軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんな表情したってダメなものはダメ

本日は無礼講なり!

結婚式から二日後、ルクセンブルク邸ではベアトリクスの結婚祝いが行われていた。

二日前にもやったじゃん、って?

ほら、あれは正式なやつだし。

王家と公爵家の身内の結婚式&パーティーだけあって参列者はもれなく大物ばっか。当然のように使用人たちは立ち会えない。

なので今日は完璧内輪のお祝いってわけ。

……ってことで、ウエディングドレス姿の天使改め、女神・再・降・臨☆

「べ、ベア゛ト゛リグズざまぁぁぁぁぁ~~~!!」

やたら濁音多めに床に膝をついて泣き崩れているのはリリアだ。

涙も鼻水もぐっちゃぐちゃの顔で感動に号泣している。

「おめでどうございまずっ!!ああっ、ついにベアトリクス様が結婚!!断罪フラグもなくお幸せにっ……。よかった、よがっだよぉぉぅ!!!うわ~~~ん!!」

5歳児にみたいにギャン泣きする姿は正直言ってドン引きだ。

感情的には大いに同意できるんだけど…………絵面がヒドイ。

断罪フラグとか周囲には意味不明なこと口走ってるくせに、リリアの奇行はいつものことすぎて使用人たちは普通にスルー。

唯一、転生者のソラだけが「断罪?姫さんが?」と首を傾げている。

そして我が家の面々にとっては“リリア=変な人”の構図はもはや常識といっても過言でないが、リリア慣れしてないダイアの顔がめっちゃ引き攣ってます。

ダイアも我が家にはちょくちょく訪れているから、ベアトリクス付きのメイドがちょっと変なことは感付いていたんだろうが……ここまでとは思わなかったんだろう。

ごめんね?

リリアは“ちょっと”ってレベルじゃないんだ。

ちなみにその子、君んとこの使用人になるからね?

適当にスルースキル習得して早めに慣れてあげてー?ガンバ!

リリアもダイアにクビにされないようほどほどにしとけ?

裾の長いロングトレーンはゴージャスかつ優雅、見た目は100点満点だけど動き易さはむしろマイナス。なんせ裾を持っててもらわなきゃ一人で歩けもしないからね。

なので主役のベアトリクスは指定席に着席しつつ、他はほぼ立食形式。料理やお酒を運びつつみんなが代わる代わる彼女のもとを訪れる。

笑顔で祝福を受けるベアトリクスと、一部涙ぐんだりしながら寿ぎを告げるみんなを見てるとやっぱり企画して良かったなとそう思う。

使用人たちを含めたパーティーなんて他所ではあんまやんないんだろうけど……前世の影響か使用人は使用人、って割り切るのやっぱ苦手なんだよなぁ。

なんかしてもらっても家によっては礼とかも言わないからね、この世界。

身分の差があるってのはわかるんだけどさ……めっちゃお世話になってる相手だし、福利厚生とか大事だと思うんだ。

なんなら下手に神経使う社交界の 飲み会(パーティー) より内輪の方が気軽で楽しいし。

グラスの中身を飲み干せば、すぐさまボトルが差し出された。

ついでにおつまみの皿も。

「リフ」

さっきまでベアトリクスたちに挨拶していたリフがボトルを傾けグラスを満たしてくれる。

「とても美しい花嫁姿ですね」

「本当にね」

答えたあとに、はぁ、と吐息が漏れてしまうのは感嘆か失意のため息か。

「まだ一日なのに、ベアトリクス様が居ないと屋敷が急に寂しくなりましたし」

そうなのである。

現に昨日は屋敷が灯りを失ったみたいにシーンとしてたしね。

正式に結婚したベアトリクスはダイアと新居にお引越し。

二人の新居も、そして俺がいずれ住まうことになる新しい屋敷も王都の貴族街なのは変わらず、位置的には馬車ですぐ出向けるご近所といっても過言でない。

だがご近所だろうと、同じ屋根の下にベアトリクスが居ないって事実は変わらないんだよ!!

寂しいぃ。

ちなみに、田舎に引きこもってスローライフの夢は淡く崩れた。

ティハルトには相変わらずこき使われるし、事業はガッポガッポの大成功、なんだかんだでめっちゃ忙しいことこのうえない。

そして可愛い弟妹やリフたちに押し切られる感じで結局王都に残留です。

田舎のこぢんまりした一軒家でも買う予定だったのに、普通に貴族街の邸宅を買うことに……。

物件はガーネストとリフが見つけてきました。

ポイントはこの邸とベアトリクスの新居と近いこと。

事業が絶賛大成功なので豪邸だろうと余裕で買う資金はあるんだけどさ……おっかしいなぁ、当初の予定どこ行った??

