作品タイトル不明
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調味料工業団地には今や多くの人が住んでいる。
鉄道も本来の線路と調味料工業団地から出ている線路が駅の所で一緒になる工事が終わり、蔵も予定している物全部ではないがかなりの数建設が終り、もう製造を始めた蔵もいくつかある。
大豆の収穫を得てしょうゆと味噌の蔵、温室栽培されていたスパイスを使って調合しているカレー粉等である。
「オラ、カレー粉を2種類に増やしたいっす」
調味料工業団地で働き始めて数か月が経ったノエミがガタガタの歯を隠す事なく豪快な笑顔で言って来た。
この調味料工業団地の団地管理長はノエミではない。
見た目が幼い私が言うのも何なんだけど、経験も実績も無い若い女性が大きな工業団地をまるっと管理するのは難しいし、他の従業員たちもついて来ないだろう。
だからノエミは団地内の全ての蔵のコーディネーターとして働いてもらっている。
そして団地管理長は別の町で潰れたエール蔵を営んでいた男を据えた。
お酒関連は全部彼に任せているのだ。
ただ日本酒は未だに造れない。
米が少ないのだ。
私のスキルで呼び出し、契約農家たちに作らせているのだけれど、全然収穫量が足りないのだ。
だから、日本酒だけでなくみりんも作れてない。
もちろん米酢も。
米酢は将来お寿司を作りたいので是非欲しい。
ただ、お酢という観点からだけ見れば、調味料工業団地ではブドウを使って試験的にお酢を作り始めた。
所謂ワインビネガーだ。
サラダなんかは米酢より断然ワインビネガーの方が合うから、ワインビネガーも絶対欲しかったんだよね。
お酒も小麦やブドウを主材料としている物は既に仕込んでいる。
次はトウモロコシや他の材料で作るお酒も順次増やして行きたい。
モリスン村店の温室で大事に育てられているリュウゼツランもすくすく育って来ている様だ。
50代で既に顔がシワシワ、色もどす黒く、体は痩せているのに重い物を持つと腕に血管が浮かび上がる団地管理長は酒造りが大好きだそうだ。
彼が彼の家族と造っていたエールは雑味が多くあまり売れなかった様だが、ウチで作る酒造類は新しい造り方が満載で毎日が楽しいと言っていた。
もちろん魔法契約をしているので、ウチの製造方法を余所に漏らす事はしないだろう。
彼の家族も職員として蔵で働いている。
あっ、そうだった。ノエミがカレー粉を2種類にしたいって言っていたんだった。
うっかり気持ちが工業団地の方へいっちゃってたから、私の返事を待っているノエミをほったらかしにしちゃってたよ。
「どうして2種類作りたいの?」
「あんのぉ、内臓系の肉の臭みを取るためだけのカレー粉と、カレー味の料理を作るためのカレー粉であれば、スパイスの配合を変えてもええんじゃないかと思ったっす。肉の臭みを取るのには高いスパイスの配合を少なめにしても十分使えるっす。もったいねぇっす」
「なるほど!良い着眼点だわ。その案、採択します。既に配合は決まっているの?」
「あい!」
ノエミは嬉しそうに頷き、ポッケから蓋付の小さな入れ物を取り出した。
「これっす。これは小麦粉の配合が多めっす。だから色もちょっと薄目になったっす。でも、臭みは十分取れるっす」
「実際に種類の違う肉で試してみたの?」
「あい。以前お嬢様に確かめる時にはいろんな素材で確かめる様に言われたので、おら、ちゃんと言いつけ守ってるっす」
「わかったわ。では、その臭み取りを採用しましょう。製造ラインはどの様にする心算?」
「今あるラインで配合を変えるだけなので、問題ないっす」
「そう。製造ラインでは作る物の種類や配合を変える時に、前の製品と混ざらない様に徹底して清掃を行ってね」
「およ?」
「分かりやすく説明すると臭い取りの方は小麦が多く含まれているのに対して、普通のカレー粉は小麦はそこまでではない。と言うことよね?」
「あい」
「で、残りの材料は殆ど一緒」
「そうっす」
「でも、臭い取りを作った後、ラインの配合鍋を綺麗に掃除しないと次に作るカレー粉は最初小麦粉多めのカレー粉になる可能性があるってことになる。そうすると料理人が普段使っているカレー粉の分量で調理すると味の薄い料理になってしまう・・・・。ウチの蔵を出る調味料は、瓶詰にされる時にはみんな同じ味でなければいけないの。そうでなければ蔵で調味料を配合する意味が無いから」
「意味が無い・・・・?」
「そうよ。毎回調理場で配合しなければならないのであれば、元々カレー粉を用意する必要はなく、調理場にカレー粉となる材料を置いておいて、料理人が都度自分の好きな様に配合すれば良いと思わない?それなのに、こうやって蔵で配合するのは毎回同じ味を提供する事で料理人の仕事を軽減する事が目的なのよ」
「軽減・・・・」
ノエミは私が言った事を一生懸命理解しようと口の中で何かを呟きながら確認している。
まだ飲み込めない様で、「お嬢様、作る物を変える時、ラインの清掃はちゃんとやるっす。今、お嬢様が言ってくれた内容をちゃんと理解する様頑張ってみるっす。今はまだちゃんと理解できてないので、時間が欲しいっす」と呟いた。
「ええ、わかったわ。じっくり考えてみてね」
私がそう言うと、さっきまでは元気だったノエミが、ブツブツと何かを繰り返し呟きながら挨拶もせず私の事務所を出て行った。
私が建てたどのホテルや施設にも、私専用の事務所がある。
普段、私が居ない時には鍵を掛けて閉め切られてしまう部屋なのだ。
今、ノエミはその私の事務所を出て、蔵全体を纏めている調味料工業団地内で多くの職員が働いている事務所の方へ行く様だ。
「ノエミは相変わらずですね。挨拶もせずに辞して行きましたね」とダンヒルさんはちょっと呆れ気味だが、ノエミが目の前の事に一生懸命で、周りが見えないのは何時もの事だ。
ダンヒルさんと顔を見合わせて「クス」と笑うまでがお約束だ。