俺達もそろそろ行くぞっ!ホームルームに遅れる」

流れ弾に胸を痛めていた俺は、二人の空間に割って入ったガーネストに心の中で喝采を贈った。

ナイス!ガーネストー!!

「兄上、昼食はご一緒出来ますか?」

「私は構わないけど……カトリーナ嬢は構いませんか?」

同席するだろうカトリーナ嬢に確認をとれば、「 勿論(もちろん) ですわ」と微笑まれた。

この子も本当にいい子だよな。

是非これからもベアトリクスたちと仲良くしてほしい。

「じゃあ、昼休みになったらベアトリクスたちの教室に迎えに行くよ」

昼の約束を取り付けて解散し、その後は休み時間の度に大規模な鬼ごっこに強制参加の運びとなった。

鬼ごっこというよりかくれんぼ?

一度、女子に見つかればあっと言う間に生徒に囲まれる。

なので壁の間から廊下を窺い、チャイムの音を待ち望みながら個室を目指し、物凄い疲労感を抱えつつよろよろと部屋に入るとすぐさま鍵をかけた。

鍵の閉まる音に、これ程の頼もしさを覚えたのはかつてない。

ふらふらとソファへと倒れ込むと、ぐでー……と朝の体勢再び。

なんとはなしに片手を額の前に掲げた。

「舐めてたわ。女子学生こわっ……」

呟いた声は疲れ切っていた。

そして同時に我が家のメイドの視線を思い出す。

『わかってますね?手を出したら犯罪ですからね!ベアトリクス様にお兄様なんて嫌いっって言われちゃいますからね!!』

心の声と視線で雄弁にそう語りながら、こちらを見つめてたリリアさん。

あれは数日前のことだ。リリアが真面目な顔をして「大事な話があります」と言ってきた。

この時点で嫌な予感はしてた。

あの子が真面目な表情してる時って、基本ろくなこと言わないからね。

そして話の内容は、というと……よくわからん主観を交えながら、「生徒に手を出しちゃ駄目!!」という趣旨の熱弁を繰り広げられた。

熱弁の途中で我が家のベテランメイド長のマーサがやって来て、襟首ひっつかまれて強制連行されてたけど。

控えめにいっても 般若(はんにゃ) の形相だった。激おこ。

ちなみにマーサも我が家の逆らっちゃいけないお方のお一人だ。

………あれ、なんかウチの使用人たち強くない?

「このバカ娘の 戯言(ざれごと) はどうぞお忘れ下さい」と頭を下げたマーサは、非の打ちどころのないアルカイックスマイルと綺麗な所作の礼を披露してくれたが、リリアに向けられた 般若(はんにゃ) の形相を見てしまった俺としてはその落差に震えずにはいられなかった。流れるように 部下(リリア) を強制回収した手腕はさすがベテランメイド長。

リリアは多分正座でもさせられたのだろう。

先輩メイドのエリーゼに足をつんつんされて、のたうち回るリリアの姿がその後目撃された。

そもそもあの子は俺が雇用主ということを、ちゃんと理解しているんだろうか?

「若い少女に手を出したら犯罪ですよ!」とか 他所(よそ) で口にしたら、クビどころか普通に処罰案件なんですけど……。

まぁ、リリアは最初からああだったしな。面接に来た時も堂々と「家事全般苦手です!」とか言い放ってたし。

面接してたリフの笑顔が引き攣ってるのを気にもしない清々しさ。鋼のハートの持ち主だと思う。

明らかに転生者だし、しかもベアトリクス推しっぽかったうえ、当のベアトリクスが懐いたから雇ったけど。

他の使用人たちに「 本気(マジ) で?!」みたいな顔されたがな。

まぁ、悪い子じゃないんだよ。

あの熱弁の理由はベアトリクスの為っていうのはわかってる。

リリアは 何故(なぜ) か俺を隠しキャラだと思ってるから、ヒロインが俺ルートに入ってベアトリクスが悪役令嬢ルートに入るのを阻止したかったんだろう。

だけどそもそも俺、モブだからね?

そしてさらに勘違いしてることに………。

『カイザー様が魔族だったなんて。しかも黒竜』

『でも薄々、普通の人間じゃないことは感づいてたわ』

……とか、リリアさんの心の声が聴こえてきたんですよね。

全力で突っ込みたかった!!

魔族じゃねぇーーーわっ!?

なんなの?薄々感づいてたとか言われても、めっちゃ人間ですけど?!

しかも黒竜!!

ジストじゃんっ?!それ確実にジストのことじゃんっ!!

あの子、全ルートクリアしてないの?!

いや、確かにリリア恋愛モノとか苦手そうだな……。

俺は隠しキャラでも、ましてや魔族でもなく、完全なるリリアの勘違いだけど。

リリアが言ってた「あのくらいの子たちって大人の男性とか大好物ですし」っていう言葉は少なくとも真実だったと実感した。

恐い……。

ガチ狙いでくる女生徒コワイ……(ガクブル)

はぁー、と大きく息を吐いて立ち上がる。

ずっとこの要塞に籠ってたい思いはあるものの、もうすぐ約束の昼休みだ。

チャイムの音を聞きながら廊下に出ればたちまち囲まれるも、なんとかベアトリクスたちの教室へとたどり着いた。

「あ、あのっ……!!」

声を掛けてきたのは、ふわふわとしたピンクの髪に菫色の瞳の少女。

「なにか御用ですか、お嬢さん?」

赤らんだ顔で俺を見つめる少女、画面越しでは見慣れた容姿はヒロインだけあって可愛らしい。うるうるの大きな目、庇護欲をそそる小動物のような顔立ちと仕草、ピンクの髪ってとこもザ・ヒロイン!って感じだ。

「えっと、その……お兄さ……お兄様は一体っ?」

ヒロインがなにかを問いかけようとしたその時だった。

「ちょっと貴女っ!!一体どういうおつもりですのっ?!」

険を含んだ声音と共にヒロインの胸元へと突き刺された人差し指。

俺の前に立ちふさがり、 眦(まなじり) を吊り上げてプンプンと怒りを露わにするベアトリクス。

ゲームの悪役令嬢そのままに、ヒロインを睨みつける可愛い妹の姿がそこにはあった。

えっ、ちょっ、なんで?!!

さっきまでベアトリクスはゲームと違って、わがまま姫でもないし超絶いい子な天使だったじゃん?

なんで急にヒロインに突っかかってんのっ?!

もしやこれが、ゲームの『強制力』なのか________?