軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第869話 暗黒騎士イルゼ②

守護番の砦の地下牢にいるアレンの下へ暗黒騎士のイルゼがタブロス守護番長と少し遅れてやってきたブロッケン守護番長補佐を引き連れてやってきた。

「貴様が来訪者を語るアレンか。ん? 何をやっているのだ?」

複数人でも入れる広めの牢獄の床を創生スキルで作った金の卵やカブが埋め尽くす。

召喚獣たちが必死に掬うように魔導書に収めているのだが、秒間80個も作ると回収が追い付かなくなっていた。

「報告の通りです。この3日間、寝る間を惜しんでずっとこのようなことを続けています。おい、アレンよ。暗黒騎士様をお連れしたぞ! こっちに来ぬか!!」

タブリスが、イルゼが来たので鉄格子の前まで来るように叫んだ。

「おっと、これは、えっと……暗黒騎士さまですね?」

アレンは召喚獣たちと広い牢獄の中で創生スキルのスキル経験値稼ぎをしていたのだが、手を止めて鉄格子の前に歩み寄る。

アレンが首を傾げる態度を暗黒騎士イルゼは不快そうな言葉を発する。

「どこか……白々しさを感じるな。私をあまり舐めているとその首、何時でもこの鉄格子ごと切り落とせることを忘れるなよ」

(おっと。勘が鋭い感じか。あまりふざけない方がよいと。フルフェイスのヘルムで表情が見えないけど。それにしても守護番長が言っていた俺と同じヒヒの混血人か。俺と同じ人族の仲間かもしれないしヘルムをとって欲しいんだけど)

「申し訳ありません。暗黒神アマンテ様のもっとも側近くにいらっしゃる暗黒騎士様のものとは思えないほど、若い声の方が来られたもので……」

「何だと! 貴様はもっと若いのではないのか!!」

暗黒界天井の鉄格子からの地下牢とあってかがり火が鉄格子の前に焚かれているのだがアダマンタイト製のフルプレートの鎧のため顔を見ることはできなかった。

そんなイルゼは、アレンの言葉が気に食わなかったのか、フルフェイスのアダマンタイト製の 兜(ヘルム) をとった。

長い紫の髪は束ねられており、青い肌と上に尖った耳は魔族の証だ。

性格を反映しているのか透き通るような赤い瞳を持つ目はとても鋭かった。

「あれ? 後ろのお二人方、私と同じ 混血人(ハーフ) だと聞いていたのですが、魔族のようですね」

(ヒヒのね。って!?)

ビュンッ

だが、小刻みに揺れ、怒りに満ちていることが分かる。

ゆっくりと震える左手を抑えるように腰に差した片手剣の柄に手を伸ばした。

アレンの言葉はイルゼの逆鱗に触れてしまったようだ。

一気に腰から剣を引き抜いて、鉄格子の隙間からアレンの顔面目掛けて刺し込んできた。

「殺す!!」

「ちょ! うわ!?」

「おい、何をやっているのだ! 暗黒騎士様も落ち着いてください」

砦を預かる守護番長のタブロスは、激高したイルゼを落ち着かせようとする。

守護番長補佐のブロッケンと2人がかりでイルゼを取り押さえ、アレンの目の前でワチャワチャとなる。

「申し訳ありませんでした。守護番長から私の同胞だと聞いていたもので……」

(普通に魔族じゃねえか)

「き、貴様!? 何を言っておるのだ!!」

とりあえず人のせいにすると、今度はタブロスが噴き出しそうになる。

だが、この状況にようやく落ち着いたイルゼがスクッと立ち上がりアレンへと視線を向けた。

「……まあよい。貴様をこの場で問い詰めさせてもらうぞ。さっきのようなことがあれば、いつでも打ち切り、不法に島にやってきた混血人と断定するからな。故に覚悟してもらうぞ。それで別の世界から来たという話だな。随分若そうだが俄かには信用できないぞ」

(おろ? 話を進めてくれるのね。真面目に対応しないとな)

