軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第628話 ギランの試練①(4)

素早さを上昇させたアレンたちが見たのは巨大な白銀の狼を追う虎であった。

(現状は有利と。少しずつだけど、距離を詰めているな。それにしても、ギランめ。フェイントかますなんて大人げないな)

何度も挑戦したことでシアの中で経験が蓄積されており、ギランの動きを予想しようとしている。

数センチ、時には数メートルとギランとの距離を詰めていく。

しかし、ギランもシアの思考を読んでいるようで、時には思いがけない動きで方向を転換し、シアから一気に距離を突き放す。

「ぐるる!!」

それでもシアは引き離された距離を詰めるべく、再度ギランに迫っていく。

一進一退とも言える状況をシアが作り上げていた。

『やりますね……。人の身でありながらこれだけの速さになるとは流石です』

「仲間たちのおかげだ!!」

シアの中に敬語が抜けてきている。

生まれた時の環境のためか、尊大なため、アルバハルに対してもそうだったが、あまり誰かを敬う性格ではないのかもしれない。

このままではシアが結局ギランに追いつけず、スキルの持続時間が切れて、今回の挑戦も失敗で終わりかねないと、アレンは判断した。

「シア! 神技だ! 新たに手に入った神技を試してくれ!! 攻撃を一撃でもぶち当てたら俺たちの勝ちなんだ!!」

ギランの神域の上で高速で移動し続けるシアに対して大きな声で叫んだ。

「ぐる!? 分かったぞ!! 神風連撃爪!!」

シアはほぼ獣になってもギリギリ意思疎通はできる。

スキルを発動させると、霊力がシアの全身から両前足に集まり、纏わりつくよう全てを切り裂く風の刃が生じた。

と、思うや否や、走り抜けるシアの体勢でも、前足で猫パンチをするように素早く右、左と連続で素振りを行うと、全身から生じた風の刃がギランへと飛ばされる。

(これは助かる。発動時間がほぼない遠距離攻撃だ!)

アレンはこの状況にピッタリなスキルと思う。

ワンツーとボクサーが両手を交互にジャブを打つように放たれた風の刃が、シアの前を走るギランに迫る。

バフをかけまくって、圧倒的な速度を得たシア以上の速さで、ギランに達しようとする。

『まだ覚えたばかりですからね。たった2つですか』

一瞬の出来事で小さくつぶやいて見せたギランの口元は小さく上がっていた。

全身に神力を巡らし、ギランの体が複数に分かれる。

「ちょっと、もう姿を増やしたわよ!!」

ギランの姿は以前見たように全く同じ姿で5体に分かれていた。

前方にいる2体のギランが風の刃に触れて、四散する。

この2体のギランは偽者だったようだ。

シアが神技を発動させたときには、ギランの体は霊力をまとっていた。

シアがスキルを発動させたタイミングで、ギランは既に神力を使っていたのか、同時に複数に体を分けてしまった。

「スキル発動速度はややシアが有利と見た。ただ2発だと5体は消せないな」

【スキル発動循環について】

①スキルに合わせて魔力(霊力)を練る

②体及び武器の姿勢をスキルに合わせる

③掛け声とともにスキルを発動させる

④崩れた体勢を元に戻す※敵によっては距離もとる

⑤クールタイムが過ぎるまで①を待つ

【シアの装備によるクールタイム、スキル発動速度】

・腕輪①:スキル発動速度半減(50%減)

・腕輪②:クールタイム半減(50%減)

・天翔乱舞:スキル発動時間40%減、クールタイム40%減

「そうよ。ロザリナの神技をかけているもの」

アレンの言葉にロザリナも自信満々に同意する。

アレンの分析でもシアの装備はスキルを発動させる初手の速度は抜群となっている。

20万を超えたおかげで、ギランに肉薄するほどの素早さをシアは手に入れたようだ。

「シア! そのスキルは上がれば攻撃の数が増える。クールタイムはそこまで長くないはずだから、過ぎたら次を発動だ。次のスキル発動で3体消せるはずだ! 本物は『1体』だぞ!!」

(俺の真意を汲んでくれよ!)

「……ぐるる!! 分かってる!!」

ほんのわずかな間の後、シアは力強く返事をする。

シアの神技は高速で移動するギランを捉えることができるとアレンもシアも理解できた。

スキルにはいくつか特徴があって、クールタイムの長さは2点の要素がとても大きい。

【スキルの特徴とクールタイム】

・1回に消費する魔力(霊力)が多いほどクールタイムは長くなる

今回、ギランを捉えたシアの神技「神風連撃爪」は霊力消費1万で、複数攻撃であった。

(クールタイム1時間なら18分かな。持続時間の影響はっと)

