軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第763話 本当の狙い

第一天使ホマルを狙って魔神王マーラが上位魔神10体を引き連れ、シャンダール帝国の王都ラブールへ向かった。

魔王軍の動きから狙いを分析したアレンは、魔王軍撤退が刻一刻と迫る中、メルスを必死にマーラの下へ向かわせた。

Sランクのメルスが手にした覚醒スキルの合わせ技とルプトのサポートがあり、マーラを一撃で屠り、安堵が零れそうなところで状況は一変する。

魔神王キュベルが第一天使ルプトの背後に突如現れ、首元を背後からガッチリと掴んだ。

(キュベルを!!)

アレンが意志に語り掛けるまでもなく、メルスが動いていた。

既に戦闘を終わらせた召喚獣をこの場に召喚するのか。

既に覚醒スキルを使用した天使Bの召喚獣を取り換えるのか。

だが、残り何秒もない状況の中でどれほどの最善手の策が取れたのか。

アレンの作戦や指示を聞く余裕もなくメルスはルプトを救うため、自らの体を動かした。

天使B「大剣」を一端削除し、再召喚してクールタイムをリセットし、覚醒スキルで切りつけようとする。

『むん! トールスラッシャー!!』

『あれ? それって今見せたやつだよね。あれこれ準備してきたけど、期待外れだね。ほい!!』

ドンッ

『ぐは!!』

ルプトに当たらない軌道で振るわれるメルスの大剣を、キュベルがルプトを掴んでいない左腕を盾にするよう拳を握りしめ、攻撃を受けようとする。

だが、防御の姿勢を取る動作はフェイクで、全身を強力な結界で全身が守られており、キュベルの体に触れることすらなかった。

構えを見せた左腕は、魔力を貯めるためのものであった。

バフを重ね強くなったメルスの一撃を簡単に結界で受け切り、攻撃後の無防備な腹に向かって魔力弾を放つ。

強烈な衝撃と共にはるか先まで吹き飛ばされてしまった。

(ここに転移するまでに攻防の準備は万全ってことか。シノロムさえ倒せば! まだ挽回が……)

『お、お兄ちゃん……』

先程から常に右腕に魔力を込めており、暴れるルプトに対しては転移のスキルで脱出できないよう、何らかのスキルを使用して奪い、逃げ出さないよう封印している。

『ふふ、僕はウソつきの道化師なのさ。信用しちゃいけないよ。って、おや、もう転移の時間だ。座標も問題なしだ』

ブウウウウン……

ルプトを掴むキュベルの体ごと、空間が歪み始め、全身を衝撃を包み込む。

アレンはそのころ、最終魔造兵器ギイの邪魔を受けながらも時空管理システムを操作するシノロムを迫っている。

マーラは霞んだ瞳をキュベルに向けながら必死に口を開く。

『すみません。私はまだキュベル様のお役に立てます……。何卒一緒に……』

メルスに腹部から上下に一刀両断されて、這いつくばり絶命寸前のマーラがキュベルに救いを懇願する。

既に体力は0になっており、腹部から漆黒の煙を立ち込め、肉体の崩壊が進んでいく。

『ああ、そうだった! でも、ごめんね。この転移は元から2人乗りなんだ。君は連れていけないんだ』

『そ、そんな!? わ、私は……。これまでもキュベル様のために……』

最初から全てを利用されたことを悟ったマーラが絶望に染まったまま、全身が漆黒の煙に包まれ消えていく。

マーラのいた場所は何も残さず消し炭に変えていく。

『うんうん。絶望する表情は誰であっても堪らなく素敵だね。おっと時間だ。じゃあね~。いや~楽しかったよ!』

『待て!!』

『メルスお兄ちゃん!?』

立ち上がろうとしたメルスの目の前で、叫び助けを求めるルプトを掴んだまま一緒にキュベルは転移してその場を消した。

それから少し遅れてメルスが向かった先で空を切るのみだ。

『ルプト様!?』

『ルプト様!?』

『ルプト様!?』

1階層に神界船を置き、ようやく飛んで戻ってきたアウラたち3体の大天使たちも間に合わず、腕の伸ばし、叫ぶだけが届くことはなかった。

(最初からルプトを攫うつもりだった。ホマルと見せかけたのは誘導か? 時間を稼いで疲弊させて、転移するギリギリのところで回収する算段だったのか。くそ、寸前でシノロムを逃がしたぞ!!)

キュベルはルプトがこの場にやってくることを予想し、転移先として座標を固定させていたのだろう。

(でも何故ルプトなんだ? 第一天使ならケルビンもそうだし、ホマルもそうだ。実際、マーラはホマルだと思って、ルプトがやって来ても目もくれなかったぞ)

第一天使が3体も神界にいるのにルプトを攫った理由が分からない。

実際、魔神王マーラや魔神王ガンディーラが探しているのはホマルだったと思われる。

ルプトが王妃が抱きかかえるホマルの行く手を邪魔する者くらいにしか見ていなかった。

魔王軍の幹部にも本当の作戦を伝えずに、1000体に上る上位魔神に魔神たちと犠牲を出しても達成したい目標が、第一天使ルプトである理由は分からない。

『……ルプト』

共有したメルスの意志に語り掛けるが、目の前で連れ去られ、焦燥しており返事がない。

(倒される前にこっちにも確認するか。できることをやらないとな)

