軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第519話 霊Sの召喚獣

恐怖帝を殺した男は自らの行為を誇ることもなく、一族の罪を必死に無くそうと千年間、霊障の吹き溜まりで思いを訴えてきたようだ。

謝罪のために跪いていた皇帝は立ち上がり、さらに語り掛ける。

「そうだ。お主とその一族に一切の 罪(とが) はない。皇帝である余が保障しよう。お主とその一族の銅像を建て、英雄と分かるよう功績を示す故に安心するがよい」

パアッ

グラハンの窪んだ骸骨の瞳から涙のような青白い炎が零れ始めた。

『良かった……。こ、これで、儂も皆の元へ……』

まばゆい光がグラハンの全身を包み込み、そして光る泡となって天に舞い始める。

「ちょ、ちょっと待った!!」

(成仏したらいかん!)

アレンは慌てて魔導書を取り出し、光る泡となってゆっくり上昇を始めたグラハンに向かって聖獣石を掲げる。

グラハンを構成していた光の泡が全て聖獣石に吸い込まれていく。

「なによ、いいところじゃない……」

セシルが幻想的な状況で慌てるアレンの行動に呆れている。

『清められた霊獣の魂を回収しました。ただいま交渉中です』

「よしよし、交渉するんだ! 成功しか認めないぞ! 何が何でもイエスを勝ち取るんだ!!」

『……善処します』

聖魚マクリスを仲間にした時のような交渉のログが魔導書に流れる。

アレンはかつてないほどの眼力を込めて、ログを確認する。

誰がログで返事をしてきたのか分からないが、成功の結果だけを求めることにする。

この日のために、各国の代表の前で講演し信用を勝ち取り、ギアムート帝国の皇帝との交渉の結果、ようやく手に入れた霊Sの召喚獣の可能性だ。

『……霊獣との交渉に成功をしました』

『霊獣を召喚獣に再構築します』

『再構築に成功しました』

『霊Sの召喚獣の封印が解けました』

早く手続きを終えて、このログから離れたいのか、淡々としたログが流れ続ける。

「やった! 霊Sの召喚獣をゲットしたぞおおおおお!!」

アレンは魔導書を天に掲げ絶叫する。

仲間たちは良かったねと小躍りをするアレンを、生暖かい目で見つめている。

皇帝が「用が済んだら、地上に戻せよ」と言おうとした。

そこに割って入るかのように、少し離れたところで成り行きを見つめていた竜王が口を開く。

『……そうか。そういうことか。もしかしたら、アステルがこの世界で霊獣として彷徨っているかもしれないのだな』

竜王はこの場に誘われた理由を知る。

「え? ああ、そうです。目的を達成せずに亡くなったようですからね」

アレンは頭上の竜王の言葉に意識を取り戻した。

この神界にはいくつもの霊障の吹き溜まりがある。

神界人たちの住むこのシャンダール天空国の先にある、神々の存在する「神域」と呼ばれる領域にも霊獣はいるらしい。

もしかしたら、グラハンのようにアステルの魂も、神界のどこかで彷徨っているのかもしれない。

そんな可能性を見せたくて、竜王にグラハンについて見せたことを、竜王も理解したようだ。

(ここには数百万の竜人がいるからな。もしかしたら新たな竜人の乗り手が見つかるかもしれないし)

老齢となったが、まだ人生ならぬ竜生は終わっていないぞとアレンは目で語り掛けた。

アステルの魂以外にも何か発見があるかもしれない。

『だが、良いのか? 竜人がこれほどの扱いを受けているのだ』

竜王は自らが好きに生きることに負い目があった。

自らが試しの門攻略に失敗した結果、竜人たちが神界で随分冷遇されていることを知った。

「そちらについては、私たちの活動と協力関係にあるので、ご心配に及びません」

(竜王が神界で出しゃばってもいいことないだろうしな。何かあったら名前を借りるぞ)

神界には神界のルールがある。

神界の竜人は族長をトップに組織され、神界や神界人と関わりがある。

竜王が力を持って間に入ろうとすると、事を荒立てるかもしれない。

『……そうか。では、我はアステルを見つけるため、探しに出かけるとしよう。もし、何かあったら声をかけてくれ』

竜王は大きく翼を広げ、アステルを探しに飛んで行った。

「それで、アレンよ。これから天空王に会うというのだな」

十英獣のリーダーでリスの獣人のテミが、今後の話をする。

「そうですね。多少待たされるかもしれませんが、そんな感じですね。皇帝陛下、どうしましょう?」

現時点でも数日待っている。

アレンは改めて、皇帝の予定を確認する。

「む?」

「もうすぐ謁見できますが、天空王に会いますか?」

「ふん、そんなものに興味はない」

(まあ、そうだな。とんでもなく偉そうな王だと竜人から聞いているからな)

