軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第520話 神界人と霊晶石

王都ラブールの3階層にある壮麗で豪華な客室にアレンの仲間たちは待機していた。

王族の住まう3階層の窓からは下層の2階層や1階層の一部が見える。

結婚したばかりのペロムスや、既にレベル上げが終わったハクやクレナもこの場に来ている。

一緒にやってきたヘルミオス、ガララ提督、十英獣もこの場におり、人間世界からやってきてこの場にいないのは竜王とアレンだけだ。

竜王はこの北アメリカ大陸程ある神界を、竜の身1つで旅を始めた。

竜王は今回の天空王への謁見は守人長アビゲイルに任せて参加しない。

ただ、もし何か竜人に対して天空王が理不尽なことをしてきたら相談するように言っていた。

神界で何をするつもりなのだろうか、竜王としての竜人に対する強い覚悟を感じた。

今回の謁見する参加者の最後の1人であるアレンが、転移して豪華な客室にやってきた。

「やべえ、死ぬところだった……」

(意識が飛んじゃうんだが)

アレンの左手は肘から下が無く、右わき腹が鎧や外套ごと大きくえぐられ内臓が露出していた。

右手に握るオリハルコンの剣は刀身が根元から砕かれほとんどなく、全身に骨が見えるほどの大きな傷が無数にある。

まるで圧倒的強者と一戦を交えてきて、瀕死の状態のようだ。

「お、おいおい。まじかよ! オールヒール!!」

血塗れで瀕死のアレンにキールが回復魔法をかける。

見る間にアレンの傷を治し、体力を全快させる。

「ちょっと、アレン。いい加減にしなさいよ。ネスティラドは勝てないわよ! 何度殺されそうになってんのよ!!」

アレンの身を案じて、セシルが責め立てる。

アレンは、破壊された服を着替え始める。

「いや、まあ。前よりも戦いになっていたぞ」

アレンは腰にぶら下げた時計の魔導具で戦闘時間を確認する。

(グラハンとの憑依合体にも随分慣れてきたぞ。今回は10分持ったし。自己ベスト更新したし。いつか倒すし。ですし。おすし)

『……まるで求道者だな。儂の時代にもアレン殿のような者はそうはいなかったぞ』

覚醒スキル「憑依合体」の効果がまだ続く中、グラハンは明らかに呆れている。

どうやら、無茶をする召喚士が死に、自らが解放されるのはそこまで先の事ではないと考えているようだ。

「あ、ありえぬ……」

仲間たち全員が呆れる中、どういう思考をしているのだと、フォルマールが驚愕している。

仲間に迷惑をかけないため、アレンは補助魔法などを貰って、召喚獣たちだけで霊獣ネスティラドに挑戦した。

何が得られるのか分からない中、倒すべき魔王でもその配下でもないネスティラドに対して執拗なまでの挑戦をするアレンの考えがフォルマールは理解できないでいる。

この様子に普段会話に参加しないローゼンが口を開いた。

『はは、アレン君は諦めることを知らないね』

「え? そうですね。何か褒美が頂けるのですか?」

『まさか、何もしていないと神は褒美を与えられないんだよ。はは』

(ん? 何の会話だ?)

珍しいローゼンとの会話にアレンは違和感を覚えた。

コンコン

そうこうしているうちに、客室のドアがノックされた。

「アレン御一行様、天空王陛下への謁見の準備が整いました。ご案内致します」

「は、はい。直ぐに準備します!」

アレンは慌てて予備の防具に着替え、血も拭う。

(ようやくか。10日以上待たせやがって)

