軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第566話 武神オフォーリア

今まさに、アレンの首が剣神の剣で切り落とされようとした時だった。

アレンが意識する限界の速度で迫る剣が、突如止まった。

ギン

剣が硬い物にぶつかり、アレンの首下で硬い金属音がする。

(痛みがない。何故か知らんが助かったぞ。うりゃああああ、って剣神に掴まれてもうた)

何故か知らないが、切られていないようだ。

首が胴から離れてはいないなら、アレンは駄目押しに剣神を突こうと思うが、剣神に野花を摘まむように易々と剣を握られてしまった。

「く、なんて力だ!!」

握り止められてしまったが、もう数cm押し込めば、剣神に触れることができる。

そうなれば、一太刀の条件を満たすことができるため、アレンは両手に全力を込めた。

だが、片手で軽くつかむ剣神の手を少しも押し込むことはできない。

『せっかく助けた命。本当にふざけていますね……』

アレンの首が飛ばなかったのは、横殴りに切りつけた剣を手の甲で受け止めた者がいるからだった。

『オフォーリアお姉様、なぜ、この場に?』

振り向くアレンと同じように剣神もアレンの背後にいる者を見ていた。

『飛んできてみれば、これは何でしょうか』

(オフォーリアって確か、武神の名前だったような)

アレンを助けてくれたのは武神であった。

剣神と武神に挟まれて、アレンは身動きが取れない状況になっている。

危うく首が飛ばされそうになった時、武神が背後から助けてくれたことを理解した。

(剣神も武神も背後から現れたな。闘神の中で流行っているのか)

振り向き、闘神3姉妹の次女に当たる武神を見上げながら言う。

剣神と一緒で2メートルほどの身長の闘神は、全身上下の武道着を着ており、黄色の髪をおかっぱな感じで短めに切り揃えている。

キリッとした顔立ちで、腰を落とすアレンではなく、静かに剣神を見ている。

「アレン大丈夫!?」

「ああ、クレナ。多分」

さらなる上位神が現れ、仲間たちもアレンの危機に近づけないでいる。

それだけの圧倒的気迫やオーラのようなものを武神が発しているのかもしれない。

『何横やり入れてんだよ。父様の言いつけか! ああ!?』

『ルミネア姉様の言いつけです』

(お、戦神が助けてくれたの?)

闘神3姉妹の長女である戦神ルミネアが、武神を助けに寄こしてくれたようだ。

なぜ、アレンが危機的な状況にあるか予想できたか分からないが、お陰で命が助かった。

【闘神3姉妹】

・長女は上位神である戦神ルミネア

・次女は上位神である武神オフォーリア

・三女は上位神である剣神セスタヴィヌス

カチャ

武神が剣神の剣を手の甲から離したので、剣神は腰の鞘に剣を納める。

『そうかよ。だったら父様の言いつけでいいじゃねえか』

(戦神はエルメアの最側近の神だと学園で習ったな)

学園で、創造神エルメアは、第一天使と第二天使を自らの傍に置いており、闘神3姉妹の中でも最も力のある戦神を控えさせていると習った。

今の戦神の言葉は、全て創造神の意思によって動いているということなのだろうか。

「助けて頂いてありがとうございます」

『試練とは命を懸けてこそ価値があります。邪魔をして悪かったですね』

そんなことは決してないと首を振るうと、武神は背を見せこの場を去ろうとする。

アレンの試練が終わり、もうここには用がないということだろうか。

(あら、武神からは何も得られないと)

「お父上のエルメア様にもお礼を言っておいてください」

『……伝えておきます。あまり、不敬に神域に足を踏み入れないことですよ』

(否定しないぞ。うは、やはり、そうだった。創造神には子供がいたのか)

