軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第865話 痺れ薬

アレンがメルスと横に並んで案内された村長の個室で、窓から外の空気に当たりながら創生スキル上げに小一時間ほど勤しむ。

(料理遅いね。暗黒界の味、堪能したいんだけど。っていうか、生贄の祭壇の様子を見に行った者たち帰ってこないね。ホークでも送って様子を見てた方が良かったか? て、お? 戻ってきたか)

村長宅に向かってすごい勢いで駆け込んでくるものがウッドデッキ越しに見えた。

「そ、村長! とんでもないことが起きているぞ!」

生贄の祭壇の様子を見ていた2人の男がイグレ村長宅に駆け込む。

村の様子を見てからなので2時間以上過ぎているのだが、片道30分の祭壇で何かが起きたのかとアレンは考えた。

「随分遅かったな。どうしたというのだ? そんなに慌てて」

館の廊下をドカドカと、祭壇を見に行った2人の男たちが入り、既に自らの部屋に戻っていた村長の下へとやってくる。

アレンは鳥Gの召喚獣を高窓に止まらせ、村長の部屋の中の様子を窺う。

「どうしたもこうしたもねえど! でけえマーマンが4体も焼き殺されてて状況を確認していたら、ベスペル様の配下の奴らが海から出てきたんだ!!」

「何だって! っていうか、グレイトマーマンのデライコ様を倒したという話は本当だったのか……」

「感心している場合じゃなえど! イグレ村長、話を聞いてくれ! む、村が滅んでしまうだ!!」

「滅ぶ? ま、まさか……」

様子を見に行った2人の村の男たちが、代わる代わる、生贄の祭壇で起きたことを言う。

何でも、アレンの言うマーマンたちが殺されている話が本当か確認していたら、海から何十体以上のマーマンたちが現われ、取り囲まれたらしい。

ベスペルの配下と名乗るマーマンたちが『誰が殺したのか?』『ベスペル様は大変お怒りである!』とまくし立てたと言う。

「そ、それで……」

「村にやってきた怪しいヒヒの 混血人(ハーフ) たちがやったことだと言ったら分かってくれたんだが、だったらそいつを今晩浜辺まで連れてこいと……。じゃないとベスペル様自ら、この村を滅ぼすって。天の最も高い位置に赤い月が上がる時、配下を連れてやってくると」

「な、なんてことだ……。 混血人(ハーフ) なのに本当に力があったのだな。ベスペル様が今晩いらっしゃるというのか」

村の2人の男はベスペルの使いの言葉を伝えるために解放されたと言う。

「どうすんだよ。あんなの村に入れて、みんな殺されてしまうど!」

「ま、まだ、時間がある。街へ逃げよう」

「何言っているんだ。そんなことをしたら、どこまでも追ってくる勢いだったど!」

男たちが混乱してあれこれ口にすると村長が2人を黙らせた。

「ええい! 黙るんだ!! 混血人(ハーフ) たちに聞こえるぞ! この館に入れているんだからな!!」

「す、すまねえだ。村長、それでどうするんだよ? 相手はグレイトマーマンを倒すほどの奴だ。大人しくベスペル様に引き渡せるか?」

「んだんだ」

2人の村の男たちはどうやってアレンたちを引き渡すか考え始めた。

「そうだ……。痺れ薬を使おう。漁で大型の魔獣を釣り上げる時に使うやつを使えば、俺たちでも取り抑えることができるはずだ」

村長はいい案があると自らの机の引き出しを上げ、小瓶を取り出した。

「おお! それはいい案だべ。これならAランクの魔獣だって痺れさせることができるど」

「うむ、これを夕飯に混ぜるとしよう。魔獣を縛るミスリルの鎖縄を家から持ってきてくれ。もしものために縛り上げたい。ああ、あとこのことは守護番の方々に報告しておいた方が良いだろう」

「おう、分かった!」

「これで村が救われる! じゃあ、俺、コケトリス飼っているから守護番の要塞まで伝えにいくど」

村長は2人の村の男は自らが漁で使う丈夫なミスリルの鎖縄を家から持ってくるように言う。

アレンが鳥Gの召喚獣で村長と村人の話を聞いてさらに2時間が経過した。

アレンは結局、痺れ薬の準備などを村長の家で3時間、創生スキル上げに勤しんだおかげで分かってきたことがある。

(ふむふむ、全力で集中すれば1時間にスキル経験値5000万以上稼げるのか。まあ、600億稼がないといけないから1200時間掛かる計算か。1日18時間やっても67日かかるぞ。もっと創生スキル上げに時間を割いた方が良いか。そもそも1日が24時間かの検証がまだだしな。時計の魔導具を出して日の出入りがズレないかで確認すればよいか。あとは金貨が暗黒界でも使えるかと魔石の有無も調べるか。キングマーマンに魔石があるか調べておけばよかったな。天の恵みも増やさないといけないからな)

アレンは3時間で創生スキルのスキル経験値を1億5000万稼いだ。

神界にいた時に比べてもこれほど多いのは、鳥Aの召喚獣の巣を人間界や神界に設置する必要がなかったため、枠を考えてなくても良いため、一度に80体の召喚獣を創生できる。