「はい。私の状況についてはお聞き及んでいるということですね。若輩であることは否定しませんが軍の指揮を任される立場におり、今回の重要な任命を受けこの場にいるのです」

人間界の存亡が掛かっているアレンの眼は剣に手が伸びても微動だにしない。

今は昼過ぎだが人間界に比べて薄暗く、天井の鉄格子の隙間からもほとんど光は入ってこない。

松明で壁に2本ほど斜めに刺さっており、僅かなかがり火の明かりが微動だにしないアレンの顔をゆらゆらと照らした。

この圧に背後にいるタブロスとブロッケンの2人にも緊張が走り、こめかみから頬にかけて冷や汗が生じる。

「この砦を預かる身として、これ以上暴れられるのは困りますぞ」

守護番長の立場でタブロスが口を開くと、視線を向けることなくイルゼは剣から手を放した。

「人間界のためという話だな。だが、暗黒界から突如人がいなくなるという相談を守護番や大神殿で陳情を受けておる。当然、暗黒騎士である私の下にも入ってくる。それは聞いていような? 貴様らが人攫いをしてきたと我らは疑っている」

(おっと、痛いところを突いてきたな。魔王軍が余計なことをしてくれたから、説明がめんどくさくなったぞ。魔王軍に飛ばされたことを隠しつつ、暗黒神に会う方法を見つけないとな。そもそも魔王軍は魔族だからあまり細かい説明したくないんだけど)

詳しく説明して人間界にいる魔族の側に立たれても、アレンの目標の邪魔をされかねない。

魔族の暗黒騎士はこの世界を支配する統治者だ。

全力で邪魔をされたら暗黒界での、アレンの活動が厳しくなるのは容易に予想できる。

「人攫いや来訪者については暗黒界に来て初めて聞きおよんだ話です。それは人間界の敵対勢力が行っていることだと推察されます。攫っている理由は分かりかねますが、もしかしたら皆さまのような力ある者たちを必要としているのかもしれません」

アレンはこの世界に来て魔王軍についての細かい話をするつもりはない。

そもそも魔王軍がなぜ、来訪者だの人攫いだのやっていたのか正確な情報は分からない。

少なくともアレン自身が、魔王軍が進めていた転移の研究によって無の世界に飛ばされたということしかハッキリとしたことは言えない。

「ほう? 説明から逃げたな。この数十年の間、数百人の暗黒神様が創りし民たちが消えたのだぞ。貴様は同じ力を使ってこの場に来たのだろう? 何も知らないはずがあるまい。それも貴様は自軍の中でも重要な作戦を任せられた責任者だ」

ただの小間使いとしてここに来ていないと自分で言っただろうとイルゼは問い詰める。

「適当なことは答えられません」

「そうだな。嘘を突けば突くほどつくほど矛盾が生じるからな。分かっているではないか。それで敵勢力とやらと貴様の目的が違うのは……」

(このまま尋問が続くとやばい件について。敵勢力の目的は俺を確実に無の世界に飛ばすことだと思うけど、そんな説明できないしな。別の理由が発覚するかもしれないし。私は世界樹3本分なんですなんて言ってもしょうがないし)

「敵勢力の目的は何なのか分かりかねます。ただ、私に暗黒神アマンテ様の力をお貸しいただけたら、お困りの案件については、今後対処できるかもしれません」

「貴様ごときが暗黒神様に会えると本気で思っているのか!」

「失礼な物言いになってしまい申し訳ありません。ただ、暗黒神様の喜ぶ『手土産』を持ってきましたので喜んでいただけると確信しております」

(2つ持ってきて正解だったな。シアに感謝だな。1つは暗黒神に奪われたけど)

