軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第652話 大地の迷宮RTA㉑最後の一秒

覚醒スキル「竜の魂」を発動させたハクによって、マグラの首は切り落とされる。

(ギリギリだった。残り1分半だ。鍵はどこだ? 急げ!!)

【99階層・残り0:01:33】

アレンは99階層のこの部屋から出る鍵を探す。

ハクが首を食いちぎったおかげで首から落ちた鍵がキラリとダンジョン内の明るさに照らされて床で輝いている。

アレンが一足飛びで鍵の下へ駆け込む。

『グルルルル!!』

「ぶ!?」

しかし、目の前でハクが立ちはだかる。

今にも向かってきそうな前屈の姿勢を取ったハクは、狂気に満ちた目をしており、アレンたちに牙をむく。

近づいてきたので、敵と認識されてしまったようだ。

腰をひねったかと思うと、50万を超える攻撃力で尾を振ってくる。

ガシッ

『絶対防御! ぬぐ!!』

特技「絶対防御」を発動させたルバンカがアレンに向かう巨大な尾を6つの太い腕で受け止める。

しかし、守りを固めていても、受け止めた6本の腕はハクの刺々しいドラゴンの鱗に覆われた尾に皮膚を裂かれてしまう。

さらに、ハクは尾を握りしめるルバンカを食いちぎろうとする。

『ハクよ、気を落ち着かせるのだ! アレン殿よ! ここは我らに任せよ!!』

鬼気迫る表情のマティルドーラは、モヤモヤと漆黒のオーラを漂わせるハクの首元にかみつき、ルバンカから引き離す。

アレンはこの隙に床石に転がる鍵を拾う。

『大丈夫だ! 先に行け!! 攻略するのだろう!!』

『ルバンカとマティルドーラさんにハクを任せた! 皆、最後の1秒まで諦めないぞ!!』

鳥Fの召喚獣を使い、仲間たちと状況を共有する。

「おい、お前ら! ハクたちの下へ行ってくれ!!」

「お願いしますわ、大精霊様たち!」

ソフィーとルークの大精霊たちも2体がやられないよう守りと回復を優先してフォローしている。

『凍てつき、その頭を冷やしなさい!』

『グオオオオオオ!!』

『最後の最後までじゃな! ほいっと!!』

氷の大精霊イルゾが氷で口を塞ぎ、凶悪な前足を氷の玉にガチガチと変えていく。

水の大精霊トーニスは、怪我を負ったルバンカやマティルドーラを癒していく。

(よし、流石に多勢に無勢だな。ハクは一刻も早く意識を取り戻してくれ)

大精霊たちの状況を確認し、アレンもセシルたちの下へ走ろうとした時、首がちぎれたマグラの体から光る泡が生じ始める。

ブン

(おいおい、今度はなんだ?)

アレンの目の前に魔導書が現れ、ログが表示される。

立て続けに色々なことが起きるのだが、今ではない方が嬉しいと思う。

『竜神マグラの魂が大地の迷宮から開放されました。竜Sの召喚獣の構成体です。聖獣石で魂を回収してください』

「何だと、まあ、予想したが。……シア、これを受け取ってくれ!!」

(届け、この思いを!)

アレンは投擲スキルを発動させ、ぶいぶい言わせた右腕の投手のように、剛速球で、出口の側まで向かった鍵をシアに投げる。

『へ? え? アレン!?』

「すぐに追いつく。鍵を開けてくれ!!」

『分かった。アレンも急げよ!!』

シアが飛び上がり、鍵穴まで上昇すると迅速に差し込む。

掘り込まれた竜の目が光り、扉が地響きを上げ始める。

ゴゴゴゴゴッ

扉が自動的に観音開きに開いていく。

「階段よ! 扉の先に階段があるわよ!」

「ええ、皆さん、走り込みましょう。アレン様も! 早く!!」

セシルが扉の先、100メートルほど奥に下へ続く階段があることを発見する。

ソフィーの掛け声と共に、扉が開き切る前に、皆が雪崩込んでいく。

「分かっている。早く吸収してくれ!!」

ソフィーの声に返事しつつ、アレンは聖獣石を掲げる。

アレンが聖獣石を天高く掲げると、光る泡となった魂を掃除機のように吸い込んでいく。

(おいおい、50秒切ったぞ。俺だけ攻略できないないて嫌なんだけど)