鳥Hの召喚獣が覚醒スキル「金の卵」を秒間で80個の卵を産むことができる。

草Hの召喚獣が特技「非常食」を秒間で80個のカブを生産できる。

なお、特技「非常食」のカブは覚醒スキル「栄養食」を使えば、100個のカブにできるが場所を占領するので「非常食」のまま魔導書に収納する。

あっという間に広間を埋め尽くすほどゴロゴロと出てくる卵とカブを、グラハンとリオン、そして数体の霊Aの召喚獣が魔導袋から取り出した大きな籠に注ぎ込んでいく。

籠の底には収納が開いた魔導書が置かれており、ごりごりと流れ込んでいく。

メルスが生成する天の恵みも一緒に籠に入れられるのだが、魔導書の収納の中で分別されて便利だ。

1日も早く創生スキル上げを完了させたいので、無理してでも1日に割く創生スキル上げの時間を増やすか考えているとドタドタと廊下を歩く音が聞こえる。

引き戸がガラガラと引かれ、村長がアレンのいる広間に入っていくる。

「待たせたな、アレンよ。料理が出来たぞ……。って、何だこれは」

(もう、ノックしてよね。いきなり入ってきて)

「よし、料理が出来たようだ。申し訳ないです。皆ですぐに片付けて向かいます」

『あいよ、ひひ』

『片付けるデス!』

盗み聞きした村長たちの話なら、アレンたちはここにはもう戻ってこないようだ。

荷物を速やかにまとめて、村長の言われる食堂に向かう。

「今日はすごい料理だ! こっちだよ!!」

この場で何が起きるのか唯一知らないマニタがようやく笑顔が戻り、ニコニコしながらアレンたちを手招きする。

「そうだ。ここに座ってくれ。ブラキウス大陸から来たというが、島の料理が口に合えば良いのだが……。あそこは魚が取れない内陸の街が多いからな」

(なるほど、ブラキウスって大陸では魚が取れにくいのかな。それにしてもあんなにバンバンと小瓶に入った毒を入れやがって。痺れ薬どころか普通なら毒殺されそうだな。香味野菜使っているけど)

大皿にいれられた見たことのない魚を香草などと調理したものなど、いくつもの料理がテーブルの上に並ぶ。

「いえいえ、お構いなく。メルスも頂こう」

『ああ……』

(おい、ちゃんと気付かないふりをしろ。っていうかドッキリにワザと引っかかるお笑い芸人の気持ちだぜ)

あまりテレビを見ない前世の健一だったが、ふいに目に入ったバラエティで、お笑い芸人が明らかに目の前に落とし穴を掘った後があるのに、芸人魂なのかワザと引っかかったふりをして落ちるシーンを思い出す。

鳥Gの召喚獣の共有越しに、村長が瓶ごとドバドバと痺れ薬を調味料かと言わんばかりに鍋の中に入れていた。

薬が効かないとまずいと大量に痺れ薬を入れたらしい。

本来の料理の味がするのか、カラッタ漁村の郷土料理は楽しめそうにない。

「……ごくっ」

「……ごくっ」

「……ごくっ」

村長だけではなく、村の男たちが数名部屋の中におり、アレンとメルスが料理を口にするのを明らかに緊張した表情で待っている。

「今日はすごい料理だ! いっただきます!!」

「マニタ、まずは客人から料理を口に決まりだろう!」

「ご、ごめんなさい……」

マニタの父親である村長が料理に手を付けようとして、慌てた村長に叱責されて泣きそうだ。

(さっさと食べて痺れるか。いいな、メルス)

メルスがアレンの心の声に反応して頷くと2人は小皿に取り分けて貰った魚料理を口にする。

「おお! これは美味しい!! 初めて食べました。なんて魚ですか?」

独特の辛みと酸っぱさのある魚料理で東南アジアの料理を思い出す。

「これはな……。味に問題はないか?」

「味?」

(なんだ? 即効性の痺れ薬か。ひどいことするわね)

「え? ぐっ! く、苦しい!?」

『がは!? か、体が!!』

香味野菜を使っているアレンもメルスも苦しんだフリをして、フォークもスプーンも投げ出し床で悶える。

「え? なんで? アレンさん!? って、お父さん、何しているの!!」

「マニタは黙ってるんだ! こいつは俺らをだましているんだ」

「でも!!」

それでも納得できないというマニタを納得させるように村長は語り掛ける。

「この怪しい 混血人(ハーフ) をベスペル様に差し出そう。怪しいと思っていたんだ。ブラキウス大陸から来ていたと言っていたしな。きっとやましいことでもあるのだろう」

(ほう? ブラキウス大陸には 混血人(ハーフ) がいないとかそういう話か?)

「そうだぞ。こいつらを今晩、ベスペル様の下へ連れて行かないと村か滅びるんだぞ! そこを退くんだ!!」

「キャ!?」

さらに村の男たちがマニタ押しのけるように歩み出て、鎖の縄を使ってアレンとメルスを縛り上げる。

この状況でマニタの意見など通るはずもなく、すっかり暗くなった外に男たちに取り囲まれ連れ出される。

「……」

これ以上、命乞いをする理由も助けを求める必要もないアレンは鎖でぐるぐる巻きに芋虫のように縛られたまま、海岸に運ばれていく。

(雲が晴れているな。そして、真っ赤な月が空を照らすか。この時間も創生スキル上げにかけたかったな。来るなら早く来て欲しいんだけど)

メルスと一緒に波うち、体に海水が当たるか当たらないかのギリギリの海辺の砂浜に置かれた。

空を眺めて3時間が経過、深夜となった。

村人たちはアレンたちが逃げ出すと村が滅びると言わんばかりに、総出で鍬や鎌を手に持ち警戒する。

村をグルっと囲むようにかがり火を焚いている。

「娘を救ってくれたようだが、悪く思わないでくれ。この村を救うため、こうするしかなかったんだ」

ス~

ス~~

「ん? おい、寝てるぞ。こいつ」

貴重な創生スキル上げに集中できないと分かるとアレンはベスペルが来るまで寝ることにした。

村長に唖然としてどうすべきか迷っているとメルスが口を開く。

『寝かしておいてやれ。って、どうやら来たようだな』

ズバアアアアアア

沖の方から巨大な何かが海岸目掛けて突っ込んでくるのであった。