魔王城でキュベルの放った「暗黒神に会うなら手土産が必要」と「無の世界に襲ってきた暗黒神と思われる巨大な手」が、アレンが今言うべきことを導き出す。

「手土産だと!」

「はい。何も対価もなしに力を得たいとは思っていませんので。人間界にあって暗黒神様が欲すると確信するものを持ってきました」

「……よくぞ、そこまで豪語したものか。その手土産を私に見せてみよ」

「見分されるということでしょうか?」

「当然だ。くだらない物かもしれないし、どうやら貴様はほら吹きのようだからな」

アレンが何を隠しているのか分からないが秘め事の中で自らと会話していることには気付かれてしまっているようだ。

(さすがにここで見せないという選択肢はないか。暴れたり余計なこと言いそうで嫌なんだが。やむを得ん)

「早くしろ。それとも暗黒神様のおわす島に勝手に入ってきた罪人として、この地下牢で余生を過ごすか?」

「はい。たった今、お出しします」

アレンは魔導書の収納から聖獣石をぽとりと取り出した。

「魔剣オヌバを出してくれ」

『魔剣オヌバの魔力を元に魔剣オヌバの刀身を再合成します』

魔導書の表紙にログが流れると、刃の先から魔剣オヌバが水色に輝く聖獣石から飛び出してくる。

『お? ここは……。暗黒界? 暗黒界じゃねえか!! とうとう来たのか!! うっひょおおおおお!!』

(うっひょーとか言っているし)

「おい、騒ぐな。今お前を暗黒騎士様に見分してもらうために出したのだ。大人しくしていろ」

『ぶ? 貴様はアレンか! 内臓を引きずり出してやるぜ!!』

背後にいたアレンに気付き、魔剣オヌバは自らの刀身で身を返して斬撃を繰り出そうとする。

ガシッ

だが暴れることを予想していたアレンはオヌバの柄の部分を握り締め、そのまま床石に抑え込む。

『その手を退けろ。きやすく触んじゃねえ!!』

「暗黒騎士様、暗黒神アマンテ様への献上の品、お出ししましたので見分お願いします」

『おい、暗黒神様への献上だと? どういうことだ』

「お前に説明する暇はない。少し黙っていてくれ」

『何だとこの野郎! てめえが何も話せなくしてやるぜ!!』

イルゼは、背後にいるタブロス、ブロッケンと一緒に驚愕しながらも、何とか口を開く。

「こ、こんなもの。暗黒神様にお出しできるはずが……」

ブワッ

イルゼが最後まで言い切る前に全身を覆う漆黒の鎧の隙間から闇が噴き出した。

「ん? 何だ? 鎧に闇が溢れてきたぞ」

『こ、これは暗黒神アマンテ様』

『おお!! 暗黒騎士の体を依り代に顕現されました!!』

人型の漆黒の闇となったイルゼの背後でタブロスとブロッケンが即座に跪いた。

『……ビルディガだけではなかったか。これは懐かしいな。懐かしいぞ! 岩山神オヌバの魂を感じるではないか!!』

若い魔族の女性ではない、人とも知れない中年の女性の声が、イルゼの全員を覆い人型の闇となった口元から響く。

『おお! これは暗黒神アマンテ様のお声だ! アマンテ様!! 100万年ぶりでございます!! この岩山神オヌバ、アマンテ様の下へやってまいりました!!』

全身を使って魔剣オヌバがかしづいて見せる。

『……イルゼよ。手土産をもってアレンを私の下へ連れてこい』

ブワッ

全身の闇が晴れ、イルゼの体が現われる。

「……畏まりました。暗黒神アマンテ様。仰せのままに速やかに向かいます」

疲労困憊の表情で足元がおぼつかないイルゼが何とか口を開いているようだ。

「私は暗黒神様にお会いできるということでよろしいですか?」

「その剣を持って、私についてこい。タブロス守護番長よ、速やかにこの牢獄を解放してくれ。細かい手続きは省略させてもらうぞ」

「は!!」

暗黒神アマンテの命とあって守護番長は腰に付けた鍵の輪からアレンの牢獄を選び出し、速やかに開錠する。

アレンは暗黒騎士イルゼと共に暗黒神アマンテの神殿に向かうことになったのであった。