【99階層・残り0:00:48】

ミニ土偶が刻々と時を刻んでいく。

「アレン様もうお時間がありません!!」

かなり遠くにいるソフィーが、これまで聞いたことないほどの声で叫ぶ。

パーティー唯一のお嬢様キャラのため、普段の声はか細く、近くにいても「なんて?」って言ったりしてしまうほどだが、残り一分を切って感情が爆発したようだ。

(お? 魂が追いかけてくるぞ)

アレンの掲げる聖獣石にマグラの魂が吸収されていく。

アレンは既にカードのほとんどを知力から素早さに変更していた。

数百メートルの距離を一気に駆け抜ける。

「うおおおおおおおおおおお!? 24秒!!」

【99階層・残り0:00:24】

見たくなかったがミニ土偶を見ると残りわずかだ。

階段に到達したら、そこから長いいつもの螺旋状の下り階段となっている。

アレンは階段を使って降りることもなく、両手を掲げ飛び降りた。

下降するハヤブサのように手足を畳み、加護「飛翔」で速度を加速し、一気に階段の先へ抜ける。

(へ? 地上?)

アレンは宇宙空間か無重力の世界に来たかのような不思議な浮遊感に襲われる。

確かにアレンはすごい勢いで落下していた。

しかし、何処かのタイミングで体が下に落ちる感覚がなくなっていき、いつの間にか飛び上がっていた。

だが、そんな体感の変化を考えている場合ではない。

アレンが落下したのは、降りた先は夜なのか、日の光があまり当たらない薄暗い地上であった。

チカチカ

降りた先は何もないがはるか先まで広がっている大地となっており、すぐ側に点滅する土偶がいる。

『攻略された方は私に触れてください』

『攻略された方は私に触れてください』

『攻略された方は私に触れてください』

どうやら、このミニ土偶に触れた者だけが攻略したとみなすようだ。

早口で何度も警告している。

「アレンも早く!!」

今度は既に土偶に触れたようで、セシルが叫んでいる。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

タイマーも土偶の仲間たちの視界から消え、点滅目掛けて必死に走る。

ピタッ

片手を伸ばし、頭を掴むように土偶に触れた。

『アレン様の攻略を確認しました。攻略時間は23時間59分57秒です』

【99階層・残り0:00:03】

ミニ土偶が残り3秒を告げていた。

「おおおおお!! 攻略したどおおおおおおおお!!」

(ぷらとおおおおおおおん!!)

