軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第603話 ギランの試練①(2)

ソフィーの神技「精霊神の祝福」を浴びて、シアの体が金色に輝く。

スキル「 獣帝化(フルビーストモード) 」を発動させ、4足歩行のトラの姿に変わったシアは、重心を低く下げ、まるで獣神ギランの命を刈り取らんとばかりに、凶悪なまでに力を込めた前足を向ける。

「行くぞ!」

『先ほどから待っていますよ。来なさい』

ギランの言葉を合図に、シアは神域の白色の台を蹴り上げた。

(この台座にも神力が籠っているのかな。まったく破壊されないな。石っぽいが石材ではないのか)

ギランが神域と言う白色の台座は、特別な材質で出来ているようだ。

フルビーストモードになって強力になった後ろの両足で蹴り上げても、削れることもなく、シアを前へ前へと投げ出す。

距離にして200メートルほど離れていただろうか、一気に加速してギラン目掛けて突っ込む。

ギランは、シアをギリギリのところで躱した。

「避けられ……」

『まあまあの速さになりましたね。む?』

(13万の素早さがまあまあね)

ソフィーが言葉を言いきらない刹那の瞬間のことだ。

ギランもシアの姿勢の異変に気付いたようだ。

躱され遠くに飛んでいくのかと皆が思ったが、ギランに躱された先の台座を蹴り上げたが、このまま慣性の法則に従うことはなかった。

「ぐる!!」

聖域の台座を蹴り上げ、シアはそのまま背面を地面に向け、ギランへ大きく跳躍する。

シアはこの圧倒的な速度をもってしても、ギランに避けられることは予想していたようだ。

ギランの瞳に移るシアの姿がどんどん大きくなる。

避けたばかりで体勢が崩れかけたギランの腹部めがけて、シアの前足がもう数センチメートルほどの距離に迫った。

シアの瞳にもギランだけを映すほど接近したのだが、そのギランがしょうがないと言わんばかりにため息を零したように見えた。

フッ

「がる!? ばかな!?」

シアの体を無理な体勢のギランは悠々と避ける。

しかも、避けたギランの体はシアの目にも複数に見えたようだ。

フルビーストモードの巨大な獣の状態で、大きな声で叫び絶句した。

「ちょっと、何よこれ。ギラン様が増えたわ」

ギランの変化にセシルまでもが驚愕した。

獣神ギランは姿そのまま、大きさそのままに完全に同じ姿で、5つの体に分かれた。

全てのギランが神域の境界線ギリギリのところ、隆起したでっぱりの手前に、均等の距離をとって立っている。

ギランたちは余裕で避けてしまって申し訳ないとばかりに笑みを零していた。

『おっと申し訳ありません。あまりの気迫に少しばかり本気を出してしまいました』

ギランは修行が足りませんねと、自らを諫め反省しているようだ。

(技と力の差を見せつけたか。5体に増えた? まあ、素早さの試練だから本体は1つで残り4体は残像か何かだろうな)

アレンはギランが使ったスキルから、何が起きたのか分析する。

ギランは自らの素早さだけで、この狭い場所を逃げるつもりはないようだ。

ある程度の力を認めれば、自らもスキルを駆使して逃げるつもりなのだろう。

今回はその力の一端を見せたに過ぎないとも思われる。

さらに言うと、わざわざ標的を5つに増やして、掴まえて試練達成する可能性が増えるようなマネはしないだろう。

本体はたった1つしかなく、標的を見誤り、偽物4体を捉えても、きっと試練は達成しない。

「ぐぬぬ……」

シアはスキル「獣帝化」を解除していないものの、その場で立ち尽くし、歯ぎしりをしている。

ギランの見せつけた圧倒的な「力の差」は、シアを絶望させるのに十分な衝撃を与えたようだ。

『おやおや、もうこないのですか? 私は何年でも何十年でも、シアさんの余命が尽きるまでお付き合いしますよ』

歯ぎしりをして悔しがるシアに対して、ギランはさらに追い打ちをかけてくる。

まるで100年追いかけっこしても捕まらない自信がギランにはあるようだ。

(ふむふむ、なるほど。何年でもね。その言葉に甘えるとしますか)

アレンはこの状況を打開すべく、作戦の修正する。

「試練中、申し訳ありません」

アレンは神域の隆起したギリギリ手前に立ち、ギランに話しかけた。

『アレンさん、なんでしょう。試練は諦めると言うことでしょうか。それとも、もしかして試練の内容を軽くしてほしいなどと、……。まさかそのようなことはおっしゃらないですよね』

これでも十分軽い試練を与えていると、嫌味たっぷりにシアにも聞こえるようにギランは言う。

「そのようなことは申すはずはありません。素晴らしい試練に見合った報酬に心をときめかせている次第です」

『ほう、この状況をシアさんは簡単に打破できるとお考えですか?』

力の差を見せつけたはずだとギランは理解ができず、首をかしげてしまった。

それほどまでに、アレンの表情は余裕に溢れており、ギランは姿勢を正し、警戒を一段階上げたように見える。

「そんなことは申すはずはありません。試練が始まってからの確認になりますが、よろしいでしょうか?」

ギランの姿勢が完全にアレンに向いている。

まだシアに対する試練の途中なのだが、これも圧倒的な実力の差のなせる業なのだろう。

(余裕を見せることでさらにシアの心を砕くと。肉体だけでなく、心の強さも求めるのかな)

