作品タイトル不明
第564話 ムライ戦
クレナがムライ師範代に勝負で負け、アレンが名乗りを上げる。
「アレン……ごめん」
「いや、よくやった。ちょっと戦いづらかったな」
「……うん」
せっかくの強くなるための機会を掴めなかったクレナは、すごく落ち込んでしまっている。
(試合を騎士ごっこの延長にしてしまったからな。近接に持ちこまれて、大剣の持ち味もスキルの発動のタイミングも殺されてしまったからな。せめて限界突破が出来たら勝てたと思うけど。だが、これが剣神術か。剣術の上位互換のスキルと見た)
アレンは幼少の頃からクレナと騎士ごっこをしながら剣術のスキルを鍛えてきた。
クレナはノーマルモード時代に剣術のスキルをかなり上げているのだが、ムライ師範代の剣裁きはクレナを圧倒していた。
騎士ごっこの延長のように手段を選び、スキルを使用しない戦いに終始していたのもクレナの敗因だと考える。
剣だけの試合になると、剣神術の師範代に軍配が上がるのだろう。
クレナの良さでもあるのでそこは責めたりはしない。
『次はアレンが挑戦すると?』
「はい。パーティーのリーダーとして、皆さまの修行を乱した責任があります」
けじめのためにアレンが戦うと言う。
『ものは言い様だが……よかろう。お前は剣の道から随分遠いように見えるが?』
全身を遠目で眺めた後、ムライはアレンが剣士の類ではないだろうと言う。
「はい。ですのでスキルにより剣術を鍛えさせてください」
『剣術を?』
「グラハン、憑依合体をしてくれ」
『おう、アレン殿。憑依合体!!』
巨大な骸骨が、中華風の甲冑に赤いマントを羽織る姿の、霊Sの召喚獣のグラハンが覚醒スキル「憑依合体」を使用したアレンの中に取り込まれていく。
アレンの剣術のスキルレベルが3上昇する。
『……儂がこの道場を任せられておる。次からは儂の許可を求めてからにするのだな』
「かしこまりました。これでもまだまだ勝利からほど遠いです。少し離れた位置からの開始でも良いですか?」
クレナのお陰で、圧倒的な剣裁きをする剣の達人のムライを相手に、憑依合体しただけでは負けは目に見えていることが分かる。
アレンとクレナとの騎士ごっこだと、やはり今でもクレナの方が強い。
勇者ヘルミオスも剣王ドベルグもこの場にいるが、彼らでも、ムライに勝つのは難しいだろう。
(クレナが負けた時点で俺しか無理だろうからな)
新たな力を得るためにも、必ず勝たなくてはならない。
力を妥協して勝てる相手と、アレンたちは戦ってはいない。
手段を択ばず、絶対に勝つぞというアレンの本気の顔つきをムライは理解したようだ。
『それもよかろう。だが、こざかしい頭を使い、姑息な手を使ったところで、儂の剣は躱せぬぞ?』
「先ほどの試合を拝見させていただき、それは存じています」
(だがら、接近を許す前に勝たなくてはいけないな)
アレンはムライに背後を見せ、ゆっくりと試合の位置取りを始める。
クレナとムライは20メートルかそこらの距離から試合を始めたのだが、その5倍の100メートルは離れた位置まで向かうと、ゆっくりと向き直った。
魔導書のカードを攻撃力と素早さに全振りするため、竜系統に変えていく。
アレンはオリハルコンの剣を上段に掲げ、今にも襲い掛からんばかりに全身の筋肉を強張らせる。
それに対して、ムライは先ほどのクレナとの試合同様に、まるで清流を見ているように自然に、中道に剣を構える。
何千年、何万年もの間、剣の道に励んできたのか、自らの数倍のステータスを持つアレンを相手にしても、平静を保ち、一切の感情が籠っていない。
アレンがかなり距離を取ったので、それに合わせて邪魔にならないよう、修行中の天使や、ヘルミオスたちも大きな円を造り、試合を見つめる。
先ほどの試合の合図を行った天使がゆっくりと手を上げる。
『はじめ!!』
(投擲を鍛えた意味はこれだったのか! くらえ!!)
