軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第635話 神話の世界②

アレンはセシルとソフィーに視線を送った。

セシルもソフィーも任せたと言わんばかりに視線で返事をするので、アレンは頷いた。

これから魔法神イシリスと交渉しないといけない話があった。

アレンはケタケタと笑いながら、実験の結果を喜ぶ魔法神イシリスの下へ行く。

「すみません、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」

視線を合わせてくれないが、話しかけることにする。

風の神ニンリルの時と違い、使いとなる天使もおらず、神との接し方に作法も何もないように思う。

『はぁ? ってことは、そうなって。ってこと!!』

アレンの言葉は耳に入っていないようだ。

すごい勢いで机に戻ったと思うと、必死に何かを書き殴っている。

(まあ、ここ最近会話が成立したことないんだけど。日のカケラのおかげで、反応を示しただけでも良しとするのか)

アレンが膨大な量の信仰ポイントを提供した結果、古代魔法の研究が進んでおり、休む間を惜しんで魔法神イシリスは研究に励んでいる。

何かに没頭する天才はこういうものかとアレンは魔法神イシリスとの意思疎通を諦めつつあった。

アレンは背後に視線を感じて振り向くと、ララッパ団長が様子を見ていた。

「アレン総帥、ちょっと無理だと思うわ。最近のイシリス様は、私も会話するのが厳しいのよ」

「そうみたいですね。頼みたいことがあったんですけど」

「頼み?」

「実は『日のカケラ』は新たな召喚獣を召喚するためにも必要だったのです」

ララッパ団長に、魔法神イシリスと話がしたかった理由を説明する。

ララッパ団長が「分かったわ」と頷いて踵を返すと、魔導版に表示された文字を読みながら、何か確認しているようだ。

「……なるほどね。データの抽出は問題ないようね。これなら返しても問題ないと思うわよ」

アレンに向き直って答えた。

「本当ですか?」

「もちろん。ただ、ちょっとデータの集計に時間がほしいけど、……それに月のカケラの検証後になるわ。その後なら、ここにある実験が終わった資料の山と同じで、もう一度必要になることはないわ」

日のカケラはデータを取ったら不要になるようだ。

ララッパ団長は、この階層に運ばれた信仰ポイントによって得ることができた数々の研究資料の山を見せて言う。

(魔法神の反応の通り、研究は成功したってことか。それにしても研究ね。魔王軍との戦いにも関係するからな)

アレンは昨日起きたことをララッパ団長に確認することにした。

原獣の園でアレンたちは光の神アマンテの像を守るように立つ、魔神オルドーや蟲神ビルディガの像を見た。

これが何なのか、魔王軍と戦うヒントか何かがあるかもしれない。

「すまないが、この研究で光の神アマンテが関係しているんだよな」

「そうね。って、あら? 光の神様? 私そんな話したかしら?」

古代神や古代魔法の研究で、古代から存在する獣神ガルムの話なら、この前したような気がするとララッパ団長は言う。

「実は、日のカケラを見つけたとき、光の神アマンテの像が手に持っていたのです。その周りには、俺たちが戦う魔王軍の幹部が何体かいて……」

魔法神イシリスの研究と光の神アマンテらの像が全く繋がらないと思う。

その話を聞いて、ララッパ団長はもう一度踵を返して、試験管の中に沈んだ「日のカケラ」を見つめた。

「この『光のカケラ』は光の神アマンテが造ったと言われる……。そうね、今でいうところの『神器』のようなものかしら。これを使って、その時代にいた獣人や魔族から信仰値を集めていたの」

「獣人や魔族?」

なぜこの2つの種族がひとくくりにされるのか分からない。

「そうよ。古代からずっといる種族はこの2種族という説が有力なのよ」

人族やエルフよりもこの2つの種族の方が、歴史が長いようだ。

「神器で信仰を集めて何してたのか……。もしかして、戦争ですか?」

(巨大な神殿の上部ではなく、隠しスイッチがあって、そこでこそこそ祈っているってことは……。む? か、隠しスイッチ)

アレンは「隠しスイッチ」に昨日受けた心の傷が広がる。

「何かご明察過ぎて怖いわね。そのとおりよ」

「いや、8柱が随分好戦的な姿勢で建てられていましたからね」

「光の神に従った上位神たちよ。た、確かこの辺に資料が……。あったわ、それらは光魔八神将ね」

試験管の前から移動したララッパ団長は、羊皮紙の資料の山から、目的の物を探し出した。

魔法神イシリスの助手の存在がいてくれて助かるなとアレンは思う。

「光魔八神将……。なんか強そうですね」

(8柱全員上位神だと)

「そう、光の神は、創造神エルメアたち現代の神々と戦争をしていたの」

「最上位神同士の戦争か」

神には階級があり、創造神も光の神も、上位神のさらに上に存在すると言われる「最上位神」だ。

創造神エルメアも光の神アマンテも最上位神だったはずだ。

(たしかルバンカが、原獣の園が最初の神界って言っていたな。もしかして創造神が、自らの勢力を広げるために……)

