軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第674話 シアとゼウ②

ホバはゼウの優位性を説いた結果、シアの決意は確固たるものになったようだ。

必ず勝利して獣神ガルムの試練を受けると言うシアは「獣帝化」を発動した。

ゼウはシアの覚悟に答えるように「獣帝化」になる。

十英獣は補助を振りまき、シアとルバンカに挑むようだ。

ゼウがスキル「獣帝化」を発動したことによって、十英獣の皆の体がミチミチと巨大になる。

獣王化や獣帝化のスキルは周囲の獣人たちに力を与える。

「むむ! 力が湧いてくるぞ!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」

変貌を遂げ、巨大な獣となったホバが自らの中から湧き出る力を感じていると、他の十英獣も姿を変えていく。

獣王化と同様に獣帝化も周りの獣人の力を強化する効果があった。

『ゼウ兄様は余が始末する。ルバンカよ、残りの雑魚共を任せたぞ』

シアは吐き捨てるように、ルバンカに指示を出す。

『分かった。構わぬのだな』

『当然よ。稀代の悪獣帝となる覚悟はできている!』

シアがゼウに向かう。

ゼウも戦意を奮い起こし、シアにナックルを向ける。

シアもゼウに対してナックルを叩き込む。

両者の拳がすれ違い、吸い込まれるようにお互いの顔へと襲い掛かる。

『ぬぐ! 流石はゼウ兄様といったところか!!』

『シアよ! いい加減にせよ! ガルム様も分かってくれる! 他に答えがあるはずだ!!』

シアとゼウが肉弾戦を繰り広げる中、ルバンカの進撃を十英獣の中で最も体格の大きいホバが食い止める。

「ぬおおおおおお! な、なんて力だ!?」

体長が3メートルを超えるほどに巨大になったホバが、さらに巨大なオリハルコンの槌を持ったとしても、全長30メートルのルバンカに比べたら成人と子犬以上の体格差だ。

脇下に伸びる2本の腕で槌ごとホバを悠々と抑え込むと、肩甲骨から伸びる太い2本の腕がそれぞれ拳を作り、ホバに狙いを定める。

だが、拳が振るわれることはなかった。

『ぬぐっ!?』

「よっし、ホバ。よく止めたぞ!! 食らえ! フレイムランス!!」

吸い込まれるように魔獣帝ラトが火魔法で構成された無数の火の矢をルバンカの顔面に放ち、視界を奪った。

「ヒャッホウ! セヌ、もう片方任せたぞ!!」

「おう!!」

好戦的なラーテルの獣人で爪獣帝パズが飛び上がり、肩甲骨から伸びる2本の腕の片腕に絡むように、オリハルコンの爪で襲い掛かる。

爪獣帝パズに呼応するように双剣獣帝セヌが肩から伸びるもう片方の手にまとわりついて、オリハルコンの双剣を浴びせる。

キイイインッ

毛皮を切り付けたとは思えないほどの音がルバンカから鳴り響く。

『ふん! この程度!!』

ガンガン体力が削られる中、連携された動きの十英獣たちを、体格差を活かして何とか振り払おうとする。

「むん! 視覚を完全に奪うぞ!!」

全ての腕の動きを封じたのは十英獣の一連の作戦であった。

弓獣帝ゲンはヤマアラシの背中の針を2本ちぎり、弓にセットすると万力の力で、ルバンカの両目をそれぞれ狙う。

十英獣の連携は、この1ヵ月近い神殿での試練のお陰のようだ。

夢を共有して、9人で1体の獣のように一糸乱れぬ動きを体得したようだ。

バヒュンッ

『ぬぐ!!』

『よし、両目を奪ったぞ! ラゾとハチも我と……』

斧槍獣帝でハルバートを握り締める犀のラゾ、剣獣帝で剣と盾を持つ犬の獣人ハチにも前面でルバンカに相対するように指示を出そうとした。

だが、攻撃を食らい続けるのも、現在覚醒スキル「幻獣化」を使わないのもルバンカとシアの作戦であった。

十分に体力が削られたルバンカは十英獣が絶望する特技を口にする。

