軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十六話 紀伊遠征軍

九鬼志摩海城は志摩大王崎に最近築城した、

九鬼の本拠地の海城だ。

まるでその新城の主かのように、

信雄が上段の間の上座に座る。

次席には秀政。

その次には信雄家臣団、

そして芋粥家臣団と続く。

城主の九鬼嘉隆は端に追いやられていた。

秀政はこの場で信雄家臣団と初顔合わせした。

史実と異なり、早々に信雄は伊勢支配に失敗し、

今は大和郡山周辺を領有するのみである。

そのため、今回のような突発的な遠征費、

すなわち米や武具の軍費、農兵の徴兵、九鬼や堺鉄砲衆の雇用費は、

織田ブランドによって行えるが、定常的にかかる出費、

常備兵や家臣団の俸禄などは多くを賄えない。

よって、信雄家臣団は史実に比べて貧弱ではあった。

信雄守役にして筆頭家老、尾張馬廻衆出身、

柴垣与一郎秀兼が頭を下げる。

「柴垣与一郎秀兼でござる。

芋粥備前様のお噂は常々聞き及んでおりまする。

ご迷惑をおかけすることもございますが、

なにとぞ、備前様の知略を殿のためにご尽力賜りたく。

伏してお願い申し上げます」

見るからに実直そうで、

おそらく常々信雄に振り回されているのだろう。

(迷惑前提か。分かってるな)

続いて、尾張の足軽大将からの叩き上げ、

林孫太夫長三が頭を下げる。

いかにも脳筋と言った筋骨隆々の男だ。

「林孫太夫長三にござる。

以後お見知りおきを!

我が殿は天下人の器にございます。

これに備前様のお知恵が加われば、

紀伊などいとも容易く平定しましょう!」

(うむ、こ奴もきっと馬鹿だ)

最後に目の下にくまを作り、頬がこけた男が

頭を下げた。

「軍監・勘定奉行の岡部源八郎政継と申します。

よろしくお願いいたします」

(覇気がない。勘定奉行と言ったか。

堺傭兵に九鬼水軍。

馬鹿殿は「金はある」と嘯いたが、

どうやら岡部殿の努力の賜物とみた。

哀れな……)

信雄が柴垣たちに向けて元気よく命じる。

「柴垣、紀伊遠征軍の軍略は全て副将たる、

秀政殿に一任しておる。

お前達は秀政殿によぉ尽くせ!」

「「はは!」」

(おぉ、信雄、分かっているではないか。

俺に任せるのが一番だ)

