作品タイトル不明
第539話 真実の鏡 ※他者視点
フォルマールとセシルが大精霊神の住まう巨大な山の中腹にいた。
そこにあらかじめ巣を設置していたメルスがやってくる。
「メルス様、ソフィアローネ様はいかがでしたか?」
飛んでくるなり、フォルマールは緊張した顔でソフィーの安否を確認する。
『難しい状況にある。時間がないので、端的に説明するが……』
メルスは大精霊神とアレンの交渉結果の話をする。
予想通り、第一天使ルプトが調停する形となり、大精霊神と条件をやり直す形となった。
交渉の結果、精霊獣となったローゼンとファーブルを倒すしか道はなくなり、失敗すればエルフとダークエルフは滅びるかもしれないらしい。
「何よ! その条件は! 理不尽過ぎじゃない!!」
セシルは憤りを感じる。
『だが、アレン殿はその条件を飲んで戦っている。エルフとダークエルフ、そして精霊神たちのことを考えた最善の方法と信じてのことだ』
「その結果、真実の鏡がどうしても必要になった。急いで、真実の鏡を手に入れないといけないということですね」
『フォルマールよ、そういうことだ。移動を開始するぞ』
メルスは特技「天使の輪」による召喚士の召喚術のスキルで管理者権限の行使を行う。
同じく山の外に待機していたクワトロに、特技「浮遊羽」を仲間たちに使うよう指示を出す。
山の頂には精霊獣を精霊に戻す「真実の鏡」があると水の大精霊トーニスから聞いた。
地面から数メートル浮いた状態で全長1万メートルほどある山の頂を目指す。
アレンたちが精霊獣と戦っている間に真実の鏡を手に入れる必要がある。
アレンは大精霊神との再交渉をする中で、真実の鏡の使用について一切触れていない。
なにか「禁止する行為はないか」と確認をとった上での行動だ。
「これなら、あっという間ね」
足場の悪いゴツゴツとした岩山を歩くこともなく、山肌数メートル上空を一気に火口を目指して移動する。
『油断するな。そろそろ来るぞ!』
メルスは声を荒げた。
アレンたちが厳しい戦いをする中、貴重な戦力のメルスをこちらによこしてきた理由がすごい勢いでやってきた。
『ここから先には行かせないポン』
『どこへ向かうコン? この先は不可侵の領域コンよ』
大精霊神を守護する門番のポンズとコンズがフォルマールたちの前を立ちふさがる。
幼精霊化から力を開放し、両者共に10メートルを超える巨躯となっている。
狸面のポンズは2足歩行の筋肉隆々の塊のようなゴツい体となり、狐面のコンズは4足歩行で九つに分かれた尾は炎に包まれている。
『マクリス、クワトロ、ここは止めるぞ』
『任せるのら!』
『ええ、死守しましょう』
メルスはマクリスとクワトロや召喚獣たちと共にここで時間を稼ぐと言う。
【名 前】ポンズ
【年 齢】72582
【種 族】精霊王
【体 力】122000
【魔 力】156000
【霊 力】156000
【攻撃力】130000
【耐久力】154000
【素早さ】128000
【知 力】120000
【幸 運】118000
【攻撃属性】土
【耐久属性】土
【名 前】コンズ
【年 齢】75521
【種 族】精霊王
【体 力】132000
【魔 力】132000
【霊 力】132000
【攻撃力】154000
【耐久力】100000
【素早さ】152000
【知 力】112000
【幸 運】130000
【攻撃属性】火
【耐久属性】火
・補助込みのステータス
【名 前】 メルス
【体 力】 94380
【魔 力】 71500
【攻撃力】 80000
【耐久力】 63800
【素早さ】 85000
【知 力】 80000
【幸 運】 55000
【メルスに掛けた補助スキル、魔法等】
