軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なによりもそれを願う

神の前での厳かな儀式も終わり、会場には華やかな声が響いていた。

純白のウエディングドレスから着替え、可愛らしい印象のドレスを纏ったベアトリクスの姿をつと視線で追う。

「やっぱり寂しい?」

苦笑いを浮かべて問いかけてくるアイリーンの質問には「勿論」と一言。

寂しいですとも。

喪失感、むちゃくちゃハンパない……。

二次会的なパーティーは立食形式で席順がない。

なので挨拶まわりをすませたあとはいつものメンバーで固まっていた。

本日の主役たちはいまも忙しくご挨拶の最中だ。

ダイアにエスコートされたくさんの人々から祝福の言葉を投げ掛けられるベアトリクスは心から幸せそうな笑みを浮かべている。

「バージンロード、本当に良かったのかい?」

シャンパングラスを傾けながら傍らのガーネストに問いかけた。

「当然です。俺より兄上の方が相応しいでしょう」

一般的に花嫁とバージンロードを歩くのは父親の役目だ。

だけど父上はすでに亡くなっているし、父代わりというなら俺だけど、ルクセンブルクの正式な当主はガーネスト。

役目を奪ってしまったようで口にした言葉にはちょっぴり呆れた顔を返された。

「次はガーネスト様たちね」

アイリーンの言葉にガーネストとカトリーナ嬢の顔が赤く染まった。

そう、来年には彼らの結婚式も控えている。

嬉し切なさ倍増……。

気持ちを察したのかティハルトにぽんっと肩を叩かれた。

サフィアとシェリルちゃんも来年か再来年には結婚だもんね。

寂しいよね、友よ……。

「カトリーナ嬢の花嫁姿もさぞ美しいでしょうね」

「い、いえ……そんなっ……」

珍しくも照れるカトリーナ嬢の可愛い姿にガーネストの顔も真っ赤だ。

そしてそんな初々しいカップルの後ろでは、やたらと力づよく拳を握りしめてなにやら決意を固くしている人たちがいた。

血走った目でブーケトスに挑み、見事スライディングキャッチでブーケをGETしたアイーシャだ。

戦利品を胸に「必ずやラン様と結ばれてみせますわ」と誓う姿は本気度が凄い。

正直、俺としては若干引いているのだが……もしかしたらランや影たちならあのガッツ溢れるスライディングは称賛の対象となり得るかも。

見事な身のこなしだったし。

そしてもう一組。

同じくジャウハラ出身のアレクサンドラ。

お前らはつき合ってんだからとっととプロポーズすればいいだろうに……。

あれだけべらべらと女性に口説き文句を垂れていたくせに、相変わらず本命に対しては純情なようだ。きっとそのうち「なんてプロポーズしたらいいと思う?」とか相談に来そうだな……。

他愛無い立ち話をしているうちにベアトリクスたちがこちらへ来た。

「結婚おめでとう」

「ありがとうございます」

満面の笑顔で答えるベアトリクスとダイアに、友人たちから次々と祝福の言葉が飛ぶ。

「ウエディングドレス、すっごく綺麗でした!」

「ご結婚おめでとうございます」

「結婚式、凄く素敵で憧れちゃいました」

「お幸せに」

はにかみながらその言葉を受けるベアトリクスは本当に幸せそうだ。

「ようやく長年の願いが叶いました」

ダイアの言葉に白い頬が真っ赤に染まる。

「国際事業の関係で式が遅れてわるかったな」

幼い頃からの弟の想いを知るティハルトが苦笑いしながら謝罪すれば「全くです」とダイアがわざとらしく 不貞腐(ふてくさ) れる。

そんな義弟の顔を覗き込みながらアイリーンが悪戯っぽく笑った。

「でも無事に結婚できてよかったじゃない。どっかの過保護なお兄様に「やっぱり妹はやらん!」とか言われる可能性もあったわけだし」

「だよね。私も式の直前に「 攫(さら) ってあげようか?」って提案したけど、当のベアトリクスが頷いてくれなくてね」

アイリーンの軽口に乗って、冗談めかして肩を竦めてみたけど……周囲は笑ってくれなかった。

「お前……そんなこと言ったのか」

呆れたティハルトの顔もだが、ダイアの顔がヤバい。

めっちゃ口元引き攣ってます。

「フラワーガールの子らの顔が赤いなとは思ったんですが……」

「カイザー様の 所為(せい) だったのね」

笑いを誘ったはずだったのに、なぜかめっちゃ呆れられている……。

じょ、冗談だってば!!

本気じゃないし!ベアトリクスの緊張をほぐすためだったんだよ!