「芋粥備前守秀政にござる。

謹んで副将の任を承る。

全てこの秀政にお任せあれ。

我が軍からはこれらを連れてきました」

加藤清正に目を向ける。

「芋粥黒鬼兵を率いる、加藤虎之助清正です」

清正が頭を下げる。

「そしてこれが、赤鬼兵を率いる福島市松正則です」

正則も清正に続いて頭を下げた。

今回はここにさらに四人連れてきている。

白鬼隊の部隊長たちだ。

白鬼隊は綾芽が軍団長を務めている。

綾芽は浅野の次女にして鷺山の妻だ。

白鬼隊が、

予算や軍備において他の鬼兵たちから妨害を受けたり、

隊員の女子が男どもから変な嫌がらせを受けないのは、

綾芽が軍団長だからこそである。

もしそのような狼藉を働こうものならば、

軍事家老の浅野と、昇り龍にして青鬼軍団長、桑名城主の鷺山を同時に敵にする。

そして白鬼たちは素直な者が多く、

その威を借りず、慎ましやかに振る舞うため、

鬼内での緊張は特に見受けられない。

この異質な軍団は軍中に上手く溶け込めていた。

そんな綾芽も浅野の娘として、伊賀忍びの家の出として、

武芸百般に秀でおり、騎馬鉄砲の扱いもなかなかのものである。

ただし、今は身重。

ゆえにこの場には綾芽の側近の部隊長が控えている。

彼女達は伊賀忍びの中でも騎乗や鉄砲が得意な武闘派くノ一から選ばれた。

二十五人ずつ 白妙(しろたえ) 隊、 雪音(ゆきね) 隊、 氷花(ひょうか) 隊、 紗雪(さゆき) 隊に分かれ、

その隊長にあたる。

白妙隊、霞。

冷静沈着、常に無表情にして、騎乗射撃の達人。

馬術に長けて風切り羽の髪飾りが特徴の、

速射速脱、まさに白鬼の矢。

雪音隊、朧。

物静かに笑顔を絶やさず、掴みどころがない。

素早さは欠けるが、その落ち着いた射撃は百発百中とも言われる。

氷花隊、凛。

豪胆、明朗、姉御肌。槍や刀の扱いも上手く、

綾芽の護衛を務める。

紗雪隊、雫。

無邪気な天才、天真爛漫。

だが最も射撃の腕がよく、特注の長筒を使って

長射程でも敵を仕留める。

小柄な体格で重心が安定し、唯一疾走射撃ができる。

この四人が白い狩衣を着込んで加藤、福島の隣に座る。

秀政による紹介が終わると、信雄が興奮気味に声をかける。

「おうおう、お前達はあの場で的を射抜いた者達だな。

あれは見事であった。

お前達、この俺の傍に控えて護衛せよ」

「「は!」」

四人が声を揃えて応じる。

(頼むぞ、今回は子守りがお前達の役目だ)

そして軍議が始まる。

秀政が地図上を指さしながら説明していく。

「まず狙うは新宮城にございます。

敵は堀内新次郎氏典」

柴垣が不思議そうに質問する。

「まずは伊勢から近い紀北ではないのですか?」

「はい、我々は九鬼水軍と共に攻めます。

どこから乗り込んでも同じ。

ならば最初に安定した拠点を取得するが良策。

海上封鎖、川封鎖、奇襲戦が予想されますが

ここならば九鬼水軍が全力で戦えます。

その火力で容易に勝ち取れましょう」

「そうじゃぞ、柴垣。

秀政殿に任せておけば勝ちは見えておる!

あ、いや。九鬼水軍も頼もしい。

お前達がいることを俺は忘れてはおらん」

信雄が総大将ぶって九鬼にも話を振るが、

九鬼は軽く一礼だけで済ませた。

(よほどこの半月が堪えたのだな)

これ以上、九鬼が絡まれずに済むように、

秀政が割り込む。

「嘉隆殿。

今回は九鬼殿の水軍にて海上封鎖する敵兵を粉砕していただきたい」

「承知。

我らの安宅船、関船、小早の船団をもってすれば容易!」

信雄が満足そうに頷く。

何か言い出す前に再び秀政が話を割り込む。

「押送船、弁才船は如何ほどお持ちですか?

新宮城攻めの兵どもを水軍と共にいくら運べましょうか?」

「そうだな。千五百は運べる」

「おぉ、そこまで!

ならば新宮城攻めの先陣として、

三介様の親衛隊と堺鉄砲衆を運んでいただこう。

柴垣殿、林殿、指揮を任せてもよろしいか?」

「お任せくだされ」

「芋粥の鬼兵と大和農兵は、此度の新宮戦には不参加とします。

新宮湊を得た後、九鬼殿には二往復していただき、

後から合流します」

信雄が目を輝かせて問いかける。

「俺はどうしたらいい!?」

秀政は困った顔で九鬼嘉隆の方をみるが、

九鬼は目を合わさず首を振る。

「く、九鬼殿。三介様が乗る大将船として関船を一隻貸していただけぬか?」

眉間に皺をよせるが、自分の旗艦・安宅船に乗り込まれるのも困るため、九鬼は渋々頷く。

それを受けて取り繕うように秀政が続ける。

「あ、あぁ……三介様。

総大将というのは戦の全体を見届ける必要があります。

海戦後方にて、大将船の関船に乗り込んでの出陣となります。

この俺と白鬼隊がお供致します」

「ん?そうか、秀政殿と白鬼隊も乗り込むというのであれば致し方ない。

大将船に俺も乗り込もう」

秀政は再び九鬼嘉隆の方を見ると、同情の目で見つめ返された。

「では、実際に堀内との決戦についてですが……」

と切り出した所で、信雄が何かを言いかけたため、

慌ててそれを上書きする。

「戦術は陸の者が語るべきではありませぬ。

海の専門集団たる九鬼殿に一任します。

三介様、ここは九鬼殿に『打ち破れ』と命じるだけで良いのです」

「そ、そうか!

なら九鬼殿、任せたぞ。

新宮の湊と堀内を見事打ち破れ!」

「承知!」

再び九鬼が短く応える。

「九鬼殿が制海権を得たならば、柴垣殿ら織田軍は、

一斉に新宮城へ向かって包囲してください」

「承知仕った」

柴垣が応える。

(くそ、俺が総大将ならもっと柔軟に作戦を決められるが……。

致し方なし。九鬼殿と柴垣殿に任せるしかない)

「各々よろしいかな?

では、三介様、皆に出陣の下知を!」

「うむうむ。では皆の衆。いざ出陣!」