軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第710話 霊獣ネスティラドの心臓

ドゴラがシアの無茶な行動に納得いかないと言う。

(お、心臓は無事か。さてと、たしかにシアの行動は命を捨てたと言っても良いと思われてもしょうがないが)

トクントクン

アレンは仲間たちにとって大事な話だと、ネスティラドを倒したあたりの地面で鼓動する心臓から視線をシアとドゴラへと戻した。

シアはドゴラの視線に一度笑みを零したかと思ったら語り出す。

「……あまりにも皆の連携が上手くいったからな。余も乗せられたと言うべきか。仲間になりたいと思えたからだな。いや、『答え』がすでに与えられていたいうのが正解だろうな」

ゆっくりと自らの行動を言語化しだす。

前衛、中衛、後衛どころか、戦闘職ではないと思っていた商人であるペロムスでさえも活躍し、最初の挑戦では勝利は不可能ではと思えるほどの強敵に対して、言葉通り仲間たちが一丸となって皆でつかんだ勝利だ。

だが、それ以上の『答え』がシアにはすでにあった。

(確実に倒せるというほどの確信ではないが、有効だと思えるほどの答えか)

コンボを決めないといけない刹那の瞬間の行動のためか、無数の考えが一瞬の中で流れたようだ。

「ああ!? シアは仲間だろ!! 何言ってんだ!!」

だが、ドゴラにとってシアが確信の無い状況で攻撃に転じたことはどうしても許されない事だった。

アレンはソフィーにこの場を収めるように視線を送る。

確信するほどでもない勝機のために命を捨てようとしたことが分かり、ドゴラがヒートアップする。

ジャガイモ顔で興奮した状態だとアレンの言葉は通らないと知っている。

「そうですわ。シアは大事な仲間ですわよ。ドゴラさんも仲間のためと思ったシアさんの行動を尊重してあげてください」

この言葉にドゴラは仲間たちを見渡すと、不安そうな表情で自らに視線を送られていることに気付いた。

「ああ、何だよ俺だけかよ……。もう分かったよ。シアは、次は無茶するなよ!」

ドゴラは、まだ怒りが収まらないようだが、一歩引いて黙ってしまうようだ。

「それで、シアは何か『答え』を見出したということか?」

「そうだ。ネスティラドのやり方がガルム様と似ていてな。おかげでというわけではないが自然と体が動いたというわけだ」

(ルバンカ。どうなんだ? そういえば、ガルムとの戦いもコンボを競う戦いであったな。そういう話なのか)

『ん? 知らん。アレン殿もよく分かるだろう。記憶を共有しているのだからな。もしかしたら我が倒された後の話のことかもな』

シアの最終試練で獣神ガルムと戦った際、ルバンカも一緒に参加した。

結界を張られており、アレンは試練中の様子は視覚を共有することはできなかったが、ルバンカが倒され、アレンの魔導書に召喚枠に戻ったことで記憶が共有された。

その結果、シアの救出に向かったわけだが、たしかにネスティラドの戦いはコンボを競う試練となったがそれだけが理由なのかとシアを見る。

「ガルム様は攻撃を耐え、コンボを達成させながらも、自らの反撃を伺っていた。余にはそれが同じに見えたのだ……」

戦術面でどこか似ていたとシアは言いながら、ゆっくりと地面で鼓動する何かに近づいて行く。

ドクンドクン

「なるほど……」

(これが霊獣ネスティラドの心臓か。心臓だけなのに鼓動が止まんないんだけど)

勝ち方に仲間たちの中で少々揉めてしまったが、アレンも仲間たちと共に地面に落ちた鼓動する「霊獣ネスティラドの心臓」を取り囲む。

10メートルの巨躯で鼓動するネスティラドの心臓は、目で見て分かるほどの大きさで、2メートル以上あったのだが、Sランクの魔石と同様にドッジボールサイズまで縮小してしまった。

(肉体のほとんどが破壊されてしまったが、心臓は無事か。神技で心臓まで破壊されていたら、セシルの怒りはドゴラどころじゃすまなかったな。たぶん破壊したシアじゃなくて何故か矛先は俺にくるだろうし。ん? さっきより鼓動が強くなっていないか?)

