軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第704話 幸運999999①

メルスと「ラッキースロット」を回し、ペロムスが神技「開運招福」を発動した後、前回のように霊獣ネスティラドの視線を避けて、周囲10メートルにもなる巨木の背後に転移した。

ステータスお化けのネスティラドと対峙するために、巨木の背後に鳥Aの「巣」を設置したのだが、彼は学習するようだ。

メキメキッ

巨木の幹がアレンの反対側から強力な一撃を受け、迫るように大きくたわむと弾性の限界を超え、縦にヒビが入り隙間が一気に大きくなる。

とうとう絶望の権化とも言えるネスティラドが割れ目から姿を現した。

(なるほど。野良ボスだからな。体力は自然と回復するし、これまでの戦いの知識は蓄積されると)

前回あれほどダメージを与えたネスティラドの体は無傷だ。

アレンの視界がスローモーションのように流れていく。

根本の部分からへし折れた大木がゆっくりと倒れ込んでくる。

仲間たちが驚愕する中、アレンはネスティラドの野良ボスとしての特徴を理解する。

『貴様ら、また儂の探しものを邪魔しにきたな!!』

(また、探し物か。いったい何を探しているのやら)

ネスティラドは何かを探しているのだが、それが何なのか、竜人たちも探せた者はいないらしい。

贄や供物にも興味を示さず、神々に祈りを捧げても無駄であったと聞いている。

アレンもあれこれ模索してみたが、今のところヒントになるものはない。

「きゃあああああ! でたあああああ!! ロザリナこいつ嫌いよ!!!!」

真っ先に動いたのは本能のままに生きるロザリナだった。

仲間たちを捨て、ネスティラドを背にし、全速力で逃げ出した。

「ちょっと、フォルマール放しなさい! そして戦いなさい!!」

「……ソフィアローネ様の身の安全が優先です」

フォルマールはソフィーを横腹に抱え、ロザリナへ向かって距離を取る。

腹を抱えられ両手足をばたつかせるソフィーは、フォルマールに戦いに参加してほしいようだ。

『よし、ソフィーとロザリナはそのまま後方に下がれ! キールもだ。おい、ペロムスは中衛位置だ! 下がりすぎるなよ!!』

前回と違い、戦いの開始は最悪の状況であるが、ここから陣形を敷かなければならない。

後衛では、バフを貰ってもネスティラドがスキルを込めない一撃でも耐えられない。

回復やバフ役は前衛が戦うため絶対に死守しなくてはいけない。

鳥Eの召喚獣を使い全体を 俯瞰(ふかん) しながら、アレンは最悪の状況を避けながらも、勝利の陣形を組むべく態勢を立て直そうとする。

「ううう、やっぱり僕じゃ無理だよ……」

(この状況で戦闘経験の差は戦意の差か。ハクやマグラはこの団子状態だとブレスはきついな……)

「おいペロムス。動きづらい。一緒に下がっていいから、裾を掴むな!!」

ペロムスがキールを壁にするように、ネスティラドから距離を取る。

キールがアレンの指示を聞いて、後方に下がるようだ。

キールはアレンと学園の頃から一緒に行動を共にし、リーダーのアレンの指示は戦闘中において基本的に全部聞く。

後退を始めたキールの裾を掴む半泣きのペロムスは、アレンたちとの戦いの経験はほとんどない。

学園都市、S級ダンジョン、邪教徒との戦いなどパーティーでの戦いの練度を上げ続けてきたアレンたちと違い、ペロムスは戦い一辺倒の人生ではなかった。

思い人との結婚を果たし、転職を重ね、神の試練を超えても、暴力の権化であるネスティラドを前におしっこをちびりそうになっている。

『……ふむ。また煩わしい戦法を取ろうと言うのだな』

ネスティラドの視線が前衛として残ったアレンたちよりも背後を見つめている。

(後衛を守る形で陣形を組んだことも覚えていそうだな)

「ドゴラ、クレナ。注意を引くんだ!!」

「おう、分かってるぜ。 全身全霊(フルブレイズ) !!」

「うん、分かった! 次元断絶!!」

アレンの最低限の指示で当たり前のようにドゴラとクレナが動き出す。

複数あるスキルの中で威力の高いものを選び、2人はネスティラドに距離を詰めた。

『邪魔だ』

「ぐあ!!」

「うわ!?」

しかし、飛んできた羽虫を振り払うように左腕で振り払った。

腕に受けた2人の斬撃は火花を散らすのだが、ダメージなど全然通らず、武器ごと2人を軽々と払い飛ばした。

そのまま、下がった後衛たちの下へ歩みを開始した。

『後衛の下へ向かうぞ!』

「ソフィー! 精霊の衣を!!」

ネスティラドに対峙していたシアとルークも驚愕するが、すぐに動けない。

このまま攻めてもドゴラとクレナの二の舞になってしまう。

前進を開始したネスティラドと並走して攻撃するのだが、まるでダメージなど受けていないと言わんばかりに止まることはない。

「ちょっと、お前はここで……」

「うわああああああ!?」

キールがペロムスの配置を指示しているのだが、ソフィーやロザリナよりも前にいたため、ネスティラドが迫ってきてしまう。

『散れ! 雑魚どもが!!』

右腕を大きく振り、キールとペロムスにネスティラドの凶悪な一撃が迫った。

陣形を容易く組ませてくれないようだ。

『く、メルスは仕方ない。後衛の位置まで下がれ。ルバンカも後衛を守れ。マクリス! いけるな!!』

アレンは巨木にヒビが生じたタイミングでマクリスに特技の発動を指示していた。

『いけるのらああああ! フリーズキャノン!!』

キールとペロムスが絶体絶命な状況に、前衛と後衛の間に移動したネスティラドの頭部をめがけて、マクリスが特技「フリーズキャノン」を放った。

ブレスに比べて圧倒的に速度が出る特技「フリーズキャノン」がネスティラドの頭部に当たる。

『ふん。それがどうした!!』

当たったことが気にならないのか、氷柱は瞬時に粉砕され、煌めきと共に消えていく。

(デバフが効いていない状態では進行を止めるに至らないか)

