軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第48話 旅立ち

アレンはグランヴェル男爵家の従僕になった。もう夕方が差し迫っていたが、今晩は給仕をしないで良いと言われた。明日の昼間には、この村を出ると言われたのだ。そのとき一緒に領都グランヴェルにアレンも一緒に行くという話になった。

家に帰って、テレシアに従僕になったことを伝えたロダン。テレシアからは、よかったねと悲しそうに言われた。

そして一晩明けた朝。今日は僕が水汲みにいくよと言って外に出る。あまり眠れなかった。

水汲みに来ていた農奴たちの目が優しい。この8年間何度も顔を合わせた農奴たちだ。

領主の褒美で、ずっとボア狩りを続けてきた農奴たち20人とその妻子も平民に引き立てられることになった。この知らせは一晩かけて村の中に広がっている。既に平民になることを決めた農奴も何人もいる。

「お! アレン。貴族の家で働けるんだってな。よかったじゃねえか!!」

「ありがとうございます」

水汲みをしている農奴たちからめでたいと言われる。

家に帰り甕に水を入れる間も弟マッシュがまだぐずっている。アレンがいなくなるのは寂しいと言っている。アレンもできることなら、来年行われるマッシュの鑑定の儀には立ち会いたかった。

朝食をとり、荷支度をすませる。使いこんだ木刀を腰に差す。

「ほらよ。これを持っていけ」

「昨晩も言ったけど、いいよ」

ロダンが差し出す小さな麻袋を断る。中には銀貨が入っている。アルバヘロンを倒して稼いだ300枚を超える銀貨だ。アレンには男爵家から給金がでると思うから、それは何かあったときのために父が持っていてほしいと言った。

「いいから持っていけ!」

「分かったよ」

口調が荒くなるロダンに、アレンは仕方ないと小袋に分けて100枚だけ持っていく。

そんなに持っていく物もないのですぐに準備が済んでしまう。小さな麻袋に全てが収まる。

「お! まだいるな」

もう出ようかというところで、ゲルダがやってきた。横にはミチルダ、クレナ、リリィがいる。住宅街に行く途中で顔を出す予定であったが、わざわざ見送りに来てくれたようだ。

クレナがとても悲しそうだ。

「ほんとうにいっちゃうの?」

「うん、クレナも元気でな?」

「……」

クレナはゲルダからアレンが村を出ていくことは聞いていた。アレンの言葉にうつむいてしまい返事ができない。手にはいつものように木刀を持っている。

「よし、騎士ごっこをしよう」

「え? きしごっこ」

「ああ」

「うん!」

(よしよし、最後は笑って見送ってほしいからな)

クレナは騎士ごっこと聞いて急に元気になった。しかし、庭は20体のアルバヘロンの加工中のため使えない。庭先の外で行うのだ。2つの家族が見ている。

木刀を握りしめ、5年以上聞き馴染んだ口上を受ける。

「わがなはきしくれな! いざじんじょうにしょうぶ!!」

改めて聞くと熱いものを感じる。

「我はグランヴェル男爵家が従僕、アレン。剣聖クレナよ、参られよ」

クレナが、え? って顔をする。いつもと名乗りが違う。そして、クレナを騎士ではなく、剣聖と呼んだ。

ロダンは13年前から命をかけてボア狩りを行ってきた。その褒美によりアレンは貴族の家に仕えることになった。アレンは、父がその命を賭して勝ち取った重い称号を名乗った。

どうした? 来ないのか? と問うアレン。行くよと答えるクレナ。

騎士ごっこが始まる。アレンとクレナの両親たちがずっと見てきた騎士ごっこだ。木刀がすごい勢いで振るわれる。とても8歳の子供の速度ではない。

「別れに騎士ごっこか」

「そうだな、いいじゃないか」

ロダンのつぶやきに、ゲルダはこれでこそアレンとクレナらしいとばかりに答える。

しかし観戦する家族は、すぐに違和感を覚えた。皆ずっとクレナに押されるアレンしか見たことがなかった。クレナの方が騎士ごっこは圧倒的に強いはず。そんなクレナを、今日はアレンのほうが圧倒している。

「え?」

「どうした、剣聖クレナ、その程度か!」

挑発されクレナに力が入る。しかし、躱されアレンの剣戟に押される。クレナの方が防戦一方だ。

昨日、皆と別れると聞いたアレン。別れは騎士ごっこで、と決めていた。

そして、騎士ごっこは勝とうと決めていた。

「な!? え、どうして?」

困惑するクレナ。今まで一度も負けたことがないアレンに押される。いつもの動きではない。この5年間で見たことのない速度。アレンとクレナの両親も驚きながら見ている。

アレンは今まで使ってこなかった鳥系統のカードである鳥Eを20枚にした。その結果爆発的に素早くなった。

【名 前】 アレン

【年 齢】 8

【職 業】 召喚士

【レベル】 7

【体 力】 152(190)

【魔 力】 208(260)+200

【攻撃力】 75(94)

【耐久力】 75(94)

