作品タイトル不明
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「はじめまして。デ・フピテル工房のマンテールと申します。大公様には普段から大変お世話になっております」
私の目の前で丁寧な貴族に向けて行う所作で行われた挨拶。
その男は父さんより少し若いくらいで、真っ黒であっちこっちを向いて纏まりのない髪、ギョロっと見ている物を焼くかの如く鋭い視線を発する緑の瞳、美醜で判断すると決して美男には成りえないのにドンフアンの様な独特な女性慣れした優男風の雰囲気も併せ持っているとっても不思議な男だった。
身なりを気にしない野暮ったさと、その気になると発せられるのだろう、『オレはモテるんだぜ』っていう雰囲気が混在する変な存在。
でも、大公様の屋敷で見た彼が作った彫像は昔イタリアでたくさん見たバロック風の彫刻だった。
素材は石なのに、布は布の質感を持たせ、子供の髪は柔らかさが出ており、肌はそのすべらかさが分かる様な形で一つの像を1つの岩から掘り出して作り出している脅威の腕を持つ男なのだ。
本当に実力のある彫刻家だと思う。
デ・フピテル工房は元々親方がおり、マンテールはその娘と結婚し、工房を引き継いだとダンテスさんに前もって聞いていたが、実は親方よりマンテールの方が芸術家としては上なんだそうだ。
私は親方の彫像を見た事がないので、どっちが上か下かは分からないけどね。
「お嬢様は今回、高級な宿をいくつも作られるそうで、そこの庭園に私の彫像を置きたいと伺っております」
「はい。2つの村と3つの街で建設予定ですが、既にその内の幾つかは建築を始めています。今は同時に庭園の方に手を加えている途中です。後、もう一つ。私の事はお嬢様と呼ばないで下さい。私は平民なので、お嬢様ではありません」
「はい。平民とは伺っておりますが、大公様の精鋭の一人とも伺っております。この国で大公様の精鋭を敬わない者はおりません。でも、お嬢様呼びが落ち着かないとおっしゃるなら、どの様にお呼びすればよろしいでしょうか?」
「アウレリアとお呼び下さい」
「分かりました。では、発注主と言う事もございますので、アウレリア様とお呼びします」
発注主と言われてみれば、それは間違いでは無いので納得するしかない。
無言で頷いて同意を示した。
「私は、全ての宿屋、私が作っている物はホテルと呼んでおりますが、ホテルの庭に大きな彫像を1つずつ、そしていくつかのホテルの建物内にも小型の彫像を置きたいと思っております。庭園に設置する作品は私が作る噴水というモノの後ろを飾るモノにしたいと思っております」
「噴水?」
「失礼ですが、私どもの『フローリストガーデン 光』という食堂においでになった事はないですか?」
「2度だけあります。貴族の方のお仕事の打ち合わせに使わせて頂きました。お料理も建物も芸術のような・・・・」
「本館だけでなく、温室にも入られた事はありませんか?」
マンテールがウチのレストランの賛美を始めたので、ちゃっちゃとぶった切って話を進める。
「あります。1度だけですが」
「そこで水が湧いている陶器を見られた事はないですか?」
「あります、あります!ああ、あれが噴水ですか」
「そうです。あそこでは小さな噴水ですが、庭園には大きなモノを設置予定です」
「どのくらいの大きさですか?」
「台座は楕円形で、端から端までで6~7マートルのモノを考えています。水が湧き出る所は左右と中心の3箇所を考えているので、水の高さも最大で2マートルまで到達できる物を想像して頂ければ、その後ろを飾る彫像は半円形で同じ様に6~7マートルの作品。高さも同じく2マートル前後、白い石を削り出したモノが良いと思っています。題材は、こちらで指定しても良いですし、デ・フピテル工房様で考えて頂いたものの中からこちらで選んでも良いです」
「ふむ。相当大きな作品になると言う事ですね」
「既にモリスン村の庭園には噴水が出来上がっていますので、実際の大きさや水の流量などを体感されたければ、敷地へ入れる様に手配致します」と、ダンテスさんが実物を見てもらった方が早いと思ったのだろう、ちゃっちゃと話を進めてくれた。
「どんな感じの物を考えていますか?」とマンテールさんに聞かれたので、白い画用紙に上部にアカシアの葉の模様の付いた円柱を噴水を囲む様に複数並べて、中心部に大きなピエタ像の様な像を描き込んでみた。
「おおおお!これは凄い!アウレリア様はご自身では工房はお持ちじゃないんですか?」なんて言われてしまった。
私の描く絵っていうのは絵画というよりはコミックやアニメに違い。
だから異様に人間臭くない綺麗な顔の実際にはこんな体つきの人間は居ませんって言われそうな絵になっているのだけれど、マンテールさんは構図もスゴイ!と何かとっても滾っている感じだ。
地球の美術のなんちゃってコピーなので、ごめんなさいと地球の画家や彫刻家に言いたくなるくらいいい加減な絵なんだけど、こちらの世界にはこういう感じの彫刻は無いのかもしれない。
王城でデリバリーの時庭を見たりする余裕がなかったから、本当の意味でこちらの世界の美術品と言うのは大公様の館とその庭くらいでしか見た事が無いのだ。
その作品は綺麗な大人の女性が酒瓶を抱え、そこから酒が流れ出しているというモチーフだった。
現王様の伯父とはいえ王城と比べれば小規模の館だし美術品も少な目だと思うんだけど、王城そのものの美術品を見てないので、ましてや美術館とかも無い世界なので、私が望んでいるモノがこの世界でどのくらいの位置になるのか分からないのだ。
「あのぉ・・・・この様な彫像だと、大公様から発注されているお値段で造れるものでしょうか?それとも予算オーバーでしょうか?」
「アウレリア様、大丈夫でございます。お話を頂いた時の予算内に収まると思いますので、ご安心ください。材料はこちらが見込んでいた量で充分対応可ですし、彫像自体も中央部分だけですし、残りは円柱の飾り部分だけなので、ご予算よりお安くできるくらいです」
「安心しました。大体、こんな感じですが宜しいでしょうか?」
「もちろんです。まずはモリスン村の噴水を見学させて頂きたいです」
「そちらについては、こちらで手配致しますので、ご安心下さい」とダンテスさんが救いの手を差し伸べてくれた。
マンテールさんはじめ、デ・フピテル工房の方々が帰った後で、「アウレリア様は美術と言われましたかな?絵とか彫刻はそんなに高い物ではないんですよ」とダンテスさんが教えてくれた。
お抱えの絵師というシステムは無いそうで、パトロンが居ないのが当たり前。
色々作った物を貴族や王族、豪商をめぐって売り歩いたり、今回の様に突然の発注を請けたりするんだそうだ。
絨毯と同じで製図を引けば錬金術で作れるのだけれど、手で掘った彫刻は微妙なタッチの差が出るので、貴族は好んで買うそうだ。
だが、錬金術だと簡単にできるので、元々のお値段が安いと言った感じだそうだ。
それなら壁画もお願いしてみようかなと思ったのは秘密!
ロビーの天井とか、吹き抜けの所に大きな壁画があると良いかも?