・アレンのスキル「成長」で全ステータス4万
・アレンのスキル「王化」で全ステータス1万上昇
・アレンのスキル「強化」で全ステータス5000上昇
・ソフィーの精霊、ルークの精霊
・マクリスの特技「ロイヤルガード」、覚醒スキル「ロイヤルオーラ」
メルスはアレンと一緒にソフィーとルークの大精霊たちによる加護、魚系統の召喚獣の各種特技や覚醒スキルが掛かっている。
だが、2体の精霊はそれを超える力があるようだ。
『フリーズキャノンなのらああああああ』
後方から円錐形の氷柱をポンズに向かってマクリスが放った。
圧倒的な速度で円柱が向かうのだが、ポンズは避けようともしない。
『むん!』
ポンズは腰を落とし、ただの正拳突きでマクリスの特技「フリーズキャノン」で生まれた円錐形の氷柱を爆散させる。
『その程度の力で我らの相手をしようとは片腹痛いコンよ! 燃え尽きなさいコン!!』
『させません!!』
尾の炎を車輪のように回転させ、メルスたちを燃やし尽くそうとする。
クワトロはいち早く気付き、翼長100メートルを超える巨大な翼で炎の勢いを緩め、その間にメルスとクワトロは退避する。
しかし、炎の全てを和らげることができず、クワトロの体をコンズの炎が燃やす。
一緒に召還してある霊Aの召喚獣が急いで天の恵みを使い、クワトロを回復させる。
「いけるの?」
この一連の動きで明らかにポンズとコンズの力がメルスたち召喚獣より押しているとセシルは感じる。
『……この程度の力の差なら問題ない。先に進め!』
セシルの問いにメルスは、顔をセシルたちに向けることなく端的に答えた。
「セシル殿、行きましょう! 真実の鏡がソフィアローネ様に必要です!!」
「ええ!」
フォルマールの声で、セシルも自らのなすべきことを理解する。
フォルマールとセシルがメルスたちを残し頂上を目指そうとする。
『行かせないと言ったポンよ!!』
しかし、フォルマールとセシルの動きを両の目で捉えたポンズが、筋肉で張った足で山肌を蹴り上げ、軽く跳躍したと思うとすぐそこまで迫っていた。
『させぬ!!』
メルスの腹にポンズの巨大な拳がめり込む。
「メルス!!」
『問題ないと言っている! 先に進め!!』
吹き飛ばされた先で体勢を立て直し、ポンズとコンズに必死の形相でメルスは迫る。
マクリスもクワトロが既にメルスに代わって、ポンズとコンズの行く手を阻む。
召喚獣たちが捨て身の覚悟で、フォルマールたちの行く手を守るようだ。
「行きましょう……」
フォルマールの声で、一瞬迷うもののセシルも山頂を目指し移動を開始した。
2人の背後では、圧倒的なステータスを持つ者たちの戦いが轟音と共に繰り広げられている。
特技「浮遊羽」によって、10分もしないうちに山頂までたどり着いた。
山頂はぽっかりと空いて火口となっているのだが命の雫で溢れていた。
この命の雫は火口の端の裂け目から小川となり、山肌の斜面を下って、生命の泉に流れ込んでいる。
ここは生命の泉の源泉と呼ばれるところだ。
「ここね。真実の鏡ってどこにあるのかしら」
火口の淵から目を凝らすが、随分水深が深いようだ。
セシルが目を凝らすが、煌めく火口の泉の底に、鏡らしきものが沈んでいるようには見えない。
「……奥で光っているあれでは?」
フォルマールはかなり水深のある火口の底になにやら光る物体が沈んでいることが分かる。
「こういうときに目が良い弓使いって便利ね」
「初めて褒められたな」
セシルの誉め言葉にフォルマールは嫌味で返す。
弓使いはスキルや弓術の補正で目がとても良い。
「時間がないわ。早速始めましょう」
「そうだな」
フォルマールとセシルが頷くと、それぞれ自らの魔導具袋から準備していたものを取り出す。
