軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第861話 活餌

アレンが聖獣石に念を込めると、カッと輝きだし、光る泡が溢れだした。

ブンッ

魔導書が現われてログが流れる。

『使用管理者である召喚士の要請によりビルディガの魂を解放しました。魔力により肉体を再合成しました』

機械的なメッセージが流れ、光る泡が集合し始め形作っていく。

(いまだに魔導書のログは流れるが自動的なものだけだな。ルプトを失い、配下の大天使たちとも連絡が取れないてはいないし)

光る泡を見ながら、アレンは魔導書を通じた神界との連絡がこの1ヶ月の間にできなかったことを考える。

そうこう考えている内にビルディガの肉体がアレンの目の前に現われた。

ビルディガは立ち上がると全長10メートルある。

今は後ろ足を投げ出し、背中のメタリックな前羽を床につけているのだが、それでもアレンは見上げてしまう。

(戦闘態勢に入らないだと。なんか、達観したような性格だが相変わらず掴みどころがないな)

何度か戦っているが、ビルディガはどこか魔王のために戦っているような気がしない。

『……また、お前か。吾輩の肉体を戻してどういうことだ? 何度も言うがお前の召喚獣にはならないぞ』

虫Sの召喚獣候補として暗黒神アマンテの配下で光魔八神将の一柱で蟲神という神だったらしい。

その後力を失い聖蟲となって、さらにアレンと会った時は魔王軍の六大魔天の一角となっていた。

神界に侵攻してきたビルディガをアレンは聖獣石に閉じ込めていた。

なお、石Sの召喚獣候補として光魔八神将の一柱で、バスクの武器に成り下がっていた岩上神オヌバも聖獣石に今も閉じ込めている。

この2体はアレンの召喚獣になるという誘いを断り続けている。

(さて、こんなことをすると召喚獣になる時期がかなり後ろに伸びそうなんだが)

共有の効果を最大限発揮するには召喚獣との信頼関係が大きく左右する。

これから共に戦うことに影響がでそうだが、1ヶ月、無の世界の監獄に閉じ込められたアレンには後がなかった。

覚悟を決め、周りに睨みを利かした召喚獣たちを見回すビルディガに口を開いた。

「ここか? ここはお前の拷問部屋だ。覚悟しろ。おい、マリア。俺が使えと言ったら天の恵みを使ってやれ。すぐに死んだらかわいそうだからな。まあ、死んでも蘇生もできるから、楽になれるとは思うなよ」

アレンは大地の神から神力を注ぎ込まれて造り上げて貰った「アレンの剣」をカンカンと肩に当てながら不敵に笑みを零す。

『はいデス!!』

『プックプ~』

天の恵みを片手にそれぞれ握り締める霊Cの召喚獣と特技「回復茸」を使えるペクタンがクルクルと回る。

『拷問だと? ん? 何か知りたい話があるとかそういう話か? 吾輩はお前に話すことなど何もないぞ』

「すぐに何でも話したくなる。この剣がお前と友達になりたいようだぞ」

ペロペロ

前世で健一だったころ、何かの洋画で見聞きしたセリフを剣を舐めながら、ペラペラと悪い顔で口にする。

「ビルディガよ。こんなところに俺たちを閉じ込めやがって。どうやって脱出するか吐くまでボコボコにするからな。なぜならさっき俺もされたからだ!!」

コロコロと表情の変わるアレンは剣を持つとは反対の手で先ほどメルスに殴られた頬を怒りながら摩る。

『……あれはすまないと思っている』

敢えて聞こえるように言うとアレンが強調して言うと、メルスから謝罪の声が上がる。

『それで何が聞きたいのだ? 魔王軍の内情か?』

「ここの脱出方法だ」

『ここ? ここは……どこだ? はて、吾輩の来たことのない場所だな』

ビルディガは身を起こし、甲殻で覆われた体ごと動かし、複眼も使ってもここがどこか分からないようだ。

「惚けやがって。お前、魔王軍の最高幹部の一角だろうが。ここはキュベル曰く、無の世界の中に設けた監獄らしいぞ」

『ん? 監獄か。ここはシノロム所長の研究施設に雰囲気が似ているな。……〇〇の大穴から無の世界に向けて吊るしていた奴の中なのか』

「シノロム所長の研究施設? 吊るしていた? ビルディガはこの監獄に来たことはないんだな」

何を言っているのかさっぱり分からないぞ。だが、答えてくれるならまあよい。ん? そういえばキュベルも〇〇の大穴って言ってたな)