天空王に謁見を求めたのだが、待ちに待たされ、今日という日を迎えた。

今後の神界での活動もしやすいようにと、後からやってきた十英獣も一緒に謁見してもらう。

使いの騎士に先導され、天空王の元に向かう。

こうやって、騎士や使いの者に先導され、王のもとに向かうのは何度目だろうかと、転生人生は王に謁見してばかりだなと、天空王になど興味のないアレンは無表情に思う。

王都の3階層がそのまま王城になっているのだが、縦横高さ1キロメートルの構造になっており、体長15メートルのハクも一緒に歩けるほど廊下は巨大で広々としている。

こちらですと巨大な扉の前に案内する。

巨大な扉が観音開きに開くと、最先頭にアビゲイル、そのほかアレン、ヘルミオス、ガララ提督、十英獣もリーダーを先頭に謁見の間に進んでいく。

最後尾にはハクと、その横にクレナがいる。

とても広い広間にいるが、奥にポツンと玉座があり、天空王らしきものが座っている。

何人かの貴族や神官、役人や騎士らしきものたちもいる。

その横にお腹の大きい王妃が座り、王妃がアレンたちに期待を込めた目で見つめている。

アレンたちは視線を下に向け、片膝をついて跪いた。

「貴様が、守人長のアビゲイルか。審判の門を越えた者たちを使い、霊獣たちを狩っているそうだな」

玉座に座る国王は筋肉質な体形だが、年齢は30代半ばくらいだろうか。

ブロンド色のひげを口にも顎にもたくわえている。

天空王の傍に宰相らしき貴族がいるようだが、この場には貴族たちも少なく、あまり格式高い謁見はしてくれないようだ。

時間を作ってやっただけでも感謝するようにと、侮蔑の意図を感じるほどの口調でアビゲイルに話しかける。

「はい。お陰で竜人としての務めを果たせそうでございます」

「今まで働きもせず、我が王国に居させてやったのだ。これからは気持ちを入れ替えてしっかり働くことだな」

「はい」

(やばい、なんか思った以上だな。竜王には黙っておくか。戦争になりそうだし)

「それで、特大の霊晶石を持ってきたと聞いておるぞ」

「は、こ、こちらが霊獣を狩った際に手に入れた霊晶石でございます」

アビゲイルに渡しておいた亜神級の霊獣ダニエスの霊晶石を前に差し出した。

近衛の騎士たちがやってきて、アビゲイルから霊晶石を取ると天空王の傍にいた髭をかなり伸ばした老齢な神界人の男の元に持っていく。

「ジーゲンよ。どうなのだ?」

ジーゲンと呼ばれた老齢な男は片眼鏡でのぞき込むように霊晶石を覗き込む。

「メフスト天空王陛下、たしかに亜神級から手に入る霊晶石で間違いないかと。す、素晴らしい……」

アビゲイルの話は信用せず、ジーゲンという老人に調べさせたようだ。

天空王はメフスト=ド=シャンダールという名前だ。

「……ほう、審判の門を潜り抜けたという実力は伊達ではないようだな」

「まあ! ではわらわは大天使を産むことができるのですね!!」

「そうだ。元気な天使を産むがよい。ジーゲンよ、霊晶石をインフィニア王妃に」

妊娠中の王妃はインフィニア=ド=シャンダールという名前だ。

(まだ持ってきたとしか言っていないんだがな。まあ、献上しに来たと言って謁見しているわけだが)

既に霊晶石は天空王たちの物という扱いになっているようだ。

アレンは天空王や王妃のやり取りを、下を向いたまま聞いている。

セシルが天空王たちの態度に怒り出さないよう、強い念を後方に送ることも忘れない。

ジーゲンという老人から王妃はドッジボールサイズの巨大な水晶の塊を受け取る。

「これで私は……」

感動のあまり震えながら、王妃は霊晶石を受け取るとゆっくりとお腹に当てた。

パアッ

霊晶石は強い光を放つとゆっくりと妊娠して大きくなったお腹に吸収されていく。

(これでこの世界の天使が1体増えるのか)

『そういうことだ』

(第一天使を世界に誕生させるのって大変そうだな。10個も集めないといけないからな)

『それだけではない。創造神エルメア様の貴重な加護がないといかぬのだ』

アレンは共有した意識で、S級ダンジョンで回復薬を生成し続けるメルスに話しかける。

共有している召喚獣とは離れていても、カードの状態でも意識の共有は可能だ。

霊晶石を何故、神界人の王である天空王が求めるのかメルスに聞いていた。

何でも神界人の王族が子供を産む際、霊晶石を妊婦に与えると天使が生まれるそうだ。

天使とは、神の使いでいくつかのランクがある。

妊娠中に与えた霊晶石によって、生まれてくる天使が変わってくる。

さらに言うと、最高位の天使である第一天使を誕生させようものなら、霊晶石だけでなく創造神エルメアの特別な「加護」が必要なようだ。

(プロポリスを食べた蜂の子が女王蜂になるみたいなものか。メルスとルプトは双子だけど霊晶石20個集めたってことなのかな)

『いや、10個であったと聞いている。だからキュベルごときにおくれをとったのだ』

どうやら、メルスは第一天使だが、ルプトと霊晶石や創造神エルメアの加護を分けていたため、本来の力は発揮できなかったようだ。

(ほうほう。だが、おかげでメルスには妹がいるな)

『そうとも言えるな』

【天使を生むのに必要な霊晶石】

・亜神級の霊晶石10個で、第一天使

・亜神級の霊晶石5個で、主天使

・亜神級の霊晶石1個で、大天使

・大天使級の霊獣の霊晶石5個で、大天使

・大天使級の霊獣の霊晶石1個で、天使

アレンたちが霊晶石を1つ、天空王に献上したため、天使が1人生まれてくるようだ。

(これが、神界人と神界と神の関係か)

