軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第588話 獣人たちの歴史

アレンたちの目の前に老齢な雄の獅子がいる。

老齢で肉体は重力に負けて垂れており、髪は雄々しくもなく、白髪になっている。

(こっちはどうだ?)

アレンは対峙する老齢の獅子に聖獣石を向けた。

『獣Sの召喚獣にはなりません。って、言うよりも、魔導書が見えないからと言って、全ての者に試すのはおやめください!』

魔導書に怒られてしまった。

きっと、その先にはメルスの双子の妹のルプトがいるのだろう。

この前、顔を拝見して以来、もしかしたら性格がオープンになってしまったのかもしれない。

ログに感情があふれることがあるのかと思う。

(原獣の園には、多くの聖獣やその上位の幻獣、神獣がいるらしいが、誰でも良いというわけではないのか)

先ほどのルバンカとは何が違うのだろうか。

打倒魔王のため、より強い獣Sの召喚獣を仲間にしたかったのだが、条件は何かあるのだろうか。

ただこちらも、獣系統の召喚獣には物理攻撃を主体とした役割を期待しているため、老齢な者よりも生命力あふれるムキムキな者を選びたい。

『……』

アレンが魔導書を見ながら考察する中、アルバハルと呼ばれるこの村の長は静かにアレンを見つめる。

「ちょっと、アレン」

沈黙に思わずセシルが声を上げた。

「……お招きいただきありがとうございます。アレンと申します」

『ほう、緊張して声も出ないかと思ったぞ。それで何をしに来た? まあ、そうだな。そのように立ってないで座るのだ』

目を細め、えぐるような視線でアレンを見る。

アレンたちは、初めて座る許可を貰ったと胡坐を掻いてその場で座った。

(まあ、多少警戒していたのだが、見透かされてしまったか)

体長10メートルはあろう老齢な獅子の姿をしたアルバハルと10メートルほどの距離を保って座っている。

この巨躯なら一足飛びで襲い掛かることができるだろう。

座ったところで、要件を聞かれたことだし、早々に自らがやってきた理由を伝えることにした。

「それでは改めてやって来た理由をお伝えします。仲間であるシアたちの助力と、獣神様方へのご挨拶に伺いました。あとは『探しもの』でしょうか」

『ほう。人族が獣人たちの助力をするのか。人間世界は変わってきたということか?』

「私たちが戦う相手は魔王ゼルディアスです。戦う相手は同じとご理解いただけたらと思います」

『ゼルディアスか……。その名を村の獣人たちの前で口にしないことだな。獣人は自らの尊厳のために命を懸ける存在だ』

「肝に銘じておきます」

アレンはあえて「ゼルディアス」の名前を口にした。

それは、アルバハルの反応を確かめるためであったのだが、その目的は見透かされたようだ。

(だが、人間世界とのつながりは大なり小なりあるということか)

獣人とゼルディアスとの関係はとても深い。

それは、ゼルディアスが魔王となる前、人族であった1000年前にさかのぼる。

ゼルディアスはギアムート帝国の皇帝として、中央大陸を初めて1つの帝国として統一を果たした。

その皇帝の気質は残虐そのもので、「恐怖帝」と1000年が過ぎた今でも世界各国から呼ばれている。

他国への侵略は残虐そのものであったのだが、自国内への支配も目に余るものがあった。

人間とは人族、エルフ、ドワーフ、獣人、鳥人、竜人などあらゆる種族を指す言葉が、今では一般的な考えなのだが、この当時は違った。

恐怖帝ゼルディアスにとって人間は人族のみで、それ以外は人族に比べたら劣る存在であるとみなした。

帝国民という扱いはせず、その当時、中央大陸にはエルフやドワーフはいたのだが、弾圧を逃れてエルフはローゼンヘイムへ、ドワーフはバウキス帝国のある大陸へ避難した。

恐怖帝ゼルディアスが最も弾圧をしたのは「獣人」であった。

獣を思わせる風貌から、家畜のような扱いで鎖に繋がれた者たちも多く、または魔獣のように狩りの対象になった。

恐怖帝ゼルディアスによって、獣人の数はたった数十年で半分に減ったとも言われる。

その数は数千万とも、一説によっては億にも達したとも言われ、現在の魔王としての活動よりも虐殺した人類は多い。

この時、獣人たちは人のような名前を持つことを皇帝ゼルディアスが禁止した結果、2音の名前や番号で人族に飼われていたという。

自らを「終わりの魔王」と名乗ったが、獣人たちにとって、今まさに終焉そのものなのだろう。

(今も、アルバハル獣王国へ行けば、この村のような扱いを受けるのだろうか)

『交渉が巧み故に気を付けるように言われておるが、まさかな』

「滅相もございません。これは私たち人間の脅威に対する戦いでございますので」

アレンは自らの敵は魔王ゼルディアスと口にしたことで自らの立場をはっきりとさせた。

目の前に横たわるアルバハルに対するリトマス紙の意味もあった。

(俺は見せたぞ。お前たちの旗の色を見せてもらおうか)

