軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第529話 3日目 世界樹とエルフ

作戦が固まったので、料理班で昨日から1日中食事を提供してきたセシルとフォルマールを呼んで、昨日までの事を共有する。

「ちょっと、こっち人足りないわよ!!」

転移してきて早々、セシルが全身で不満を表明する。

頭に来ているセシルと違い、フォルマールの表情は穏やかそのものであった。

「ソフィアローネ様、幼精霊だけでなく精霊も食事に来てくれるようになりました」

「それはお疲れ様でした」

フォルマールはせっせと自らの務めの結果をソフィーに報告している。

(飯にありついた精霊が吹聴しているのか)

噂が精霊の園で広がりつつあり、そのうち大精霊もやってくるかもしれない。

フォルマールとしては、ソフィーのためになるのであれば、1日中料理を作るくらい問題ないようだ。

「でもさすが、アレンね。もう精霊に食事を振舞う必要はないのかしら?」

問題は見つかったので食事の提供は止めようとセシルは言う。

「いや、流石にこれほど精霊が集まってくるなら、食事を提供するのは続けよう」

アレンはセシルとフォルマールを迎えに来たあと、残したグラハンと共に、霊C、霊B、霊Aの3体の召喚獣に食事を作らせている。

召喚獣に食事を作る技能はないが、現在もアレンが共有を使って作業指示をしている。

(大精霊神の課題をクリアしながら、ソフィーとルークと契約する精霊も集める必要があるしな)

「さて、どうやって泉の中に入るかな」

(いきなり飛び込むのはどうなんだろう。とりあえず、ハラミたちに中の様子を見てもらって)

朝日を浴びて、キラキラ輝く生命の泉の中をこれから調査する。

魚Dの召喚獣を3体召喚して、泉の中に飛び込ませた。

『魔力を元に生成したものを召喚したのか……なるほど、噂で聞いていた召喚士か。だが、それは良くないぞ』

ソフィーの横で水の大精霊トーニスが難しい顔をしている。

「私の事を聞いているのですか? それより、良くないとは?」

バシャバシャバシャ

3体の召喚獣が生命の泉の中で暴れ始めた。

そして、光る泡となって消えていく。

「ちょっと、召喚獣やられてしまったじゃない!」

敵がいるのかと杖を持ってセシルが警戒する。

他の仲間たちも同様のようだ。

(こうなることを分かっていたのか。当たり召喚獣が消えてしまったんだが。早く言ってよね!)

成長スキルを使って召喚獣のランクが上がった際に増えるステータスはランダムだ。

せっかく高いステータスを引いた個体が消えてしまい、アレンは不満顔になる。

「どういうことでしょう?」

理由を知ってそうなので水の大精霊に聞いてみる。

『この生命の泉は全ての生命の源。過度に浴びるのは命に係わるのじゃ』

魔力を元に作った召喚獣なら、なおさらだと水の大精霊は言う。

「お、おい! 俺結構飲んじゃったぞ!!」

勝手に飲んで、ルークが悲鳴を上げる。

両手を喉に当てて、昨日たらふく飲んだ命の雫を吐こうとしている。

『人族では助からぬであっただろうが、エルフたちには命の雫に適性がある。まあ、あれくらいなら大丈夫じゃが、今後は気を付ける事じゃな』

アレンはそこまで聞いて、泉のほとりに足を運ぶ。

「アレン様、何をされているのですか!」

アレンは皆の視線が集まる中、手のひらでゆっくりと泉に触れた。

(いた!?)

アレンの手のひらは硫酸に触れたかのように皮膚が溶け出血する。

「なるほど、生命の泉はタダの水ではないと」

(体力だけじゃなく、霊力も魔力も減ってるな)

アレンは魔導書で自らのステータスを確認する。

「ちょっと、最近体を張った検証が多いわよ!!」

セシルは自らの魔導具袋から回復薬を出して、アレンの手のひらを回復させる。

「そうだな。ふむ、俺の血も吸収されるぞ」

泉の水はアレンの血で濁ってしまったが、すぐに煌めくような水面に戻ってしまう。

「でも、これだと泉の中は入れないですわね」

『なに、儂が入れるようにするのじゃ。むん!』

困り顔のソフィーに水の大精霊が何とかすると言う。

生命の泉の表面が一瞬波打ち、しばらく経つと丸いボウルか何かでパン生地を押し当てたかのような凹みが泉の表面に生じる。

「この上に乗ったらいいということですか?」

『そのとおり。球体の泡を作り、泉の中を案内するのじゃ』

浴びると死んでしまうと聞いて、大丈夫なのかどうかセシルが心配している。

「いや大丈夫だろ」

(ウォーターベッドみたいだ!!)