『それで、アレンさん。確認とは何でしょうか?』

「試練は2つ課していただけると聞いております」

神技、神器それぞれの試練がシアに待っていると言う。

『もちろん、その通りですよ』

「試練2つとも達成したら、神技と神器総取りでしょうか。それともそれぞれの試練を越えた都度、報酬を頂けるのでしょうか」

『え? そうですね。正直、考えてもみませんでしたが、そうですね。当然、それぞれの試練を越えた毎に、報酬を与えましょう。何の話をしているのですか?』

「シアの試練は厳しいものです。もしよろしければ2つ目の試練もお与えいただけませんか?」

「な!? ちょっと、アレン。何の話してんのよ。シアがこんだけ頑張ってるじゃない!」

思わずセシルが声を上げた。

アレンの話は、今のままではシアの試練達成はほぼ不可能と言っているようなものだ。

仲間の頑張りにセシルも怒りを覚えたようだ。

「セシル、言葉のとおりだ。2つ目の試練を越えなくては、この試練、シアにはかなり厳しいものになる」

2つ目の報酬で神技を手にして、シアを強化し、1つ目のこの鬼ごっこの試練を達成する。

(複数のクエストがある場合は、順序を誤ると大変なことになるからな)

『そのような、戯言……。いや、この交渉力と頭の切れならもしかすると、もしかしないかもしれませんね』

「ギラン様、何か言いましたでしょうか?」

『いえ、こっちの話です。それに2つ目の試練が1つ目の試練よりも優しいなどと、なぜ考えるのでしょうか』

「いえいえ、2つ目の試練も聞いて優先順位を決めさせていただきたいと申しているだけでございます」

『ほう。まあ、良いでしょう。2つ目の試練も前もって話しておきましょう』

「おお! ありがとうございます!! ぜひ達成の暁にはアルバハル獣王国にもギラン様の御身を祀らせて頂きます」

銅像を立てて祀ると言う。

「何を勝手に話を進めているのだ……」

まだ効果の切れていないフルビーストモードのシアは話についていけない。

(おい、何をやってるんだ。今のうちに背後から襲うんだよ)

アレンが首をクイクイと動かし、背後からギランを襲えという仕草をする。

完全に獣の姿になったシアが首を左右に振り絶句する。

『あまりふざけていると、全ての課題を終わらせてもいいのですよ……。それに、私はガルム様を差し置いて、アルバハル獣王国で祀られる予定はありません。もちろんそのような話で、試練の内容が軽くなるとは思わないことです』

「申し訳ございません。決して、そのような目移りするような思いで言ったのではなく、感謝の気持ちを伝えたかっただけなのです。それで、試練の内容というのは……」

(全てはガルムのためと、この辺は予想通りか)

ルバンカの不義理で激怒したギランの行動原理がなんとなく分かってきた。

『まあ、良いでしょう。それでは、2つ目の試練を与えます。実は、幻鳥レームがこのすぐそばにいるのですが、未だに神鳥になれないようなのです』

「はぁ、それは大変ですね」

ギランが困ったという顔をするので、アレンも表情を合わせ言葉を返す。

『試練というのは、単純です。幻鳥をどうにか神に至れる手助けをしてほしい』

「な!? 何よそれ、シアとは関係ないじゃない!!」

『えっと、セシルさんといいましたか? 何か私に言いましたか?』

「い、いえ……。何でもありません」

反論を許さない表情で見つめられ、セシルは黙ってしまう。

「なんと、そのような大役、私たちのような人間にはとても厳しいのではないでしょうか?」

『シアさんは素晴らしい仲間をもって羨ましいです。まずは、幻鳥レームに話を聞きに行くことからすることをお勧めしますよ。ルバンカさんの件を水に流した私の恩情だと思っていただいても大丈夫です』

あくまでも試練の内容は変わらないようだ。

【試練①】獣神ギランに聖域で一撃を与える

【試練②】幻鳥レームを神鳥にするnew!

『アレン殿よ、申し訳ない。我のせいで、試練の内容が厳しいものになったのかもしれぬ』

獣神ギランは、獣神ガルムの恩をふいにしたルバンカを許したが、ただでは済まさなかったのかもしれない。

『試練の内容を変える予定はありません。私に一撃を与えたら神器を、幻鳥レームを神鳥に至れる算段ができたら神技をシアに与えましょう』

獣神ギランは、一歩も譲歩する予定はないと宣言する。

(算段ね。まあ、実際に神にするか判断するのはエルメアらしいし)

「分かりました。厳しい試練になるかもしれないです。では、幻鳥に会うことから始めてみます」

『それが良いでしょう。シアさん、では、この試練はお預けということですね』

「はい、ギラン様、また挑戦させていただきたく思います。アレンよ、そちらを先に話を進めると言うことだな」

シアはアレンに同行すると言う。

「おい、何を言っているんだ。シアは残って、ここで試練を続けるんだよ」

『アレンさん? 何を言っているんですか?』

「いえ、シアはここに残って最初に受けた試練を続ける。私たちで幻鳥レーム様の件を進めさせていただきます」

『だから、何を言っているのですか? 幻鳥の件もシアさんの試練ですよ』

アレンの言葉に絶句するギランと仲間たちであった。