軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第573話 試練の相性問題再び

アレンたちは、24時間の大地の迷宮の攻略のため、半日ほどの仮眠を必要とした。

前世の頃から、睡眠の質と量に拘っているアレンは、徹夜はあまり好まない。

最高の睡眠は、最高のゲームパフォーマンスを発揮するからだ。

拠点用の魔導具の中で、目覚めのシャワーを浴びて、外に出てみると、グラハンや霊Aの召喚獣たちが以前同様に、食事の準備をしてくれる。

そして、いつものように名工ハバラクやガララ提督たちが酒盛りしていた。

「いや~メルス殿がいたお陰で、酒の補給の目途が立って助かったわい。ググっと飲んで下され」

『敬語は必要ないぞ』

「そう言いなさんな。元は第一天使殿ではありませぬか」

メルスを囲んでいるのは、感謝の気持ちを表しているのだろう。

やいのやいのおっさん2人にメルスが酒を飲まされている。

(メルスだと、若手の社員がおっさんに酒を飲まされているように見えるな。それにしても、もう酒樽の酒は飲み干したのか。結構な量の酒を神界に持ってきていたような気がするが)

アレンは、この状況に違和感を覚えた。

ガララ提督たちを神域に誘う際、「もう少し早くそれを言ってくれ」と言って、慌てて酒の準備をしていた。

100樽程度の大樽を魔導袋に入れることしかできなかったと言っていたが、この1月かそこらの間に飲み干してしまったようだ。

S級ダンジョン攻略の際も、ダンジョンから出てきたら毎日のように酒盛りしていたが、ガララ提督たちの酒は底をついていたようだ。

アレンたちが寝ている間に、メルスにお願いして、人間世界に戻り、追加の酒をアレン軍のドワーフ族で構成するゴーレム部隊や、魔導技師団から分けてもらって運んでくれたようだ。

なお、召喚獣は食事も睡眠も必要ない。

しかし、食事を摂ることができるし寝ることもできる。

お酒を飲んで酔っ払うことができる不思議設定になっている。

メルスは酒精の強い酒を飲まされて真っ赤な顔になっていた。

「メルルもいるし、ドワーフたちは本当に元気ね。少し休んだら、またダンジョン攻略になるのに」

アレンたちが来る前から、丸1日24時間攻略に費やして、丸1日休むサイクルを繰り返している。

「さて、俺たちはこのまま休んでいる必要ないからな。そろそろ、船が歌神の神域に着きそうだし」

セシルに返事をしつつ、魔導船の中に待機させておいた霊Aの召喚獣から状況を確認する。

アレンたちを大地の神の神域に置いて、ララッパ団長や操舵士ピヨンは歌神の神域を目指していた。

間もなく到着するころだ。

アレンたちは出発の前にメルルやガララ提督たちに今後の方針を伝えることにする。

アレンが座ったところで、グラハンが寝起きに、優しい野菜たっぷりのスープを渡してくれる。

前世で上下関係を鍛えられまくっているのか、アレンを敬ってくれて感謝しかない。

アレンが何か言おうとしているという雰囲気を察知したガララ提督たちがメルスを開放した。

メルスが起きてくるのが遅いぞと酔ってすわった眼で睨まれてしまう。

アレンはメルスからはあまり敬われていないようだ。

「それで、私たちは間もなく出発します。今後の話をしておきます」

アレンは誰に話すかで一人称を変えている。

今は諸先輩方のガララ提督や名工ハバラクがいるから「私」だ。

「メルスは残す。もちろん、マクリスやクワトロもだ。グラハンはこっちで連れていく。召喚獣の枠は今のところ喫緊で必要としないから20体くらいまでこっちで回してもいいが……」

他の神域が厳しくなってきたら、枠を10体に減らすこともあるし、さらに減ることもある。

大地の迷宮は、ゴーレム使いのドワーフにとっても、魔導盤拡張端子など貴重なアイテムが手に入っているので、このまま攻略を進めていってほしいという。

(それで言うと、もう少し、神界に散った者たちをここに集めた方が良いか。または人間世界からだれか連れてくるか検討が必要だな)