「気を付けます」

『さて、アレンの挑戦は残念に終わったな。俺もこれで失礼するぜ』

フッ

武神が転移していなくなり、剣神もそのまま姿を消した。

戦神の名がエルメアと似ているということ、あのような3柱はきっとエルメア様の御子だろうという考えが、学園内での研究にはあった。

創造神は神託という形で人々を導くが、人々の疑問や問いに答えるような存在ではない。

どうなんだろうかという、長年の神学を研究する学者や神官たちの説を、神界へ足を踏み入れたアレンが立証したことになる。

(まあ、だからどうだという話ではあるんだが。なるほど、上位神3柱を子にもつ最上位神ね。神々を統べる神だ)

エルメアは創造神という種類の神だが、「神」や「上位神」という神の格での括りでいうと「最上位神」らしい。

剣神に歯が立たない状況で、創造神の偉大さが少し実感できたような気がする。

剣神も姿を消したので、ようやくここで、クレナやセシルが駆け寄ってくる。

「クレナ、どうやら、ここでの修行は意味があるようだ」

今この場で起きたことをアレンは分析していた。

「意味? ほよ?」

ムライとの戦いを思い出すが、クレナよりもステータスで劣るムライがクレナの動きを上回っていた。

これは剣神術のスキルの有用性を意味している。

アレンたちは魔神レーゼルやS級ダンジョンの最下層ボスのゴルディノなど、自分らのステータスよりも高い敵と戦ってきた。

ステータスが足りない分、数と知恵で戦ってきたとも言える。

(剣神術を最高まで極めると、剣神の剣のようになれるのか。すごい動きだったな。まるで事実に現実が追い付くような体験だったぞ)

アレンに迫った剣神の一撃は、剣神術の神髄を見たような気がする。

最初に、アレンの首を切り落とすという事実があった。

それに合わせて、剣が振るわれ、体の動きが後からついてきた。

それは剣術をはるかに超えた理解の外側にあり、超高速を手に入れたステータスとか、無駄のない体の動きとか、そんな次元の話ではない。

クレナにしっかり真面目に修行するように言う。

「うん、分かった。私が強くなって、剣神様に一太刀入れるよ」

『は!? まだ、そんなことを言うか!!』

「ムライ様、クレナたちへの剣神術の修行よろしくお願いします」

少々手荒でもきつくてもいいから、みっちりしごいてほしいと言う。

瞑想させて座禅を組ませるよりは、クレナは身が入るだろう。

『当然だ。覚悟するのだな』

鼻息を荒くするムライの言葉に怪盗王のロゼッタが絶句する。

彼女も短剣使いなので、剣神の修行を受けている。

「うえええ、私はずっと瞑想でも良いわよ」

「じゃあ、ルークとフォルマールはこのまま、ここで残ってくれ」

ロゼッタのため息は流して、ルークたちに体を向けた。

「おう」

「ソフィアローネ様をお願いします」

こうして、ルークとフォルマールを置いて、神界闘技場を後にする。

***

アレンはセシル、ソフィーと共に魔導船で大地の神ガイアの神域に向かった。

魔導船で3日ほど移動して大地の神の神域に到着する。

遠目でも見てわかるほど巨大な立方体の大地が見える。

一辺が1000キロメートルにもなろう巨大な岩でできており、アレンたちは上部の面に魔導船で降りる。

「なんかすごい大岩ね」

この大地の神ガイアの神域は大岩でできているのだが、各面は凹凸がほとんどない岩の塊だ。

「いや、この面の中央に砂時計と天使が1体いる。そこに向かうぞ」

最初訪れた時、船の発着場まで迎えに来てくれていた、大地の神に仕える大天使がはるか500キロメートルほど先の、面の中心に立っている。

大天使の横には巨大な砂時計の上の器から砂がサラサラと下の器に落ちており、メルルたちの姿は見えない。

アレンたちはクワトロの特技「飛翔羽」を使い、中央にいる大天使のところに向かった。

アレンたちが神界闘技場に向かっている時、同様に、次の向かう先である歌神の神域に魔導船を進めるようララッパ団長に頼んでおく。

『これは、アレン様方。大地の神ガイア様の神域である「大地の迷宮」へようこそいらっしゃいました』

(たしか、ここは神界にある数少ない迷宮なんだよな。手伝っている途中で、オキヨサンもツバメンもいったん解除してしまったけど。メルルたちは無事だろうか)