「ぬん!!」
アレンが動いたのは天使の試合の合図と同時だった。
歯を食いしばり、一言唸るように声を発すると、全身の筋肉の強張りを開放するように、まっすぐ剣をムライに向かって投げた。
剣術のスキルレベルも上がったアレンの剣はムライ目掛けて一切速度が落ちることもなくまっすぐ飛んでいく。
投擲のスキルレベルも上げていたこともあり、補正されムライの心臓へ剣が吸い込まれる。
ギギンッ
『な!? ぐぬ!!』
攻めと守りの両方にバランスのよい体勢で構えていたムライは意表を突いた攻撃であったが何とか、アレンが投擲したオリハルコンの剣を、自らのアダマンタイトの剣の腹の部分で防いだ。
ムライはアダマンタイトの剣に多少の亀裂が入るものの、アレンが投擲した剣の勢いを殺していなす。
「む、防がれたか! クレナ、剣を!!」
「え? う、うん。ほい!!」
クレナが慌ててアレン目掛けて剣を投げようとする。
しかし、その状況を許すムライではなかった。
100メートルもあるアレンとの距離を一気に詰める。
何秒もかけずにアレンのすぐ傍までムライが距離を詰めてしまった。
『馬鹿め! 命よりも大事な剣を投げておって! うりゃああ!!』
アレンの元に投げたクレナの剣の軌道を塞ぐように弧を描いてアレンに迫った。
あっという間に距離は詰められ、アレン目掛けて剣が振るわれる。
「そうです。騙される奴が馬鹿なんです」
アレンは片手をクレナの投げた剣に向けていたが、狙いはそれではなかった。
アレンやクレナに見えて、ムライには見えないものがある。
それはアレンの魔導書だ。
アレンは収納している予備のオリハルコンの剣を中空に出して、瞬時に握りしめる。
クレナの剣を取らせる前に勝負を決めようとしていたムライは、急に宙に出てきた剣にすぐに意識がいかない。
クレナに剣を求めたのは、目の前で出される魔導書の剣に意識がすぐにいかないようにするためだった。
(距離もばっちりと。むん!)
アレンは自らのスキルを誰よりも理解している。
魔導書を出し、収納から剣を出すのにどれだけの時間が掛かるのかも知っている。
クレナとの戦いでムライの移動速度も把握済みだ。
お陰で作戦どおり距離を取り、余裕を持って2本目の剣を片手で握りしめることができた。
アレンは片手で剣を振るう。
ムライは慌てて剣の軌道を変え、守りに入るが、元々アレンの狙いはムライの剣だった。
カードで高めた攻撃力をもって、ムライのヒビの入った剣を叩き切った。
ガキンッ
剣をへし折り、さらに駄目押しで、敗北を突きつけるようにムライの喉元に剣を突きつける。
『な!? こ、こんなの剣の道ではないわ!!』
まだ、負けを認められないようで、最初に会った時のように真っ赤な顔で怒り始めた。
これまでのやり取りの全てが自らを騙し、勝利するためだと理解したようだ。
「剣の道も進んだことない若輩ゆえにお許しください。それで、剣神術を習いたいです」
『だ、誰が貴様などに……!!』
思った以上にムライを怒らせてしまったようだ。
ここから納得感のある話をして、ムライを落ち着かせる方法を模索しようとしたところで、アレンは背後にいる者に肩を掴まれた。
『なんだよ。ケルビンが連れてきたつったから来てみれば面白い事しているじゃねえか』
さらに、女性の粗めの声がアレンの真後ろから聞こえる。
「む!? いつのまに……」
(転移か。どのタイミングで俺の後ろにいたんだ)
アレンは耳元で語ったこれまで聞いたことのない声に、まるで心臓を掴まれたかのような緊張感が沸く。
『剣の道に間違いなんてねえ。ムライよ、油断したてめぇの負けだ』