アレンたちは協力を求めにこの原獣の園に足を踏み入れた。

アルバハルはどっち側なのか、立場をはっきりするようにアレンは口に出すことで迫った。

「……」

セシルはアレンとアルバハルの攻防を真剣に見守る。

話の流れによっては自らのクエストの達成は困難になる。

アレンは全知力をもってこの会話に神経を注いでいる。

アルバハルを挑発しても、交渉が破断しない限界を攻めている。

余計なことをして、場の流れを乱すわけにはいかなかった。

『……ふっ、そうか。シアという獣人の自信の表れはお前によるものか。儂の末裔が人族に、いい様にたぶらかされたと心配になっていたが、そうか。そうなのか』

「お褒めの言葉と受け取っておきます」

『この村の獣人たちは1000年前、獣神ガルム様に救われた者たちよ。儂の力では全てを助けることができなかったゆえにな』

(迫害を受ける獣人たちを神界へ救い出したということか。世代が代わり、エルフを見た者はいなくなってしまったと。エルフの特徴すら忘れてしまった一族か)

ソフィーを耳が長いだけの人族だと思ったのだとアレンは理解する。

「では、アルバハル様も獣人たちをお救いになったと」

『不出来な子が獣人との間に生まれたからな。子を人間世界に送っただけの話。戻らずに国を作るとは思っても見なかったがな』

(なんだ、建国神話か。そう言えば、シアも言っていたか。アルバハル家の先祖は神界から来たんだっけか。前世と違って、ガチで神の末裔だったりするんだけど)

どこの世界、どの国にも建国秘話があり、王政を敷く国だと、王が神の末裔で会ったりする話はよくある話だ。

前世では、王の権威を誇示するための眉唾と思われる話は多いのだが、神々のいるこの世界では、実際に神の力がもたらされたという伝説も多い。

海底にあるプロスティア帝国では水の神が海の怪物の力を抑えるために、皇子に契約を持ち掛けた話が「プロスティア帝国物語」という絵本になっていたりする。

(アルバハルの子が建国した国ね。シアの先祖と結婚して、脈々と子孫をつないでいったのかな。アルバハル家か)

その時だ。

アレンが共有するグラハンの意識が流れ込んでくる。

召喚をしていないと移動はもちろん、話すこともままならないが、召喚士と意識の中で語り合うこともできる。

『たしかに奴は強かった。儂も手を焼いたぞ。危うく食われかけたの』

(戦った仲か)

『そうだ。目の前にいるのは奴の父か。儂を獣人たちの前で召喚するでないぞ。まあ、こんな身になった儂のことをわかるとは思えぬが』

1000年前、恐怖帝の近衛の騎士であったグラハンは、建国神話のアルバハルの子である半獣半神の獣人と戦っていた。

共有したアレンの中に、グラハンの高揚にも尊敬の念にも似た感情が流れ込んでくる。

戦争相手と書いて『とも』と呼ぶような感じなのだろうか。

(分かった。そういうのは早く言ってくれ)

『すまない』

アレンは意識をグラハンからアルバハルの会話に戻す。

今の1つ2つの会話の流れで、シアの話していたアルバハル獣王国の建国の歴史を完全に理解した。

シアの話では、中央大陸を統一した恐怖帝に反旗を翻す形で、帝国内で、獣人たちによる反乱があったらしい。

その中で、「アルバハルの子」と名乗る獅子の獣人が、先導し獣人たちをまとめ上げ、多くの獣人の命を救ったのだとか。

反乱後、中央大陸の南の大陸で建国したのがアルバハル獣王国で、シアはその末裔に当たる。

なお、ラターシュ王国の国王は、ギアムート帝国南方を辺境伯として任されていた。

恐怖帝がグラハンの手によって打ち取られ、帝国の混乱に乗じて、自らの国を興した。

結果、ラターシュ王国以南の国は、ラターシュ王国に感化され、いくつもの国が反乱により興り、分かれていった。

1000年経った今でもギアムート帝国は、ラターシュ王国の過去の行動を恨んでおり、何かにつけて嫌がらせをしているのだとか。

「では、お力を貸していただけると」

ここまで話をつないでくれたのなら、あれこれしてくれるのかと期待する。

今のところシアの先祖で、アレンたちは獣人たちの怨敵を倒そうとする者たちだ。

人族だが、決して獣人たちの敵ではない。

『勘違いをするな。邪魔をしないが、お前たちに協力をする言われはない』

「そうですか」

『だが、「話」くらいなら聞いてやらんでもない。その探しものとは何だ?』

手取足取り手伝いはしないが、相談くらいなら乗ってくれるらしい。

(なんだ。微妙な立場なのか? もっと、全力で応援してくれてもいいんだよ)

旗の色が何色なのか、はっきりしてほしいと思うが、話に乗ってくれるのは助かる。

「いくつかあるのですが、聖獣ルバンカ様に私の召喚獣となっていただけないでしょうか」

『何だその話は?』

「私の力になってほしいということです。このように」

アレンは鳥Eの召喚獣を1体召喚する。

『ふむ。……儂は止めはせぬ。好きに交渉するのだな』

ルバンカに良いと言わせたら、それで良いのだろう。

「ありがとうございます」

(相談に乗るだけね)

『それでそれだけか?』

「あとは日と月のカケラを探しております」

『さっきから要領を得ないな。儂をたばかっておるのか?』

「いえ、滅相もありません。それも魔法神様から持ってくるように言われておりまして」

『……すまんが、聞いたこともないわ』

「申し訳ありません。あとは……」

『まだあるの……』

バン

アルバハルとの会話の途中で、引き戸が両サイドに大きく開く。

(おいおい、そんなに力いっぱいで開けると壊れるぞ。って、シアが戻ってきた)

どこの元気っ子だよとアレンたちは後ろを見ると、シアだった。

背後には十英獣の皆が勇壮な顔つきで立っている。

シアたちと久々の再会を果たすアレン一行であった。