ポヨンポヨン

アレンが先陣を切って、水の大精霊の力で操作した泉の表面に立つ。

「アレン、なんでそんなに適応力あるのよ!」

「おお! 変な感じだぜ!!」

ルークも一緒になって不思議な弾力の水面の上で飛び跳ねる。

『全員乗るのじゃ。泉の中に入るぞい』

(グラハンに続いて2体目の爺キャラだな。グラハンはもっと若いけど。それにしても、これはあれだな。こやつ、何故水位が減っているか知っているな)

水中に原因があると分かってからの対応が不自然なほどスムーズだ。

思うところがあるがアレンは表情に出すことなく、水の大精霊の様子を見ることにする。

アレンたち全員が水面に立つと、水の大精霊が『ムン!』と今一度杖を振るうと、足元がさらに凹み始める。

凹みが進んでいき、水の壁にアレンたちは囲まれる。

アレンたちは巨大な泡状の中に入る形となった。

「すげえな!! どうやったんだ」

「ちょっと! あまり暴れないでよ。割れたらどうするのよ!!」

ルークが顔面を泡の壁面に押し付けるので、セシルが力ずくで取り押さえる。

「かなりの透明度だな。ん? 何かやってくるな」

透明度が良いので数十メートル先まで見渡せる。

奥の方から巨大な何かが近づいてくる。

長い首に両手両足は水中を移動するようウミガメのヒレのようになっている。

プレシオサウルスみたいな首長竜の姿をした魔獣のようなものだ。

凶悪なギザギザの口をもち、体長は10メートルを超えている。

『ギャアアアアス!!』

アレンたちの入った泡の周りをグルグル回り、威嚇しているように思える。

「ちょっと!! 普通に魔獣がいるじゃない」

『む? 皆の者、慌てるでないのじゃ。こやつは精霊獣じゃ』

【年 齢】38267

【種 族】精霊獣

【体 力】32000

【魔 力】0

【霊 力】32000

【攻撃力】36000

【耐久力】33000

【素早さ】36000

【知 力】28000

【幸 運】30000

【攻撃属性】土

【耐久属性】土

特技「幼鳥化」を発動して肩に乗るクワトロに鑑定させる。

(精霊獣だと、こんな水の中にいるのに土属性とは。ん? 名前がないな。名もなき獣ってこいつの事か)

「なんなのでしょう? なんとなく精霊のような感じもしますわ」

『さすが、エルフじゃな。この精霊獣は、元は精霊なのじゃ。命の雫を大量に浴びた結果、精霊獣となったのじゃ』

「まあ、可哀そうに。救って上げられないのですか?」

『不可能ではないが、これもこのプニートと呼ばれた精霊が望んだこと』

水の大精霊トーニスは語りだす。

この精霊の園には、幼精霊などの力のない精霊がいる。

貴重な生命の泉があるのだが、霊獣が襲ってくることがある。

精霊獣が霊獣を撃退する役目があるようだ。

(竜人も神界人も天使もいないし、精霊たちが各々の役目でセルフ警護しているのか)

「だから、精霊獣は味方であるってことですか?」

『まあ、そういうことじゃ。刺激したら襲ってくるから気を付けるのじゃ』

この生命の泉には何体もの精霊獣がいるので気を付けるようにトーニスは言う。

(これが「名もなき獣」で、命の雫になることが「一滴の雫」になるか)

大精霊神の言っていた「名もなき獣になる」と「一滴の雫」の意味をアレンたちは理解した。

数十メートルの巨大な泡は泉の底数百メートルへゆっくりと沈んでいく。

「なんだよ。結構深いじゃねえかよ」

「そうだな。あれは泉の底じゃないのか?」

ルークの言葉にアレンもそう思った。

透明度が高い泉は、泉自身が輝いておりどこでも先が見える。

底かと思ったところで、緑のようなものが生い茂っている。

一瞬、泉の底が空いていたと思えるような状況が、眼下に広がっていた。

「あの、これってもしかして……」

(なるほど、これが見せたかったのか)

