軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十七話 遠交近攻の布石

それから十日後。

慌ただしい準備を終えて、長政を主将とした芋粥四千二百が鈴鹿を出陣した。

この兵站計算にはお悠だけでなく、明も積極的に手を貸した。

悠の血を色濃く継いだか、兵站の才も早くも芽を見せている。

「少しでも長政様のお役に立てるように」

滞りはない。

すべて整い、出陣の日を迎えた。

門前で親子そろって、長政たちを見送った。

長政が手を挙げて進軍を一時止めた。

馬から降りて明の元へいき、静かに呟いた。

「行ってまいる。

たとえ越後の龍が相手であろうと、

私は必ず明の元へ戻る」

「長政様……。

約束してくださいまし」

「もちろん必ず生きて戻ると約束する。

私は伊勢の芋だ!」

明は口を押さえて泣きながら笑う。

「あまり強そうにございませぬ」

二人がくすくすと笑う。

少しの間、手を握り続ける。

「そうやって笑って待っていてくれ」

「はい」

そして秀政とお悠の前に立つ。

「義父上、義母上。

芋粥の男として、恥じぬ戦いをしてまいります。

そして必ず勝利を掴み生きて戻ります」

「うむ、お前だから任せられる。

生きて戻ってこい」

秀政がしっかりと目を見て伝える。

お悠は横から優しい眼差しで長政を見送った。

「それとな、長政。

上杉とは手取川では戦うな」

「手取川?義父上は何か掴まれておるので?」

「いや、そうではないが。

何と言えば良いか。

今朝夢を見た。

手取川で織田が大敗する悪夢だ。

俺の予知夢はよく当たる」

(史実通りになるとは限らん。

だが用心に越した事はない。

我ながら馬鹿げた話だがな)

秀政が迷信、占いの類を口にすると思っていなかった長政は驚いた顔をした。

「心得ました」

松丸が割り込んできて、長政の腕を掴む。

「万兄、越後の龍をやっつけてきてくれよ!

絶対に万兄なら出来る!」

「あぁ、死なない程度に頑張るよ。

越後の龍かぁ、なかなか手強いな」

「当たり前だ!死んだら怒るからな!」

「あぁ、土産話を楽しみにしておいてくれ」

「おぉ!」

長政が戻り、馬にまたがる。

そして後ろを見ると、同じように別れを惜しむ兵たちの姿があった。

そっと微笑むと、しばらく馬上で兵の別れを待つ。

「もう大丈夫ですよ、行きましょう」

後ろから鷺山が近づいてきて声をかけた。

再び後ろを向くと、全兵が前を向き、

闘志を露わにしている。

「全軍進軍!向かうは大聖寺城、丹羽様と合流する」

芋粥軍が進軍を開始した。

それから三日後、鈴鹿館の奥の間で政務を行う秀政の元に門番が報告にあがる。

「殿、伊勢介様がお戻りになられました」

「何?政親が?通せ」

秀政が上段の間に到着して、上座に座る。

「義兄上、ご無沙汰しております」

「おぉ、政親。良く戻った。

音信がなくて心配しておったぞ。

お前のおかげで芋粥だけでなく、織田は救われている。

四国ではようやったな」

「は、そう言っていただけるならば、ありがたき幸せ。

中々苦労しました」

「その後ろにおる者は?」

政親の後ろには面構えの良い武者が三人控えていた。

「はい、四国扇動中に見どころのある者を登用しました。

私の新たな家来どもです。

まず来島小太郎満久。

河野滅亡時に来島水軍の分裂した際の分家筋の男です。

和具湊に新たな芋粥水軍を作ろうと考えています。

関舟を主とした外洋にも出られる水軍です。

次いで、篠原兵部大輔吉興。

三好残党の一派の長で阿波篠原家の出の者です。

武勇もさることながら、これまで戦で叩き上げた勘は

中々のものです。

香川甚助左衛門。

三好鉄砲隊の足軽大将だった男です。

鉄砲の腕、運用に詳しい」

「そうか、頼もしい者達を登用できたな」

(政親がかなり強力な私兵を持つことになるな……)

「いえ、それよりも義兄上、実はお伝えしたいことが……。

お前達は下がっていいぞ。

外様控えの間で待っておれ」

政親は用件を切り出す前に、すぐに部下を下がらせた。

策を語る時に政親は人払いしたがる癖がある。

「……大事な用……という訳か」

秀政が警戒して尋ねる。

「はい、今後の動きを語る必要がありまして」

「申せ」

少しだけ間をおいて政親が語りだす。

「四国の中を掻きまわして参りましたが――

もう持ちませぬ。

長宗我部元親……なかなかやります。

三好・河野の残党も、持ってあと一年か二年」

「そうか。再び四国を平らげると、

長宗我部が本州に出てくるかもしれん。

まだ織田は迎撃の準備が整っておらん」

「はい、折角傾きかけた織田への流れが断ち切られましょう」

政親は淡々と話す。

それを見て秀政が静かに尋ねる。

「策がありそうだな?」

「ないこともないです。

遠交近攻」

「……九州と言いたいのか?」

政親の口角が上がる。

「さすが義兄上、話が早くて助かります。

大友に技術と武器、金をつぎ込み、九州を平らげてもらって、

背後から毛利・長宗我部を牽制しましょう」

ここで秀政が静かに言う。

「……政親。大友ではなく、島津にせよ」

政親の顔に驚きが映る。

「は?

島津は南九州の一勢力に過ぎませぬ。

ようやく三国を得たところくらいでは?

九州の王は大友では?」

秀政が首を振る。

「あと五年もすれば、島津が九州を押し切る。

大友は衰えつつある。

島津の方が、毛利にも長宗我部にも、よほど脅威となる」

政親はしばらく考えこむが、すぐにいつもの表情に戻る。

「御意に。

義兄上は鈴鹿におられながら、九州にまで目を光らせておられるとは……

さすがにございます。

正直、内政に現を抜かしているかと思っておりました」

「最後の一言が余分だ」

政親が悪戯っぽく笑う。いつもの政親だ。

それを無視して秀政が命じた。

「よし、そうと分かれば――

芋粥として島津と誼を結んでこい。

遠交近攻、非公式にだ」

「は!

九州制覇の暁には、

毛利と長宗我部を挟撃する約束を取り付けてまいります。

その見返りは?」

「その見返りに、芋粥の肥料の作り方を教えてやれ。

薩摩の石高は爆発的に膨らむ。

それはそのまま島津の力になる」

(ふっ、まさか俺が九州のキングメイカーとなるか)

「それは良いですね。

肥料農政に詳しい芋粥の奉行を一人連れていきたいです。

準備をお願いします」

「分かった。

準備しよう。出立は一月後でいいな?」

「はい。たまには御影の元に戻らねば千種の跡が絶えますしな」

政親は軽く笑う。

「そうだぞ、御影殿が喜ぼうものだ。家族は大事にせよ」

「心得ました」

政親が下がる。

一人残った秀政が思考に耽る。

(政親は便利で、先を共謀するに足る知恵を持つ。

だが手放しでも頼れぬ。

とはいえ、今は西をどうにかせねばならん。

俺が天下を狙えるとしたら……。

十年後、フリゲートとアラブ馬、香辛料貿易が完成してからだ。

それまでに織田が滅ぼされるわけにはいかん)