作品タイトル不明
女子に好かれない侍女の悩み相談
セリフが重なって、思わず固まった。
ミュー様も目を丸くしてる。
中々の混み具合のカフェの中、他の席が何を話してるかなんて普段は聞こえないのに。
ちょうど他の人たちの話が途切れた瞬間、特徴的な侍女仲間と同じ声が私達に届いた。
「……今のって?」
「たぶん……」
あの声、あの口調。たぶん彼女だ。
声のした方をソッと見てみる。
斜め前の席に男女がいた。
男性は衝立で隠れててわからないけど、その向かいの女性はーー間違いない。
「例の侍女です」
「あら奇遇」
ミュー様、嬉しそうなんですけど?
店内のざわめきが戻り、彼女の声も紛れてしまってる。
相手と何を話してるのかはもう聞こえないけど、たぶんいつもの〝相談〟なんだろうな。
「それで?その切り出し方から、どうやって落とすの?」
聞き耳は諦め、噂話に戻すことにしたらしい。
途切れていた話を再開した。
「えっと、はい。女子に嫌われてるから悩み相談も出来ない、て言って男性を呼び出すんです」
「嫌われてる自覚はあるのね」
「嫌われてると言うか……侍女仲間の間では、害がなければそこまで嫌ってないと思うんですけど。悩み相談出来るほど親しい人がいない、が正解だと思います」
「害があるって?仕事面で?」
「仕事は普通です。恋人を取られた、その一点だけです」
「それは害だわー」
「それで、悩み相談と言うのは付き合ってる相手のことですね。恋人の友達に『彼と上手くいってない』と聞いてもらって、親身にしてもらったら『彼と違って優しい』となり、『あなたが恋人だったら良かったのに』と」
「随分詳しいわね、シャーリー」
「別の侍女仲間で、彼女と別れた後の男性と付き合ってる人がいまして。『女子に嫌われてる』って言ってたけど、イジメとかあんの?って聞かれたそうです」
「相当無神経だけど大丈夫?それ」
「大丈夫じゃなかったです。正座で一時間説教してました」
「正座仲間だわ」
仲間?
「その際、彼女の手口を聞き出したそうで。仲間内で共有してます」
「なるほど」
話の合間に、特徴的な声が聞こえることがある。
「彼が冷たくて」
「連絡もくれなくて」
「寂しいのに会えなくて」
などなど。
切々と訴える彼女に対し、お相手は相槌を打ってるらしい。
……と言うか、彼女のターゲットなら王宮勤めの方よね??
これは誰だか知っておくべきかしら。
それとも知らないことにしておいた方がいい?
どうしようか悩んでると、ミュー様が少し目を細めた。
「ミュー様?」
「シャーリー、彼女王宮の文官なら誰でもいいの?」
「え?」
突然彼女の好みのタイプを聞かれる。
「ある程度の容姿は必要だと思います。能力や身分に関しては、皆さん王宮勤めをされるくらいなので問題ないですし」
「じゃあ誰でも良い訳?」
私は首を振った。
「必要条件は、〝恋人のいる男性〟です」
「……最悪の条件ね」
「最低ですよね」
例えば文官に好きな人がいたとして。
その人がフリーのうちは、彼女の目に入らない。
だけど、自分が告白して恋人になれた途端、彼女の何番目かのターゲットになる。
なんなら恋人になった次の日かもしれないのだ。
……それを思うと、恋人になろうと言う一歩が踏み出し辛い。
彼女のせいにしてはいるけど、結局は自分の勇気の問題なのだが。
「うーん。でもなぁ」
私がつらつら自分に言い訳していると、ミュー様は腕を組んで考えていた。
「どうしたんですか?」
「ちょっと見てくる」
言うが早いか、ミュー様は立ち上がって優雅に店内を一周し出した。
???
窓の外を眺め、ショーケースに並んだケーキを確認し、席に戻ってきたミュー様は私に顔を近付ける。
「アサトだった」
「え?」
「彼女の前に座ってるの、アサト・ワルロー子爵令息だったよ」
◇◇◇◇◇◇◇
頭の中が真っ白になって、ミュー様の言葉を理解するまでに時間が掛かった。
掛かりはしたが、ジワジワと浸透してくる。
「……アサト様?本当に?」
「見てくる?」
「いえ……それはしませんが、でもなんで?」
だって、アサト様には恋人も婚約者もいないのに……!
そこでハッとする。
……もしかして、私が知らなかっただけ……?
嫌な想像をしていると、ミュー様が「それはないわ」と遮った。
「私も知らなかったし、文官見習いが忙しかったのは本当でしょう?以前からいたならまだしも、新しく作る余裕があったとも思えないわ」
「……ミュー様、心を読まないでください」
「シャーリーが分かり易すぎるのよ」
「うぐ……」
呆れた視線に、顔を引き締める。
侍女たる者、表情で読まれるべからず。
侍女長の教えを思い出す。
「だから、おかしいのは恋人のいないアサトに対して例の彼女がアピールしてる点ね」
背中を向けてるミュー様は直接見れない位置だけど、私は少し目を向ければ彼女の様子が把握できる。
眉が下がり、いかにも悩んでそうな表情で何かを相手ーーアサト様に訴えている。
「……主義を変えた、とか。その……アサト様にだけは本気で」
「それにしては、手口がいつもと同じじゃない?」
「それだけの成果が望めるから?」
「まあそうかも知れないけど。私、ちょっとその手の女性に思うところがあるのよね」
「思うところ?」
ミュー様の意図するところを読めないで首を傾げていると、興奮してきたのか彼女の声量が大きくなった。
「こんなに優しくお話を聞いてくれるなんて……彼と違って、頼りになるんですねアサト様!」
名前が出て、思わずギクリと体を強張らせた。
すぐ声が抑えられてまた聞き取りにくくなったけど、話は続いてるみたい。
やっぱり彼女、アサト様を狙ってる……!
ミュー様がーー楽しげに目を細めた。
「思うところがあるのは、私だけじゃないみたい」
??
ミュー様は、先程から何を……?
戸惑ってると、ケーキを食べるか聞かれた。
「いえ、ちょっとそれどころでは」
「そう?ならいっか、後で心置きなく食べましょう」
ニコッと笑うと、身振りで立つように指示される。
「?」
同じく立ち上がったミュー様が近付き、ガシ!と腕を掴まれる。
「?!ミュー様っ……?」
そしてズンズン引っ張ってかれた。
?!!
「ごきげんよう。ワルロー子爵令息」