今回、生命の泉の源泉と呼ばれる場所に、真実の鏡があると聞いていたので魔導技師団のララッパ団長たちに作らせたものがある。
アレンが前世の頃の記憶を元に作らせた遠隔操作用魔導具だ。
魔法も受け付けず、精霊も召喚獣もこの中に入ることはできない。
人が入ればたちまち溶けてなくなってしまう。
魔導具袋に命の雫を入れることができることにヒントを得てアレンが設計し、ララッパ団長たちが形にした。
前方にはアーム、後方にはスクリューが浸水を防止する樽のようなものに取り付けられている。
さらに樽の前面には大きなレンズが取り付けられている。
セシルもフォルマールもあせる心を抑えて、前日までに何度も予行演習をした動作を思い出すかのようにテキパキと準備する。
用意したものは不測の事態に備え、セシル用とフォルマール用の2組ある。
「この魔導板で起動してと、ついたわ!!」
樽とは別部品となる魔導板もそれぞれ準備する。
魔導板のタッチパネルを言われた通り操作し、魔導板の画面に樽の先端についたレンズから映し出された映像を表示させる。
「準備ができた。進水させるぞ」
フォルマールがいち早く、準備が整い魔導具を命の雫で溢れる火口に進水させた。
魔導板から映し出される画面を見ながら操作し、火口の底にある真実の鏡を目指す。
樽の背面に付けられたジェットスクリューがすごい勢いで回転し、画面越しからでも分かる速度で生命の泉の源泉を下降していく。
「あったぞ、鏡だ。む?」
源泉の底では、両手で持つほどの鏡のようなものをフォルマールは魔導板越しに発見する。
回収しようとアームを伸ばすが、途中で魔導板の画面が止まってしまい、その後画面は真っ黒になってしまう。
「何よ。故障じゃない。私が取りに行くわ」
予備を用意していてセシルが起動させた遠隔操作用魔導具を進水させる。
しかし、フォルマール同様にセシルの魔導具も進水させて間もなく機能を失い、樽のようなものはプカプカと浮いてしまう。
「完全に壊れている。魔導コアまで使っているのに」
壊れて浮いた樽の形をした魔導具を回収し、もう一度起動しようとするが完全に動かない。
不測の事態に備えて、Sランクの魔石だけではなく、貴重な魔導コアまで使用したのに明らかに失敗の結果となった。
「何よ。実験ではうまくいったのに。源泉は違うってこと?」
何が理由で上手くいかないのかセシルは分からないと言う。
前日までの実験では、樽を汲んできた生命の泉の中で長時間漬けていても普通に起動していた。
2組の魔導具は全く機能しなくなり、どうすべきかと2人は視線を合わせて困惑する。
ズウウウウウウウン
山の中腹では召喚獣たちが門番であるポンズとコンズとの戦いを、メルスたちは今も繰り広げている。
「ブリザード!!」
セシルは泉の源泉を凍らせようとするが、泉はセシルの魔力を吸収し、水面が波立つことすらなかった。
「やはり、生命の泉と一緒で、魔法は駄目だということか」
「一度、アレンに作戦の失敗を伝えましょう。これはトーニスを呼んでくるしかないわね」
セシルは代案を出し、報告を優先するためアレンたちの下に戻ろうと言う。
作戦が失敗し真実の鏡を取ることはできなかった。
生命の泉と勝手が違うようだが、水の大精霊トーニスならとってこれるかもしれない。
「魔導具も駄目であった。ならば、トーニス様でも厳しいと考えるのが自然だろう。だが、まだ方法はある」
実験通り魔導具で駄目なら、水の大精霊トーニスの泡でも源泉では難しいと考えるのが普通だとフォルマールは言う。
フォルマールは覚悟を決めたかのように、外套など上半身の装備を脱ぎ始める。
「ちょっと、何してんの。フォルマール、まさか!」