『そろそろ頃合いだ! 獣の血!!』

『ぬ? 何だ! こ、拳が!? がは!!』

発動と共にルバンカは血が固まってできる巨大な爪でホバを吹き飛ばし、纏わりつく爪獣帝パズと双剣獣帝セヌを蹴散らす。

鮮血を出して吹き飛ばされるホバを斧槍獣帝ラゾと剣獣帝ハチが背後から受け止める。

「お、オールヒール! ば、化け物め!!」

ルバンカの爪で怪我を負ったホバたちを、回復のタイミングを待っていた聖獣帝で山羊の獣人フイが瞬く間に完治させる。

だが、特技「獣の血」を発動させたルバンカがさらなる絶望を十英獣にもたらす。

『幻獣化!!』

ルバンカは覚醒スキル「幻獣化」を発動させた。

これまで受けた怪我がなかったかのようにすごい勢いでミチミチと完治する。

矢を突き立てられた両の眼球も回復し、ホバたちに睨みを利かせた。

「負けられぬ! 我らの敗北はゼウ様の敗北よ!!」

力を出したルバンカにホバが皆の戦意を奮い立たせる。

1秒でも早くルバンカを倒さねば、この戦いに意味がなくなってしまう。

なぜなら、スキル「獣帝化」したゼウの手助けが必要だと理解したからだ。

シアとゼウの肉弾戦は続いていた。

獣帝化したシアが、肩からゼウにタックルする。

ゼウは4つの足でしっかり神殿の石畳の上に立っていたのだが、勢いを殺すことが出来なかった。

ホバたちが視界の端で常に追っていたルバンカの背後で、ゼウがシアに殴られ吹き飛ばされる。

『ゼウ兄様この程度か!!』

『がふ!?』

シアがさらなる追撃をするために、距離を詰めた。

ゼウは応戦するべく体勢を立て直すが、スキルを発動する暇すらなかった。

シアもゼウもスキル「獣帝化」による体力超回復の効果で体力が秒速1%の速度で回復するのだが、シアの一撃は重く、じわじわとゼウの体力は削られていく。

『ここから先は行かさぬぞ! 貴様らが選んだ選択よ。もう後悔しても遅いぞ!!』

特技「獣の血」と覚醒スキル「幻獣化」によって、ルバンカは十英獣のステータスを圧倒する。

ホバだけでなく、前衛を務める斧槍獣帝ラゾと剣獣帝ハチが3方向から攻め立てるが、常に3人のうち2人は後方へ吹き飛ばされるような状況だ。

「ぜ、ゼウ様が危ないぞ! 狙いをシア様へ!!」

「分かってる。だが、このままでは我らも危うい。エクストラスキルをルバンカに使え!!」

「だが、それではシア様を倒せなくなるぞ!!」

ここにきて十英獣の行動にも混乱が生じる。

ホバは魔獣帝ラトに対して、攻撃魔法の対象をシアにして、少しでもゼウへの攻撃を緩和したかったようだ。

だが、ルバンカは幻獣化によって上昇した素早さと持ち前の体格でシアへ攻撃魔法がいかないよう立ちふさがる。

シアを背にしていながらも、前衛を屠りつつ、中衛、後衛に対する警戒も一切怠らないのは、2人も1ヵ月近い試練の中で呼吸するように息が合うようになったからだ。

装備もステータスもスキルも戦闘センスも含めてゼウよりもシアが上であった。

S級ダンジョンでは確かにゼウは必死の戦いを行い、勝利を収めた。

だが、実力以上の相手と戦うゼウの必死の戦いはこの時だけであった。

中央大陸やローゼンヘイムで魔王軍と戦ってきたが、死線を越えてきた数はシアが断然上だ。

上位魔神グシャラやバスクとの戦いでは、ルドが殺されるほどの戦いを強いられた。

海底のプロスティア帝国ではさらなる上位魔神や六大魔天の魔王軍とも熾烈に戦った。

神界では大地の迷宮攻略にも参加し、始祖アルバハル、獣神ギランとの試練にも臨んでいる。

報酬の神器はもちろんのこと、そのほか腕輪はパーティー仲間として厳選された最も効果の良い聖殊が使われている。

さらにS級ダンジョン最下層では、自らのスキル上げに余念がなく日々10時間を超える特訓を何カ月も行ってきた。

全ては獣帝王になるため、仲間たちと魔王軍と戦い勝利するためだ。