『な!? これは、け、剣神様、申し訳ございません! 無様な試合をしてしまいました……』
(うは、剣神だ。お早目の登場で)
アレンの背後にいる女性を見て、ムライが平伏する。
修行する天使たちも、その場に座り頭を下げた。
アレンは圧倒的な存在感に強い緊張で鼓動が早まり、金縛りにでもあったかのように、中々後ろを振り向くことができない。
剣神と呼ばれる女性が手を当てるように乗せていた手を離したのと同時に、何かに開放されたかのようにアレンは慌てて、後ろにいる剣神から距離を取る。
「こ、これは、剣神セスタヴィヌス様、お初にお目にかかります」
『おう! お前がアレンだな。元気そうで何よりだ』
アレンは警戒しながらも下げた頭をゆっくりと上げていく。
袴を履いており、腰には剣を刺しているようだ。
武道着を纏っており、胸当て程度に鎧を装備している。
髪は動きを重視しているのか、サラサラとした赤色を後ろでまとめていた。
剣神の後ろから少し遅れて、ケルビンがやってくる。
「この度は、クレナたちを修行して頂きありがとうございます」
『で、何ジロジロ見てやがる?』
「クレナたちに新たな訓練、剣神術を学ばせていただけると言うことでよろしいでしょうか」
勝利にこだわってしまった結果、ムライをかなり怒らせてしまった。
『そうだな。……父様は何ておっしゃっていたかな。まあ、普段は勝った奴だけが次の修行を積めるようにしているんだが、まあ、座っているだけじゃつまんねえだろ?』
(父様? ああ、父様ね)
「うん!!」
1ヵ月ほど退屈な修行をしてきたクレナが大きな声で返事した。
そこに、遠慮も思慮も感じられない。
『な!? 修行がつまらないとは……。ここは師範の我めが続きを説明します』
剣神の後ろにいた主天使のケルビンが、剣神相手に非礼であると、話の続きである修行内容や報酬について説明する。
(ほう、剣神術の師範代がムライで、師範がケルビンだったのか)
ケルビンの話だと、師範代や師範に勝つと修行の内容が変わるものだと言う。
【修行内容と報酬】
・剣神術ムライ師範代から一本取ると、剣神術の修行に移行
・剣神術ケルビン師範から一本取ると、エクストラモードになる
・剣神術ケルビン師範を倒すと、神技の修行に移行
・剣神に神技の修行が認められると、剣神の加護が貰える
・剣神相手に一本取ると、天騎士になる
・剣神を倒すと、剣神が願いを1つ叶えてくれる
(最初から知りたかった。というか勇者やドベルグさんは、雰囲気に飲まれて聞けなかったということか。目標は、クレナ、勇者、ドベルグさんが天騎士を目指すってことなのか。だが、俺の求めているものがここにはないな)
一瞬責めるようにパーティーリーダーの勇者ヘルミオスを睨むが、今はそんなときではない。
せっかく、剣術の祖たる上位神の剣神がアレンたちの前に現れてくれた。
アレンが勝利した成果で、修行している全員が剣神術に修行内容が変わる仕様のようだ。
「ケルビン様、私の求める報酬がこの中にないようです」
申し訳なさそうにアレンは口を開いた。
『なんだと? そもそも、お前は剣の道から離れているだろう?』
「いえ、私は全てを極めたいと考えております。剣の道は私の道の1つです」
『そんな、生易しい道ではないのだが……、それで報酬とは何だ。召喚士アレンよ。神界闘技場で何を望む』
アレンは手の平を剣神の腰に差した剣に手を差し伸べて口を開いた。
「私は剣神様の剣が欲しいです」
『ば、馬鹿な!? 何をふざけたことを……』
『あ? なんだと?』
アレンの言葉に、ケルビンは大声で驚愕するが、それ以上に剣神の一言で武道場の空気は一気に変わるのであった。