天空王は尊大な王だと竜人の族長から聞いている。

ギアムート帝国の皇帝は態々理由もなく、どこぞの王に会うことはしないと言う。

権力者には権力者の、皇帝には皇帝の立場があるようだ。

それで言うと、約束を守って態々こんな神界まで来て、グラハンに土下座してくれたことに、ギアムート帝国の皇帝には感謝しかない。

「そうですか。では、魔王軍との戦いに影響が出ない範囲で何かあったら言ってください」

手伝ってくれた礼はするとアレンは言う。

「……ふん。その言葉忘れるなよ」

当たり前のように話しかけるアレンに、皇帝はいい加減何か言えとヘルミオスを睨む。

ヘルミオスはこんな感じだよと苦笑いをするに留める。

枢機卿は天空王に会ってみたいと興味津々だったので、枢機卿だけ残して、ギアムート帝国から来た皇帝ら御三方を人間世界に戻した。

枢機卿には冒険心のようなものがあるのかもしれない。

十英獣も、神界に来たばかりなので、族長に暫く預けることにする。

神界の情報を、竜人たちを通して共有したい。

彼らの最初の目標は獣神ガルムのいる原獣の里に行くことだと思う。

アレンは、竜人に十英獣への神界の説明を任せて、仲間たちと共にボアソの街の外れに向かう。

新たに仲間に加わった霊Sの召喚獣を分析するためだ。

仲間たちが見つめる中、アレンは魔導書を開き霊Sの召喚獣を召喚する。

「いよいよですわね」

ソフィーもキラキラとした瞳でアレンの新たな力に期待する。

「よし、グラハン出てこい」

Sランクの召喚獣は、マクリスやクワトロ同様に既に名前がある。

召喚した霊Sの召喚獣は、真っ赤な外套を羽織り、大盾、大剣を持った青白い炎が全身を燃やす骸骨の姿をしていた。

イルカからクジラの姿に変えたマクリスや、ヒヨコの幼体から美しい金色の成鳥に変わったクワトロのように変化がある。

骸骨の顔はそのままなのだが、兜、胸当て、外套を装備しており、体長も15メートルほどの結構な大きさだ。

現在のハクと同じくらいの大きさのようだ。

アレンは魔導書のグラハンのステータスを確認する。

(見た目通り、完全な前衛型の特技だな)

特技には、効果はまだ分からないが、前世で剣聖であった頃の影響を強く受けているのか、剣技の特技を多く持っているようだ。

【種 類】 霊

【ランク】 S

【名 前】 グラハン

【体 力】 40000

【魔 力】 40000

【攻撃力】 40000

【耐久力】 50000

【素早さ】 40000

【知 力】 50000

【幸 運】 40000

【加 護】 耐久力5000、知力5000、心頭滅却

【特 技】 霊斬剣、霊呪爆炎撃、マジックイーター、ソウルセイバー、戦士の咆哮

【覚 醒】 憑依合体、聖珠生成、<封>

ルークもアレンの見る魔導書に載るグラハンのステータスを覗き込む。

「すげえ、強そうだ。これで、ネスティラドに勝てないかな!」

(ソウルセイバーとか種族名が特技になっているし。ふむふむ、物理攻撃系なのに知力がやっぱり高いのね)

魔導書とグラハンを交互に見比べ、全身を舐めまわすように見る。

暫く棒立ちだったグラハンは剣と盾を持ったままゆっくりと自らの骨になった手を胸の高さまで上げ、アレンを見つめた。

『……おぬしが、ルプトとかいう天使が言っていたアレンか?』

「そうだ。今日からグラハンは俺の召喚獣だ」

自らの召喚獣に敬語を使うことはしない。

(グラハンとの交渉をしていたのはメルスの妹のルプトか。神界に来てまだ会っていないな)

メルスの双子の妹で現在、創造神エルメアに仕える第一天使のルプトが、グラハンを説得したようだ。

これまでのマクリスの際に出てきたログなども、神界でルプトが働いてくれたのか、自らの知らないところで働く者に感謝の念が沸いてくる。

(もしかしたら、グラハンが召喚獣にならなかったら、案で考えていた特技や覚醒スキルが白紙になるから動いてくれたのか)