肉体が破壊され、光る泡となって空中に浮遊するネスティラドは、心臓だけがこの場にある。

無事、心臓が残ったことに自らの生命の危機が回避されたことに安堵する。

「おいおい、何で倒したのに心臓止まんねえんだよ。気持ち悪いなぁ。ん? なんか、鼓動が激しくなっていないか?」

アレン同様にキールが気分悪いと毒づく中、鼓動の変化に気付く。

トクントクン

ドクンドクン

ドッドッドッ

「何が起きてんだ!! おい、シアの神技で倒しきったんじゃねえのか!!」

ドゴラも仲間たちも地面をバウンドする程のネスティラドの心臓の躍動に驚き慄いてしまう。

「霊力が……。魂がネスティラドに戻り始めたぞ! 余が確実に倒したはずなのに……。どうするのだアレンよ!!」

パアッ

空中に四散した霊力でありネスティラドの魂が、今一度、心臓に戻り始めた。

ドッチボールサイズだった心臓が直径1メートルを超えバランスボールサイズへと膨張し始める。

光る泡は心臓に集まり肉体を形作り始めると、既に体長3メートルほどに縮んでいるが1人の男を構成し、肉体を取り戻そうとしている。

バクッバクッ

肉体はまだ透けているのだが、大男を象ったままゆっくりと歩き始める。

『わ、儂は探さねばならぬ。儂を慕う者たちを置いてきてしまった……』

肉体の色は既に背後が見えないほど濃くなり、ゆっくりと歩み始める。

「あ、アレン。また倒さないといけないの?」

『くううううん……』

ハクが困惑するので、垂れた鼻先をさすり落ち着かせながらクレナがアレンに問う。

「そうだな。まるで不滅の肉体。不死なのか。だったら、何度倒しても……」

パーティーのリーダーであるアレンに視線が集まり、決断を求められる。

このまま肉体が完全に復活したら、脅威になりかねないし、そもそも心臓は手に入らない。

(意味不明な探査をしているが、生前の思いの強いグラハンみたいな感じか。誰かを探してるのか? 何万年も、何十万年も前から? どうやって探すんだよ)

霊獣ネスティラドはメルスが生存する10万年以上も前の数十万年も前からシャンダール天空国の霊障の吹き溜まりを徘徊している。

メルスからも一切、コミュニケーションはとれず、近づくものを暴力によって排斥してきたと聞いている。

どのような贄を捧げても受け付けなかった中、ネスティラドの肉体は5メートルを超えさらに膨張していく。

これまでのダメージが何だったのか。

このままでは戦闘が再開するし、もしかしたら記憶が倒す前から引き継がれているかもしれない。

同じ作戦で倒すことは厳しいだろう。

今のままなら、まだ、完全な肉体に戻っていないため、倒すことも可能であろう。

しかし、不死で何度でも復活できるというのであれば、このまま戦いを続けることに意味があるのか。

『また貴様らか!!』

「お、おい! やっぱり俺たちのこと覚えているみたいだぞ、アレン!!」

ルークが腰を抜かすほど驚いてしまう。

とうとう意識が戻ってきたのか取り囲むアレンたちにどうやら気付いたようだ。

明らかに敵対的な態度に記憶が引き継がれているようで、激戦を予感させられ、緊張感が走る。

「仕方ない。せっかく作戦が上手くいったが、ここは撤退だ。勝利条件を見つけなくては意味がない……」

(ん? 何だ? 魔法陣だ)