99階層攻略時の願いは、決して折れない剣を大地の神ガイアにお願いするつもりだと伝える。

「分かった。その中で、僕らでやりくりしたらいいんだね」

アレンの話をメルルがフンフンと真剣な表情で頷いている。

「共有しているから召喚獣たちには指示をしているが、そんな余裕もないかもしれない。メルスへの指示も含めて、メルルたちが判断してくれ」

「うん、分かったよ」

メルスはグラハンのように能動的に料理の準備をしたりすることはない。

性格的な問題で、アレンがメルスの態度が良いとか悪いとかそういう話は一切していない。

「あとはダンジョン攻略の細かい方法だけど。次の40階層攻略を最優先で考えてくれ。

10階層、30階層の鍵の間は無理に開けなくても良いからな」

「え? 霊晶石いらないの?」

「レベルアップも大事だが攻略が優先だな。召喚獣はそれほど参加できないから、ここにもう少し人を集める予定だ。それまでは下の階層を目指していてくれ」

神域に散ったアレンやほかのパーティーの状況を把握しつつある。

神界に連れてこれる枠も余っているので、もう少し人を当てる予定なので、それまでは、今の構成で最下層へ目指すように言う。

「分かった。頑張るよ」

「ほどほどにな」

アレンはさらに細かい話をしていると時間が来たようだ。

転移して魔導船へ到着する。

魔導船の操縦室に移動したアレン、セシル、ソフィーは正面や側部に設けられた窓から外の景色に変化がないことに気付く。

ララッパ団長もピヨンも操縦室にはおらず、外に出ているようだ。

「騒がしいわね?」

セシルがどこか遠くで喧噪が聞こえるような気がした。

「何か揉めているようだな。よし、俺たちも外に出るぞ」

アレンたちは発着場に降り立った魔導船から外に出ると、前回アレンたちを迎え入れてくれた時の、歌神と踊神の使いである2体の大天使を見かける。

さらに、ドゴラ、キール、イグノマス、レペもいる。

(ふむ、ロザリナがいないな)

「何を話しているのでしょう?」

「おお、アレンだ。よし、そろそろ行こうぜ」

「何だ? ドゴラ。お前は……」

「こんなところ嫌だって話だ!!」

『ここは歌神様の神域です。そのように荒立てた声を上げてはいけませんわ。ラララ~』

天使の1体は口を指で差し、マネするように言う。

なんか、前世で学生時代に体験した音楽の授業を思い出す。

そんなアレンも、歌も踊りも得意な方ではなかった。

正直に言うとカラオケは苦痛だった。

アレンが前世で大人になった頃、踊りの授業は必須科目になったと聞いて、早めに生まれたことに感謝している。

「や、やばい。気が狂いそうだ……。もう我慢ならねえ」

「おい、ドゴラ。何をするつもりだ!!」

「俺はここで歌の訓練をするために、神界に来たんじゃねえ! お、おれは英雄になるんだ!!」

『いけませんね。身振りに気品がありません。テンポよく、優雅に……こう!』

男女2組の大天使たちは、テンポよく足を上げ踊って見せる。

「限界だ。俺は限界がきたんだ」

「おい、ドゴラ。何やってんだ。これも修行だ」

「止めるな! イグノマス、俺はお前みたいにはなれねえよ」

我慢の限界を超えたジャガイモ顔のドゴラが、むき出しの刃を覗かせる神器カグツチを背中から抜き出そうとする。

キールとイグノマスがドゴラを取り押さえようと団子状態になった。

(ドゴラも修行には向いていなかったってことか。まあ、仕方ない。クレナ状態だな。嫌なことは身が入らんからな。さて、得意不得意も考えて構成考えないとな)