ステータスを知力に全振りしてビルディガの様子を窺うアレンは会話を続けることにする。

『魔王への説明で我も一緒に聞いていた程度の話よ。シノロムがマクリスを捉えるための……、そう、吾輩を閉じ込めた石ころを作る研究をしていたと記憶している。そこは無の世界で転移装置が起動するかの実験も並行して行っていたな』

(聖獣石の研究をしていたが、ああ、なるほど。そもそも俺を監獄に入れたが、無の世界への俺に閉じ込める研究も一緒に進めていたってことか。〇〇の大穴は忘れ去られた大陸にある無の世界までつながった大穴とかそういう話か)

具体的に話してくれるビルディガの説明から魔王軍が何をしていたのか推察することができる。

「ほう? それで?」

『それでとは? それしか知らぬ……。ん? この感じは……。やってくるのか』

「お前が答える気がないなら答えるまで『やる』に決まっているだろ? ん? 『やってくる』とは?」

血走った態度のアレンは『やる』と『やってくる』を聞き間違えるところだった。

ビルディガは複眼の目でアレンの腹あたりを見て、さらに何かに気付いたようだ。

『お前のその腰帯はどうしたのだ? それはゲヘナバンド……。そうか、キュベルめ。我らを籠に閉じ込め活餌にしたのか…。全ては奴の手の中というわけか。だが、それなら吾輩の願いは叶えられるというもの……』

「おい、お前! もう少し分かるように……。何がやってくるっていうんだ! 皆も周囲に警戒を……」

アレンが剣を握り締め、召喚獣たちに指示を出そうとしたところだ。

ゴゴゴッ

『アレン様、床が揺れているデス!?』

監獄自体が大きく揺れ始め、霊Cの声が聞こえるのと同時に、アレンはバランスを崩しそうになる。

バキバキッ

「何か出てきた! って、手だと!?」

さらに、アレンの数倍の大きさのある巨大な手が床石を粉砕し、広間の中に踊りでてくる。

ガシッ

召喚獣たちを押しのけ、漆黒の爪が長く鋭く伸び、手首までしかない巨大な手がビルディガをすっぽりと掴み包み込んだ。

「俺の虫Sの召喚獣に何をする!?」

アレンは飛び上がり迷うことなく離せと言わんばかりに渾身の力で手の甲に斬撃を浴びせる。

ギンッ

(傷1つつかないだって!?)

