軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第687話 時空神デスペラードの練習場

時空神デスペラードはセシルの魔法の練習に自らの神域を提供すると言う。

水色のピラミッドを上下にくっつけたような巨大なひし型な構造の神域は、上部が魔法神イシリスの研究施設だ。

下部はまだ踏み込んだことはないが時空神デスペラードの神域らしい。

(こ、これは!!)

時空神の提案にときめきを覚える。

「それは助かります! よろしいんですか?」

セシルよりも前にアレンが礼を言う。

『いえいえ。これほど夢中になったイシリスは珍しい。研究に集中させてあげたいからね。じゃあ、とりあえず2人とも転移させますね』

(とりあえず?)

アレンが時空神の言葉に引っ掛かりを覚える中、3人は魔法神イシリスの研究施設から一瞬で転移した。

上も下もない巨大な空間だった。

中空にはよく分からないワームホールがぽっかりと開いていたり、キューブ状の物体が浮いている。

「アレン!?」

「おお、浮いている!」

アレンは召喚獣の加護で空を浮くことができるのだが、魔力の消費を感じない。

加護であっても特技やスキルであっても、対価を払わず、 無料(ただ) で空を浮けるようなことはできない。

魔力なり霊力を対価に空を浮くことができるし、巨大なゴーレムを移動させたり、高速で移動しようものなら、膨大な魔力が必要だ。

魔力の消費を感じないのは隣りにいる時空神デスペラードの力によるものだろう。

この神によって、人間界、神界、暗黒界の間に結界を張り、人間界から自由に神界に入れないようにしているらしい。

(ここはそんな神界の結界を担っている場所なのだろうか)

よく分からない場所に転移したアレンが時空神の力と役割について考える。

『あそこが私の神域「時空結界」の入り口です』

丁寧な口調に徹する時空神が指差した先には一辺50メートルほどの床石が空中に浮いている。

ふわりとアレンたちを足場となる床石の上に移動させた。

床石の上空2メートルほどの視界の少し上には、いくつかのキューブ状の物体が浮いている。

「なんだかダンジョンの入り口みたいね」

「ああ。なんたって、ダンジョンの転移システムを担ってるみたいだからな」

ダンジョンを管理しているのはダンジョンマスターディグラグニだ。

ダンジョンマスターディグラグニは魔法神イシリスが創造したらしい。

魔法神イシリスの夫である時空神デスペラードは、ダンジョンの転移や空間管理の力を提供していると言われている。

『……こちらの転移装置からいくつかの空間へと続いています。古代魔法に相性の良い空間を選んで練習をしてください』

浮いているキューブ状の物体が別の空間へと転移させてくれると言う。

「なるほど。それで、転移先でどのようなことをすれば報酬を頂けるのでしょうか?」

アレンが一気に悪い顔になる。

『え?』

「え?」

時空神とセシルが一瞬何を言っているのか分からないと、疑問の声を上げてしまった。

『申し訳ありません。提供するのはこの神域だけなのですが?』

「申し訳ありません。情報が行っていなかったかもしれませんが、一応、時空神様の羅神くじを引いておりますので……」

「ああ、キールがね」

(ぐぬぬ)

セシルは手を緩めることは一切せず、キールの功績が薄まることを一切容認しないようだ。

『……仕方ありませんね。ただ、イシリスの報酬を磨き上げることを優先してください』

「それはどういう意味でしょうか」

『神が加護や神器などの報酬を与えるのも、私たちはリスクを背負っていると言うことです』

(なるほど、試験管の中を混ぜる棒に使っていた原魔の杖も破壊されると魔法神としてもタダでは済まないと)

アレンは神器を奪われた火の神フレイヤを思い出す。

魔王軍の神界への侵攻によって、火の神フレイヤは神器を奪われた。

結果、3年もすれば、火の神は力を失い石になってしまうというところまで追い込まれてしまった。

神器とは神が神として存在するために必要なものだ。

それを人に渡すとなれば、何のリスクもないわけではないのだろう。

「だから魔法神様はそんなに乗り気ではなかったのね」

「そうだな。神器を破壊されただけでなく、加護を与えた人が人々の心が離れるような悪行を重ねたら、それは加護を与えた神へと返ってくる」

「アレン、なるほどね」

神は相応の試練を与えることには意味があった。

挑戦する者をふるいにかけ、人となりを見定めているようだ。

『そこまでではありませんが、イシリスの与えし神技をしっかり使いこなすよう取り込んでいく。それが約束できるなら、私の試練も並行して受けることを許可しましょう』

魔法神イシリスから与えられし神技や神器を十分に扱えることが、時空神の試練を受ける条件のようだ。

(時空神だけに並行世界でってか。あまり反対しないのは、こうなることを予見していたのかな)

いくつもの世界が重なったかのように見える、時空神の神域を見ながら、アレンは下らないことを思いつく。

「すんなり話が進んで交渉のし甲斐がなくなったな」

「アレンに交渉を吹っ掛けてもいいことがないって広まってるからじゃないかしら」

(失礼ね!)