修行の内容にも善し悪し、向き不向きがあるのだろう。

1ヵ月座禅と瞑想の毎日だったクレナの方が、ドゴラにとってはマシなのかもしれない。

イグノマスは愛する女帝ラプソニルと結ばれるために、どんな訓練も修行も厭わないのだろう。

「まったく早くしてくれよ」

レペは我関せずと胡坐を搔いている。

「レペさんはもう修行はいいようで?」

「ああ、終わっていないが、そろそろ獣神ガルム様に挨拶しねえとな」

「なるほど、ロザリナがいないようですが」

「ああ、アレンたちがやってくるって言ったんだが、『私はここに残る』ってまだ歌ってるぜ。なんか、ロザリナばっか褒められてつまらないぜ」

夢中になって歌姫の神域でスキル上げの訓練をしているらしい。

(なるほど、レペ的にもここは面白くなかったと。ロザリナは順調と見てよいのか)

十英獣にして、S級ダンジョンを攻略したアルバハル獣王国の英雄の扱いに慣れているレペは、ロザリナばかりもてはやされる環境に気分を良くしなかった。

アレンとしても、レペは性格的にはあれだが、圧倒的な才があると思っている。

ロザリナはそのレペ以上に、神域で才が認められるほどの存在なのかと、ふて腐れるレペを見ながら思う。

アレンたちが迎えに来て、ドゴラが出ていこうとしたところ、一緒にここを離れ、獣神のいる原獣の園へ向かいたいのだろう。

「人それぞれだな」

「本当ね。修行に身が入らないとかありえないわ」

セシルが呆れている。

アレンは2体の天使の下に向かう。

「申し訳ありません。どのような修行をしているのか。私たちも見ておきたいです」

ロザリナに助言やアドバイスもできるかもしれないとアレンは思った。

『その必要はございません。彼女は歌を歌うために生まれたような存在です』

「けっ、俺は違ったのか?」

後ろでレペが毒づいている。

アレンは天使の2人がアレンの視界を塞ぐように立っていることに気付いた。

さらに、ドゴラに視線を送った後にアレンを何度も見ている状況にも理解が進む。

『神域は来るものを拒みません。出る者を引き留めません。人間世界は大変だと聞いております。ささ、皆さんを連れて行かれ、更なる神域を目指してみてはいかがでしょう』

粗暴なドゴラを連れて去れという言葉がこんなに丁寧になるのかと感心する。

「霊獣とかいない感じでしょうか。問題があれば、私たちができることも……」

『霊獣がいれば、神界闘技場から天使たちを派遣してもらっています』

大天使に食い気味に言われる。

「歌神様への挨拶は……」

『よろしく伝えておきます』

(ん? ここにいてほしくないのはドゴラよりもむしろ俺か?)

笑顔を浮かべる大天使たちは目が笑っていない。

アレンは気付かない間に、歌神の神域を出禁になっていたようだ。

「もしかして、精霊の園の件の影響でしょうか?」

「ん? 精霊の園で何かあったか。受けた試練を越えただけだけど」

ソフィーに答えるアレンの言葉に、2体の大天使のガードがさらに強くなった気がした。

「天使様たちもそうおっしゃっているわ。早く出ましょう。キールもね」

セシルもこの場を離れたいと言う。

セシルが今したいことは魔法神イシリスの下に向かう事1つしかない。

キールが来るようにも念を押す。

「俺もか。まあ、ここで踊りを踊ってもしょうがないからな」

キールもドゴラほどではないが、この場で辟易をしていたようだ。

「そうだな。危なくないのであれば、ロザリナだけ残すか。イグノマスも来てくれ」

「分かった。他にやることがあるんだな」

「そうよ。これから、羅神くじを引くの」

セシルのやや釣り目がちな真紅の瞳に力が籠る。

こうして、アレンたちは歌神の神域から、ドゴラ、キール、イグノマス、レペを連れて、シャンダール天空国の王都ラブールへ向かうのであった。