軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そういうの、自業自得っていうんだよ

衝撃発言の後、絶句した彼らはアイリーンの顔とまだ膨らみの目立たないお腹に視線を何往復もさせて、それから 何故(なぜ) か俺を見た。

……いや、俺を見られても。

取り敢えず、重々しく一つ頷く。

途端にざぁぁと傍目でわかるぐらいに顔色が悪くなった。特に騎士団長。

まぁ、そうだよな。国の守りの 要(かなめ) でもある騎士団のトップを外国へ派遣するほどの重要任務。ただでさえ重責なのに、その護衛対象が妊娠中。さらにはその子は国王陛下の御子。

真面目な騎士団長の顔色が青い通り越して真っ白になるのも仕方ない。

「陛下は……このことを、ご存じ、ない……?」

「あったら絶対に出国させてはくれなかったでしょうね」

ぎこちないロボットみたいになった騎士団長を、アイリーンが絶望に突き落とした。

「とにかく、一度ジュエラルに船を戻しますか?」

「いいえ、その必要はないわ」

椅子から身を乗り出すようにアレクサンドラが尋ねるも元凶がそれを突っぱねた。

今、キミの意見は聞いてねぇよ、この問題児がっ!

とはいえ、国務で訪れるのだから予定を変更するワケにはいかない。

「いや、このままジャウハラへと向かおう」

「「「カイザー様っ!?」」」

驚愕や喜色、心配を孕んだ様々な声が名を呼んだ。

「アイリーンだけ連れ戻して、代わりの王族を連れてくればいい話だし」

「そんなことっ……」

「出来るよ」

喜色に輝いていた紫紺の瞳が一転、焦燥を孕み揺れた。上目づかいで睨んだまま噛みしめた唇が「カイザー様は反則よ」と俺を詰る。

反則はどっちよ?

出航しちゃえばこっちのモンって、妊娠隠して来ちゃうキミのが反則でしょう。

「アイリーンの帰国の準備を」

真っ青な顔でオロオロ成り行きを見守っていたメイドたちに声をかければ、強い声が俺の名を呼んだ。

「嫌よ、帰らないわ」

「アイリーン」

「どうしても譲れないのっ!!自分が 我儘(わがまま) を言って迷惑を掛けてることは百も承知してるわ。だけどそれでもっ!!」

立ち上がったアイリーンは身体を真っすぐに折った。

船の揺れに従者が慌ててその身を支えようとするが、それにも構わず、長い髪の先端が床につくことも気にせず深く頭を下げるアイリーン。

「お願いっっ……お願い、します」

頭を上げない主人の姿に、彼女のメイドたちも習うように深く頭を下げる。

はぁぁ。

溜息をついた。思いっきり深く。

「わかった」

我ながら疲れ切った声だった。

とりあえず、アイリーンの頭を上げさせ、そのまま椅子に座らせる。それから今後の方針について騎士達を含めて作戦会議だ。

まず、彼女の警備を手厚く。とにかく厳重に。

あと、入用なモノも沢山あるだろう、と話を振ったら……。

メイドの一人が『収納』の異能の持ち主で、衣類から薬から果ては食欲がないとき用のフルーツやらまで揃ってた。店が開ける品揃え。他にも主治医に出産経験のあるメイドの人選etc……。

準備万端かーいっ?!!

この確信犯めっっ!!

「涼しい。天国だわ」

慌ただしい緊急会議から数刻、問題児ことアイリーンはご機嫌だった。

あれから話を聞いた女の子たちも超絶驚いてたが、今は興味津々でまだ大きくもないお腹を触らせて貰ったりしてる。

逆に居心地悪そうなのが男性陣。「触ってみられる?」とか聞かれても年頃の男の子にはハードル高いよね。俺もお断りした。

備え付けのテーブルへと置かれた湯気の立つ紅茶。もちろん、ノンカフェイン。

その脇に、コトリと蜂蜜の瓶を置いた。さっき、ソラに屋敷から取り寄せて貰ったものだ。

ひとさじ掬い、カップをアイリーンへと渡す。興味深そうに瓶を見ていたカトリーナ嬢たちにも「良かったらどうぞ」と勧める。

珍しそうに一口含んで、パチリと大きな瞳を瞬かせたものの次いで口をつけてるから苦手ではなさそうだ。

「ちょっとだけ、ピリッとするわ」

「生姜入りだから。生姜の効能で身体が内側から温まるんだよ。妊婦が身体を冷やし過ぎるのはよくないしね」

アイリーンがご機嫌な理由は、強制送還されなかったことともう一つ。

部屋が快適に涼しいからだ。

季節は夏。照り付ける日の下の海上。しかもアイリーンの出身国は氷山などもある涼しい国だ。

つまりなにが言いたいかというと……アイリーンは暑いのが苦手。

夏バテ気味でもあったアイリーンにこの室内は天国なのだろう。

なんで涼しいかって?

