軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第789話 攻略準備8日目:アレンの葛藤

攻略準備を始めて8日目となった昼過ぎの13時になろうとしている。

アレンは仲間たちと共に剣神の道場の中央にある畑に集まって昼休憩をしていた。

既に食事を終えたアレンと違い、仲間たちは午前中の修行の疲れを癒すように和気あいあいと会話をしながら、モルモの実など食後のデザートを食べていた。

対照的にアレンの横でメルスがずっと待機していたのだが動き出さないので重い口を開いた。

『…皆が既に待っている。そろそろ時間だぞ』

「分かっている」

メルスの催促に答えながらもアレンは仲間たちとの会話にも参加せず、思考の中にいた。

(やばい。結局、忘れ去られた大陸の要塞の全容すらみることができなかったぞ。かなりデカい城なのに魔王城が何故見つからない)

アレンはこの8日間の間、魔王城の攻略に向けて、鳥Eと魚Cの召喚獣やクワトロを使い、情報収集を進めてきた。

しかし、魔王軍は魔王城や要塞などの位置情報の価値をよく分かっていた。

召喚獣を向かわせると最優先で攻撃を受け、はるか上空はもちろんのこと、地中への侵入すら許されない。

忘れ去られた大陸は、それほど大きな大陸ではないのだが、前世の記憶だと、オーストラリアほどの大きさがある。

形状は横に長く、面積は800万キロメートル、海岸線の長さは2万キロメートルを超えそうだ。

調査できたのはそのうちの大陸面積の4割程度で、要塞の数は200か所程度だ。

明後日にも攻略を始めようと思うのに魔王城の位置は未だに掴めていない。

アレンの横では仲間たちが午前中の修行の成果を語りあっていた。

「こうやって試練をするのもあと少しね。ありがとう、キール。気が利くわね」

キールが、飲み物が空になったロザリナとクレナの木のコップに果実水を継ぎ足して上げる。

「それにしてもクレナは秘奥義の使い方上手くなったな。剣神様が感心してたし」

「ありがとう、キール。でもドゴラみたいに他のスキルとの連携が上手くないよ」

「俺は両手持ちだからな。その分、選択肢を間違えて斧神にボコられるし」

「武器の特色によるものだろう。俺の槍なら中距離から敵の攻撃を捌いて見せよう。クレナもスキル使いやすくできるぞ」

「そうですわね。私たちは『仲間』なのです。前衛のサポートは後衛、中衛の役目そのあたりはフォルマールがサポートしますわ。ねえ、フォルマール!!」

ソフィーが「仲間」という言葉を強調し、フォルマールに対して同意するよう眼力を送る。

「は! もちろんです。ソフィアローネ様!」

「そうだよな。サポートなら俺も任せておけ!!」

やる気を見せるルークが会話の最後を締めて、仲間たちが一旦黙って、ただ1人葛藤しているリーダーに視線を送る。

「………」

「………」

「………」

だが、その視線は届かず、アレンは思考の渦の中にいた。

(セシルは結局、古代魔法の試練が終わらなかったな。ぎりぎりまで修行するって言って手紙まで渡されたし。ビルディガはいくら念を送っても交渉に一切応じないし)

攻略の準備を進めてきたが情報収集以外にも懸念事項がある。

時空神の神域で古代魔法の修行をするセシルが時空神経由で家族あてに手紙を渡してきた。

ギリギリまで修行するから親によろしくとのことらしい。

時空神にセシルは古代魔法を体得できるのかと聞いたが「厳しいかもしれない」という明確な回答は得られなかった。

そんなセシルには時空神経由で魔王軍との戦い開始の時刻だけ伝えてある。

ビルディガを聖獣石に取り込み、封印されている虫Sの召喚獣にしようとしたが、ルプトの配下の大天使アウラの話では、必死に説得を試みたが、強い意志で無言を貫いているらしい。

こちらはセシル以上に絶望的な状況で、あと2日で好転するとは思えない。

(明らかに準備が足りない。キュベルに交渉したら日にちを伸ばしてくれるだろうか。いや、準備不足を把握され、いっそう不利になるのは目に見えているな。過去にないぞ。こんな準備不足で魔王城攻略を進めるなんて)

前世ではやり込み好きのゲーマーだったころ、魔王城の攻略準備をこんな中途半端な状況でしたことなど一度もない。

魔王相手にレベルは限界近くまで上げてきたし、最強の装備もスキルも手に入れた。

幼少期にそうやってやり込んだゲームは、魔王を倒せなかったらゲームオーバーになったり、長いダンジョンを最初から挑戦しないといけなかった。

今、挑戦時間の時限があり、やり直し用のデータセーブポイントのないリアルな魔王との戦いを求められている。

敗北の代償は仲間であったり、故郷の家族であったり、世界だ。

まるで既に詰んだ将棋をさせられているのに投了が許されないような絶望を感じる。

「アレン様……」

ソフィーはアレンに語り掛ける。

(未知数すぎる。戦力の分散をさせるか。いや、それでは各方面の戦力が落ちて魔王軍の思う壺か。でも逆に分散が正解かもしれないぞ)

「アレン!!」

「おい、アレン!!」

今度はクレナとキールが、距離を詰めても気付かない集中したアレンの耳元で叫んだ。

「へ!? うわ!! なんだなんだ!!」

仲間たち全員が距離を詰め、転げるアレンを取り囲んでいた。

困惑するアレンにジャガイモ顔のドゴラが真っ赤な顔をして怒りをぶつけてくる。

「いい加減にしろよ! 俺たちを信用できないのかよ!!」

「暑苦しい……」

頭が付いていけず、思ったことを口にする。

「なんだとこの野郎! 心配してやってんのに!!」

「ぐ、ぐるぢい!?」

怒って羽交い絞めにし2人で団子状態になって剣神の道場の畑でゴロゴロと転がる。

(こんなに土を全身で浴びたのはいつぶりだろう。クレナ村を思い出すな。そうか、俺は1人で仲間たちを見ていなかったのか)

幼少期、アレンがクレナ村でクレナに騎士ごっこでボコボコにやられて全身土まみれになったことを思い出す。

心配そうな仲間たちの表情を見て、自らの行動が一人よがりだったことに気付いた。

「思い切りの良さがお前のいいところだろ!!

