作品タイトル不明
小さな日用雑貨店へようこそ1
「いらっしゃーーーい」
メグが私の首に齧り付く様に両腕を回しながら飛びついた。
ポンタ村を出て9日、漸くゴンスンデの町に着いた。
ゴンスンデはこの辺りでは大きな街で、3階建ての石造りの建物も多く、王都の建築技術とそう変わらない。
そんな街の北側、大通りから2本奥に入った道に1階建ての木造建築『東の日用品店』はあった。
周りの建物は木造もあれば、石造りの物もあるが、大通り程背の高い建物は少ない。
何故『東の日用品店』という名前かと言うと、以前は街の東側に店を構えていたらしい。
北の方が治安が良く、先に出店していた日用品店が店を閉じたため、その後この店を買い取ったそうだ。
その際、新しい店名を考えようとしたのだが、お客の方が「あ、東にあった日用品店だよね」と呼んでいたので、『東の日用品店』という名で定着してしまったそうだ。
店に歴史ありだね。
「メグ、元気だった?」
「うん!」
にっこりと笑った勇者様が私だけじゃなく、あややクラブの面々に笑顔を振りまいた。
店の奥から勇者様と同じ色の髪色、同じ目の形をした痩せぎすのおじさんと高校生くらいの男の人が出てきた。
「メグの父です。こちらは長男のハミルです。ようこそお出で下さいました。ささ、立ち話もなんでしょう、どうぞ奥へ」と、身振り手振りで私たちを店の奥へ連れて行ってくれた。
メグやメグ父と同じ髪色の男性は、勇者様の年の離れたお兄さんだった。
店内は木造の棚が所狭しと並んでいて、質素な器や、平民用の下着とか、簡単な調理器具、紙とかインク、塩なんかが並べられているのだが、なんとなく日本のディスカウントショップの品揃えを思い出した。
もちろん、規模は100分の1くらいの零細なんだけどね。
恐らくお客さんから、「〇〇はある?」という問い合わせに答えて増えに増えまくった品数って感じだ。
だけれども店舗そのものがささやかなので、取り扱っている商品の種類は多くても数そのものは少ない。
仕入れはどうやっているんだろう?少量しか仕入れしなければ、仕入れ値だってすごく安くなるって事はないだろうし・・・・。
なんて考えていたら、店の奥の勝手口から居住区域に入り、台所らしいところのテーブルに誘われた。
小さな店なので応接室がないのだろう。
でも、居住区域に居間はないのかな?なんて思っていたら、ワラワラと小さな子が沸いて来た。
メグ父と髪の色や目の形が全員一緒で、マトリョシカを思い浮かべてしまった。
「メグの弟や妹たちです」とメグ父が紹介してくれた。
メグから年子で4人、お兄さんも入れて全部で5人兄弟?
なんて思っていたら、現在メグ母のお腹の中にはもう一人居るらしい。
大家族だね。
お兄さんだけ年が離れてるなぁ。
「僕は母親が違うんです。僕が生まれた時、母が亡くなってしまったんですが、その後すぐ父は再婚しまして、今の母と二人で何とか僕を育ててくれました。最初は兄弟が出来る感じは無かったのですが、メグが生まれてからは順調に家族が増えています」
メグ兄、ハミルがあははと笑いながら説明してくれた。
学園にいた時から、兄弟が多いとは聞いていたが、ここまでだとは思っていなかった。
居間がなくて所謂ダイニングキッチンが居間を兼任しているのも、元々あった居間を潰して寝室の数を増やし、この小さな店の中に大勢の家族が住む工夫をした結果だとのこと。
もちろん、私達は宿に泊まるのでメグの家に迷惑を掛けない様にしているんだけど、ここまで人口密度の高い家だと思ってなかったので、訪問そのものが迷惑になったのではないかとちょっと心配になって来た。
「今夜は是非、家で夕食を召し上がって下さいね。メグの弟たちも、メグが学園でどんな風に暮らしているか興味津々なんです。メグはちゃんと勉強していますか?」と私たちを入れて全員で座るとギチギチなダイニングテーブルにお茶を配りながらメグ母が聞いて来た。
闇王様はこういった狭い家とか、大家族に慣れていないらしく、興味津々なのを隠そうともせず目をランランと輝かせ、あっちこっちキョロキョロと見ている。
彼にとっては全く新しい世界なんだと思う。
しかし、、中身が大人な私から言わせてもらえれば、他家では失礼にならない程度で収まる様に好奇心を押さえて欲しい。
私たちを代表して、闇王がメグ父にお土産を渡している。
日用品店を営んでいる相手に、何を土産にすれば良いかを最後まで悩んでいたらしいけれど、王都で手に入るお洒落な布を3反持って来ていた。
メグん家の店でも生地は売っているけど、高級店ではないので生成りとかしか扱っていないみたいで、闇王が悩みに悩んで選んだ絹の生地はその柄も含めて超高級品。なので、この店の売り物とは全然違う物なので、この店の売り物とは被らず、ちゃんとお土産として差支えの無い物だ。
3反は全て絹で、青系、赤系、白系の色味で、柄は全部違うテイストの物。
大人用や子供用等、使い分けが出来そうで、ナイスチョイスだね、闇王さま。
「まぁまぁ、上等な布をこんなにたくさん、ありがとうございます」
メグ母の頬がほんのり赤くなって、目は布にロックオンされている。
小さな子供が触れて汚さないうちにとちゃっちゃと夫婦の寝室に仕舞いに行った様だ。
寝室から戻って来たメグ母は、「みなさん食べれない食材ってありますか?」と夕食の準備に入る様だ。
ここは私が手伝った方が良いと思い、「お夕食の準備、もしよろしければお手伝いします」と申し出たら、「母さん、リアは凄く料理が上手なの!いつもおやつを作ってくれてるんだよ」とメグがはしゃぎながら母親の腰回りに纏わりついている。
「それではみなさん、よろしければ夕食の準備の間、僕がゴンスンデの町をご案内します。漁港のある村が近いので干物や、ヤシの木の一種でゴンスンデパームという葉で編まれたカラフルな籠なんかが特産品なので、その辺りも見てみましょうかね」とメグ兄の申し出に応えて、メグと私を残したみんなは一旦お店から出て行った。
この狭い台所にメグん家の弟たちとあややクラブの面々がデーンと座ったまま調理をするにはスペースが足りないからね。メグ兄、グッジョブ!
メグは一緒に行かないのかと闇王様が最後までグズっていたけど、これだけの人数の料理をメグ母一人に押し付けるのは申し訳ないし、私が調理のために残れば、自然とメグも残るよね。
ごめんよ!闇王。
狭いキッチンダイニングから可成りの人数がいなくなり、一瞬静かになったが、メグ弟妹たちがキャッキャとはしゃぐので、すぐに賑やかになった。
そんな中、スープを作るために野菜の下拵えを手伝ったり、ステーキの用意をしたりと手は動かしながらも、メグ母に問われるままに勇者様の王都での生活についての質問に答えていったら、とても嬉しそうに何度も頷いているメグ母がいた。