アレンはこのまま戦いを続けても意味がないため、退却を決断する。

発言中に突然、アレンたちの背後に魔法陣が現れたことを、状況を俯瞰してみていた鳥Eの召喚獣が気付いた。

『待ちなさい。よくぞ、ここまで戦いました。全ての条件が整ったことに私も驚きです』

『ルプト……様!? 何故ここに』

魔法陣から現れ、転移してきたのが第一天使ルプトだった。

配下であるアウラ、レミア、モウラの3体の大天使も遅れて現れる。

『ネスティラドの意識に触れるためには一度倒す必要があった……。不滅の肉体、不死属性に対して厳しい条件だと思っていましたが、何とか形になりました。アレンよ』

3対の翼をはためかせたかと思ったら一気にアレンの下まで距離を詰めたルプトは、双子の兄であるメルスを無視する。

メルスは一瞬感情的になりそうになったが、急いでいる様子のルプトに対して静観することにするようだ。

『転移の魔法陣に問題はありません。旧世界からの転移は可能です』

『固有結界を張りました』

『お急ぎください。一瞬ですが結果を歪める虚像を一帯に流します』

アウラ、レミア、モウラはどれほどの霊力を込めているのか、全てを出し尽くすほどの霊力が全身を溢れ、3人がネスティラドを囲むように巨大な魔法陣を形成する。

『ありがとうございます。問題がないようです。ガルム様、お越し下さい』

「ガルム様だと?」

状況についていけないシアは「ガルム」という名前に反応するタイミングに合わせて魔法陣から誰かが転移する。

バチッと閃光が走ったかと思ったら魔法陣に何かが現れた。

『良いのかの。新世界に儂を招いて。このようなことをしてエルメアは黙っていまい』

魔法陣から現れたのは全長120センチメートル足らずの老齢のチンパンジーの姿をした獣神ガルムであった。

ボコボコッ

『法の神アクシリオンが霊獣に戻ってしまいます。早めにお願いします』

『うむ、分かったのじゃ。まったく神技や試練の内容をあれこれ指示したと思ったらこんなことか。上位神にして法の神に仕えし獣神であるぞ……。このような小娘の天使に顎で使われる儂ではないぞ……』

『いいから早くしてください』

『黙ってみておれ。何度倒されても放置するつもりであったのじゃがの。いや、獣人たちに試練を与えると決めた時にまさか本当にこうなるとはの』

『協力していただけると言う話……!?』

再度、協力を依頼しようとしたが、老いぼれたガルムの眼光に力が籠り黙ってしまう。

上位神は第一天使をひと睨みで黙らせることができるようだ。

『……おいたわしや、アクシリオン様。このようなお姿に』

『ぬ? その声は儂のかわいい猿っ子かの』

(なんかパトランタで見た調停神との会話と似ているな)

キュベルが邪神を復活させた際、調停神ファルネメスとの会話をアレンは思い出す。

『……はい。ガルムでございます』

『お、おお!! 何故儂の側を離れたのじゃ!! 他の皆はどうしたのじゃ!!』

『……そ、それは。皆はもう……』

獣神ガルムは何を思い出したのか大粒の涙を両の目から流し、ワナワナと震え出した。

『ガルム様、お願いします。法の神の魂に触れ、世界の調律を取り戻すためです』

言葉を詰まらせるガルムに対してルプトは強い口調で協力を求める。

『どうして留守にしておったのじゃときいているのだ? 儂は探さねばならん。猿っ子よ、お前も一緒に探すのじゃ。皆、儂らをおいてどこをふらついておるのじゃ。我が子が暴れておる大変なこの時期に』

(さっきは置いてきたと言って、今度はふらついている……か。魂だけの存在、記憶無き自我か。だが、何とか会話が成立しているな)

発言に矛盾が大きくなり、再度、辺りをうろつこうとする。

『……皆は神殿に帰りました』

『ぬ? 本当か?』

『はい。皆でアクシリオン様のお帰りを待っております』

『お、おおお!! そうか。良かった。なんじゃ、ずっと探してしまったではないか。では、儂も神殿に帰らねばならぬの』

ユラリッ

パアッ

魂が形作り復活しようとしたネスティラドの肉体が再度、崩壊し始める。

『アレンよ。霊獣石の準備を! 速やかに法の神の魂を吸収してください!!』

(ちょ。もう少し説明してほしいんだけど)

『急いで下さい。これで「神Sの召喚獣」の条件は全て満たされました!!』

「何だって!?」

ルプトの驚きの言葉に、アレンは慌てて魔導書に納めていた霊獣石を取り出すのであった。