軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第598話 ルバンカの過去①

アレンは強引にルバンカを召喚獣にしたと考えている。

シアに神の試練を超えさせないといけない。

セシルのお使いクエストもこなさないといけない。

ルバンカがどれだけ納得したか知らないが、外堀を埋め、言い含めさせて獣Sの召喚獣になってもらった。

試しの門を越えたおりに契約を結んだクワトロや、5大陸同盟会議でギアムート帝国の皇帝を引っ張り出した上で、グラハンと召喚獣の契約を結んだ。

2体を召喚獣にした経緯を考えれば、もっと丁寧な方法はあったのだが、焦りがあったのが今思えば正直なところだ。

『我は召喚獣になる道を選んだ。全ては自らの選択で後悔はない』

ルバンカは一歩前に出て、睨みつけるギランに対して、自らの意思を口にした。

『若くして神界に取り立てた恩を忘れたのか。力を与えたガルム様への恩情を忘れたのか!!』

『忘れてはいない。だからと言ってアルバハル様に代わって幻獣になるなど、興味がないと言っている』

『黙れ!!』

(襲ってきた!?)

丘の上のギランは立ち上がったかと思うと、一気に跳躍してルバンカに迫る。

アレンは共有した意識で、まっすぐ見つめるルバンカにすごい勢いで突っ込んでくるギランを捉えた。

共有したルバンカの意識に回避行動の指示を出す。

しかし、ルバンカは一切動こうとしない。

時が止まりかけたかのようにギランの口の中に生える凶悪な牙がゆっくりと迫る。

(おい、躱せ!!)

『……』

アレンの意思はまるで耳に入らないかのように、ルバンカは微動だにしない。

これまでどの召喚獣に対しても共有した意識の中で、指示を出したらその通りに動いたのだが、ルバンカは召喚士の指示を無視した。

ズン

鈍い音がしたかと思うと、ルバンカの頭が宙を舞う。

アレンたちの背後を走り去ったギランが、体勢をこちらに向け直したとき、アレンはルバンカの死を理解する。

アレンたちが驚愕する中、ルバンカは肩から下も光る泡となって消えた。

(え? これは?)

驚き声を上げようとするアレンの目に、何か意志のようなものが流れ込んでくるのであった。

***

光る泡となって消えていくルバンカの魂がアレンの中に入り込んでいくように感じる。

何か言葉にはできない後悔か懺悔のような感覚があった。

(ここはどこだ? 俺は歩いているのか)

普段よりも幾分高い視線が上下に軽く揺れているのは、歩いているからだろう。

視線を下に移すと、皮の鎧からはみ出た筋肉質な上半身と、その下には足がのしのしと地面を踏みしめて歩いている。

歩いたときの音が低いのは、敷き詰められた木葉のせいのようで、ここは随分豊かな森林のようだ。

落ち葉を踏みしめ、高めの木々の合間をぬう足は茶色の太い毛に覆われており、すぐにアレンは、自らの体がルバンカの体に入ったことを理解する。

ここまで見てきた原獣の園のどことも違い、そして、ルバンカの体の大きさからも、これはルバンカが聖獣になる前の光景のようだ。

(これはルバンカの前世の記憶か)

自らが乗り移っているルバンカは、アレンの意思では動かすことも話すこともできない。

過去にタイムスリップしたのか、共有した影響でルバンカの過去の古い記憶を共有してしまっているようだ。

アレンはこのような経験はないのだが、きっと後者の状況になってしまったのだろう。

アレン自身も召喚獣と共有すると、アレンの記憶を召喚獣がくみ取ることも知っている。

だから、召喚獣は召喚したてで何も知らない状況で、アレンの常識を取り込み、指示をしても素直に聞いてくれる。

共有を使ってそんな検証をしたのはいつ頃のことだろうか。

懐かしく思っていると森が開けてきた。

何か建造物が見えてきた。

(お? 村だ)

ルバンカに向かって丸太が斜めに無数に生えている。

丸太の先は鉛筆のように鋭く削られており、乱杭のようだ。

その先には幅が10メートルを超える堀が巡り、さらに数メートルと高い柵が設けられている。

アレンが生まれた世界では何の変哲もない標準的な、ある程度魔獣に備えた村のようだ。

村に近づくと門番をしていると思われる槍を持った2人の獣人がこちらを見ている。

「おお! バル殿、遅かったですね!!」

獣人だったころ、ルバンカはバルと呼ばれていたようだ。

「3日も帰ってこなくて心配しましたよ!!」

「うむ、こいつを狩るのに手こずってな」

「おお! その角は!? もしかしてオーガキングの……」

「俺にも見せてくださいよ!」

「仕方ないな」

ルバンカはやれやれと背中にかけていた2メートルを超える角を持ち上げ、門番をしている獣人たちに見せてあげる。

前世の記憶だと伸びすぎてしまったタケノコか、一角獣の角のように見えるオーガキングの角は根本でへし折られており、乾いた血がこびりついている。

「流石村一番の力持ちのバル殿だ」

「そんなに褒めても何も出ないぞ。村長に報告があるんでな」

自らの成果を誇示することも、自慢することもなく渡したオーガキングの角を受け取ると村の中に入っていく。

門を入ると大通りがあり、その先には広場があり、その先には大きな村長の家がある。

「バルだ!」

「バルが戻ってきた」

「こらこら! そろそろお昼だ。家に帰るんだ」

「は~い」

「バル! まじゅうをたおしたはなしきかせてよ!」

「ああ、また今度な」

小さな獣人たちが英雄が返ってきたかのように、まとわりつく。

ルバンカが怒ることもなく、子供たちに家に帰るように言うと、目的の場所へ向かって歩みを進める。

村長の家で働く獣人たちに村長がいるか尋ねるとすぐに村長の私室に案内された。

(お? 壁に2本の角があるな。ん? ってことは3体目のオーガキング討伐ってことか)

