軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第565話 剣神セスタヴィヌスへの挑戦

アレンは、この神界闘技場で求めているものがあった。

霊獣ネスティラドに粉砕され、神級の精霊獣にへし折られた剣の強化だ。

もしかしたら、剣神セスタヴィヌスの剣が手に入るかもしれない。

(神頼みはいくらしても良いってね)

『き、貴様。精霊の園で試練を越えて、何か勘違いをしているようだな。剣神様、ここは私が……』

『まあ、まてまて。用があるのは俺だろ?』

剣神がケルビンの言葉を手で遮るようにして、一歩前に出た。

(剣神か。すごい威圧感だな。剣圧ってやつなのか)

身長は2メートルほどだろうか、アレンの頭1つ以上大きい剣神の全身を見る。

女性らしくふくよかではあったが、優しさのようなものは感じさせない。

全身鍛え抜かれ引き締まった筋肉で覆われているのは、胸当てと袴を着ていても分かる。

剣神とは、アレンたちのいる人間世界では特別な存在だ。

魔獣が跋扈し、魔王軍に侵攻を受けている世界で、人々は剣を握りしめ立ち向かう。

剣神の与える剣士の才能や剣術などのノーマルスキルは、魔獣から身を守るために絶大な力となる。

剣士の才能がない者も、剣術を鍛え、剣神を信仰している者も多い。

上位神で構成された闘神3姉妹の末席にして、武具8神のまとめ役の剣神がアレンを見つめている。

「はい。是非」

『何故、俺の剣を求める。理由を聞かせろ』

「はい。私は神界に来て、2度もオリハルコンの剣を折られており……」

剣神の剣が欲しいという思いに至った経緯を説明する。

『なるほどな。これはガイアが俺のために用意した業物だ。確かにイシリスの造ったものとは出来が違うだろうな』

剣神は自らのオリハルコンの剣を抜いて見せる。

(なんか、ガンガン寿命が削れていく感じがするな)

剣神が剣を握り、アレンの前にいるだけで、生存が脅かされているような気がする。

「もし、試練を与えて頂き、その試練を超えた暁には、剣神の剣を拝借したいと考えております」

剣神に剣を寄こせと言うと角が立つので、魔王を倒すまで借りたいと言う。

『考えないでもない。1つ質問だが、アレン。お前にとって「剣」とは何だ』

「道具です」

アレンにとって「剣」とは、勝利のための手段の1つに過ぎなかった。

ムライとの戦いで平気で道具として剣を投げることができた。

『……ぶ!? ば、馬鹿な。貴様、アレン!!』

答えが既に決まっていたかのように即答するアレンに対して、ケルビンが吹き出しそうになる。

怒りの込み上げのままに自らの剣の柄に手をかけた。

(そう言えば、ムライも『命よりも大事な剣を』とか、俺が剣を投げたこと怒っていたな)

剣神術の教えとは違いがあるのかもしれない。

『道具ね。おもしれえ。俺に一太刀浴びせられたら、この剣くれてやるよ。ただ俺の魂とも言える剣だ。こっちもそれなりに力を出すが構わねえか?』

「もちろんです。ありがとうございます!!」

(やったあああ! 何でも言ってみるものね)

剣神の返事に心の底から歓喜する。

とんとん拍子にアレンと剣神との試合が始まる状況に、アレンの仲間も勇者のパーティーもようやく理解が追いついた。

「ちょっと、アレン。何考えてんのよ。相手は剣神様よ。無理に決まってるじゃない」

「さすがにこれは無茶をし過ぎかな」

アレンに意見をよく言うセシルとヘルミオスは、明らかに反対だと言う。

「……無茶をしなければ手に入らないものもあります。魔王相手に剣をへし折られた後だと後悔もできませんよ」

アレンはつい最近まで実家に帰省していた。

守るべき大切な存在に会い、アレンの行動に勇気を与える。

「たしかに、そのとおりだな」

ドベルグはアレンの考えに賛同した。

ドベルグは幼馴染で自分の嫁のクラシスを探すため、魔王軍と戦ってきた。

そんなドベルグにも命を懸けるアレンの行動に共感したようだ。

「相手は一太刀だけで良い。それなら、勝算はあるかもしれません」

「負けそうになったらすぐに降参するのよ」

(あんまり心配するな。変なフラグが立つだろ)

セシルはいつにも増して、アレンを心配するため不安がよぎる。

アレンはニヤニヤとする剣神に視線を移す。

『最後の挨拶は終わったか?』

「いえいえ、胸を貸していただいてありがとうございます。当然、厳しそうなら降参しても?」

『もちろんだ。参ったと「言えば」そこで試合は終わりよ』

「私はどんな手段を使っても良いでしょうか?」

『構わないぜ。開始の号令もなしだ。好きに始めてくれ』

相談や交渉をする性格ではないのか、端的な会話で済ませてしまう。

(さて、グラハンの憑依合体はまだまだ十分に解除されない。一太刀浴びせるだけで良いのだな。我が剣の味しっかりと味わうがよい)

アレンの思考が進む中、既に試合は始まっているようだ。

アレンは覚悟を決め、思考を行動に移す。

「ツバメンたち、剣神の周りを取り囲め」

『ピピッ!!』

『ピピッ!!』

『ピピッ!!』

小気味よく気合の入った返事をする、ツバメの姿をした鳥Aの召喚獣たちが一斉に召喚され、アレンの下から離れ剣神へ向かっていく。

剣神を中心に近い者なら数メートルの鼻の先、遠い者で30メートルも離れている。

強化で鍛え上げ、成長レベル9まで上げ、中には王化を使った個体も1体いる。

数万から10万近い速度に達した鳥Aの召喚獣が、高速で剣神の周りを不規則に回転し始める。

バチバチ

あまりに速い鳥Aの飛行速度に、羽音が破裂音に聞こえ、風圧で竜巻が起こり吹き飛ばされそうな天使たちもいる。

『へえ、これが召喚獣か。それで?』

剣神は一切構えを見せず、体には一切力が入っていないのか、抜いた剣をだらりと地面すれすれに落としている。

「一太刀浴びて頂きます! では!!」

アレンもオリハルコンの剣を抜き、まっすぐに剣神へ突っ込んでいく。

『正面から向かって行くだと?』

先ほどの作戦を用いたアレンが、そのまま向かって行くことにムライは声を上げる。

剣神を相手に、正面から相手にして絶対に勝てないと思っているようだ。

(ステータスも上、スキルも圧倒的に上。だが、一太刀ならば!!)