「ソフィアローネ様をよろしくお願いします」
それだけ言うと、フォルマールは泉の源泉に飛び込んでしまう。
セシルの叫び声が水上から聞こえたが、フォルマールの視線は火口の底にある真実の鏡だけだ。
フォルマールは足をばたつかせ、一気に進水していく。
体のあちこちに火傷を負ったような痛みが生じる。
さらに、体力や魔力の減少まで感じる。
生命の泉の源泉とも呼べる水中に入ってしまい、エルフでもタダではすまないようだ。
フォルマールはそれでも水深100メートルほどある水の底まで進水し、両手で持つほどの大きな鏡を発見する。
かなりの重さだが、手に力を籠め、両足で火口の底を蹴り上げ、真実の鏡を持って上昇を開始した。
源泉に入って数分経過し息が苦しいが、フォルマールの体はそれどころではなかった。
全身から血が噴き出しゆっくりと溶け始めていた。
それでも思うのはソフィーの安寧であった。
この鏡を手に入れれば、精霊獣と戦うソフィーの戦況が変わるはずだ。
それだけを信じて、行きよりもかなり足取りの重い中、鏡を持って上昇し続ける。
目がやられてどこまで上がったか分からない。
全身の痛みが感じなくなってきた。
水中を自らの血で赤く染め上げていく。
耳はまだ無事なようで、遠くの方で何か聞こえる。
「フォルマール! 回復薬が効かないわ。早く上がってきて!!」
火口を覗き込むセシルの声がどんどん大きくなっていく。
セシルがずっと叫んでいることがフォルマールにも分かった。
フォルマールが少しでも水上に上がってきたら引き上げようと、セシルは水面ぎりぎりまで手を伸ばしている。
セシルの声からもう少しで水面だと分かり、フォルマールの溶けてただれた口元が緩む。
自分の体力の限界はとうに過ぎていることはよく分かっていた。
このままでは鏡を持ってまた火口の底に沈んでしまい、鏡がソフィーの元には届かないかもしれない。
「私はエルフの王族を守る者。エルフの繁栄を望む者……」
何を優先すべきか、考えるまでもなかった。
走馬灯のように、幼少のころから一族の親たちによって教わったことが頭を駆け巡る。
滅私の心でエルフの王族に仕えてきたフォルマールは自らの存在意義を改めて再確認した。
覚悟は勇気へと変わり、随分重くなった鏡を両手で握りしめ、最後の力を振り絞る。
水面はすぐそこだと教えてくれたセシルに心の中で礼を言う。
水上にいるセシルに向けて、水中にいるフォルマールは真実の鏡を水上に投げる。
ザパンッ
鏡は水中で勢いが殺されながらも、フォルマールの全力が込められた鏡は水中から飛び出し、セシルの横に落ちた。
「やった、鏡よ! さあ、フォルマール、次はあなたよ。上がってきなさい!!」
セシルは、鏡は手に入ったが、フォルマールがまだ水中にいることをすぐに思い出し、手を差し伸べようとする。
フォルマールはもうそこまで上昇してきている。
「ソフィアローネ様を……」
しかし、フォルマールの体はセシルからはゆっくりと小さくなっていくのが見える。
既に、フォルマールには命の雫の源泉をかき分けて進むだけの体力は残されていなかった。
最後の力を振り絞って投げ上げたフォルマールはゆっくりと水中に沈んでいく。
「フォルマアアアアアアアアアアアアアアル!!」
セシルが涙を流し絶叫するが、深く沈むフォルマールの手を握ることはできなかった。
痛みも意識も既になく、自分は使命を果たしたのだと笑顔のフォルマールの体がゆっくりと融解していく。
骨も内臓も溶かし真っ赤に染めた命の雫の源泉は、フォルマールの命を完全に吸収したかのように、また元の輝きに戻る。
命がけで手に入れた真実の鏡はセシルに託され、フォルマールは命の雫の一滴となったのであった。