引き戸を開け、部屋に入ると老いた獣人がいたのだが、ルバンカが先に見たのは壁にかかっている2本のオーガキングの角だった。

ルバンカはそれを見て小さくため息をついた。

「おお! 戻ったか!! って、その角はまた狩ってきてくれたのか……なんじゃその浮かない顔は、誰か!! 英雄バルが戻ってきたぞ!! 飯の準備をしてくれ!!」

老いたネズミの獣人の村長がルバンカの顔から全てを察したようだ。

しかし、何より戻ってきたルバンカを労うように、大量の料理が村長の私室に運ばれてくる。

「すまないです」

「何を言う。ささ、食べなはれ」

ガツガツ

まるで丸1日何も食べていなかったようにルバンカは両手を使って料理を食べる。

(この時は、まだ手は1組だったんだな。っていうか、このルバンカが30歳くらいの頃の記憶のようだな)

両肩からもう1組の腕は生えていない。

アレンは、ルバンカの口調や視線の先に見える肌感や口調から年齢を察する。

コトッ

長老はルバンカが持って帰ったオーガキングの角にこびりついた血を奇麗にふき取り、2本並んだ上に、今日持ってきた1本を立てかけた。

村長は無言で頬張るルバンカの前に座る。

「どうじゃ、これで村の周りのオーガの群れもいなくなってきたのじゃないのか?」

「……それが厳しいことになった」

「厳しいとは?」

ルバンカは食事の手を止め、村長に状況を語りだす。

この数か月、村の周りでは多くのオーガを見かけるようになった。

オーガは最低ランクでもBで、魔獣の中でも同じ村を作り群れを成す、Dランクのゴブリンや、Cランクのオークとは人々の脅威は格段に上がる。

村を治めるオーガキングはAランクになる。

(学園の卒業試験にオーガ村狩りがあったかな。結局、戦争が始まって試験を受けれなかったけど)

ルバンカは自らの村を守るため、2つのオーガの村を滅ぼし、親玉であるオーガキングの角をへし折って持って帰った。

今日も3日かけて、さらに1つのオーガの村を滅ぼし、角を持って帰った。

「……その角は少し前に、我が滅ぼしたオーガ村のあった場所で手に入れたものだ」

「なんと!?」

「もう1つの村も見に行ったら、すでに新たなオーガキングが村をまとめておった」

「じゃあ、もしかして……」

「おそらく、オーガエンペラーがこの村の近くまで来ているようだ。オーガキングがまとめる集団をいくつも引き連れてな」

村を作るオーガは、その習性として、よっぽど餌がなくなったとかでなければ村を離れ移動することはない。

ただ、餌が無くなった以外で村を移動する理由がほかに1つある。

それが、さらに上位のオーガエンペラーが指揮し、オーガキングを統率し始めた時だ。

オーガエンペラーはSランクの魔獣で、単体としても強いが、数千のオーガの群れを統率する。

オーガエンペラーが現れると国が亡びることもあると言われている。

「それは大変じゃ。領主様に連絡をせねば」

「領主でもどうなるものでもない。王城へ兵を出してもらわなくてはいけない」

「そ、そうじゃな。明日にでも、使いの者を出すとしよう。バルよ、お前は村の英雄じゃ。おかげで助かるかもしれぬな」

村長との会話はそこで終わり、ルバンカは村長の館を出て自らの家に向かった。

(時間が飛んだな)

一気に場面が変わり、自らの家に移った。

どうやら、ルバンカの記憶の中で、村長の家と自らの家が結構離れており、時間的なカットが記憶の中で行われたようだ。

「父ちゃん!!」

「パパが帰ってきた!!」

10歳くらいのゴリラの獣人の男の子と、5歳くらいのゴリラの獣人の女の子が家の側で遊んでいたが、ルバンカが寄ってくるのに気付いて笑顔で駆けよってくる。

「あら? 帰ってきたの。お帰り」

「うむ」

戸を開け、ルバンカの妻と思われるゴリラの獣人が外に出てきた。

それから無言のルバンカの周りに、久々に帰ってきた父と会えて喜ぶ2人の獣人の子供がまとわりつく。

それからさらに時間が飛び、外は暗くなり夕食の時間になった。

居間には、子供2人の反応からも普段よりも豪華な料理が並んでいるようだ。

「父ちゃん、この肉うまいね!!」

「おいしい!!」

オーガ狩りのついでに狩ってきた巨大な鳥の魔獣の肉を2人の子供が頬張る。

「あら、浮かない顔ね」

「そんなことはない」

「何かあったのね」

「村を出ないといけなくなるかもしれない」

「そうなの?」

「すまない。この村は駄目かもしれない」

「あなたと一緒なら私はどこへでも大丈夫よ」

「そうだな」

さっきまで食事をがっついていた子供が随分静かになっていた。

どうやら、食事で腹が膨れ、そのまま寝てしまっていたようだ。

2人の子供を居間から子供部屋に運ぶ。

アレンの中に何か熱いものが流れ込んでいく。

強い衝動のようなものにアレンも覚えがある。

(これは覚悟か。それとも怒りか)

子供を見つめるルバンカの心拍数が上がっていく感じがするのだが、その正体はすぐに訪れた。

夜中、ルバンカも誰もが寝静まった深夜に大きな叫び声がとどろく。

大声と共に、村のやぐらに取り付けられた鐘がけたたましく鳴る。

「オーガだ。オーガの群れが攻めてきたぞ!!!」

ルバンカの耳にも、叫び声が入ってくるのであった。