軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第672話 神話の世界③

風神ヴェスはルバンカの内側に秘める覚醒スキルの封印された部分に興味を持っているようだ。

『今以上の報酬を頂けるなら是非もない。封印を解除して頂きたい』

ルバンカは風神ヴェスに覚醒スキルの開放を打診する。

『念のために確認するが、お前を作ったのは誰だ。まあ、新世界の全てはエルメアが造ったものだろうがな』

『む? そうだな。だが、召喚獣の設定は第一天使のメルス。兄妹のルプトが引き継いだと聞いている』

現在暗黒神をしているアマンテは、創造神エルメアと争い、その配下の中でも、幹部であった風神ヴェスは、この巨大な建物の3階層目に封印されている。

少しでもエルメア自体が創造したという風に聞こえないような言い回しを心掛けてみた。

『……まあ、良い。我が言い始めたこと。それに何か「答え」がそこにあるような気がする』

『答えだと?』

また意味が分からないことを言い始めたなと言うルバンカに、ヴェスは手招きをする。

『……神にはしてやれぬが、そうだな。新たな牙と爪を与えよう。大いに荒れ狂うが良い』

中空に浮くヴェスはルバンカの胸に手を当てると神力を注ぎ込み始めた。

『お、おおおお!!』

ここには魔導書がないためログなど流れないが、確かに聞こえた。

はっきりと覚醒スキルの封印が解除され、新たな力が注ぎ込まれていく。

『獣Sの召喚獣は覚醒スキル「 嵐獣化(らんじゅうか) 」の封印が解けた』

片手を胸に当てたルバンカは、ここには魔導書がないためログなど流れないが、確かに聞こえたようだ。

・ルバンカのステータス(覚醒スキル部分抜粋)