聖獣石を両手を上げたアレンは膝から崩れ、歓喜の表情を爆発させる。

「何とか間に合ったわね。ハクたちは大丈夫かしら?」

「確かにそうだ! どうやら仲間たちは無事なようだな」

魔導書を見るが誰も体力が0になっていない。

皆、背後にある大地の迷宮の出口の大穴に視線を向ける。

「ハクはどうやら、イルゾ様に頭を冷やしてもらって、落ち着いたようだ」

鳥Eの召喚獣がハクたちの様子を捉える。

ガトルーガが契約した氷の大精霊イルゾが全長100メートルに達したハクの全身をガチガチに凍らせ、氷塊に閉じ込め、物理的に冷やしている。

ハクにまとわりつく漆黒のオーラは消えてしまい、ようやく体が縮んでいく。

アレンの問題ないという言葉に仲間たちがホッとし、大地の迷宮攻略の達成感がゆっくりと皆の気持ちを満たし始めた。

「やったわ! やったわね!!」

「やりましたわ、アレン様!!」

「とうとう、攻略できたぜ!!」

「ひゃっほう。攻略したよ! ハッ……これはカッコいいポーズを考えないとだ!!」

「アレンはやっぱり流石だな」

パンッパンッパンッ

セシル、ソフィー、ルークとハイタッチする。

さらに、タムタムから降りたメルルからジャンピングハイタッチを受ける。

スキル「獣帝化」を解除しているシアもアレンがハイタッチに向かうと答えてくれる。

ノリの良さはパーティーにとって大事だ。

「それにしても、遅かったんじゃないの……ギリギリだったじゃない!!」

間に合ったのにセシルに怒られてしまった。

喜びの次は怒りが押し寄せてくる。

喜怒哀楽を我慢しないのは良いことだと思う。

「いやな、セシル。マグラの魂を回収していたんだ」

「へええ、これで竜Sの召喚獣が召喚できるのね。そしたら、天使Sの召喚獣も召喚ってことかしら」

「おおお! 凄い!!」

『……現在マグラと交渉中です。少々お待ちを』

『何が召喚獣だ。そんなものに余はならんぞ! 余は新世界の神となる!!』

『黙りなさい。あれだけ封印されて未だにそのようなことを……』

魔導書のログで揉めるのは新しいと思う。

無駄な譲歩などせずに、きっちり交渉を進めてほしいとルプトに願う。

「ああ、やってきたわね」

ハクを抑えるため、攻略に間に合わなかった組がやってきた。

既に水の大精霊トーニスによって完全に癒されており、皆無事だ。

『待たせてしまったようだな』

「いえいえ、マティルドーラさん、ご対応頂きありがとうございます」

『なんの。アレン殿が攻略することに意味がある。そうだろう?』

できれば、1人も欠けることなく皆で攻略したかったが、マティルドーラの思いを汲んで頷くことにする。

『大地の迷宮攻略か。このような体験をすることになるとはな』

悪くないと言わんばかりに、ルバンカが6本の腕を組み、満足感とも違う何かがこみ上げてくる驚きの感情に、身を置いている。

(ルバンカは戦いのときもそうだが、自らを犠牲する性分のようだな)

『そういう性格だ。慣れろ』

共有しているので、考えていることが伝わってしまった。

ルバンカにも、最下層ボスのマグラ戦では十分な働きをしてくれた。

ただ性分なのか共有によるアレンの指示を無視した行動がいくつか目立ったので、この辺りは折り合いをつけていきたいと思う。

「ハク、助かったぞ」

『くううううん……』

首がへたり、力なくアレンに返事をする。

「仕方ない。そういうスキルなんだ。クレナもいなかったしな。おかげで攻略出来たぞ」

『マンマ……』

涙目でクレナを思うハクの頭をポンポンとして上げる。

(竜神ゲフィオンの魂か。さて、余韻もそろそろ良いな)

光の神アマンテに仕えた竜神ゲフィオンの名をマグラは呟いた。

後で何なのか聞こうと思う。

アレンが次にすべきことについて口に出す。

仲間たちは皆頷いた。

この日のために、参加者にとっては2ヵ月以上の厳しい試練に臨んでいた。

視線を背後に移すと、皆も同じく背後にいる土偶に視線を移した。

『……では、皆さま揃いましたね。アレン様御一行の皆様方、大地の迷宮攻略おめでとうございます』

「お待ちいただいたようでありがとうございます」

どうやら土偶は待ってくれていたようだ。

仲間たちも攻略後の土偶との会話はリーダーのアレンに任せるようだ。

『まずはアレン様御一行によって、攻略の記録が13615年ぶりに記録が加えられました』

「記録? 大地の迷宮の攻略がですか?」

『はい。おめでとうございます。皆さまの順位は団体で394位です』

土偶はアレンたちの攻略の実績を語るのであった。