10メートルほど距離を詰めたところで、アレンは直角に進行方向を変えた。

10体の鳥Aの召喚獣たちと同じく時計回りにグルグルと回る。

『ほう?』

「あれ? 見間違いかな。速すぎてアレン君が2人いるように見えるよ」

ヘルミオスが違和感に気付いた。

剣神の周りを高速で駆けるアレンがいつの間にか2人になっていた。

床を踏みしめる音から、完全に実体があり、ただの残像には見えない。

「嘘、ああ、これはネバーね。……こんなことに使うなんて」

一緒に石Fの召喚獣の検証をしたセシルが、何が起きたのか理解する。

姿を変えることができる石Fの召喚獣をアレンの姿に変えさせたことに気付いた。

成長レベルを上げ、高速移動するアレンと石Fの召喚獣の違いが分からない。

既に実戦への実用レベルまで、召喚獣の特性を理解していることに驚いていく。

「ほよよ! アレンがどんどん増えてく!!」

アレンが2人、3人と回転しながらどんどん数を増やしていく中、石Fの召喚獣を初めて見るクレナも驚愕する。

とうとう、アレンは鳥Aの召喚獣と同じ10人まで姿を変えた。

『それだけで、俺に一太刀浴びせられると思うならかかってくるがいいぜ』

ここまで剣神は一歩も動いておらず、顔を動かすことも、剣を構えることもしていない。

『もちろんです』

『もちろんです』

『もちろんです』

そこまで言うと、アレンは駄目押しの鳥Aの召喚獣に特技「巣ごもり」を発動させる。

シュンッ

シュンッ

シュンッ

アレンの体が回転しながらも姿が消え、さらに別の場所に現れる。

何回も何十回も、全てのアレンが、鳥Aの召喚獣によってランダムに剣神の周囲を転移する。

まるでトランプのシャッフルのようにアレンの本体を勘ぐらせないようにする。

『器用だな』

『では、行きますよ!』

『では、行きますよ!』

『では、行きますよ!』

『来な』

ニヤリと笑った剣神の表情に合わせたかのように、アレンたちが一斉に向かっていく。

シュッ

パアッ

最初に到達した側面のアレンを、剣神は無造作に横殴りに一刀両断した。

(体勢をほとんど崩さないだと、だが反対側からなら!!)

『うおおおおおおおおお!! ソウルセイバアアアアアアアアアアア!!』

右利きの剣神相手に初手は右から攻めて、容易く石Fの召喚獣は倒されてしまった。

しかし、その隙に霊力を込めたアレンが左側から攻めていた。

青白い光を放つ刀身を握りしめるアレンに対して、今度はもう少し力を込めたようだ。

体から神力が溢れたと思ったら、剣神は物凄い速さで、既に上段から剣を振るうアレンを上段から切りつけた。

パアッ

『これも偽物か』

グラハンに特技を使わせたアレンも偽物で、既にアレンは背中に迫っていた。

剣神との戦闘が開始して、一度も声を出していないアレンは、一切無駄のない動きの突きの姿勢のまま、剣神の背後に迫る。

先ほどまで成長レベル9まで上げていた石Fの召喚獣に足並みを合わせるように、移動速度を統一していたが、今はそんなことは無用だ。

速度を手加減して落としていた10万を超える素早さを一気に開放し距離を詰める。

『ふん、中々良い動きだ。迷いもねえ。なっと』

(む、二度の攻撃で体勢を崩さないだと!? いや、剣の動きがおかしい。剣が先行しているぞ)

アレンが背後から迫る中、未だに背後を晒し続けているが、この時アレンはおかしな現象を体験する。

たしかにアレンの剣は迷いなく一直線に剣神の背後を襲う。

しかし、剣神が持つオリハルコンの剣が水平に、アレンの首を切り落とさんとばかりに、アレンに既に迫っていた。

1秒の何分の1か、何十分の1にもなる、ほんの一瞬の攻防なのだが、アレンには永遠に感じられるほどの剣術の真髄のような体験をする。

剣神の体はまだアレンを背にしている状態だ。

しかし、既に剣だけがアレンに迫り、どうも剣神の体全体の動きと剣の軌道に辻褄が合わない。

それから、剣を握る手、剣を動かす腕、最後に体の向きが早送りでぶつ切りで再生するかのように体の体勢が変化する。

最終的に体勢ごとつじつまの合った剣神が握る剣は、アレンの首元目掛けて水平に振るわれる。

どう考えても致命傷ではすまない剣の圧倒的な速度に、手加減してくれるという淡い期待が吹き飛んでいく。

そう言えば、試合の前にそれなりの力を出すと言っていた。

それなりとはどういう意味なのか。

数日前に会った元気そうな顔をする家族の顔が一瞬脳裏をよぎる。

剣は首元まで迫り、転移で逃げるタイミングすらもう残されてはいない。

死に体の板の上に乗せられた魚のような気分のアレンに、剣神セスタヴィヌスの無情な剣がすぐそこまで迫るのであった。