・クールタイムの計算

60分×50%×60%=18分

・ソフィーの神技「精霊神の祝福」の持続時間の計算

素の魔力 31078

神技「精霊神の祝福」18000アップと1・3倍

スキル「人魚之歌姫」25000アップ

武器、防具 35000

魔法具 23000

金の卵 3000

持続時間

(31078+18000+23000+25000+3000)×1・3+35000=165101÷100÷60(秒)=27・51分

※武器、防具のステータス増強はスキル効果により増幅されないため

・ロザリナの神技「天翔乱舞」の持続時間

素の魔力 37293

神技「精霊神の祝福」18000アップと1・3倍

スキル「人魚之歌姫」25000アップ

武器、防具 30000

魔法具 44000

金の卵 3000

持続時間

(37293+18000+44000+25000+3000)×1・3+30000=195480÷100÷60(秒)=32・58分

・シアの特技「獣帝化」の持続時間

素の魔力 9073

神技「精霊神の祝福」18000アップと1・3倍

スキル「人魚之歌姫」25000アップ

武器、防具 0

魔法具 0

金の卵 3000

持続時間 (9073+18000+0+25000+3000)×1・3+0

=71594÷10÷60(秒)=119・32分

アレンは素早く、この戦いであと何回、神技「神風連撃爪」を発動できるか確認する。

クールタイム1時間なら7割のクールタイム減のため18分でスキルが発動できるはずだ。

「次のスキルで3体削れるってことね」

「その瞬間に残り2体を襲うということですわね。確率は5割、悪い勝負ではないですわね」

セシルもソフィーもこの試練の勝利条件を理解した。

霊力1万消費して、神技「神風連撃爪」はスキルレベル2になった。

これで風の刃は3つ飛び出すはずだ。

5体のうち3体の外れをこれで消すことができる。

シアとギランの攻防は続く。

それから18分が経過する。

「……」

『どうやらもう一度発動が出来るようになったみたいですね』

シアの表情の微細な変化にギランは気付いたようだ。

クールタイムを終えた神技「神風連撃爪」を5体のギランが同時に言葉を発する。

アレンは鳥Eの召喚獣を5体ほど飛ばし、シアと5体のギランの動きを観察する。

ギランは5体ともシアと一定の距離を保って逃げる。

(そろそろ佳境だ。メルス、霊獣狩りはいいから、そろそろ来てくれ)

『うむ? 分かった』

原獣の園で霊獣狩りに勤しむ、Sランクになったメルスがこの場に現れる。

『……メルス様』

一瞬の出現にギランの1体の意識がメルスに向かう。

「ぐるる!!」

『おっと、そんなことで私は油断しないですよ。危ない危ない、数を元に戻しましょうか』

ポンッ

元第一天使のメルスに意識が逸れたところをシアは見逃さなかった。

(ギランのこの余裕は5体全部外れなんだろうな。5体同時でないと意味がないと。スキル上げを待つか。いや、これ以上数が増えない保証はないからな)

余裕溢れるギランの態度からも、増える前に5体全てを叩かないと意味がないのだろう。

シアの神技はスキルレベルが上がれば、風の刃が増えて、いつか5体全てのギランを仕留めることができると思われる。

だが、ギランの態度からも5体以上増やすことができない確証はない。

余裕の態度のうちに、この試練を達成させようと思う。

ギランの動きを鳥Eの召喚獣ごしにつぶさに見る。

「もう3分切ったぞ! チャンスは1回だ!!」

(そうだ。後方2体は直線になるようにしてくれ)

「ぐるる!!」

シアはフェイントをかけ、不規則な動きをする。

『何を狙っているのか知りませんが……』

「今だ! やれ!!」

『メルスもやれ!!』

ギランの言葉は最後まで言うことが出来なかった。

アレンが神域全体に響くほどの大声で叫ぶ。

チャンスは唐突に訪れた。

この瞬間全ての時間がスローに思えるほど、全てがゆっくりと体感時間が流れる。

5体のギランが、前面に3体が横に広がり、後方2体が1列に並んだ瞬間だ。

シアの両前足に霊力が籠る。

『私が話している途中で……』

「神風連撃爪!!」

『目録! 武器変更、ボンボン! クレイジーダンス!!』

シアの目の前の3体のギランが神技「神風連撃爪」でかき消えてしまう。

さらに、メルスの両手には鞭からチアガールが使うような2つのフサフサとした紫色のボンボンが握られている。

片足を上げ、両手で交互にボンボンを振るい、応援するようなダンスをするメルスが、片目を瞑りウインクしたと思ったら、辺り全体に効果が発動する。

ギランは一瞬驚いたが、当たり前のように消えてしまった3体のギランを元の5体に戻そうとした。

しかし、シアの4本の脚にはこれまでにないほどの力が宿る。

神域に爪痕を残すほどの力を込めたシアはまっすぐ前進し、4体目のギランを爆散させる。

5体目のギランは4体目のすぐ後方にいた。

『む!? こ、これはいけません』

回避しようとするが、既に3体のギランを元に戻すスキルを発動させてしまい、体がすぐには動かない。

「ぐおおおおおおおおおおおお!!」

口を開け、ギランの首元を食らわんとギランに突っ込んだ。

『ぐは!?』

100メートルの巨躯のギランはシアの突進を受け、体が宙に浮くのであった。