氷柱はネスティラドの頭で爆散したが、動きを遮るには至らなかった。

プロスティア帝国では上位魔神ラモンハモンを倒した時よりも、バフで威力が向上しているのだが、ダメージを与えるどころか足止めにもならない。

ネスティラドの目標は後方に下がったキールやソフィー、ロザリナであった。

だが、その途中にキールが中衛の配置だと振り落としたペロムスが膝を折り、両手を地面についていた。

ズンズンッ

巨躯を震わせ、仲間たちの攻撃も余裕で振り払ったネスティラドが凄い勢いで突進してくる。

(最悪のスタートになりかねないな。一度、引き返すか!)

始まりが悪ければ戦いにならない。

リーダーとして退却も視野に入れる。

ペロムスにはっきりとした死が迫ってくるが腰が抜けて移動できない。

恐怖のあまり、腰の魔導袋から無意識に金貨を取り出して握りしめた。

「うああああああ!! 真・銭投!!」

ペロムスは幸運のステータス依存のスキル「真銭投」を発動するようだ。

手に握りしめた際、スキル「一攫千金」のスキルが金貨を白金貨、光金貨へ硬貨の存在価値を変えていく。

スキル「一攫千金」はスキルレベルによって硬貨の価値を一時的に上昇させる効果がある。

バチバチッ

金貨(見た目、光金貨だが以降も実際の硬貨である「金貨」で統一)だったものがペロムスの拳の中で破裂音を立てて輝き始めた。

体を起こし、振り上げた拳を振り下ろす際、ペロムスはまるで自分の腕が勝手に動くような違和感すら覚える。

どこにこんな力があるのか、まるで自分の体じゃないようだと思ったが、もう止めることはできない。

ドンッ

ペロムスの手からはじき出された金貨は、まるで大砲の様に前面の空気の全てを押し飛ばすほどの巨大な音を出してネスティラドへと飛んでいく。

『ぬ? なんだ? ただのつぶてか。こんなもの? うぐあ!?』

左腕で振り払うように手の甲でペロムスの金貨を受けた。

そのまま手の甲を払おうとしたが硬貨がめり込んで動かせない。

手の甲深くまでめり込んだ金貨は、左腕で胴体を押さえつける。

とうとう、進行が止まったかと思ったら、巨大な両足がとうとう重力を無視して宙へ浮き、ネスティラドを後方へと吹き飛ばした。

(え? これって。あまりの幸運でなんて威力だ……)

「おいおい、うわああああ!?」

ドゴラが背後から追いかけていたのだが、ネスティラドの背中が迫り大声を上げる。

寸前で地面に転がり、何が起きたのかと向かってきた方向を見ると、投擲の構えのまま固まっているペロムスがいた。

ズウウウウン

ズウウウウン

巨木がようやく地面に倒れたタイミングと、ネスティラドが吹き飛ばされ地面にたたきつけられたタイミングが重なる。

「え? なんなのこれ……」

未だに両の足の膝をついたままのペロムスが信じられないと両手を見つめて震えている。

『見たか! ペロムスの力を!! ネスティラドは後退した。速やかに陣形を!!』

(ペロムスはワイが育てた)

仲間たち全員が衝撃の光景に真っ白になったが、アレンが現実に引き戻す。

ペロムスのお陰で余裕のなかった陣形を組むことができた。

「精霊の衣、ジゲン様! ルークをお守りください!!」

倒れたネスティラドに空間の大精霊を纏うルークが神器を振るう。

「よし、さすがペロムスだぜ。呪詛禁刃!! くっ、一発で決まらないか!」

(ルークのデバフは幸運30万乗っただけじゃ必中にはならないと。ここは確実に攻めたいな。このネスティラドは何度も同じ作戦で戦える相手ではないし)

転移と同時に攻めてきたネスティラドにアレンはいっそう慎重になる。

100連コンボを使い確実にネスティラドを倒したい。

『ペロムス。やはり、作戦通り達磨祈願を使うんだ!!』

「う、うん分かった、アレン。達磨祈願!!」

ポンッ

ペロムスはスキル「達磨祈願」を発動した。

ペロムスの頭上に、頭部よりもやや小さい両目の白い達磨が現れた。

『汝や。願いが欲しければ銭を投げい。最大2つじゃ』

黒目のない達磨が大口を開け、体全体をペロムスの顔が見えるように傾け、語り掛けてくる。

その後も頭の上でフワフワと揺れている。

「うん、分かった。真・銭投!!」

ドンッ

『ぐふ!?』

ネスティラドは金貨を肩に受けてしまう。

明らかに警戒していたネスティラドは横に避けたのだが、巨躯に比べて金貨はあまりにも小さく避け切れなかったようだ。

カッ

目が2つとも白かったのだが、ペロムスが金貨を1つ当てると、片方だけ黒目が現れる。

『よしよし。よく当てたな。願いを叶えるか?』

「ううん。もう1つ当てて、両目を黒くするよ」

『ならば。真銭投で金貨を放り祈願せよ!』

「分かった」

頭の上でニヤリと笑う達磨に対して力強く返事する。

アレンパーティーのネスティラド戦第2ラウンドは、ペロムスの輝かしい幸運によって始まるのであった。