やはり感謝は気のせいかもしれない。

メルスから召喚獣の設定には年単位での調整が必要だと聞いていた。

『そうか。これも儂が、決断することが遅れた結果のことか……』

グラハンは自らの状況を、言い聞かせるように口にする。

(決断? 召喚獣になることか? いや、話的に前世に大きな後悔があるのか。一族を皆殺しにされているからな)

「恐怖帝が魔王となって復活して、多くの犠牲を出している。一緒に戦ってもらうぞ」

アレンは共闘を求める。

『ああ、そうだ。もう迷うわけにはいかぬな。よろしく頼むぞ。アレン……殿』

一瞬、敬称はどうしようか考えたようだが『殿』で落ち着いたようだ。

メルスも『アレン殿』と呼んでくるし、『様』ほどには仰々しくなく、使い勝手がいいのかもしれない。

ついでにフォルマールも「アレン殿」と言ってくる。

「霊獣になっている間の記憶ってあるのか?」

『全くない』

何か随分寝ていたような感覚だと言う。

「じゃあ、死ぬ前の記憶とかは?」

『当然ある……』

グラハンとのコミュニケーションを図っていく。

あまり言いたくなさそうだ。

最後の記憶は、家族がスライム刑で溶かされる光景だったろうから無理もない。

この場で根ほり葉ほり聞くことはしないが、魔王の前世での行動については知っておきたい。

ただ、記憶があるということは、生前の騎士としての戦いもできるということだ。

特技から色々試していくことにした。

どんな特技か分からないと話にならない。

小一時間ほどかけてグラハンの特技についておおよそ理解が進んだ。

『何か儂が前世の頃のスキルと随分変わっているようだの』

「召喚獣となってスキルは特技に再構築されたみたいだな」

『そのようだの。まだ検証をするのか。儂はそろそろ疲れたぞ』

「グラハンは生前いくつだったんだ?」

『たしか52だ』

「年寄り臭いと思っていたが、まだまだ若いじゃないか」

アレンが前世と今生を合わせた年齢だったが、気持ちお爺さんになっていた。

前世では孫がいたかもしれないが、年寄りになるには早いと窘める。

なお、ハイエルフのソフィーが5月1日でまもなく52になる。

『苦労するとはこういうことか……』

第一天使ルプトから頑張れ的なことを言われたようだ。

「さて、月に3回手に入るだろう聖珠は当然頂くとして、そうか。霊Sを召喚獣にできたから、竜Sの召喚獣を仲間にしたらいいのか」

『ふむ。アレン殿は研究職か何かなのかの』

分析はまだまだ続きそうだなとグラハンは思っているようだ。

きっとマクリス、クワトロ同様に10日に1回、聖珠が手に入るのだろう。

霊と竜の合成で天使の召喚獣を召喚できるようになる。

霊Sが仲間になったので、次は竜Sの召喚獣も探したいと思う。

予定がどんどん決まっていって、ワクワクがさっきから止まらない。

頑張って皇帝を土下座させて良かったと改めて実感する。

「さて、メインディッシュは憑依合体か。こ、これはもしかして、もしかするとだけど」

期待で指が震える。

「ちょっと、アレン、何涎垂らしているのよ」

セシルが、アレンの妄想が過ぎると窘める。

「よし、じゃあ、やるぞ。憑依合体!!」

アレンはグラハンの覚醒スキル「憑依合体」を叫んだ。

『むん!』

グラハンは一言気合を入れると、体全身が青白い炎に包まれていく。

武器も防具も含めた体の全てが青白い炎と化すと、いったん上昇しアレンの元に向かっていく。

「へ? あ、ぐあ?」

何とも言いようのない気持ちにアレンは包まれる。

青白い炎がアレンに吸収されていく。

何かとんでもないことが起きているわとセシルもそのほかの仲間たちも絶句している。

青白い炎に包まれたアレンが腰に掛けた剣に手を伸ばす。

鞘から抜いた剣にまで青白い炎が纏う。

(お、剣術のレベルが上がっているぞ)

「ちょっと、アレン、本当に大丈夫なの?」

今日のアレンの分析は随分重症だとセシルは言う。

「何て力だ! もう誰にも負ける気がしない! 俺は究極のパワーを手に入れたのだ!!」

仲間たちが茫然とする中、両手両足を大の字に広げアレンは神界で叫んだのであった。