どれほどの固さがあるのか、巨大な手の甲は火花が散るが、薄皮一枚切り裂くことすらできなかったようだ。

ピンッ

「がは!?」

『アレン殿!?』

さらに、切りつけようとしたアレンを指先でデコピン(正式名称急募)を弾かれてしまった。

腹に受けたアレンは鎧を粉砕され、後方に一気に吹き飛ばされてしまった。

召喚獣たちは反応できず、壁を破壊して外に投げ出されてしまった。

「やばい、魔力が!? か、監獄が壊されるぞ!!」

無の世界に投げ出されたアレンは鳥Aの召喚獣の加護「飛翔」の効果が働かなくなり、自らの魔力も霊力も四散する感覚に襲われる。

さらに壮絶な光景がアレンの視界を襲ってくる。

巨大な手がこの建物の下から壁も床も破壊して無理やり入ってきたようで、メキメキと監獄全体にヒビが生じ始めている。

『目録! 雷天鞭よ! 伸びよ! これに掴まるのだ! アレン殿!!』

メルスは機転を聞かし特技「天使の輪」の管理者権限で召喚士であるアレンのスキル「目録」を発動し、納めていた天使B「鞭」を取り出した。

紫に発光し電気を帯びた鞭は遥か数キロメートルまで伸ばすことができる。

「助かる、って、俺たちの監獄か!!」

建物の破片ははっきりとした重力がないためか、上下左右に四散しながら広がっていく。

だが、そんなことを考えている場合じゃないと壁を粉砕して投げ出され、勢いが落ちたところで落下し始めたアレンはメルスに指示を出した。

ガシッ

鞭の先端をアレンが掴むと、グイッとメルスが引いてくれる。

破壊された壁からアレンは監獄の中に勢いよく生還できた。

ビルディガを掴む手首を見ると、ゆっくりと破壊した床から出て行こうとしていた。

「待てって! うお!? 今度は何だ!!」

キシキシッ

アレンの腹に装備していたゲヘナバンドが手首に向かってトゲトゲを伸ばし、アレンごと引っ張っていく。

『アレン殿!?』

「捕まってしまったぞ!!」

アレンは腰を仰け反るように手首の下へと向かわせられると、今度は一端手のひらを開き、ビルディガごとアレンを掴まれてしまう。

『放すのだ!!』

「……いや、待て、メルス!! みんなも攻撃するな!! このままで良い。メルスはついてこい。後は一端カードに戻ってくれ」

掴まれた手の中から頭だけを出したアレンが、手の上に飛ぶメルスに対して言う。

無の世界に入ると召喚獣たちの指示が聞かないとメルスを残して全員ホルダーに仕舞っていく。

『だから一体……』

「このままこの手に運ばれる。どっちみちこの監獄は間もなく破壊される。そしたらどうしようもなくなるからな!!」

『わ、分かった。もしかして、そうか、この手は……』

「メルスもこの手に掴まれ!!」

「あ、ああ、分かった!!」

メルスもアレンが何をしたいのか分かったようだ。

アレンとビルディガの捕まった巨大な指に、メルスは両手を使って抱き着いた。

『暗黒神アマンテ様、100万年、吾輩のことを覚えていただきありがとうございます。吾輩の魂の全てはアマンテ様と共に……。ようやく吾輩は、もう一度お会いできるのだ』

アレンの目の前で何に感謝したのか、一緒に掴まれたビルディガは複眼から涙をボタボタと流しながら感謝の言葉を繰り返している。

ゴゴゴッ

アレンとビルディガを掴んだ手はそのまま一気に加速して下へ下へと飛んでいく。

(無? い、意識が……)

無の世界を運ばれるアレンは、急激に意識が朦朧とする。

『おい、アレン殿、大丈夫か!!』

手の上に乗るメルスが声を上げるがアレンは意識を手放してしまった。

それからどれだけの時間が過ぎただろうか。

「……」

「……」

「……」

『ほれ、香味野菜だ。さっさと起きるのだ。いつまで寝ている。おい、アレン殿、アレンよ!!!』

ベシベシッ

「む? んんんん……」

『おお、起きたか?』

「ここは? 手は? ビルディガはどうした?」

(メルスに両手で叩かれた件について。結構痛かったぞ)

『大きな手はアレン殿をここに捨ててビルディガを掴んでどこかへと飛んで行ってしまったぞ』

「って、……ある。土の地面だ! 果てしない世界が広がっているぞ」

監獄から脱出したアレンは自らがどこにいるのかに意識が向かう。

体を支える足元に手を向けると、それは土が手に当たり、さらに360度グルっと辺りを見回して思わず喜んで掴んでしまう。

「……。俺はどれくらい寝ていた?」

『まあ、数分くらいだ。起きなかったので香味野菜を使ったぞ』

「手から振り下ろされてしまったな」

『もしかして、ここは、やはりそうなのか?』

「ああ、恐らくだが、ここは『暗黒界』だ。まだ予想の範疇だがな。そして、ビルディガを掴んだあの手は暗黒神アマンテだろう」

今まで起きた状況から早々に結論付けるのであった。