アレンの顔の変化にララッパ団長は気付いたようだ。

「アレン総帥。勘違いしないように。創造神エルメア様は、光の神の圧政から人々や神々を救うため立ち上がったのよ」

別の資料を拾い上げて、アレンの思考を否定する。

ララッパ団長の話では、何でもはるか太古の昔、創造神エルメアよりも光の神アマンテの方が圧倒的に力を持っていたようだ。

人々は苦しめられ、無理やり祈りを強要され、神々は光の神に服従するしかなかったと言われている。

そんな光の神の圧政は言葉で表せないほど、凄惨なものだった。

贄を求め、従属を強要し、絶望が世界を支配していた。

創造神エルメア率いる神々が、光の神の圧政から開放を求め、100万年以上の昔に立ち上がったと言われている。

「なるほど、今も人々の敵となっているオルドーやビルディガも魔王軍にいるからな。だが、本当は光の神側が『正義』で創造神が敵だったとかそういうのはないのか」

一方的に決めつけるのは、ミスリードに繋がる。

創造エルメアには随分世話になっているが、世界を陥れる恐怖の存在なら話が変わってくる。

「そんなことはないわ。実験は嘘をつけないわ。強要のデータが100万年経った今でも残されているもの。そして、この日のカケラにもね」

研究結果は嘘をつかないと言う。

紛れもなく光の神は暴君であったと記録されており、創造神エルメアとの戦いで多くの神々も人々も命を落としたらしい。

「創造神の方が何となく強そうだけどな」

(世界を創造できるって言うくらいだし)

日のカケラの回収の目途が立ったことだし、戦いの顛末をアレンは確認する。

「それがかなり厳しかったようね。何しろ、最上位神はもう1柱居て、光の神側についたといわれているから」

「何よそれ。ほかに強そうな神って言えば。……もしかして『邪神』かしら」

セシルも世界の覇権をかけた戦いの顛末が気になるようだ。

そして、ベクを生贄にして復活させた邪神の尾を思い出した。

魔王軍は必要な条件を整え、邪神復活の計画を進めていた。

『ええ、その当時は法の神アクシリオンと言われていたそうね。最上位神のアクシリオンと十二獣神たちが創造神たちと戦ったと言われているわ』

光の神と創造神との戦いが始まって、すぐのことだった。

最初は傍観していていた最上位神である法の神は、光の神側についた。

創造神側の神々は劣勢に追い込まれた。

おかげで原獣の園が荒廃してしまうほどの戦いだったと言う。

「もしかして、調停神ファルネメスや獣神ガルムは?」

獣の姿をした2柱を思い出す。

「そうよ、十二獣神の2柱ね」

(全ては繋がっていたのか。調停神は邪神の復活が嬉しそうだったからな)

プロスティア帝国の帝都パトランタで起きたことは、壮大な神々の歴史の中で行われた戦いの中の一場面であった。

「そんなことがありましたのね。ですが、結局は創造神エルメア様が勝利されたということなのですわよね」

ソフィーは遥かなる太古の昔の戦争に、話に参加せずにはいられなかったようだ。

(おそらくだが、その後に大精霊神はエルフやダークエルフを造ったんだろうな。創造神が負けていれば、エルフも誕生しなかったと)

「確かに勝利したわ。そう、創造神エルメア様が闘神三姉妹を誕生させたのもこの時のことね」

熾烈な戦いとなり、最上位神2柱と戦う創造神は戦いに優れた上位神である戦神、武神、剣神の3柱を誕生させたと言われている。

「なるほど、でもどうやって創造神は勝利したんだろうな」

「何よ。今言った通りじゃない。戦神様よ戦神様」

「いや、セシル。相手は最上位神2柱だ。上位神が3柱増えたくらいで戦況は変わるかな。十二獣神って」

「全柱、上位神よ」

(やはり)

「その感じだと、勝利の理由はまだ分からないってことですか」

最上位神2柱が相手でも、創造神陣営の勝利で終わったようだ。

「そうなのよ。結局は、法の神は邪神となって、暗黒界に体のほとんどが送られたってことね。光の神も今では暗黒神と呼ばれているわね」

「暗黒神は光の神だったのか」

(暗黒面に落ちたのか。初めて知った。学園でも習わなかったぞ。何でだ?)

神学の授業でもそんな話は聞いていない。

そもそも暗黒神の存在を聞かせたのはメルスで、何だかそのあたりの話は繊細なのか、それとも、太古の昔で人々が語り継ぐこともないから、忘れ去られてしまったのか、分からない。

「そうなのよ。そして、光魔八神は力を奪われ、鉱物に替えられたもの、聖獣など力を奪われたものなどいるようね。中には魂を抜かれ、この世界の秩序を守るために生まれ変わった者もいるそうね」

中には、暗黒界へ暗黒神についていった神々もいるのだとか。

「なるほど、ビルディガもオルドーも全盛期の力ではないんだな」

(そして、その結果、俺たちの知る現状なのか。魔王軍はかつて世界を支配していた神々すら仲間に引き入れていたのか。俺たちの知る魔神と太古の魔神じゃ、格が全然違いそうだな)

魔王軍はまたもやアレンたちの一歩も2歩も先を進んでいることを知る。

1000年前世界を支配していたと言われる恐怖帝で現在の魔王ゼルディアスは、目的達成のためには有能な配下が必要なことを良く知っているようだ。

魔神オルドーはその当時、光魔八神を統べる存在であったとララッパ団長は付け加えてくれる。

アマンテの側近中の側近のオルドーによって殺された上位神がいるほどに、桁違いの力を持っていたと言う。

その途中経過を知ることも必要だとアレンは考える。

アレンは、さらなる答えを求めるという意味を含めて、ララッパ団長を見つめると、頷いて返事をしてくれる。

「そう。月のカケラも見つけてくれたら、もしかして、その当時の状況がもう少しわかるんだけどね。あとは角も尾も心臓も」

(何だかんだで、古代魔法の研究は古代の歴史の探求だったってことか)

歴史を知るにも、魔法神イシリスの求める「月のカケラ」「獣神ガルムの尾」「霊獣ネスティラドの心臓」「マグラの角」が全部必要なようだ。

「ありがとうございます。引き続き、研究を進めていてください」

アレンはララッパ団長に礼を言って、魔法神イシリスの研究施設を後にするのであった。