「……思い切り。いや、もう十分反省しているから手を放してくれ」

「そうだよ。思いっきりやろうよ! 全力で!! アレンのおかげで剣神様から秘奥義貰えたんだよ。みんなで魔王を倒そうよ!!」

(ガンガン行こうぜ……、か)

仲間たちに檄を入れられ、霧のように視界不良になった思考が晴れ、アレンの中でやる気が漲ってくる。

「そうだな。俺たちはできることをやってきたんだ。全力でやるぞ!! おおー!!」

「おおー!!」

アレンの仲間たちが囲い込み、拳を高らかに掲げ、ワイワイと盛り上がる。

ただ1体の召喚獣が冷めた視線を送り、次の行動を促してくる。

『おい、アレン。作戦実行のための会議はやらないのか』

「そうだったな。って、こんな時間か!! メルスなんで教えてくれない!!」

『何度も言ったぞ』

アレンは慌てて時計の魔導具で時間を確認すると13時18分だ。

前回のようにWEB会議に皆を集めて13時に会議を開始すると連絡してあった。

「じゃあ、えっとキール、ソフィー、ルーク、イグノマスは会議に参加してくれ。残りは午後の特訓だ。特訓は明日の昼までだからな!」

(集中してやってくれ)

「上の空だったのはアレンだろ……」

ドゴラが呆れたところで、アレンは指定した仲間たちと共にヘビーユーザー島の会議室に転移した。

「遅れて申し訳ありません。お待たせしました」

「おう、きたか。随分激しい修行をしていたんだな」

アレンはドゴラのせいで土を被ってしまっている。

「やあ、アレン君。僕が指揮官にされるところだったよ。作戦は固まったかな」

アレンが来ることを疑わなかったのかガララ提督とヘルミオスが責めずに歓迎してくれる。

アレン軍の将軍、副将軍もすぐにでも作戦が聞きたいと言わんばかりに前のめりに席についている。

「ふん、ようやく来たか。皇帝を待たせおって。その顔を何とかしろ」

今回もWEB会議様式で大陸同盟の盟主を筆頭に前回同様の方々がララッパ団長特製の魔導具で参加する。

「はい、皇帝陛下をお待たせして申し訳ありません。皆様もよろしくお願いします」

アレンはアレン軍の配下に渡された濡れたおしぼりで土をふき取りながら、遅れてきたことを詫びる。

「構いませんよ。アレン様の表情を見て安心しました。」

泥と一緒に迷いが無くなった表情を見て安心したエルフの女王がアレンの遅れについてフォローを入れてくれる。

「まず、この8日間にわたる魔王軍攻略のための準備にご協力いただきありがとうございます」

「朕の帝国は随分国庫を使ったの。確実に勝ちたいものだの」

バウキス帝国の皇帝が戦略艦を改造するためのドッグと人員、資材を他国に比べて最も提供したことで、帝国の金蔵が空になったと嘆く。

「では早速ですが魔王軍と戦うための作戦を発表したいと思います。問題ありませんか?」

アレンが遅れている間にギアムート帝国の皇帝が勇者ヘルミオスを最高指揮官に変更しようとしたが、自らで問題ないかの意味を含めて皆に同意を求める。

「無論だ」

ギアムート帝国の皇帝は胸元で腕を組み、これ以上何も言わない。

その背後では役人たちがアレンの会話を聞き逃すまいと必死にメモを取る様子が魔導具の画面越しに見える。

「作戦に先立って、当方が預かる市民の一時的な受け入れをお願いしたいです。インブエル国王陛下、クリンプトン枢機卿、御国で各1万人のヘビーユーザー島の人員の預かりをお願いできますか?」

「問題ありません。魔王を倒すことが最優先ですので」

「ぬ? わ、分かった。一時的だな。だが、なぜ我が国なのだ」

「インブエル国王陛下、学園都市が明日からの解放に備えてかなりの空きがあるかと思いますので、そちらでの預かりをお願いします」

「そうか。後で詳しく聞かせてくれ」

大国が今回の作戦でかなりの負担を強いた状況に、それぐらいすると国王は言う。

「では、各国にはお願いしたい軍の配置と、アレン軍、勇者軍、ガララ提督のゴーレム軍の配置と作戦行動について説明したいと思います。まずは魔王城のある忘れ去られた大陸の地図です。会議室から画面が切り替わりますので、そちらを見て話しに参加してください」

「なるほどな。作戦もそうだが、攻撃開始準備の段取りを聞かせてもらおうか」

帝国の皇帝として戦いの開幕時間に向けて、やるべきことがあると、説明中のアレンに問う。

「そうですね。各国の足並みをそろえる意味を含めてお昼『12時』きっかりに作戦を開始します。こちらと魔王軍側の要塞の配置状況を勘案しますと……」

画面がパッとアレンの背後には巨大なスクリーンを使って、アレンが調べる限りの要塞などの要所を印した地図を見せる。

WEB会議で参加する各国の代表などは、画面が会議室からスクリーンと同様の地図に切り替わった。

「いよいよだ」

魔王軍によって要塞が全滅したゼノフがいよいよかとこれからの戦いに向けて戦意を上げていく。

アレンによる、魔王軍の討伐に向けた作戦会議はその日の暮れまで行われたのであった。