「やりかねない」のティハルトの言葉に撃沈。ひどい。

「ベアトリクスが本気で嫌がるならしないよ」

拗ねた声で答えれば、意外な子が味方をしてくれた。

「そうですわ。カイザー様はベアトリクス様を可愛がってらっしゃるけど、本気でダイアお兄様を邪魔されたことなんてないじゃないですか」

そう声をあげてくれたのはダイアの妹のシェリルちゃん。

「それに比べて……」

大人しいシェリルちゃんがちょっとぷんぷんしている姿に、ティハルトもダイアもそっと目を逸らした。

ああ、なるほど。

王家の姫君、シェリルちゃんの兄たちはもれなくシスコン。

彼女が怒っているのはおそらく第五、六王子あたりだろう。

サフィアがまぁまぁとシェリルちゃんを宥めている姿を見るに、きっと可愛い妹のハートを奪ったサフィアに突っかかったりでもしたんだろうな。

容易に想像が出来た。

流石にそんな大人げないことはしないけどさ…………気持ちはわからんでもないんだよね。……ということで俺もそっと視線を逸らした。

「ジュエラルは兄妹愛が強いんですのね」

アイーシャが呆れ交じりの驚きの声を出した。

ハーレム文化で異母兄弟なんて数えきれない彼女たちにしたら意外らしい。

「そうねぇ。わたくしも最初は驚いたけど……ここはちょっと特殊な例よね」

ここ、とアイリーンが俺らを指でくるくると指す。

ひとしきり談笑をしたあとで一瞬だけ周囲を気にした二人は居住まいを正した。

二人は本日の主役だ。

他の来賓客のところもまわらなくてはならないし、いつまでもここに留まっているわけにもいかないんだろう。

先ほどまでの砕けた雰囲気から一変、改まった雰囲気でまずは新郎の身内でもある国王夫婦へ向き合う二人。

そして、俺とガーネストへ……。

「ベアトリクス」

唇を開きかけたベアトリクスを遮るように名前を呼んだ。

花嫁が家族へ結婚の挨拶をしようっていう感動のシーンに水を差すのはなんだが、どうしても先に伝えたかった。

ほら、可愛い妹からの言葉なんて聞いちゃったら感動で何も言えなくなっちゃいそうだしね。

大人げないシスコン過剰なお兄ちゃんをどうか許してほしい。

「大きくなったね。本当に綺麗になった」

ほつれ毛を一筋、耳にかけて柔らかな頬へと触れる。

そっと両手で頬を包み、顔を寄せてシトリンの瞳を覗き込んだ。

「君の幸せを何よりも願っているよ。いままでも、もちろんこれからもずっと」

可愛くて愛しい大切な妹。

ガーネストの幸せだって心の底から願っているけど、それでもベアトリクスは格別だ。

悪役令嬢である妹の人生を守ること、その目的があったからこそ必死こいて頑張ってきた。

思えばベアトリクスはカイザーとしての俺の 道標(みちしるべ) でもあったのだ。

そしてその想いは悪役令嬢フラグが消滅したいまだって変わらない。

込み上げる様々な想いを封じ込めるように瞳を閉じた。

こつん、と額をそっと合わせて……一番伝えたい想いだけを言葉に。

「幸せにおなり」

それは、祈りにも似た願い。

瞳をあけて浮かべた微笑みはちゃんと笑えているだろうか?

「ふっ……」

間近にあるシトリンの瞳が潤んだかと思うと、ぼろぼろと大粒の涙があふれだした。

「ちょっ、ベアトリクス?!」

突然の涙に慌てふためいていると、トンッと胸に軽い衝撃。

レースの手袋をはめた手がぐいっとガーネストを引っ張り、俺とガーネストに抱きついたベアトリクスは大号泣だ。

幼い頃以来のギャン泣きにあたふたと肩を撫でるも、一向に泣き止んではくれない。

「こんな日にまで 主役(花嫁) を奪いとるのはやめてくれませんか」

ジト目で訴えるダイアに賛同するようにティハルトたちからも「自重しろ」「これはカイザー様が悪いわよね」と責められた。

ええぇ~……俺が悪いの??

兄として妹の幸せを願っただけじゃん。

ひっく、ひっくと肩を揺らしたベアトリクスは涙で少しだけ化粧が崩れた目元を押さえて顔をあげた。

「……っカイザーお兄様、ガーネストお兄様……今日まで、ありがとうございました。たくさん、たくさんっ……守ってくれて、大事にしてくれて……本当に、ありがとう……っ」

しゃくりあげて言葉を詰まらせながらも必死に言葉を紡いでくれる。

そんなベアトリクスの隣に立ったダイアがそっと細い肩を引き寄せて抱いた。労わるように優しい視線をベアトリクスへと投げ掛けてから、表情を引き締めて俺とガーネストに顔を向けた。

「僕の一生を懸けて、絶対にベアトリクスを幸せにします」

シンプルな、だけど真っすぐな言葉と瞳にうんと一つ頷く。

「当然だ」

ぶっきらぼうにガーネストが言い放った。

「じゃなきゃお前なんかにやるか」

腕を組んで親友を睨みつけながらの一言。

やっぱり可愛い妹の結婚にはガーネストも色々と思うところがあるらしい。

周囲から見ればどう見てもブラコン・シスコンの仲良し兄妹だけど、シスコンを自認していない彼がこんな風に言葉にするのは珍しい。

「泣かせたらただじゃおかないからな」

「だね。ウチのお姫さまを泣かせたら大変だよ?」

「……ガーネストはともかく、カイザー殿が言うのはシャレにならないんでやめてくれます?」

「本気で気をつけろよ、ダイア。最悪、国が滅ぼされる」

「国が滅ぼされるってなにっ?!」

「やりかねない」

「やりかねないですよね」

「っていうか、いまカイザー様が泣かせたばっかだけどね」

なんか一転、場が騒がしくなった。

そして相変わらずの魔王扱いが尾を引いている……。

「ベアトリクス、嫁いでも君は私たちの大切な妹で家族だ。ね、ガーネスト?」

モゴモゴしつつ頷いたガーネストは「困ったことがあったらすぐに言え」とベアトリクスの目を見ずにいった。

素直じゃないとこも可愛いから良し!

「ダイアもね」

くしゃりと髪を撫でる。

「はいっ!」と満面の笑みを浮かべるベアトリクスと、目をぱちりと瞬きながら少し照れたように「はい」と頭を下げた義弟に、心からの祝福をこめてもう一度祝いの言葉を口にした。