アレンがルプトを攫おうとした理由を確認する相手をもう1体思い出した。

鳥Aの召喚獣の特技「帰巣本能」を使用し、2階層の時空管理システムから1階層の仲間たちの下へと転移する。

「おお! 戻って来たか!! どうだったか?」

「ルーク、駄目だった。時空管理システムはシノロムとかいう魔族に奪われて、王都では第一天使ルプトが攫われた」

「なんだと!?」

「そ、そんな!? ルプト様が魔王軍に……」

「時空管理システムを奪われただと!?」

1階層では既に戦いが終わっており、アレンは安心して、今の状況を端的に仲間たちに報告して共有する。

『いけません! 時空管理システムを確認せねば……』

ソフィー、フォルマールは絶句する。

時空管理システムの状況を確認するため、時空神デスペラードは下の2階層へ転移した。

「それで何故ルプト様を攫ったのですか?」

召喚獣たちと視界を共有していたアレンなら理由を知っていると考えたソフィーが状況を確認する。

「分からん。それを確認しようと思ってこっちにきたんだ。それでビルディガ、なぜ、ルプトを攫ったんだ? 魔王の目的はなんだ?」

仲間たちの集中攻撃で魔神王ビルディガは、全身のメタリックな外骨格を破壊され、紫の血が至る所から噴き出している。

さらに、肉体の崩壊は既に始まっており、全身から漆黒の煙が立ち込めている。

『そ、そうか……。ルプトをさらえたか。これで世界の理はあるべき姿に戻る……』

化身となったビルディガが死の間際に自我を取り戻したのか、無表情の甲虫面の顔で笑みを零したように見えた。

(答えるつもりはないか。100万年を超えて生きて元は上位神である蟲神が、命を捨ててでも果たしたい作戦がなんだったかが分からないな。こんな状況だが、ビルディガを保存するぞ。というか聖獣石にビルディガの魂を回収しろと魔導書を通じて催促してこないな)

メルスの周りにルプトを攫われ動揺したアウラたちが視界に入り、天空大王たちに状況を説明しているのだが、今はアレンに魔導書のログを通してアドバイスする余裕はないようだ。

魔神王ビルディガは以前、虫Sの召喚獣の候補だと魔導書を通じて聞いている。

ブンッ

魔導書を出して、収納されている聖獣石を取り出し、崩壊が始まったビルディガに掲げる。

パアッ

『ば!? 吾輩に何をする!!』

「ふん、貴様は俺にやられた。お前の命は全て俺のものだ。今後は俺の指示に従い行動してもらうぞ」

『ふざけるでない…』

崩壊し始めたビルディガが絶句するが、不満と苦情の全てを言い切る前にアレンの聖獣石の中に封印した。

『魔神王ビルディガの魂を聖獣石に封印した。……運営者不在につき、今後の進捗についてはログを定期的にご確認ください』

『……』

漆黒の魂が水色の聖獣石の中央で渦巻いている。

両手で聖獣石を掴むアレンは沈黙を貫くビルディガの拒絶を思わせる強い意思を感じる。

(いつものように魂を召喚獣にするため交渉したりへ変換するための作業ログが流れないか。ん? 魔王軍でも動きがあるな。ここは魔王の根城か。城内のようだし、魔王城か?)

アレンは魔王軍総司令オルドーと魔神王バスクに対してクワトロの特技「追跡眼」を発動している。

この特技は、対象の行動を背後から追跡することができるのだが、転移した先でもまだ効果はまだ切れていない。

だが、特技「追跡眼」で捉えた対象の周りには、それほど多くの者はいないようだ。

魔王軍総司令オルドー、上位魔神キュベルとそれに捕まった第一天使ルプト、魔神王バスク、シノロムぐらいしか見てとれない。

対象を追跡することが目的のため、辺りの様子を広範囲に見通すことはできない。

だが、視界の端に時々見える状況の中で、アレンは転移した先の魔王軍の様子も、同時並行で確認を進めていた。

(バスクは結局倒しきれなかったか。ドゴラがかなり必死に追っていたのだが、力不足で決め手が足りなかったか)

大精霊神イースレイが魔王軍との戦いに参戦して、ドゴラやシアとの戦いが劣勢に傾いたタイミングで、バスクは劣勢と判断した。

魔神や上位魔神の壁にして、時には死体の中に隠れるなど、必死に逃げ出した結果、時間切れとなり取り逃がしてしまったようだ。

「ギイちゃんが、儂のギイちゃんが……」

最後の最後で上下に真っ二つに切り裂かれた最終魔造兵器ギイが触手を絡ませ、アレンの斬撃から救った結果、シノロムは転移して逃げることができた。

へたり込むシノロムからキュベルに視線を移したオルドーの顔には眉間に皺が寄っており、怒っていることが容易に分かる。

『それでビルディガもガンディーラもいないではないか!! 参謀キュベルよ、どうなっている!! 作戦立案者の貴様から報告せぬか!!』

『どうやらこの作戦についていけなかったようだね。第一天使を捕まえるために無理させちゃったかな』

『おい、それでマーラはどうした? なぜおまえと一緒にいない。最終的に王都でマーラと落ち合う作戦ではなかったのか!!』

『それが……僕が向かった時にはすでにやられていて……。あとちょっとで助けてあげることができたんだけど……。でも彼女が命懸けで作戦を敢行したお陰で目的は達成できたんだよ』

『ふん、もう少し詳しく聞かせてもらうぞ。魔王様へ正確に報告することが我の務めよ』

オルドーによるキュベルへの厳しい尋問が始まった。

王都ラブールでは天空大王と話が終わった大天使アウラが元の上司であるメルスの下へと飛んでいく。

『メルス様……』

『…何だ』

『天空大王が現状の報告をしてほしいと要請しております。一度、アレンとその仲間たちに王都ラブールへ集合願えませんか』

焦燥しているメルスを通じてアレンはこれからの話が必要だなと思うのであった。