ちなみに整備はまだだし、ガーネストの結婚ももう少し先だからしばらくはここ住まいだけど。

数時間前までの賑やかさが嘘のような静寂を歩く。

廊下の角を曲がれば、淡い光が差し込んだ。

窓越しに見上げた空には満月がぽっかりと浮いていた。零れ落ちる月の光が廊下へと柔らかな光を投げ掛ける。

なんとなく寝付けなくて、水でも飲もうかと部屋を出た俺はふっと足を止めた。

窓の向こうに見慣れた姿を見つけたからだ。

向かおうとしていた行き先を変更し、そちらに向かって歩きだす。

「マオ」

呼び掛ければ、バルコニーの手すりに身を乗り出すように空を見上げていたマオがゆっくりと振り向いた。ぱちぱちと瞬きして「カイザーさま」と俺を呼ぶ。

どこか緩慢で物憂げな反応は、いつものマオらしくなくて少し首を傾げた。

「どうかした?具合が悪いわけじゃないよね?」

お酒の飲みすぎ……はないな。

苦いからってマオはお酒キライだし。

じゃあ風邪とか?とおでこを触るも異常なし。

「へいき」

にっこり笑う姿に安堵するも、夜風が冷たいので羽織っていた上着を着せ掛ける。

「眠れないのかい?」

「ん。あのね、お月さま見てたの」

月を指さしてマオは言った。

「マオは月が大好きだね」

「大好き」

笑いながら紡いだ言葉には、思いのほか真剣な声音が返ってきて思わずマオの顔を見る。

大人びた、いや、成人女性そのものの姿のマオ。

先程まで腕と上半身を預けていた手すりを背にしたマオはポツリと呟いた。

「ベアちゃん、すっごくきれいだった」

「うん」

「真っ白なドレス、可愛くてきれいだったの」

拗ねたようにつんと唇を尖らせて「ベアちゃん、きれいだった」と繰り返すマオの瞳が薄っすらと滲む。

白い手がナイトドレスの太もも辺りの生地をぎゅっと掴んだ。

「マオはっ?マオはカイザーさまのお嫁さんになれないの?」

「……っ」

「マオが大きくなったのカイザーさまはいやだった??おっきいマオはきらい?」

いまにも零れ落ちそうな涙に慌てる。

手を触れようとして、僅かな 躊躇(ためら) いにその手が一瞬止まった。

「そんなことあるわけないだろう」

宥めるように真紅の髪を撫ぜる。

「でも」と言葉と共に雫が一筋頬を伝った。

「おっきくなってからカイザーさまと全然いっしょにいられない。小っちゃいときは抱っこしてくれたし、お膝にも乗っけてくれたのにっ…………。いまはギュっってくっついちゃダメだし、お膝にも乗れなくて、いっしょにも寝れないもんっ」

いや、それは普通にダメだろう。

特に最後のやつ。

そもそも一人寝は幼児姿のときから推奨してたよね?

それをキミがいつのまにかベッドに忍び込んでいただけっていう。

ちなみにいまはカマルの結界でガード。

内心でそんなツッコミを入れつつ、ぐずるマオをヨシヨシと撫でる。

淑女教育の成果で最近は一見令嬢っぽい姿ばっか見てたから、こうして駄々をこねる姿を見るのは久しぶりだ。

「マオはカイザーさまが好きっ」

握っていたナイトドレスを離し、俺の胸元をぎゅっと掴む華奢な指。

「ずっとっ、いちばん、大好きだもんっっ」

涙の膜の張った金緑色の瞳は一点の曇りもなく澄み切って俺だけを映す。

ああ…………、そう小さく息を吐いた。

細い肩をギュっと引き寄せて抱きしめる。

涙を流す顔を胸に押し付けるように抱きしめて、その肩口に顔を埋めた。

「……カイザーさま?」

「待って」

腕の中で動こうとするマオを拘束するように少しだけ腕の力を強める。

今は顔を上げて欲しくなかった。

ぶっちゃけ、顔が赤い自覚はある。

不本意ながらかなり動揺している自覚も。

妖艶美女に育ったマオは淑女教育の賜物もあり、ふとした仕草や表情も以前より随分と大人っぽくなった。容姿に比べればまだだいぶ幼い言動も目立つけど。

ただの擦り込み、父親に対するような愛情と、そう言い切ることができないほどにマオが自分を慕ってくれていることも知っている。

時に泣きべそをかきながらも、人として生きるために勉強を頑張っていた姿を見てきたんだ。あんなにも必死で頑張る姿を見て、一時の気の迷いなどと思い続けることなどできない。

嘘や取り繕いの一切ないマオの言動。

言葉で、表情で、行動で、いつだってマオは全力で「好き!」を伝えてくる。

それだけじゃない。

『久しぶりにカイザーさまがギュってしてくれた』

えへへ、と声を漏らして胸元に擦り寄るマオの心の声。

嘘偽りのない『大好き!』が俺にはいつだって伝わってくるんだ。

これは……無理だろう。

可愛くて、無垢で健気な愛情に、絆されている自分が居る。

正直、姿が成長したからってすぐに気持ちは切り替えられないし、今だって“そういう対象”っていうよりはベアトリクスたちに対するような愛しさの方が大きい。

それでも……以前とは別種の愛しさが育ちつつあるのは感じている。

「……もうすこし、待って」

まだわずかに赤いだろう耳を夜風で冷ましながらそう呟いた。

自分自身の感情に答えを出すまで、もう少しだけ待ってほしい。

意味が伝わったかはわからないが、久しぶりの“ギュッ”にご機嫌なマオは「ん」と小さく頷いた。

顔と耳が冷めた頃、そっと身体を離せば……離れる熱にむっと唇を尖らせたマオの方が今度は腰に腕を回してきた。

「ねっカイザーさま。今日いっしょに寝てもいい?」

「駄目」

「え~~っ!」

むぅっっと拗ねた 表情(かお) をするマオとの攻防はしばし続いたが、なんとか言い聞かせて自分のベッドへ戻らせました。