ソフィーが真っ先に気付いたのだが、アレンもこの生い茂った緑の葉っぱにも、木々に実る果実にも見覚えがある。

アレンたちが見ているのは世界樹を上から見た姿であった。

ローゼンヘイムの王都フォルテニアのはるか上空、世界樹の上に立っていた。

『この生命の泉の雫で、世界樹を支えておるのだ』

なんでこうなったのか皆の視線が集まる中、トーニスは語りだす。

エルフたちには見えないが、常に精霊の園はローゼンヘイムの上空にあるという。

泉の底が抜けることなく、一定量の命の雫が降り、世界樹を支えていると言う。

「精霊たちも、雫と一緒にやってくる感じですか?」

『そうじゃな。幼精霊など小さな精霊しか、地上には降りられない決まりになっているのじゃが』

たまに地上が見たいと興味を持つ精霊たちをこうやって泡の中に入れて見せてあげるとトーニスは言う。

「そうやって、神界は……、精霊の園は地上の恵みを支えてくださったのですね」

『うむ、エルフたちは世界樹を守るために産み落とされた種族なのじゃ』

エルフ誕生の秘話である。

「そうだったのですね」

(ほうほう、役目があると。ローゼンはそんなこと言っていなかったが)

エルフは世界樹を信仰の対象にしているが、王族であるソフィーでもそんな役目を知らないようだ。

同じく信仰の対象であった精霊が、何故かエルフの王族に役目を語らなかったようだ。

なんとなく大精霊神がソフィーの名乗りに不快な態度を示した理由が分かったような気がする。

エルフたちは自らの本当の役目を知らずに生きていることになる。

「ちなみに、生命の泉が精霊に必要と言いましたが、地上の精霊たちはどうしているのですか?」

先日聞いたトーニスの言葉にアレンは疑問に思っていたことがある。

『地上の精霊は、世界樹から溢れる命の力を浴びるか、世界樹の実を食べて存在を維持しておるの』

精霊たちは恵みを地上に振りまきながら、自らも世界樹の恩恵に預かっているらしい。

「さて、泉泥棒を見つけないとな」

「そうね。こんなに広い泉だもの、皆ばらけましょう」

アレンの言葉にセシルは泡の中で散って探すように言う。

「じゃあ、私が進んでほしい場所をお願いします」

『……分かった。どちらに行きたいか言うのじゃよ』

泡は結構なスピードで移動できるが、カスピ海ほどの広さがある。

アレンはトーニスに移動先を伝える先役を務め、効率よく何か不審なものがないか調べることにする。

マップを埋める感覚で怪しいものがないか探して、半日ほどの時間が過ぎた。

「おい!! あんなところに洞窟みたいなのがあるぞ!!」

ルークが少し離れたところに泉の壁に大穴を見つける。

「そちらに行ってみてください」

『……うむ、分かったのじゃ』

トーニスが穴の目の前まで移動した。

「この洞窟、随分深いですわね」

果てしなくまっすぐ先まで続いている大穴が視界の先まで続いていた。

ソフィーが目を凝らすと、突き当たることもなくまっすぐ先まで続いている。

「お! この先に雫泥棒がいるに違いないぞ!!」

「そうね。行ってみる価値はあるんじゃないない?」

ルークもセシルもそうだと言う。

「じゃあ、この先に進んでください」

『うむ、分かったのじゃ。とばすぞい!』

泡がギリギリ入れるほどの大きさの穴に進むことにする。

グングン速度を上げてまっすぐ空いた泉の洞窟をアレンたちは進んでいく。

「おいおい、どこまで進むんだよ」

何十キロ進んでも終わりのない洞窟にルークは動揺している。

枝分かれも何もないままさらに数百キロメートル進む。

しかし、煌めく泉の雫によって遥か先まで見えるのだが、視界に変化はなく続いていく。

さらに1000キロメートルを超えてアレンたちは泡の中をどんどん進んでいく。

(まるで、隣の大陸へ移動するほどの距離だな。まあ、地上に世界樹は2本あったし)

アレンは横穴があった時点でなんとなくこの先に何があるのか気付いていた。

「アレン、これって、もしかして……」

アレンの次にセシルがこの穴の意味に気付いたようだ。

ようやく横穴が終わり、広い空間に出てきた。

「おい、何か広場が先にあるぞ、って、なんだ、こいつも精霊獣か!!」

セシルの言葉を打ち消すようにルークは移動した先の変化に気付いた。

洞窟の先の空間に入るや否や、モササウルスのような精霊獣と思われる者がアレンたちを睨んでいる。

『グルアアアアアアアア!!』

水を振動させる巨大な雄叫びを上げ、アレンたちに向かってくるのであった。