軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第862話 暗黒界

アレンたちは無の世界に閉じ込められた監獄の中で、魔王軍最高幹部の一角であるビルディガに脱出方法を聞こうとした。

問い詰めようとしていたところ突如現われた巨大な手に監獄を破壊され、ビルディガを連れさられそうになり、一緒についてくる形で暗黒界と思われる場所についてきた。

(随分淀んだ空だな。ビルディガの言葉からもここは暗黒界だと思うけどどうなんだ? 薄く見える不気味なのは日の光か)

空は厚い雲で覆われ、ゴロゴロと雷鳴が唸っており、今にも大雨が降りそうだ。

厚い雲を透けるように真っ赤な日の光が頭上をなんとか淡く照らしている。

『ここが暗黒界か。本当にそうなのか確認するためクワトロが今、ビルディガを掴んだ手についていっている。追跡眼があの巨大な手のせいで発動しなかったからな』

これからの対応に関わってくるので慎重であるべきだとメルスは言いたいようだ。

「それは助かる。キュベルと同じく追跡眼の耐性持ちか」

『ああ、そのようだ……』

メルスは妹のルプトを失う作戦を考えた「キュベル」という言葉に怒りをにじませて反応する。

クワトロの特技「追跡眼」は対象がいくら動いても、離れた位置からでも監視することができる。

だが、デバフの特徴のため、デバフ耐性が高い対象には効果がない。

巨大な手はもちろんのこと、捕まれたビルディガに対してもSランクの召喚獣であるクワトロの特技「追跡眼」を弾き飛ばしたようだ。

不用意にキュベルの話をすべきではないと考えながら、アレンはメルスが飛ばしたクワトロの視界を共有する。

おどろどろしい空を、ビルディガを掴んで飛ぶ巨大な手の数キロメートル後ろを、クワトロが引き離されないように飛んでいる。

(クワトロ、左右2つの眼で万里眼を発動してくれ。ここがどうなっているのか広く世界を確認したい)

『承りましたわ』

4つの足、4つの翼、4つの眼のあるクワトロは眼を使った特技を同時に4つまで発動できる。

アレンはこの場所の状況を知るために左右上部の眼を使った。

(ん? 島の上にいるのか? 島というには結構な大きさだな。海が左右の端に見えるぞ。集落っぽいのもポツポツとあるな。地面は緩やかに中心に向かって高くなっていくな。中腹には大きめな街もあるぞ。あれは要塞か? って、やはりこんな特徴的な大きな島を俺は知らないぞ)

クワトロの眼の左右それぞれ1000キロメートルの視界が特技「万里眼」の効果範囲まで共有される。

初めて見る地形がアレンの視界に広がっていく。

丸い形状の直径1000キロメートル程度の大陸にしては小さい、島にしては巨大な中央やや海岸沿いにアレンはメルスと共にいるようだ。

島の中央には山がいくつも隆起し岩肌が見え、木々が生え、切り開いたところには村や街がある。

島の端には海岸線がグルっと円状に囲むように広がっていた。

ただ、海岸線の先の海の色は黄色や緑色をしていて海水でできているのか疑わしい。

1000キロメートルの特徴的な円状の島とあって、人間界にあればすぐに分かる島だ。

アレンは収納から人間界の世界地図を出すが、そのような島は記憶にも地図にもない。

金貨100枚もする精度の高い地図で、魔導船を使ってバウキス帝国が人間界全土を測量して作成したものだ。

今度は意識をクワトロの追うビルディガを掴んだ巨大な手に戻す。

「あの巨大な手はこの島の中央に向かっているのか。メルスは10万年生きて、暗黒界に来たことないんだったよな?」

『そのとおりだ。人間界と暗黒界を繋ぐ「奈落の門」は私が生まれた時にはとっくに破壊され、閉じてしまっている。100万年も前の話だと聞いているぞ。ま、まさか……。アレン殿よ、人間界に戻る方法とは……』

奈落の門は人間界と暗黒界を繋ぐ。

審判の門は人間界と神界を繋ぐ。

奈落の門は100万年前、邪神の肉体を放り込み、暗黒神を暗黒界に閉じ込めた後、破壊された。

審判の門は現在、魔王軍により竜神の里ごと征服された。

「ああ、これから人間界に戻らないといけないからな。あのでかい手がビルディガの言うとおり暗黒神の手ならその先に本体があるということだろ」

暗黒神のビジュアルが手だけだったらどうしようかと思う。

『暗黒神様に会うということか?』

「そのとおり、そして、できれば、何か力が欲しいと交渉するつもりだ」

クワトロを追う手を見ながらアレンはこれから何をすべきか考えを整理し始める。

【アレンがこれから暗黒界での目標】

①1日も早く人間界に戻ること

②魔王軍を倒す力を手に入れること

人間界にすぐに戻りたいが、先ほどの戦いで惨敗したので魔王軍を圧倒する力が欲しいと考えている。

(究極的にやるべきことはこの2つか。そのためにすべきことは……)