【覚 醒】 幻獣化、聖珠生成、嵐獣化

Sランクの召喚獣のルバンカは覚醒スキルの封印が開放された。

風神ヴェスはさらに手のひらに神力を込め始めた。

『これも持って行け。これは「風の記憶」だ。腰に下げた袋の中に入るはずだ。我の記憶、我の思いだ。兄者もきっと理解してくれる』

ヴェスの手のひらの上に、風が渦を巻く丸い玉が現れる。

※ビジュアルは螺旋丸

『兄者?』

『今は忘れさられし名。雷神ソディだ。きっと力になろう』

『居場所などを聞いても』

『すまぬが、戦いの中で別れてしまった。探し出してくれ。もしかしたらアマンテ様の側にいるやもだ』

シアは「風の記憶」を手に入れた。

「それで、風神ヴェス様に何があったのですか?」

何故ここにいるのかも聞いてみる。

光の神アマンテに仕えていた風神ヴェスがこの神殿にいるのはおかしな話だ。

『そういう話であったな。実を言うとどうしてと言うのは分からん』

「む?」

倒したら理由を教えてくれるという話だったではないかと言いたいのだが、ヴェスが語ろうとしているため、シアはグッと飲み込んだ。

『それは気付いたらここにいるということか?』

『そういうわけではない。我らは戦いに敗れたのだ』

ルバンカも会話に加わり、要領を得ない風神ヴェスの記憶を紐解いていく。

「敗れたというのは、創造神エルメア様にですか?」

『そう。アマンテ様のお力は絶大で、もう一歩で我らの勝利というところだったのだ』

創造神エルメアの陣営が、光の神アマンテと法の神アクシリオンと戦っていることは知っている。

最上位神3柱はそれぞれ、闘神三姉妹、光魔八神、十二獣神といった上位神で構成された配下を持ち、原獣の園が荒れ果てるまで戦った。

最上位神の数も上位神の数も圧倒する光の神及び法の神陣営は、創造神陣営に敗れることになる。

「戦いの最中で起こるはずのない不手際があったと。獣神ガルム様を随分恨んでいそうでしたが、それと何か理由があるのでしょうか」

『……裏切ったのだ! ガルム共は我らに牙を突如向いたのだ!!』

『ぐむ!?』

風神ヴェスが怒りを露わにし、自らの体を暴風で纏う。

あまりの強風にルバンカが吹き飛ばされそうになる。

「風神ヴェス様、気持ちを落ち着かせてください! 法の神様が裏切ったということですね!!」

あまりの怒りように容易にその時の状況が想像できる。

光の神アマンテ陣営は、創造神と法の神の陣営によって滅ぼされ、暗黒世界に追いやられた。

『……アクシリオン様はその場にはいなかった。エルメアに敗れたからな』

法の神が最初に敗れ、創造神と暗黒神の一騎打ちになった。

十二獣神は創造神側についたと言う。

『あまり争いごとや 政(まつりごと) に疎くて。シアよ、どう思う?』

「……敗れたアクシリオン様はご健在であったのか?」

伏魔殿とも呼ばれるガルレシア大陸で3分の2の領土を持つアルバハル獣王国の王城でシアは生きてきた。

権力闘争の類や政は平民の出(獣人世界に農奴はいない)のルバンカよりも詳しい。

『健在ではない。肉体を割かれ、戦闘不能に追い込まれた。異常なる所業よ』

創造神の敗れた法の神に対する対応に嫌悪を口にする。

法の神は肉体をバラバラにされ、再起の芽を完全につぶした。

「そして、半殺しに痛めつけ、十二獣神の神々に法の神の命欲しければ寝返ろと言えば、陣は強化できるな。アマンテ様の力が絶大なら一石二鳥よ」

『シアよ……』

ルバンカはシアがまるで「自分ならこうする」と言わんばかりの口調に背筋が凍る。

シアの生き様を共有しているだけになおさらだ。

普段、分析や作戦はアレンが行っており、シアはアレンの実力を認めているためフォローに徹している。

作戦の実行よりも仲間を大事にする傾向があるため、行き過ぎた時に軌道修正するのがソフィーの役目だ。

シアの中にある獰猛な猛獣のような本心が見え隠れする。

『たしかにガルム共の態度は必死そのものだった。そうか、ガルムは主のために戦っていたと言うのか』

ヴェスはシアの話に整合性があり、納得しているようだ。

「そのように納得されては困る。その辺りの状況が分からぬという話なのか? 他に不自然な点はあるのか?」

今後有利な点があれば聞いておきたいと思った。

『特にないな』

「アクシリオン様とエルメア様ではエルメア様が有利であると?」

『いや、そんなことはないはずだ。アクシリオン様は法の神だ。法とは理。絶対的な力があるのだ。なるほど、エルメアが勝てた理由は分からぬな……』

ヴェスは初めて疑問に思ったと言う。

「理……あまりピンと来ぬな。だが、エルメア様との戦いには不自然な点はまだあるということか……」

ヴェスの説明がさらに意味不明になっていく。

シアは深堀りしてあれこれ聞くが、ヴェスの中で問いと答えが堂々巡りとなり、これ以上の情報は聞けそうにない。

獣神ガルムにとってシアよりも近く、そして長い付き合いのあるルバンカにも何か気付きがあるか視線で問うが答えはないようだ。

『我らは先を急がねばならぬ』

あれこれ聞いてみたが、ヴェスは記憶をそのまま口にするのだが要領を得ない。

アマンテ側陣営だったため、アクシリオン陣営の状況はかなり曖昧のようだ。

今はゼウとの試練を急ぐ過程だ。

「そうだな。ヴェス様、ありがとうございます。我らが上の階層へ進む道を示してほしい」

『試練を超えた者はあらたな試練が待っている。それが理だ』

パンッ

「型通りの行動であるな。ん? んん? おおお!?」

シアの言葉に反応した風神ヴェスは、何かのスイッチが入ったかのように両手を叩く。

狭い足場が振動を始め、だんだん強くなっていく。

さらに、暴風に見舞われ、竜巻が車や家を巻き上げるように足場を吹き飛ばしていく。

奈落の底の上に網目のように広がる足場は全て吹き飛ばされてしまった。

『シアよ!』

ルバンカが慌ててシアの元に行こうと思うが、既に視界を奪われるほどの暴風だ。

両手で顔を覆い、一歩も動けなかった。

シアとルバンカが足場を失ったはずなのに、その場で立っている状況に困惑を覚え、恐る恐る目を開いた。

「これはどういう状況か? 我らが見ていたのは夢だとでも言うのか」

『そのようだ。幻覚の類だったのか……』

2人が見たのは3階層の石畳の空間であった。

辺りを見回すとヴェスが中空に浮いており、その背後には4階層へと続く階段が続いている。

奈落の底に落ちていたと思っていたが、全ては幻影であったのか。

『……進みゆけ。答えは目に見えるものだけではないぞ。まあ、この世界の矛盾に気付いた者がいたことが我にとっての希望か』

ヴェスの呟きに理解を進めるが、既にシアたちを見ようとすらしていない。

ブツブツ言いながら反応を示すこともなく遠くを見て浮いている。

「感謝する。ルバンカよ! 駆け上がるぞ!!」

『おう!』

半月以上の訓練の果てにシアとルバンカは息がぴったりとなっていた。

2人は階段を一気に駆け上がっていく。

階段を駆け上がった先、床石の上、目の前に小さな人影が見える。

1ヵ月前に1階層で見た高齢でヨボヨボの猿の獣人の姿をしている。

「獣神ガルム様!」

「獣神ガルム様!」

階段を駆け上がったシアは一目散に駆け寄り声をかけた。

だが、自らの言葉がもう1人の言葉と重なり合ってしまう。

幼児のころからずっと自らを心配するように語り掛けてきた兄の声だ。

「ゼウ兄様!?」

「シアか!?」

ゼウとシアが全く同じタイミングでガルムの元にたどり着いたようだ。

シアの後を追うルバンカの横には十英獣の獣人たちもいる。

どうやら誰1人欠けることもなくゼウたちもガルムのいる4階層にたどり着いたようだ。

『うわ!? なんじゃこれは。まったくの同時とは、こんなことが本当にあるんだのう……』

ガルムは両手で口元を抑え驚愕し震え始めた。

シアとゼウが別々の階段から上がり2つの階層で試練を超えた。

こんなにタイミングを合わせたかのように超えるなんてとんでもない偶然とでも言いたいようだ。

「ガルム様、お戯れを……。我らは競い合ってきたのにこのような結果をお与えになろうとは」

『はぁ? なんのことかの』

ゼウは、ガルムの力で無理やり偶然が発生したと思ったようだが 惚(とぼ) けられてしまった。

「まだ、試練があるということでしょうか?」

『儂もどちらに試練を与えるか迷うておっての。いや~こんなに優秀な獣人が一度に現れるなど。びっくりじゃて!!』

ガルムのふざけた行動にルバンカや十英獣たちも首をかしげる。

「では、2人とも報酬を与えたらよい。余は尻尾とカケラも頂けたら言うことはない」

シアははっきりと欲望のままに言葉を発する。

『それはできぬ決まりじゃ』

「では?」

『2人で戦ってくれ。勝った方が儂と戦う権利を与えよう』

ゼウの言葉を言いきる前にガルムはとんでもないことを口にした。

シアとゼウの戦いが始まろうとしているのであった。