リアンの『冷却』の異能のお陰です。

天然クーラー万歳!!毎年夏になるとお世話になってます。

……とはいえ、「冷やし過ぎは駄目だよねー」とブランケットをいそいそとかける。

生姜入り蜂蜜は我が家の冬の定番だ。冷え性で冬場は手足が温まらず、寝つきが悪かったベアトリクスの為に産地厳選して取り寄せてる一品。

「あと、駄目な食べ物や苦手な臭いなんかは?妊娠中だと 嗜好(しこう) が変わったり、特定の臭いがダメになったりするだろう?」

「それは……いくつかあるけど」

不自然に言葉を途切れさせたアイリーンが呆然としたように俺を見た。

「カイザー様って……子供産んだことあるの?」

「あるのっ??!!」

あってたまるかっ!!?

若干(じゃっかん) の呆れを含んだアイリーンの失礼な冗談もアレだけど、お腹を触らせて貰ってたマオがガバッと顔を上げて真ん丸なお目めで凝視してくんのが辛い。

ガチな 吃驚(ビックリ) 顔マジやめて。ないよ。

俺は膝をついてマオの肩を両手で掴んだ。

「男の人は赤ちゃんは産めません」

真っすぐ瞳を合わせて真剣に告げた。

「リフも?」

「リフも産めません」

見ろ、リフの笑顔が引き攣ってんじゃん。

リフを怯ませるなんて、中々やるなマオ。あ、視線を向けられたガーネストが問われる前に自主的に首振った。

「男の人は産めないー」

わかったーとお手てを上げたマオによし、と頷く。

つか、笑ってんじゃねぇーよ、アイリーン。

誰の発言の 所為(せい) だと思ってんだ、コラ。

「で、でもカイザー様ってばよく気付かれましたね。私、全然わかんなかったです」

俺がちょっぴりアイリーンを睨んだからか、場の雰囲気を変えるようにリリー嬢が話を振ってきた。

「そういえば、何故カイザー兄上は気付かれたんです?」

「ああ、船が揺れて庇った時にお腹を押さえてたのを見てね。切っ掛けはそれだけど、思い返してみれば服は緩め、メイドに出された紅茶の味も違ったし、香水も違う。ワインなんかも控えてて、柑橘系のフルーツをよく口にしてたなって思って」

「それで、ですの?」

不思議そうに首を傾げるカトリーナ嬢にああ、と小さく笑う。

「紅茶などに含まれるカフェインやアルコールは胎児にあまりよくないんですよ。嗜好の変化や特定の臭いに敏感になったり、妊娠初期に酸っぱい食べ物を欲することもよくあるんです」

「ガーネストたちが生まれた時、義母上も相当つわりなどで苦しまれたので」と言い訳みたいにそんな一言を付け加えたのは、「なんでそんな詳しいの?」って視線を幾つも感じたからだ。

産んでないよ?

ってか、産めないよ??

椅子に腰かけたままながら、姿勢を正したアイリーンが部屋中に視線を投げ掛け、そして静かに頭を下げた。

「この旅のわたくしの暴挙を改めて謝罪するわ。出来るだけ迷惑を掛けないようにするから」

「ふざけないで」

謝罪の言葉を途中で遮る。

「迷惑ならもう充分すぎる程かかってる。君になにかあれば、大勢の首が飛ぶし、下手をすれば戦争だ」

「カイザー殿っ」

辛辣(しんらつ) な言葉にアレクサンドラが制止の声を上げるが、チラリと視線を向けることで黙らせた。これは知ってて貰わなきゃならないことだ。アイリーンにも、そしてジャウハラの人間である彼にも。

「ジュエラルはジャウハラと敵対する意思はありません。使節団の派遣もそれ 故(ゆえ) のこと。ですが、万が一ジャウハラで彼女の身が損なわれることがあれば、そうも言ってはいられなくなるかも知れません」

なにせ彼女は王妃で、その身に宿すのは次代の王となるかも知れない存在。

「アイリーン、君はティハルトに戦争の火蓋を切らせる気かい?」

「……っ」

「君の覚悟はわかってるよ。だけど、手段と目的を間違えないで。君が一番しなくてはならないことは自分とその子の身を守ることだ。それはティハルトのためであり、全ての者の為でもある。

もう既に私たちは巻き込まれているんだよ。だから迷惑を掛けないじゃなく、少しの不具合でもあればすぐに言って貰わなくては困る。手遅れになる前に」

まぁ、この問題児だけじゃ信用ならないし、とベテランっぽいメイドや従者へと向き直った。

「少しでも不調や異変があればすぐに伝えるように。アイリーンに口止めされたとしても、だ。最悪の場合はその場ですぐにアイリーンをジュエラルへと送り返す」

「「はい」」

あとにアイリーンが「わたくしの使用人なのに、カイザー様の言うこと聞くんだけどっ?!」とかぼやいてたけど知ったこっちゃない。