時空神が管理する人間界と神界の間にある試しの門の攻略後に、時空神に神界へ行ける枠を増やそうと交渉したことを懐かしく思う。

『……おほん。では、挑戦の条件をお伝えします。私の試練は単純です。最下層にいる私の下へとやってくれば良い』

「おお! いけそうな気がする!! えっと、ホークとツバメンの組み合わせで」

アレンは鳥Eの召喚獣を出せる枠をすぐに考え始める。

『うほん! 挑戦するのはセシルさんのみです。アレンさんはこの場より先へ行くことはなりません』

さらに強く咳払いをする。

(なんだ。また地球のへそか? 引き返せってか)

「そうなんですね。それは厳しい試練になりそうです」

試しの門では、クレナとハクのみでの門番の戦いを強いられた。

時空神の趣向として、挑戦者を絞る考えがあるのかもしれないとアレンは思う。

『まずはイシリスの神技を使いこなすことに集中なさい。さすれば、私の神域を攻略する日も来るでしょう。こちらが私の神域を攻略した報酬になります』

【時空神デスペラードの試練と報酬】

・1階層攻略:神技「空間魔法」

・2階層攻略:神技「時限魔法」

・3階層攻略:時空神の加護

・4階層攻略:時空神の神器

(すごいな。魔法神の報酬を鍛えつつ、時空神の神技も扱えるようになれば、セシルは最強の魔法使いになりそうだな)

「素晴らしいわ! 究極の魔法使いに私はなる!!」

貴族の尊厳などみじんも感じさせないセシルは、拳を振り上げ高々と宣言した。

「じゃあ、セシル。ネスティラドの心臓を手に入れたら戻ってくるから、気を付けるんだぞ」

「分かったわ。アレンたちもね」

セシルにはセシルの戦いが、アレンたちにはアレンたちの戦いがある。

セシルが勇ましく拳を振り上げ、こちらに向けてくる。

アレンも合わせるようにゴチンと拳を当て、時空神に向かって踵を返した。

『では、アレンさんはあの転移システムに話しかけてください。神域の外に出られますから』

話がまとまったところで、アレンに神域から出て行くように言う。

セシルを時空神の神域に残し、アレンは外に出た後、シャンダール天空国の霊障の吹き溜まりの側に設置された要塞に転移した。

シアの試練が終わった原獣の園から始まり、この要塞でこれからの話をしてからの、ヘルミオスのいる神界闘技場にゼウたちを連れて行き、魔法神と時空神に会ってきた。

今日も密な一日を過ごした結果、夕暮れとなり、雲の上にあるシャンダール天空国の西のはずれに、まもなく日の光が沈みそうだ。

「アレン様、おかえりなさい。思ったよりもお時間かかりましたわね」

要塞の中にある建物の外でソフィーが1人で立って待っていた。

「ああ、セシルが無事、魔法神から報酬貰ったんだけど、ついで時空神の試練も受けれるようになったんだ」

待たせてしまったようで申し訳ないとアレンは駆け寄った。

「まあ、それは大変です。皆で手伝いに行きますか?」

「不要だって時空神が言っている。練習のついでに、試練を達成したらよいよねくらいのノリらしい」

「そうですか……」

精霊神との試練の際は、仲間たちの協力があって攻略することができたソフィーは不安そうだ。

(イグノマスみたいに何の手伝いもなく2つも神の試練超えたのもいるけど。それで言うとロザリナもか)

協力が必要なら惜しむことはないが、今はその時ではない。

「今日はネスティラド戦に向けて飯食って休もう」

明日に備えるようにアレンは言う。

「ええ。間もなく準備が整うようです。アレン様もこちらへ」

ソフィーが、兵たちが食事ができるように設けた広い食堂へと案内してくれる。

今日は、アレンたちのために貸し切りにしてくれたようだ。

「おう、遅かったな」

「アレン、きたきた」

食い意地のあるドゴラ、ルークも食事に手を付けず待ってくれていた。

すまないとアレンも席に着く。

今日という日の食事に感謝して祈りを捧げるソフィー。

親の教えの通りにと一緒に祈りを捧げるルーク。

火の神の使徒なのに一切感謝せず良く焼けた肉を頬張るドゴラ。

ドゴラに野菜を食べさせようとしてウザがられているシア。

食い気よりも飲み気と美酒で喉を潤すロザリナ。

皆が思い思いに食事を楽しむ。

(明日に向けて、恐怖は微塵もないと。ん? クレナがいないな)

仲間たちの中に、最も高い食い気を誇るクレナがいないことに気付いた。

「あれ、アビゲイルさん。クレナがいませんね。もしかして寝てたりしますか?」

食事時になってもこの場にいないクレナにアレンは気付いた。

「い、いえ。そんなことはないはずですが……」

守主のアビゲイルはクレナの居場所が分からなかった。

だが、そんなクレナの大きな声が窓の外から聞こえてくる。

「ほおおおら、ハク。美味しいお肉だよ。たんとお食べ~」

『ぎゃう!! マンマ美味しい!!』

「そうかそうか!」

クレナはどうやらハクが寂しくないように食事を与えているようだ。

「……それにしても明日があのネスティラドとの戦いなのに皆さんの落ち着きようは」

「平常心こそがベストな状態で戦うための秘策ですからね」

アレンはニヤリと笑い、アビゲイルに答えるのであった。