この1ヵ月近いゼウたちの試練では超えることはもちろんのこと、差を埋めることはできなかった。

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』

ゼウが困惑しながらも大きな声で吠え始めた。

だが、苦し紛れで繰り出したスキルはシアに当たることもなく中空を素通りする。

『ぬん!!』

シアはゼウの懐に入ると渾身の一撃を腹に食らわせた。

『ぐぬあ!?』

悲痛な声を上げてゼウが吹き飛ばされる。

シアはゼウが吹き飛ばされると同時に床石を蹴り上げる。

一気に距離を詰めると腹ばいに着地してしまったゼウに跨り、体を抑え込んだ。

「ゼウ様御無事ですか!!」

遠くでホバがゼウの身を案じて大声を上げた。

だが、ホバを筆頭に襲い掛かるルバンカの背後に見えるのは絶望であった。

ガアアンッ

ガアアンッ

ゼウの頭をシアは渾身の力を込めて殴り始めた。

殴るたびにゼウの頭は床石に叩きつけられ、鈍い音が神殿の広間に響き渡る。

まるで獣王ギルがベク獣王太子に獣王武術大会でした嬲るような所業だ。

最初は起き上がり、脱出しようとしたゼウの力はどんどん抜けていることが分かる。

「おいおいマジかよ。兄妹じゃねえのかよ……」

シアのあまりの行動にレペは思わず絶句してしまう。

何が起きているのか、遠目で見ているレペでも分かる。

スキル「獣帝化」を発動したゼウの体力は秒間1%回復する。

この速度で回復するからクールタイムのあるスキルは連発するのは難しく、一撃ではゼウの体力を全て奪うことはできない。

一撃のスキルを叩き込むためにシアはゼウの動きを封じ、通常攻撃で体力を削り始めた。

「フイよ。我らのことは良い! さっさとゼウ様を……、げはっ!?」

「このままでは私たちがやられてしまうわ!!」

聖獣帝フイはホバの指示を無視して、仲間たちに回復魔法を振りまく。

ルバンカの攻撃は強烈なもので、十英獣たちは命を守りながら戦うので精一杯であった。

少しでもフイの回復の手をゼウにやると、瞬く間に死体の山が広がるだろう。

ルバンカもそれが分かっている行動をとっており、ゼウの戦いの手助けをすると、皆殺しにするぞという気迫だ。

だが、それ以上に、ルバンカには十英獣を殺すつもりなど毛頭なかったことを意味する。

シアが勝てば、獣神ガルムの課したこの戦いは終わることになる。

それまでのお膳立てであり、時間稼ぎだ。

十英獣が選択できないでいる中、シアは待ってくれなかった。

何度も何度も顔面の皮が禿げ、顎や頬の骨が露出するほど殴ったゼウは今にも死にそうだ。

瞼のなくなった目から涙が零れる。

『シアよ。ここまで追い詰めてしまって済まない……』

ゼウは狂気を顔に纏ったシアに懺悔する。

どれだけの環境の中、幼少の頃を過ごしたシアのことを知っていた。

だが、獣王の子とはこういうものと自らの行動に、放っておいたことの言い訳のようなものが口から洩れる。

「ゼウ様!!」

「戦ってください!!」

「どうしたのですか!!」

十英獣たちは必死に鼓舞するが、ゼウの戦意はずっと前に喪失していた。

そんなゼウに止めだとシアは大きく片手を振り上げる。

とうとう、あと一撃でゼウの体力を全て奪うまで体力を削り切った。

『やれ! やるのじゃ!! もうスキルを使えば倒せるぞ! 頭を叩き潰せ!!』

興奮する獣神ガルムが目の前で拳を振るう仕草をしながら、歓喜の声を上げる。

両目から大粒の涙をこぼすシアは大きく振り上げ、バキバキに万力の力を込めたシアの手に魔力が籠る。

『ぬおおおおおお! 真・粉砕撃!!』

『レナよ。もう一度会いたかった……』

ドゴオオオンッ

シアが拳を振り下ろすと、これまでにない音が神殿の広間に鳴り響いたのであった。