精霊の園での試練に備え、方々に配置させていた召喚獣たちを一旦戻してしまった。

しばらくメルルたちに任せていたのだが、迷宮攻略は進んでいるのだろうか。

「こんにちは。大地の神ガイア様へお目通り頂きたく、伺いました」

『申し訳ありません。メルル様にも伝えている通り、この大地の迷宮を攻略した者しかお目通りはできません』

以前、メルルたちが言われたことをもう一度言われてしまった。

アレンもオキヨサンを通して、大地の神ガイアの試練と報酬を聞いていたのだが、性格的にもかなりおおざっぱな神なようで、求めている物は迷宮を攻略したらやるぞと言われた。

「ここを攻略しないといけないってことね」

分かりやすい試練にセシルもすぐに納得する。

『左様です』

アレンたちはこの大地の神の神域上部の中央にある巨大な降りの階段を見る。

この先には迷宮が広がっており、99階層まで続いている。

1日24時間以内に99階層まで攻略しないと全ての願いは叶えられないという不思議な試練が与えられている。

大地の迷宮を1日で99階層まで攻略することが試練だった。

シャンダール天空国には1つもなかったダンジョンがここにはあった。

アレンは大天使の横に立つ巨大な砂時計を見る。

24時間かけて全て落ちる時計の上部の器から、間もなく砂が無くなろうとしている。

(たぶん、地上のダンジョンは大地の神、魔法神、時空神の合作だろうな。ダンジョンだとダンジョンマスターだけ、崇められているけど)

神界に来て、なんとなく人間世界におけるダンジョンがどうやってできているのか分かってきたような気がする。

箱となるダンジョンの 側(がわ) 部分は大地の神が作り、中で手に入る魔法具や魔導具は魔法神が、移動や転移トラップは時空神が制御しているのかなと考える。

「メルルたち大丈夫かしら」

「この前、挑戦しているときは随分時間が掛かっていたが……」

アレンがセシルの言葉に返事していると、ちょうど上部の砂が全て下部の器に吸い込まれた。

砂時計がカッと光ると目の前に魔法陣が現れる。

宙に浮いたメルルやガララ提督のパーティー「スティンガー」の仲間たちがいきなり、魔法陣の上空に現れた。

そして、自然落下する。

「へば!?」

「ぐお!!」

アレンたちの目の前でドワーフたちが団子状態になる。

「もう、大地のスコップが折れてしまったからこんなことに! ガララ提督があんなとこ掘ろうっていうから!!」

メルルはスコップと言うが棒を握りしめて、怒りを露わにしている。

作戦が上手くいかなかったのだろうか。

「な!? 俺らのせいにするのか。いい案だと言うから、お前も同罪だろう。それに霊獣の巣窟に入った道を選んだのはお前じゃねえか」

「何だよ! そのお陰でスコップを手に入れたんだよ!!」

団子状態のまま罪を擦り付け合いグルグル回り始めた。

『お疲れ様です。1日休まれたら、また挑戦しますよ』

大天使が涼しい顔で言うのは、こういう状況で1ヵ月以上挑戦しているのだろう。

「どうやら、こっちも上手くいってないみたいだな」

「そのようね」

アレンとセシルは大地の神の試練を挑戦するメルルたちの状況を理解する。

「あ、アレン! ちょっとハバラクさん連れてきて! スコップ鍛えてくれないと!!」

(ん? とりあえず、少し休んだら状況を聞かせてもらおうか)

アレンは攻略が上手くいかないメルルたちを落ち着かせようとするのであった。