【素早さ】 144(181)+200

【知 力】 216(270)+200

【幸 運】 144(181)+200

【スキル】 召喚〈4〉、生成〈4〉、合成〈4〉、強化〈4〉、拡張〈3〉、収納、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉

【経験値】 0/7,000

・スキルレベル

【召 喚】 4

【生 成】 4

【合 成】 4

【強 化】 4

・スキル経験値

【生 成】 47,946/1,000,000

【合 成】 47,900/1,000,000

【強 化】 47,640/1,000,000

・取得可能召喚獣

【 虫 】 EFGH

【 獣 】 EFGH

【 鳥 】 EFG

【 草 】 EF

【 石 】 E

・ホルダー

【 虫 】

【 獣 】

【 鳥 】 E20枚

【 草 】 E20枚

【 石 】

召喚士の素早さの能力値はAだ。もともと素早さは高く成長する。レベルが6になり、鳥Eを20枚にしたことで素早さが300を超えた。

まだ、レベルを上げていないクレナには対応できない。すぐに詰められて、アレンの木刀がクレナの喉元で止まる。

「まけちゃった」

「ふむ、剣聖クレナ引き分けだな」

(よし、魔石はほとんど使ってしまったけど、まあいいだろう)

「え?」

クレナにとっては完敗だった。アレンとクレナの両親から見てもアレンの勝ちだ。

「これは紛れもなく引き分けだな」

「ひきわけ?」

首をこてっとして引き分けってどういうことという顔をしている。

「ああ引き分けだ。剣聖クレナよ。勝敗は次の戦いまで持ち越しだな」

「え?」

「勝負の決着は着いていない。だから、次会うときにまで勝敗は持ち越しだよ。クレナ」

呼び方をクレナに戻す。いずれ大きくなって、また会おうとの約束だ。

「うん、つぎあうときはわたしがかつんだから! アレン!!」

木刀を両手でもって、笑顔で答えるクレナだ。この顔が見たかった。

アレンは分かっている。クレナは12歳になったら王国にある学園都市に行き、そのあとは王家に仕える存在になる。身分も居場所も違う。もう会えないかもしれない。むしろもう会えない可能性のほうが高い。それでも、決着をつけずにこの騎士ごっこを終わらせたかった。そのために貯めた魔石もほとんど使ってしまった。

騎士ごっこが終わり、もう行くからと言って皆とお別れをする。テレシアに抱きしめられる。元気でと言われる。涙が出そうになる。しかし、泣くわけにはいかない。

号泣しているマッシュのもとに寄る。

「マッシュ、強くなってミュラを守るんだぞ!」

「う、うん」

そう言って強く抱きしめてお別れの挨拶をする。弟のためにも兄は泣いてはいけない。

ロダンとともに村の門に向かった。会話はないが、それでいいと思った。

住宅街に着くと広場によく見た顔の少年がいる。ジャガイモ顔のドゴラだ。その横にはペロムスもいる。アレンのもとに何かを持って駆け寄る。

「おい、アレン」

ドゴラからの呼び方は、ずいぶん前にくろかみからアレンに変わった。

「ほら、これ」

ぶっきらぼうに棒のようなものを突き出す。

「ん? え? いいのか?」

武器屋の息子ドゴラが、アレンに短剣を手渡す。どこかで見たことがある短剣だ。

(これは2年前に金額を確認した短剣だ。銀貨50枚だったな。結局買えなかったけど)

アルバヘロンで稼いだお金は家族のために使おうと決めた。欲しかったが、買うことのなかった短剣。ドゴラは父親から聞いた話をずっと覚えていたのだろう。

「ありがとう、大事にもらっとくよ」

「確かに渡したぞ、じゃあな!」

そう言うと気恥しいのかどこかへ駆けていってしまう。2年くらいの付き合いだが、紛れもなくアレンの友であった。短剣を木刀の横に差し歩みを進める。

元気でなと村人から声が掛かる。どうやら男爵家に仕えるために村を出ていくことは住宅街にも広がっていたようだ。目頭が熱くなる。

「ここは、お前の生まれた村だ」

「うん、父さん」

ずっと静かだったロダンが、もう門が見えるというところでアレンに話しかける。

「お前はきっと従僕では終わらない。しっかり務めを果たしなさい。それまでは連絡はいらないからな」

無理に連絡をしてくるなと、農奴だったものが男爵家に仕えることができた幸運を手放すなと言う。

「うん、頑張ってくるよ」

そう言って、門の前でロダンと別れた。

もう出発するとのことだ。この馬車に乗るようにと言われて、乗り込む。馬車の窓から8年生まれ育った村を見つめるアレン。ゆっくり進み始める馬車から見える風景がどんどん小さくなっていく。ロダンはもう見えない。村が離れていく。

我慢していた涙が零れる。

こうして、アレンはクレナ村を離れ、領都グランヴェルで生活をするようになった。

生まれて8年間農奴であった身分は平民となり、グランヴェル男爵家の従僕となったのである。