『地形を確認し暗黒界であることを推察し、これからのことを考えるか。本来のアレン殿に戻ってきたようだな』

「前に進むしかないからな。お? 手が降下を始めたな。丘か小山の上に随分デカい神殿があるな。ここは島の中心のようだ。 ん?」

巨大な島の中央に向かっている巨大な手は、丘の上にある巨大な神殿の屋上に設けられた窓から中に入っていくようだ。

神殿の中がどうなっているのか覗き見ようとしたその時だ。

カッ

『くわあああ!?』

漆黒の闇が神殿内に見えたかと思ったら、クワトロに向かって闇の塊が襲い掛かってきた。

ブンッ

『クワトロは倒された』

魔導書が現われ、ログが流れた。

神殿内からの攻撃によってSランクの召喚獣であるクワトロが一瞬で倒され、光る泡となって消えていく。

『覗き見は嫌いということか……。クワトロを一撃とはな』

「そのようだな。さてどうやって会うか」

『まだ暗黒神様に会おうとしているのか?』

「当然だろ。強化するならこの世界最高の神にお願いするに限る。クエストを与えられるなら会うのが早ければ、早いほど良い。人間界がどれほどもつのか分からないからな」

『たしかに1ヶ月時点では拮抗していたが、魔王軍が戦力を整えているだけだとも言えるかもしれないな』

「今の拮抗が続いたとして長くて1年と持てば良いか。戦力はもちろん大陸によっては、人々を支える食料が尽き始めるからな」

(長期戦に備えて食料を備蓄していたのに、これほどの避難民を受け入れてすぐに限界がくるだろう)

魔王軍との戦いの敗北した際、5大陸同盟の盟主はどうやら長期戦に備えた戦略を立てたようだ。

だが、長期戦に備えるには人類側に大きな弱点があった。

『……ああ、なるほど。食料か』

「そうだ。魔王軍としても最小限の戦力で人間界の各拠点を破壊したいだろう。疲弊させる戦術を続けたとしたら食料面ではローゼンヘイムとファブラーゼが担っているだろうけど』

1ヶ月間の召喚獣たちが見てきた情報をアレンは改めて整理する。

(さて、Aランク以上の魔獣で構成された魔王軍であっても簡単には人類は滅ぼせないぞ。俺の仲間たちはほとんど健在だからな)

【各大陸の主な最終防衛拠点】

・中央大陸:ラターシュ王国学園都市

・バウキス帝国:S級ダンジョン

・ローゼンヘイム:首都フォルテニア

精霊の力で首都を囲む山脈とその中まで要塞化、避難民の受入れ

・ギャリアット大陸:ファブラーゼの里

精霊の力で要塞の大きさを3倍に拡張し、避難民の受入れ

・ガルレシア大陸:レームシール王国の巨大渓谷

【人類側に残された戦力】

・各最終防衛拠点には兵100万人強

・そのほか各大陸に点在する10程度の拠点に10万から30万人で分散

・アレン軍が18000人

・海底のプロスティア帝国の帝都パトランタの首都機能は健全

※ペクタンは1ヶ月の間に100万人以上の兵と同じくらいの民を蘇生

【魔王軍の主な支配地域】

・忘れ去られた大陸

・中央大陸の上半分

・バウキス帝国の下半分

・ガルレシア大陸の竜神の里マグラ

(魔王軍はローゼンヘイムやファブラーゼから各大陸へ運ぶ食糧支援をつぶしてくるだろうし、戦力を整えて各大陸撃破に移行するかもしれないからな。時間はないことには変わりない。もう少し、この島の状況を確認するか。クワトロ、さっきは攻撃されてすまなかったが、島の状況を確認してくれ)

『ええ、承りましたわ。レームシール王国の鳥人たちを思えば何のことはありません』

元は聖鳥であったクワトロは鳥人たちのために無茶な指示を出しても構わないと言う。

鳥人の住む険しい渓谷のあるレームシール王国は、国の地形自体が天然の要害となり魔王軍の攻撃を防いでいる。

ただ、この国の地形的に大規模な食料生産は難しく、レームシール王国がガルレシア大陸の西の果てにあることもあり、地理的にも食糧支援も容易ではない。

そこへ獣人たちが多く避難している状況にある。

さらに、すぐ隣には魔王軍により新たに支配された竜神の里がある。

獣人と鳥人は他の大陸に比べても危険な状況にあった。

次に真っ先に攻められるのは支援が難しいのもあって、レームシール王国だろう。

ただ、どれだけ考えても人間界のことについてアレンができることは何もない。

改めて今やるべきことに集中することにする。

再度召喚したクワトロが特技「万里眼」を左右両方の眼でそれぞれ発動させながら、暗黒神アマンテに会うための方法を模索する。

(さて、クワトロの視界に比べたらそんなに大きな島じゃないからな。それにしても濁った海だな。まるで酸の海だな。魚が住めるのか?)

何か暗黒神に会うためのヒントになる情報がこの島にないか、アレンは島の様子を観察するよう再召喚したクワトロに指示する。

共有してみるアレンの視界には、すぐに島の果ての先に広がる広大な海だ。

厚い雲の中から透けて見える赤い日の光にわずかに照らされているのだが、青く透き通った海ではないことは分かる。

黄土色をした濁った海は、何が釣れるのか分からないが、とても食べたら体によさそうな魚がいるとは思えない。

さらに万里眼の効果範囲内に海岸から先に新たな島や大陸は発見できない。

(だが、魚がいることには変わりがないというわけか。漁村に船があるし。島の住人は何か魔族っぽいな。他の種族はいないのか。ん?)

海岸線沿いにぽつりぽつりと村落が見えるのだが、魔族が暮らしているようだ。

船が海岸の桟橋に括り付けられているところを見ると、このような見た目の海でも漁業ができるようだ。

アレンは魔族の暮らしの様子をつぶさに見ていると、何やら列をなして海岸沿いを移動する魔族の集団を見つけた。

アレンが前世で見た4人がかりで担いで運ぶ 駕籠(かご) のような行列に違和感を覚える。

海岸の波で海岸が削られたのか、海岸線が円のようになった入江がある。

円の内側の中央から石垣が入り江の中央に向かって石垣が伸びている。

「よし、籠を置いたら帰るぞ」

「おう」

入り江の中央に設けられた石を積んだ台座の上に籠を置いて、村人たちは立ち去っていくのであった。