神界に至り半月ほど過ぎたアレンであるが、神界の状況が理解できた。

最初に神界に来たころは、神界なのに神界人とはいえ、人間たちが王国を築いているのだなと思っていた。

どうやら、神々は自らの世話役の天使を誕生させるために、この大きな神界の大陸に神界人を存在させているようだ。

竜人が霊獣を狩り、手に入れた霊晶石を神界人に献上し、神界人の中から誕生した天使が神々に仕える。

時空神デスペラードがアレン軍ら万越えの受け入れを渋ったのは、この絶妙なバランスが壊れるのを嫌ったからかもしれない。

アレンの思考は他所に、王妃は天空王に話しかける。

「まあ、お腹の子が蹴っております。王よ、少し休ませてください」

「うむ、そうだな。私室にインフィニアを」

「は!」

「は!」

お腹の大きな王妃を椅子ごとベビーカーのような物に乗せ、玉座の後ろにある王族の出入り口から近衛騎士2名は連れ出すようだ。

「ご苦労であったな。これは何か褒美を与えねばならぬな。分かっているとは思うが、これくらいで王都に住みたいなど言うなよ」

天空王は顎髭を触りながら、アビゲイルに褒美の話をし始めた。

霊晶石の見返りをきちんとくれるらしい。

数千年間、竜人が霊晶石を持ってくるという役目を果たせず王都から追い出された経緯がある。

その竜人たちが今回の一件で王都に住むことが許されると思うなよと天空王は釘を刺す。

「ありがとうございます。では、アレンのパーティーであるペロムスに神界で商売をさせてください」

自らの功績でもない霊晶石でアビゲイルは王都に住もうなど思わなかったようだ。

アビゲイルはあらかじめアレンから聞いていた褒美を天空王に求める。

「む? 商売だと? 船を求めているのではないのか? 羅神くじも用意していたのだが、話が違うではないか」

(らしんくじといったか? 何の話だ?)

営業がしたいというアビゲイルの言葉が理解できないと、天空王は困惑しながら言う。

「いえ、えっと……。申し訳ございません。この辺りの説明は、私から神界に来た者たちのまとめ役のアレンに説明を代わってもよろしいでしょうか?」

(俺にバトンタッチか。ふう、腕が鳴るぜ!)

「む? 下界人とは話をしたくないのだがな。まあ、霊晶石を持ってきたことだし、よかろう」

「発言の機会を頂き、ありがとうございます」

アレンの仲間だけではなく、そのほかのパーティーに緊張が走る。

天空王との交渉役がアレンに代わった。

アレンが常識の範囲内で交渉してくれることを願っているようだ。

「うむ、下界の者に我が何なのか分からないかもしれないが、天空王だ。発言には気をつけるのだぞ」

(下界下界って、神界人はこれだから)

世界が違えば、人間世界の言い方も変わってくるのだろう。

アレンたちは「地上」とも呼ぶ人間世界も、神界人には「下界」に見えるのだろう。

「下界で冒険者をしているアレンと申します。神界で神々をお支えになる天空王と話ができ、恐悦至極でございます」

媚びへつらいモードに切り替えたアレンからは、一切の感情が顔から消えている。

「冒険者がこの神界で商売がしたいといったな?」

「そうでございます。神界の素晴らしい物に触れ、是非下界にその素晴らしさを伝えとうございます。へへ」

(グラハンを仲間にするため金貨1億枚用意しないといけないからな。あまり時間がないのだ。稼ぐのはペロムスだけど)

神界の素晴らしき物と言ったが、実際は物が乏しい神界で得られるものはそこまでない。

どちらかというと神界人が欲しそうものを神界で大量に売り捌く予定だ。

「ふん、神界に来てまで金儲けがしたいというわけだな。これは思っていた以上に卑しい存在であるな。まあ、よかろう。おい、商売の許可証をその者たちに渡してやれ」

「は!」

謁見の間にいる役人と思われる者が返事をする。

(早めに頂戴ね。謁見が遅れてあまり時間がないんだからね)

大見栄きって、アレンが発言した期日の3ヵ月からさらに日にちが過ぎている。

商売の許可証とやらをすぐにでも欲しいと考える。

「さて、話は以上だな。では、此度の謁見は以上だな」

「いえ、あの、まだお話が……」

天空王に求める話はまだ終わっていない。

「なんだ。貴様、まだ何かを求めるといのか。貴重な霊晶石を持ってきたからといって……」

あれもこれも求めるなよという天空王の言葉が止まってしまう。

アレンが自らの魔導袋から霊晶石をゴロゴロと取り出した。

新たにこの場に出した2つの亜神級の霊晶石に、謁見の間が一気に静かになってしまったのであった。